作品名 | 『怪獣男爵』 |
初 出 |
1948年11月、偕成社より書下ろし単行本刊行
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底 本 |
『怪獣男爵』(偕成社)1948年11月
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挿 絵 |
伊藤幾久造
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粗 筋 |
物理学者で名探偵の小山田慎吾博士の息子である中学三年の史郎、博士が面倒を見ている大学生の宇佐美恭介、同じく面倒を見ている太ア坊少年こと太一。三人は岡山県の仙酔島で夏休みを過ごしていた。瀬戸内海で真ん中にある男爵島の沖合にヨットで来た三人は、急の悪天候で男爵島に上陸し、古柳荘で雨宿りをさせてもらうことになった。古柳荘は世界的に有名な生理学者の古柳冬彦男爵が五年前に買い取ったもので、そこに住んでいたのは男爵と助手の北島俊一博士と、身の丈四尺足らずの一寸法師、従僕の音丸三郎の三人だった。しかし古柳男爵は兄の夏彦男爵を殺害し、一人息子の龍彦をかどわかして得た財産で古柳荘を購入していた。しかも男爵は宝石狂で、東京の宝石店を襲っていた。それらを暴いたのが夏彦の親友でもある小山田博士で、三年前に死刑執行となった。しかし、古柳男爵は恐ろしい発明をしていた。自らが作った特別な生理的食塩水の中で、脳を生かすことができるようになった。そして男爵は北島博士の手術により、自らの死刑後に取り出された脳を、自らが買い取っていた、ゴリラにそっくりなロロに移し返され、怪獣男爵として復活した。それを恐れた北島博士は三年分の食糧を買い込み、島にある船を全部沈めてしまった。怪獣男爵は偶然島に着いた恭助たちのヨットを奪い、北島博士を殺害し、音丸とともに上陸してしまった。小山田博士と世間への復讐のために、怪獣男爵は次々と犯罪を企てる。小山田博士、等々力警部、恭助、史郎、太ア坊は怪獣男爵に立ち向かう。
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感 想 |
異形の怪物、怪獣男爵の初登場作品。死刑となった犯罪者が異形な肉体を手に入れて甦り、名探偵とその仲間が対峙する。その設定だけで当時の少年たちは興奮するだろう。書き下ろしのせいかもしれないが、構想と展開が最初から最後まで一貫しており、さらに恭助、史郎、太ア坊が活躍する姿は読者をワクワクさせる。また彼らが大人たちとともに怪獣男爵に立ち向かう理由もわかりやすいものであり、違和感を生じさせない展開もうまい。 横溝の少年小説ものではベストといっていいだろう。ただ、横溝らしい本格ミステリ的な謎解きがないのは残念なところである。 |
備 考 |
作品名 | 『大迷宮』 |
初 出 |
『少年クラブ』(講談社)1951年1月号~12月号、1952年1月増刊号連載
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底 本 |
『大迷宮』(講談社 少年少女評判読物選集3)1952年1月
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挿 絵 |
富永謙太郎
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粗 筋 |
軽井沢に避暑に行く立花滋少年は、列車の中でサーカスの人気者であるブランコ乗りの鏡三少年を見かけてしまう。しかし黒メガネとマスクをしているのはなぜか。しかも連れの男を恐れているようだった。6日後、東京へ帰る前日、サイクリングの途中で世話をしてくれた従兄の謙三にいさんにそのことを話す。ところが途中で大雨が降り、自転車がパンクして動けなくなった。偶然見つけた洋館に泊めてもらうと、そこに住んでいたのは鏡三少年を連れていた男と、鏡三少年そっくりの剣太郎少年。仲良くなった剣太郎と滋だが、その夜に不思議な事件が起き、滋と謙三は眠らされた。
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感 想 |
本作からは金田一耕助が探偵役として登場。前作同様、小山田博士でもよかったと思うし、それ以上に「颯爽とした活躍」が金田一耕助には似合わない。本作は一応消失トリックが出てくるが、他は活劇が主流。怪獣男爵もただのお宝好きで収まってしまい、「世間に復讐する」目的がどこかに飛んで行ってしまったのは残念。せっかくの「大迷宮」も、乱歩の『大金塊』や『怪奇四十面相』と比べると、暗号とか迷路に迷うなどの展開がないため迫力に欠けるし、せっかくの設定が生かされていない。最後は少年たちが活躍して終わるから、少年冒険活劇としてはいいのかな。
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備 考 |
朝日ソノラマ版、角川文庫版は山村正夫がそれぞれリライトしている。
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作品名 | 『黄金の指紋』 |
初 出 |
『少年少女譚海』(文京出版)1951年6月号~1952年8月号 連載時タイトル「皇帝の燭台」
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底 本 |
『黄金の指紋』(偕成社)1953年1月
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挿 絵 |
成瀬一富
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粗 筋 |
中学二年生の野々村邦雄は夏休み、岡山県の下津田町に住む町長の伯父のところへ遊びに来た。そして、古川謙三という灯台守と仲良くなった。夏休みの終わりが近づいた嵐のある日の真夜中三時ごろ、灯台の灯が消えて船が難破していた。邦雄は灯台に駆け付けようとしたが、岩陰に遭難した青年が倒れていた。しかも胸を射たれていた。青年は邦雄に黒い箱を渡し、金田一耕助という人に渡してほしいと頼んだ。さらに古川も殺されていた。箱の中に入っていたのは、指紋が付いている黄金の燭台。しかも葡萄の実がすべて紫ダイヤだった。東京に戻った黄金の燭台を挟み、金田一耕助と怪獣男爵が激突する。
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感 想 |
怪獣男爵の最後の作品。黄金の燭台を狙う怪獣男爵や義足の男たちと、金田一耕助や野々村邦雄少年が対峙する。これまたさっそうとした金田一耕助が登場するのだが、まったく似合わない。明智小五郎みたいな活劇は、金田一には無理だよ、というぐらいイメージが付いちゃっているよなと思う。怪獣男爵も、宝石好きのゴリラで終わっていて、「稀代の大犯罪者」という帯の言葉が悲しくなってくる。せっかくのキャラクターが勿体ない。
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備 考 |
1950年、『少年世界』(ロマンス社)に掲載されて中絶した『皇帝の燭台』(第4巻収録)を書き直したもの。
朝日ソノラマ版、角川文庫版は山村正夫がリライトしている。
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