土屋隆夫推理小説集成第2巻(創元推理文庫)
『危険な童話/影の告発』



【初版】2000年9月14日
【定価】1,100円+税(当時)
【カバー画】ひらいたかこ
【巻末エッセイ】「推理小説と地方性―郷里で書き続けて十年余り―」(『信濃毎日新聞』1959年3月26日)
【土屋隆夫論】「肉体の報復 土屋隆夫の中期長編群」巽昌章


【概 要】
 卓抜なプロットを詩情豊かに描く本格推理の巨星・土屋隆夫の業績を俯瞰する待望の集成第二巻。代表作『危険な童話』と、日本推理作家協会と改組して初めての協会賞(探偵作家クラブ時代から通して第十六回)を受賞した『影の告発』を収録。ともに限定された状況下で起こる殺人をテーマに、不可能興味溢れる傑作推理である。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
危険な童話
初 出
1961年5月、桃源社より書き下ろし刊行。
粗 筋
 ピアノ教師宅で、出所したばかりの男が刺殺された。現場は狭い路地の中程にあり、見知らぬ人間の出入りは目撃されていない。だが、肝心の凶器が出てこない。第一容疑者の女に、凶器を隠す余裕はなかったはずなのに……。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 巧妙すぎる犯罪と粘り強く事件を追う捜査官。各章の冒頭で流れる詩。意外な結末と哀しすぎるラスト。展開が単調で地味というところもあり、人によっては退屈を覚えるかも知れない。しかしこの作品は、読めば読むほど味が出てくる作品なのだ。凶器を隠すトリックは別の形で何度も推理クイズに使われるくらい有名なものだが、それを除いても様々なトリックが散りばめられており、本格ミステリとしての醍醐味を楽しむことができる。それでいて事件を取り巻く人間ドラマもまたしっかりと構成されている。やはりこの作品には、傑作という名が相応しい。
 リアリティ溢れる作品世界の中に、かすかに漂うファンタジックでロマンティックな香り。土屋の作風が、最もよく出ている作品かも知れない。
備 考
 1962年、第15回探偵作家クラブ賞候補作(受賞作は飛鳥高『細い赤い糸』)。

作品名
影の告発
初 出
 『宝石』(宝石社)1962年5月号~12月号連載。1963年、文藝春秋社より刊行。
粗 筋
 デパートのエレベーター内で、私立探偵の校長が殺された。人望のある教育者がなぜ? 事件の謎を追って被害者の過去を探る捜査陣の前に現れた容疑者には、鉄壁のアリバイがあった! 千草検事初登場の記念すべき長編推理。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 日本推理作家協会賞を受賞した、土屋の代表作。殺人事件が起き、偶然のきっかけから容疑者が一人に絞られる。ところがその容疑者には鉄壁のアリバイがある。最初のうちは捜査が続くため、単なるアリバイ崩し推理小説であるかのように見える。ところが千草たちの丹念な捜査により、事件の背後が見えてくる。各章の冒頭に出てくる日記らしき文章の意味が徐々に分かってくるにつれ、本当の悲劇、本当の怒りが見えてくる。もちろん殺人は許される行為でないが、殺人に至るまでの怒りは読者も共感するだろう。やっぱり戦争はよくない(それだけではないが、犯人の訴えは)。
 ただ、個人的な考えとしては、殺人を犯すよりも世間に広く訴えて抹殺した方が、よっぽど大きなダメージを与えられると思うんだけどね。それに二番目の殺人は共感できない。正義の殺人で終わらせようとしない土屋の配慮かも知れないが。また、二番目の殺人のアリバイトリックは、一歩間違えればそのまま犯人と分かってしまうもの。今だったら操作の基本だと思うのだが、この頃は違ったのかな。
 呆れ返るくらい鉄壁のアリバイと、それとは比較にならないくらい間抜けなミスがちょっとバランス悪いのだが、協会賞の受賞に相応しい作品である。
備 考
 1964年、第16回日本推理作家協会賞受賞作。

【土屋隆夫推理小説集成(創元推理文庫)】に戻る