江戸川乱歩推理文庫第60巻(講談社)
『うつし世は夢』



【初版】1987年9月25日
【定価】440円
【乱歩と私】「乱歩と私」渡辺啓助


【紹介】
 乱歩が遺した未完随筆のうち、戦後、執筆したものを、発表順に収録。「宝石」に書いた『幻影城通信』をはじめ、現在入手がむずかしい「ぷろふいる」「トップ」などの探偵雑誌に掲載されたもので、交遊関係、故郷の思い出、影響を受けたものなど、乱歩の人間像が浮き上がる。戦前篇は第59巻『奇譚』に併録。(裏表紙より引用)

【収録作品】

作品名
うつし世は夢
初 出
 戦後の未完随筆を中心にまとめたもの。計101編収録。
内 容
 タイトルの「うつし世は夢」は、乱歩がよく筆にした「うつし世は夢、夜の夢こそまこと」より、中島河太郎が採用した。
感 想
 今回の乱歩文庫の目玉ともいえる、未完随筆集の一冊。文庫半ページ分しかないような随筆まで収録されているのだから、よくぞここまで探し当てたというべきか、それとも乱歩自身がこれだけ記録していたというべきか。
 内容は他愛のないものが多いが、それでも乱歩という人がどう考えていたか、推理小説、探偵小説についてどう思っていたか、故郷についてどう思っていたか、作家などとの交友についてなど多岐にわたった内容が収録されている。短い文章だからこそ、今までにはなかった視点のものがあるかもしれない。乱歩を研究する人でないと、そこまで読まなくても……という内容ではあるが、読んでも退屈するようなことは無い。
 本巻の最大の欠点は、目次に収録作品のタイトルが並べられていないこと。さすがに100編以上あるとまとめるのが大変だったのかもしれないが、重大な手抜きであることに間違いはない。多方面から指摘されたらしく(私は『ミステリマガジン』で新保博久が怒っていたのを読んだ記憶がある)、以後の評論集、随筆集にはタイトルがすべて目次に並べられている。

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