天藤真推理小説全集17『犯罪は二人で』



【初版】2001年9月28日
【定価】820円+税
【解説】末國善己
【底本】各編について単行本初収録時の版を底本とし、初出各誌を参照。

作品名
運食い野郎
初 出
『別冊小説宝石』1976年2月号
粗 筋
 人の運を喰って自分だけ肥え太り、今では一流銀行支店次長格というエリート、それが大林省一だ。幼馴染みで小工場の事務員でしかない清水啓吾は、省一が胡散臭い融資話を持ってきて、しかも小工場の娘にまで手を出そうとしているのを見て、殺すのを決意する。
感 想
 相手の成功は俺の運を奪い取ったからだ、というのはよくある嫉妬話。大人になって立場の違いを見せつけられるというのもよくある話だが、そこからの意外な展開で楽しい読み物となっている。
備 考


作品名
推理クラブ殺人事件
初 出
『高二コース』1976年7〜8月号
粗 筋
 高校の推理文学クラブの顧問で現役の推理作家でもある杉山透先生が、隣家のバーのマダム殺害容疑で勾留される。現場に残された足跡の状況から、犯行が可能だったのは先生だけ。4人の部員は先生の無実を晴らすため、必死で情報を集める。
感 想
 学年誌に掲載された、高校生を主人公とした推理小説。それ以外に何も言うことがない作品。手を抜いたとは思わないが、高校生らしい要素がもう一つあればよかったのだが、ページ数が短すぎたか。
備 考


作品名
隠すよりなお顕れる
初 出
『名探偵登場』1977年9月
粗 筋
 見合い相手に心を奪われた足立知夫にとって邪魔なのは、遊びで付き合っていたクラブのホステス・ミツコ。しかも、妊娠したから結婚してくれと迫ってくる。どうしても来いという手紙の約束から大幅に遅れ、ミツコの部屋を訪れた知夫は、ミツコの自殺遺体を見つける。知夫は自分のことを書いてある遺書を思わず隠してしまう。
感 想
 これもよくあるプロットと言ってしまえばそれまでだし、犯人も意外というわけでもない。まあ、事件解決後の展開がちょっと面白かったと言えるだろうか。
備 考


作品名
絶命詞
初 出
『小説推理』1979年7月号
粗 筋
 短大二年生の野尾万里子は、母・広枝とともに金融業者の伯父・四郎八のところで世話になっている。ある日、レストランへ車で迎えに来たはずの伯父が女を拾って歩いているところを追いかけた万里子は、伯父が刺されるところを目撃してしまった。
感 想
 母の犯行じゃないかと疑った万里子が自ら捜索する展開で、これもプロとして読ませる一定の完成度に仕上がっているが、それ以上の面白さは感じない。
備 考


作品名
のりうつる(ヽヽヽヽヽ)
初 出
『小説宝石』1979年9月号
粗 筋
 人にのりうつる能力を発見した27歳独身サラリーマン加治木良三は、同僚の水谷由子に実験を依頼した。
感 想
 ショートショート。作者の狙いは今一つ不明だが、少なくともオチは物足りない。
備 考


作品名
犯罪は二人で
初 出
『小説宝石』1980年7月号
粗 筋
 窃盗で刑務所に入っていた保志夫は、一回り違う保護司の娘・玉木津季子に一目惚れ、そして婿養子となった。真面目に働いていたが、社内での盗難事件で過去がばれ、鬱憤がたまるばかり。そんな俺を見た妻は、こう言った。「二人で新しい怪盗を作りましょう」。そして1ヶ月後、狙った女金貸しの家に忍び込んだまではよかったが。
感 想
 シリーズものの1作。泥棒と保護司の娘が夫婦となり、怪盗になるという設定は面白いが、それを過ぎてしまうと結局ただの怪盗ものに落ち着いてしまっているのは少々残念。夫婦の愛情には暖かさを感じるし、ユーモアあふれる展開も楽しいのだが、例えば片方が追う方で片方が追われる方などという設定などに比べると刺激に欠けるのも事実である。
備 考


作品名
一人より二人がいい
初 出
『小説推理』1980年12月号
粗 筋
 一人暮らしの人気作家、野々宮炎平は身近に現金を置いておく癖があった。しかも毎日午後三時から一時間、鍵も掛けないまま犬を連れて散歩に出かける。これ幸いとばかりに忍び込んだ怪盗夫婦であったが、今日に限ってファンの団体がやって来た。
感 想
 怪盗夫婦物の2作目。盗みに入った家で別の事件に巻きこまれるというのは、やはりありがちな展開。ユーモアあふれる作風は面白いが、そこ止まりでもある。  それにしてもなぜ、別の雑誌に掲載したのだろうか。
備 考


作品名
闇の金が呼ぶ
初 出
『別冊小説宝石』1981年5月号
粗 筋
 怪盗夫婦が狙う次の標的は、市長選に再出馬した、前市長が用意した買収用の選挙資金。現市長を応援する妻の働きもあり、現金を手にすることはできたが。
感 想
 怪盗夫婦物の3作目。過去二作の設定を借りてきただけの作品であり、結末は呆気ない。
備 考


作品名
純情な蠍
初 出
『小説推理』1981年4月号
粗 筋
 平凡な生活を営む上条千吉・和子夫婦のそれぞれに、不思議な客がやってきた。和子のところには高校時代に一目惚れをしていたという男の未亡人が、千吉のところにはその男の弟が。
感 想
 うーん、プロの作家が原稿を依頼されて仕上げた、以上の感想が持てない作品。なんというか、悪い意味での職人芸。
備 考


作品名
採点委員
初 出
『ルパン』1981年7月号
粗 筋
 共通一次の季節が近づくと、波川夫婦が決まって思い出すのは、共通一次の国語の採点委員であるという、私立大学講師の深谷信介。見たくもない顔だが、一家の恩人であり、息子が通っているB国立大学の坂田教授と知り合うきっかけとなった男だった。
感 想
 裏口入学が流行った頃の作品かな。二転三転するプロットも面白いが、やはり作者が持つもう一つの面である黒い部分がさりげなく見えているところが秀逸。
備 考


作品名
七人美登利
初 出
『小説推理』1981年9月号
粗 筋
 先天性マヒで身体に障害のあるさおりが、地元の神輿をかつぐサークル「美登利会」に入会した。その神輿をかつぐ当日、背中を刃物で切られてしまった。捜査に乗り出したのは地元浅草署の美青年、「信如さん」こと駒井刑事。
感 想
 『たけくらべ』ネタを絡めた人情物。読後感はいいけれど、それだけ。
備 考


作品名
飼われた殺意
初 出
『創元推理』1994年12月
粗 筋
 新入社員の研修会で、酒乱の狩野副社長に捕まってしまった片山実を助けてくれたのは、副社長の若妻・絹子。そして実はそのまま関係を持つようになってしまったが、ある日、義兄に見つかってしまう。
感 想
 こちらは最初から最後まで後味の悪い作品。解説の末國善己は「ユーモラスな展開」と書いているけれど、どこがユーモラスなの? 利己的な人たちが繰り広げる、男女のグロテスクな内面をあぶりだした作品である。
備 考
 未発表原稿で「創元推理」に載ったことで話題になった。

【天藤真推理小説全集(創元推理文庫)】に戻る