江戸川乱歩推理文庫第35巻(講談社)
『鉄塔の怪人/海底の魔術師』



【初版】1988年2月8日
【定価】640円
【乱歩と私】「いざ翔ばん乱歩世界へ」内藤陳


【紹介】
 小林少年が、奇妙な老人に誘われるままに見たのぞきカラクリの世界! うっそうたる森にそびえる鉄の城と巨大なカブトムシの悪夢は老人の予告どおり、現実の恐怖に姿を変えた……。背にドクロ模様を浮かべるこの幼虫は、鉄塔王国の使者だという。子供をさらって兵隊にしようとする怪人に、明智の怒りが爆発した。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
鉄塔の怪人
初 出
『少年』1954年1月号-12月号連載。
粗 筋
 小林少年が不思議な爺さんに見せられたのは、のぞきカラクリ。その中では、巨大なカブトムシが鹿に襲いかかっていた。それから数日後、真夜中の銀座に巨大なカブトムシが現れた。そして2週間後、会社社長にところに現れたカブトムシは、深い山の中に鉄塔王国ができたため、1千万円寄付しろ、断れば子供を攫うと脅す。
感 想
 鉄でできたカブトムシが登場。毎度のことながら正体はいつもの人であり、逃走トリックや消失トリックは毎度おなじみのもので面白くない。しかも山の中に「鉄塔王国」ができているのに、誰も警察に通報しないというのだから呑気なものである。
 作品自体は面白くないが、この作品が注目されるのは最後。ネタバレで言ってしまうが、カブトムシの扮装をした二十面相は鉄塔の屋上に追いつめられ、最後は飛び降りてしまうのである。今まで自爆するなどのシーンはあったが、いずれも入れ替わる余裕があった。しかし今回は、そんな余裕はなく、トリックを弄することもできなかった。普通に考えれば、ここで二十面相は死んでしまったと思ってしまうのだ。それでも次作には普通に出てくる。乱歩も考える余裕がなくなったのだろう。
備 考
 

作品名
海底の魔術師
初 出
『少年』1950年1月号-12月号連載。
粗 筋
 房総半島の東側の沖合で沈没船引き揚げ中、海から出てきたのは人間とワニのあいの子で、全身が鉄でできた怪物だった。怪物が狙っているのは、二十億円の金塊のありかを示す書類だった。怪人の魔の手から書類を守った明智小五郎は引き揚げ作業を指揮するが、怪物も巨大なカニを追っ手に差し向ける。
感 想
 乱歩の少年ものにしては珍しい、海洋を舞台とした作品。マンネリを少しでも減らそうとした結果なのだろう。舞台だけは色々と手が込んでいるが、対する怪人の方はいつもと変わらず。しかも暗号とかあるわけではなく、書類にそのまま金塊の場所が書いてあるから、宝探しという要素が無いのはとても残念。『大金塊』ぐらいのサスペンスがほしかった。
備 考
 

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