江戸川乱歩推理文庫第49巻(講談社)
『鬼の言葉』



【初版】1988年10月8日
【定価】480円
【乱歩と私】「十二階の空飛ぶ住人」島田荘司


【紹介】
 「鬼の言葉」では、探偵小説の在り方について熱っぽく語る乱歩。“謎と推理の興味を中心とするポー正系の形を踏襲すべき”といろいろな角度から主張する一方、日本探偵小説界を鋭く斬った本格的評論集。
 併録の『幻影の城主』は、自己分析と告白、怪奇への郷愁、古代ギリシアへの憧れなどを綴った随筆集。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
鬼の言葉
初 出
昭和11年5月、春秋社から刊行。
目 次
 自序
 日本探偵小説の多様性について
 探偵小説壇の新なる情熱
 探偵小説と芸術的なるもの
 探偵小説の範囲と種類
 探偵小説の限界
 本格探偵小説の二つの変種について
 探偵文壇の「垣」について
 スリルの説
 不可能説―入り口のない部屋・その他―
 「謎」以上のもの
 探偵小説と瀉泄
 「赤毛のレドメイン一家」
 群集の中のロビンソン・クルーソー
 幻影の城主
 日本の探偵小説
感 想
 昭和8年から11年に書かれたものをまとめた、乱歩の処女評論集。英米の作品への興味から、本格探偵小説への情熱がほとばしった評論が多い。短編はともかく、長編で本格探偵小説を書くことのできなかった乱歩だったが、やはり本格物を正当としているところが非常に興味深い。
 特に『赤毛のレドメイン家』に対する思いは、文章からも強く伝わってくる。乱歩は時々、自分の好みの作品について何度でも熱っぽく話すのだが、その最初となるのが本作品だっただろう。乱歩の評価がそのまま日本ミステリ界の評価となることが多かったこの時代において、本作品が長くオールタイムベスト10に入っていたのは、やはり乱歩からの偏愛が大きく影響していたはず。
 乱歩の探偵小説愛がわかる評論集。
備 考
 本書において再録ものについては省略されている。

作品名
幻影の城主
初 出
昭和22年2月、かもめ書房から刊行。
目 次
 自序
 彼
 幻影の城主
 群集の中のロビンソン
 活字と僕と
 人形
 瞬きする首
 残虐への郷愁
 郷愁としてのグロテスク
 レンズ嗜好症
 ビイ玉
 書斎の旅
 もくず塚
 ホイットマンの話
 シモンズ、カーペンター、ジード
 槐多「二少年図」
 J・A・シモンズのひそかなる情熱
感 想
 戦前に発表され、過去の単行本に収録されていない随筆類をまとめた一冊。ただし、最初の二編は『鬼の言葉』に収録されている。
 主に乱歩自身の性格解剖、ある異常心理への関心を示す書作及び怪奇幻想の随筆を集めたと乱歩の言葉にある。乱歩が目指していたのは本格探偵小説であったが、やはりこちらの分野のほうが乱歩にあっていると思ってしまう随筆集である。乱歩ももっと割り切って、幻想小説寄りの作品を書いたらまた違った評価もあったかと思うと残念である。
備 考
 本書において再録ものについては省略されている。

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