第1回(1996年) |
大賞 |
永井するみ『枯れ蔵』 |
有機農業についてよく調査されており、しかも過去の様々な新人賞受賞作と異なり、その情報に振り回されることなく小説世界を構成しているのは頼もしい。800枚という長い話をこれだけ楽しく、そしてだれることなく読ませる腕はなかなかのもの。これだけ中身が厚い話に殺人がゼロというのも嬉しい。
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第2回(1997年) |
大賞 |
雨宮町子『骸の誘惑』 |
話を引っ張る二人に魅力があまり感じられないため、読むテンポが今ひとつ。この二人が惹かれ合う過程もやや唐突。構成、ストーリー展開はよく考えられており、文章そのものはしっかりしているから、作家としての実力は感じられる。終盤尻窄みになっているのは残念だが、心理サスペンスとして悪くはない仕上がり。 |
第3回(1998年) |
大賞 |
戸梶圭太『闇の楽園』 |
発想が実に楽しい。過疎化、町おこし、失業、人生に意義を持たない若者、産業廃棄物不法投棄、新興宗教。これらのキーワードを一つの小説にまとめる腕はなかなかのものだ。ストーリーのテンポもよいし、キャラクターの描写も結構うまい。もっともこの作品、ミステリというよりもむしろ青春小説といった方がよいか。
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島田荘司特別賞 |
響堂新『紫の悪魔』 |
新人にあり勝ちの悪い癖で、題材を盛り込みすぎ。もしミステリファンに受けいられる小説を書くのであれば、整理整頓が今後の課題。ミステリはエンタテイメントであり、論文ではないのだから。話の組立そのものは悪くないので、あとはどれだけ読者の立場に立って小説を書けるかが勝負所。
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高見浩特別賞 |
沢木冬吾『愛こそすべて、と愚か者は言った』 |
作品そのもののムードは暗く重いものだが、場面切り替えが巧く、ストーリーのテンポがよいので、楽しく読むことが出来る。惜しむらくは、登場人物を多く出しすぎたためか、後半で全員が作者の意図せぬままに暴走してしまい、収拾がつかなくなってしまっていること。そのへんを整理すれば、傑作になっていただろう。
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第4回(1999年) |
大賞 |
雫井脩介『栄光一途』 |
物語のテンポはよいし、柔道部分は面白い。本人が柔道経験者なのかわからないが、柔道部分の描写は臨場感が伝わってくる。主人公の印象はちょっと薄いが、周りの人物は結構面白い書き方だ。消去法的選ばれ方ではあったが、次作は注目してもよいと思う。
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第5回(2000年) |
大賞 |
伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』 |
設定に思わず唖然。奇妙な設定を読者に納得させるには、よほどの力が必要であるはずなのだが、読み終わってもこの作者にそれほどの力があるようには思えない。なんだかひょいひょいと書き進めていった感じなのだ。上手いと言える文章ではない。それなのに、妙に読者を納得させてしまう、不思議な小説なのだ。まったく訳が分からないのだが、不思議に読後感がよい。
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