土屋隆夫推理小説集成第3巻(創元推理文庫)
『赤の組曲/針の誘い』



【初版】2001年6月29日
【定価】1,200円+税(当時)
【カバー画】山野辺若
【巻末エッセイ】「私の読んだ本 忍者・剣豪との出会い 幼い日熱中した立川文庫」(『信濃毎日新聞』1959年3月26日)、「ちゅうちゅうたこかいな」(『信濃毎日新聞』1959年3月26日)、「病める政治」(『信濃毎日新聞』1959年3月26日)、「長寿の国」(『信濃毎日新聞』1959年3月26日)
【土屋隆夫論】「殺人者へのレクイエム―土屋隆夫再論―」権田萬治


【概 要】
 東京地検の検事、千草泰輔の許を訪ねてきた出版部長の妻の失踪事件に端を発し、連続殺人へと発展する『赤の組曲』。千草検事が遭遇した誘拐事件が、不可能状況下での殺人へと展開する『針の誘い』――ともに事件の謎、中段のサスペンス、結末の意外性、精緻な論理展開……と、どれをとっても傑作の名に恥じない作品である。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
赤の組曲
初 出
『オール讀物』連載。加筆訂正の上1961年5月、桃源社より刊行。
粗 筋
 「ビゼーよ、帰れ シューマンは待つ」という謎めいた新聞広告の背後には、美貌の人妻の失踪事件が絡んでいた。そして、それに続く連続殺人事件。赤いネグリジェと赤い日記帳……赤の連鎖が導く真相に挑む千草検事と野本刑事。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 前作『影の告発』に続き、千草検事が登場。これで土屋のシリーズ探偵が確定したという意味では記憶に残るのかも知れないが、内容としては「赤」の連鎖やビゼー、シューマン、悲愴交響曲などの道具立てがちょっと作りすぎといえるだろうか。ストーリーの作り方は過去の作品と特に変わるわけではないのだが。それにしても同情してしまいたくなる犯人像は、読んでいてちょっと辛くなる部分もある。本格推理作品と言うことを強調したいのなら、こういった点はマイナスな気もしないではないが、そこは本格推理小説は小説がベースになっていることを忘れないようにしているのだろう。せっかくのアリバイトリックが薄くなってしまった感があるのは残念だが。
備 考
 

作品名
針の誘い
初 出
 『宝石』(宝石社)1962年5月~12月連載。1963年、文藝春秋社より刊行。
粗 筋
 製菓会社社長の娘が誘拐され、五百万円を要求する脅迫状が発見された。やがて犯人の指示に従って身代金を持参した母親が、指定の場所で現金を投げ出したところで刺殺される。異変に気づき、妻の許に駆けつけた夫と刑事は、だが犯人の姿を捉えることはできなかった!
(粗筋紹介より引用)
感 想
 誘拐をメインに据えながら、事件は身代金受け取り場所での殺害事件という不可能トリック。冒頭の謎は強烈だが、その後はいつもの通り千草検事たちによる地道な捜査と推理が繰り広げられる。今までの作品で見られたような社会的背景や犯人自体の悲劇がないため、事件のトリックと推理を楽しむことはできるが、最後のとってつけたような告白には違和感が残る。
備 考
 

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