日本推理小説大系(東都書房)



【日本推理小説大系】
 『日本推理小説大系』は昭和35〜36年に出版された。江戸川乱歩、平野謙、荒正人、中島河太郎、松本清張が編集委員を務めている。A5版ハードカバー函入。1冊380円というのが時代を感じさせる。今なら1冊2000円以上するであろう。ちなみに全16冊完結後、同じ編集委員による世界推理小説大系も編まれている。

【覚書】
 わたしにとって、古本屋さんを廻っては集めた東都書房の『日本推理小説大系』が、日本ミステリのバイブルだった。これで育ったといっていい。
北村薫 日本探偵小説全集第11巻『名作集I』(創元推理文庫)解説より


 東京創元社の『日本探偵小説全集』が世に出るまで、北村薫みたいに『日本推理小説大系』をバイブルにしたファンは多かったと思う。この大系を持っていれば、明治から現代(出版当時の1960年頃まで)までの日本推理小説界を代表する長短編を読むことができたのだから。私自身、名前しか知らないミステリをぜひとも読みたいがために一生懸命古本屋を探し回ったものである。『黒死館』とか『殺人鬼』とか『人生の阿呆』『薫大将と匂の宮』などである。
 とにかくラインナップを見てほしい。日本探偵小説全集や、その後のクラシックブームがなかったとしたらまず、読むことができなかった作品が半数以上ある。北村薫がバイブルと言い切ったわけも分かるに違いない。

【編集委員】
 江戸川乱歩、平野謙、荒正人、中島河太郎、松本清張


巻 数
巻 名
初 版
収録作品
第1巻
『明治大正集』

黒岩涙香「無惨」
幸田露伴「あやしやな」
泉鏡花「活人形」
岡本綺堂「利根の渡」
谷崎潤一郎「途上」「私」「友田と松永の話」「日本におけるクリップン事件」
芥川龍之介「藪の中」「報恩記」
正宗白鳥「人を殺したが」
佐藤春夫「女誠扇綺譚」「オカアサン」「女人焚死」
中島河太郎「日本推理小説史」
第2巻
『江戸川乱歩集』

「二銭銅貨」「二廃人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」「陰獣」「押絵と旅する男」「石榴」「月と手袋」『化人幻戯』
第3巻
『甲賀三郎 角田喜久男集』

甲賀三郎「死頭蛾の恐怖」「琥珀のパイプ」「体温計殺人事件」「状況証拠」「四次元の断面」
角田喜久男『高木家の惨劇』「奇蹟のボレロ」「Yの悲劇」「笛吹けば人が死ぬ」「悪魔のような女」
第4巻
『大下宇陀児 浜尾四郎集』

大下宇陀児『虚像』「悪女」
浜尾四郎『殺人鬼』
第5巻
『小栗虫太郎 木々高太郎集』

小栗虫太郎「完全犯罪」『黒死館殺人事件』
木々高太郎「網膜脈視症」『人生の阿呆』
第6巻
『昭和前期集』

谷譲次「上海された男」
小酒井不木「恋愛曲線」
平林初之輔「予審調書」
城昌幸「ジャマイカ氏の実験」「艶隠者」
夢野久作「瓶詰の地獄」
海野十三「振動魔」
水谷準「司馬家崩壊」「ある決闘」
渡辺啓助「偽眼のマドンナ」「決闘記」
渡辺温「可哀そうな姉」
葛山二郎「赤いペンキを買った女」
山本禾太郎「窓」
蒼井雄『船富家の惨劇』
大阪圭吉「三狂人」
第7巻
『横溝正史集』

『本陣殺人事件』『蝶々殺人事件』『獄門島』「かいやぐら物語」
第8巻
『島田一男 高木彬光集』

島田一男『上を見るな』「社会部記者」「百十一万分の一」「作並」
高木彬光『刺青殺人事件』「妖婦の宿」「殺意」
第9巻
『昭和後期集』

山田風太郎「虚像淫楽」
大坪砂男「天狗」
宮野村子「柿の木」
岡田鯱彦『薫大将と匂の宮』
朝山蜻一「巫女」
香山滋「キキモラ」
鷲尾三郎「雪崩」
永瀬三吾「売国奴」
大河内常平「クレイ少佐の死」
楠田匡介「逃げられる」
山村正夫「獅子」
飛鳥高 「二粒の真珠」
第10巻
『坂口安吾 加田伶太郎 久生十蘭 戸板康二集』

坂口安吾『不連続殺人事件』「能面の秘密」
久生十蘭『金狼』「湖畔」「ハムレット」「黒い手帳」
加田伶太郎「眠りの誘惑」「完全犯罪」
戸板康二「車引殺人事件」「團十郎切腹事件」
第11巻
松本清張集

『点と線』「紙の牙」「危険な斜面」「空白の意匠」「顔」「白い闇」「張込み」「声」「殺意」「一年半待て」「巻頭句の女」「市長死す」「日光中宮祠事件」「西郷札」
第12巻
有馬頼義 新田次郎 菊村到集

有馬頼義『四万人の目撃者』「リスとアメリカ人」
新田次郎「落石」「毛髪湿度計」
菊村到「悪魔の小さな土地」「硫黄島」
第13巻
『鮎川哲也 日影丈吉 土屋隆夫集』

鮎川哲也『黒いトランク』
日影丈吉「内部の真実」「かむなぎうた」
土屋隆夫『天国は遠すぎる』
第14巻
『多岐川恭 仁木悦子 佐野洋集』

多岐川恭「氷柱」「落ちる」
仁木悦子『猫は知っていた』「粘土の犬」
佐野洋『一本の鉛』「不運な旅館」
第15巻
『水上勉 樹下太郎 笹沢左保集』

水上勉『海の牙』「おえん」
樹下太郎「夜の挨拶」「散歩する霊柩車」
笹沢左保『招かれざる客』
第16巻
『現代十人集』

新章文子『危険な関係』
大藪春彦「野獣死すべし」
竹村直伸「風の便り」
高城高「ラ・クカラチャ」
星新一「おーい でてこい」「たのしみ」「年賀の客」
曾野綾子「能面の家」
河野典生「狂熱のデュエット」
結城昌治「幽霊はまだ眠れない」
南条範夫「飢渇の果」
黒岩重吾「女蛭」
中島河太郎「日本推理小説史(戦後編)」「世界対照推理小説年表」


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