土屋隆夫推理小説集成第5巻(創元推理文庫)
『不安な産声/華やかな喪服』



【初版】2001年9月28日
【定価】1,760円+税(当時)
【カバー画】山野辺進助
【巻末エッセイ】「親子とはなにか チューブ・ベビーの悲劇」(『信濃毎日新聞』1975年5月8日)
【土屋隆夫論】「<文学>的なるものをめぐって」末國善己


【概 要】
 人工授精をテーマに、動機のない殺人事件の謎を扱った『不安な産声』。「週刊文春」誌の年末恒例「傑作ミステリー・ベスト10」'89年度第1位の座を獲得した本作で、お馴染み千草検事が退場する。乳飲み子を連れたまま男に連れ去られた若き人妻。奇妙な誘拐劇をサスペンスフルに描く『華やかな喪服』。新境地に挑んだ力作に長編。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
不安な産声
初 出
 1989年10月に光文社から書下ろし単行本刊行。1991年1月、カッパノベルスより刊行。1994年10月、光文社文庫より刊行。
粗 筋
 清閑な住宅街である日、薬品会社社長宅で家事全般を切り盛りしている若い女性が扼殺された。犯人は意外に早く検挙される。大学教授で、人工授精の日本における権威として知られる容疑者は、犯行を素直に認めた。が、担当の千草検事は男の語る犯行動機に納得しない。倒叙推理長編の日本における収穫。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 『盲目の鴉』から9年ぶりに発表された長編新作。前半が手記を用いた倒叙もの、途中から三人称視点によるアリバイ崩し、そして後半にまた倒叙ものに戻るという構成。人工授精というテこうせいーマを軸に、有名大学教授・久保伸也の苦悩と事件に手を染めてしまった背景が克明に描かれている。それでいて、アリバイ崩しの部分もすごい。
 構成そのものに隙がなく、最初の一行から最後の一行まで計算しつくされた作品。傑作の名にふさわしい。
備 考
 「週刊文春傑作ミステリー・ベスト10」1989年度総合第1位。

作品名
華やかな喪服
初 出
 1996年6月、光文社より書下ろし単行本刊行。1998年3月、カッパノベルスより刊行。2000年9月、光文社文庫より刊行。
粗 筋
 見知らぬ男に誘拐され、乳飲み子を抱えてラブホテルを転々とする若きヒロイン。果たして犯人の目的は何なのか? 哀しくも壮絶な復讐の物語。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 生後4か月の娘とともに誘拐された北條由紀がヒロイン。たまたま従兄妹に会ったところを邪推され、遊び好きな夫から離婚届を突き付け、家に帰ってこない状態。由紀の視点から見たら犯人の目的がわからないし、読者から見たらだれが誘拐犯人を探し当てる興味もある。それに加え、由紀が徐々に誘拐犯人への好意が隠せなくなる展開が面白い。作者にしては珍しい恋愛サスペンス。最後にもうちょっとその後が知りたかったと思うのは蛇足かもしれないが贅沢だろうか。
備 考
 

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