土屋隆夫推理小説集成(創元推理文庫)



【土屋隆夫】
 1917年1月25日、長野県生まれ。中央大学法学部を卒業後、ミツワ石鹸や映画配給社の宣伝部に勤め、戦時中は立川航空機の組立工に徴用されたが、戦後帰郷、小劇場の支配人などを経て、立科の中学教員になった。
 推理小説に手を染める前はもっぱら演劇関係の本を読みふけった。
 1949年12月、「宝石」の100万円懸賞コンクールC級(短編)に「「罪ふかき死」の構図」が1等に入選、推理作家として第一歩を踏み出す。
 論理的な謎解きの面白さを重視する本格派で、58年に発表した長編第1作の『天狗の面』では、推理小説を「事件÷推理=解決」という式で示し、その論理的な解決の部分にいささかの剰余もあってはならないという主張を展開している。
 しかし、もともと江戸川乱歩の「第一流の文学であってしかも探偵小説の興味をも失望させないもの」(「一人の芭蕉の問題」)があり得るという考えに感激して推理小説を書き始めただけに、論理性と文学性の融合を当初から目指していた。その努力が実ったのは、61年に発表した長編第3作『危険な童話』である。
 千草泰輔東京地検検事が初登場する長編第4作『影の告発』(63)で第16回日本推理作家協会賞を受賞。
 寡作だが、推理小説への純粋な情熱を燃やし続ける希有の作家である。2002年には日本ミステリー大賞を受賞した。
(『日本ミステリー事典』(新潮社)より一部抜粋)


【土屋隆夫推理小説集成】
 土屋隆夫の推理小説のうち長編全作と代表的な中短編を収録。カバー画は各巻毎に異なるが、装幀は鈴木一誌が行った。各巻に作家、評論家による土屋隆夫論が収録されている。2000年9月に第1回配本として第2巻が刊行、2003年3月に第8回配本として第8巻が刊行され、完結した。第8巻には公募の中から選ばれた土屋隆夫論(賞金20万円)と山前譲による著作目録が収録されている。各巻20名、合計160名に抽選で、土屋隆夫自作朗読特製CDプレゼントがあった。
 底本は各初版本により、適宜光文社ほかの文庫版を参照。疑問点等に関し、著者の校訂を仰いでいる。また初版本の序文、あとがき等もできうる限り再録している。
 当初は第6巻として『ミレイの囚人/聖悪女』、第7巻『中編集』、第8巻『短編集』が予定されていた。
 各巻に土屋論を収録するというやり方は悪くないが、そのために各作品の基本的なデータ(初出など)が収録されていないという解説として基本的なことが省かれてしまっている巻があるのは残念である。

巻 数 タイトル 初 版 収録作品
第1巻 天狗の面/天国は遠すぎる 2001年3月16日 『天狗の面』
『天国は遠すぎる』
第2巻 危険な童話/影の告発 2000年9月14日 『危険な童話』
『影の告発』
第3巻 赤の組曲/針の誘い 2001年6月29日 『赤の組曲』
『針の誘い』
第4巻 妻に捧げる犯罪/盲目の鴉 2000年12月22日 『妻に捧げる犯罪』
『盲目の鴉』
第5巻 不安な産声/華やかな喪服 2001年9月28日 『不安な産声』
『華やかな喪服』
第6巻 ミレイの囚人/あなたも探偵士になれる 2002年8月16日 『ミレイの囚人』
「夫か妻か」
「開いて、跳んだ」
「九十九点の犯罪」
「見えない手」
「民主主義殺人事件」
「わがままな死体」
「Xの被害者」
「地獄から来た天使」
「奇妙な招待状」
「私は今日消えて行く」
第7巻 粋理学入門/判事よ自らを裁け 2002年3月15日 「「罪ふかき死」の構図」
「青い帽子の物語」
「推理の花道」
「離婚学入門」
「経営学入門―トリック社興亡史」
「軽罪学入門―くさい男」
「再婚学入門―天女」
「密室学入門―最後の密室」
「粋理学入門―妻盗人」
「報道学入門―川端康成氏の遺書」
「媚薬学入門―夜の魔術師」
「ささやかな復讐」
「狂った季節」
「愛する」
「死神」
「殺人のお知らせ」
「傷だらけの街」
「死者は訴えない」
「小さな鬼たち」
「三通の遺書」
「二枚の百円札」
「暗い部屋」
「奇妙な再会」
「判事よ自らを裁け」
第8巻 穴の牙/深夜の法廷 2003年3月28日 「穴の設計書」
「穴の周辺」
「穴の上下」
「穴を埋める」
「穴の眠り」
「穴の勝敗」
「穴の終曲」
「地図にない道」
「泣きぼくろの女」
「半分になった男」


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