天藤真推理小説全集9『大誘拐』


【初版】2000年7月21日
【定価】840円+税
【解説】吉野仁
【底本】1978年刊『大誘拐』(カイガイ出版部)に1979年徳間NOVELS版、1980年角川文庫版を参照。

【収録作品】

作品名 大誘拐
初出 1978年11月10日、株式会社カイガイ出版部から書き下ろし刊行。
粗筋  大阪刑務所の雑居房で知り合った戸並健次、秋葉正義、三宅平太の三人は、出所するや営利誘拐計画の下調べにかかる。狙うは紀州随一の大富豪、柳川家の当主とし子刀自。県内はおろか全国に聞こえる資産家で、持山およそ四万ヘクタール。小柄な体躯ながら時に威風あたりを払い、菩薩の慈愛を以て人身を集め、齢八十二を重ねてなお矍鑠たる女丈夫だという。――かくして犯人グループと被害者は運命の邂逅をし、破天荒な大誘拐劇の幕が開く。行くとして可ならざるはなし、斬新奇抜な展開が無上の爽快感を呼ぶ、まさに絶品の誘拐ミステリ。天藤真がストーリーテラーの本領を十全に発揮した、第三十二回日本推理作家協会賞受賞作。
(粗筋紹介より引用)
感想  著者の第八長編。カイガイ出版は大阪にある洋書の専門輸入会社で、山村正夫の紹介により書き下ろし長編を出すことになったという。
 「虹の童子」と名乗る誘拐犯。誘拐された方が全面協力。身代金100億円。テレビ生中継による被害者と家族との対面。身代金受け取りの世界生中継。
 スケールの大きさと奇想天外な展開。テンポ溢れる文章。全編に漂うユーモアと暖かさ。家族愛や幾つかの社会問題に対する作者なりの視線。身代金の受け取り方法とその意外な結末。誘拐という犯罪を取り扱っておきながら、主要登場人物の誰もが悪人とはならず、それぞれ成長する。どこを見ても傑作という名に相応しい逸品である。結末付近で膨らみすぎた風船がちょっとだけ萎むような呆気なさがあるものの、それは些細すぎる傷だろう。
 天藤真の作品としてはもっとも知られている作品である。今更分かり切った感想は書くまでもない。「週刊文春ミステリーベスト10 20世紀ベスト10」国内部門第1位に輝いたのも、当然の話なのである。
備考  1979年、第32回日本推理作家協会賞長編部門受賞作。

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