横溝正史少年小説コレクション2(柏書房)
『迷宮の扉』



【初版】2021年8月5日
【定価】2,800円+税
【編者】日下三蔵


【収録作品】

作品名
『仮面城』
初 出
 『小学六年生』(小学館)1951年4月号~1952年3月号連載
底 本
 『仮面城』(ポプラ社)1952年10月
挿 絵
 諏訪部晃
粗 筋
 ラジオの尋ね人で自分を探していることを知った小学六年生の竹田文彦。気になった文彦はその日、尋ね人である大野健蔵の家に行くが、その途中で気味の悪いお婆さんに出会う。大野家に行くと、白髪の老紳士が殴られ倒れていた。帰って来たばかりの娘・小夜子とともに介抱する。気付いた大野は誰にやられたかを言わず、文彦に色々質問し、さらに左腕にダイヤの形の痣を見つけ、文彦本人だと確信。しかし洋館の庭の古木にダイヤのキングのカードが五寸釘で刺されているのを見て顔色を変え、文彦に黄金の小箱を渡し、帰してしまった。家に帰ると、ラジオを聞いて心配した竹田家の知人、金田一耕助が来ていた。耕助と文彦が屋敷に戻るも大野たちは既にいなかった。ひと騒動後、竹田家に帰ってきたらお母さんが誘拐され、銀仮面と名乗る者より黄金の小箱を持って来いとの手紙があった。黄金の小箱には、六つのダイヤが入っていた。
感 想
 “仮面城”とか仰々しいタイトルと筋立てではあるが、当時の小学生向けということもあってか、内容はあっさり目。銀仮面の正体もわかりやすいもの(小学生でも気づくだろう、これは)になっている。
備 考
 一部を高木彬光が代作している。横溝から細かい展開についての指示があったとのこと。

作品名
『金色の魔術師』
初 出
 『少年クラブ』(講談社)1952年1月号~12月号連載
底 本
 『金色の魔術師』(講談社)1953年2月
挿 絵
 富永謙太郎(P121扉 中村猛男)
粗 筋
 『大迷宮』の事件で活躍した立花滋に憧れ、村上達也、小杉公平の2少年は滋と探偵団を結成。滋の学校の前で金ぴかのフロック、金ぴかに赤い星のシルクハットの老人は、手品を披露。金色の魔術師と名乗り、七人の少年少女をもらうと告げて去っていった。数日後、滋の同級生である山本少年が三人に相談する。近くに理学博士の赤星の洋館があるが、赤星は12、3年前から悪魔信仰に凝り出して気が変になり、そのうちに本当に気が違うようになって10年前から警察に監視されるようになった。洋館は誰も住まず荒れ放題になり、ゆうれい屋敷と呼ばれるようになった。しかも昨日、通夜の帰りに屋敷から浮浪者が飛び出し、首が宙に浮いていると叫んだ。入ってみると、祭壇に赤い星のカードがあり、No.1と書いてあった。山本少年は明後日に三人と探検する約束をしたが、その日のうちに山本少年は行方不明となる。三少年が屋敷に入り隠し部屋をドアの隙間から覗くと、金色の魔術師が酸の液体の風呂に山本少年を入れて溶かしてしまった。さらに六人がさらわれて溶かされるとの山本少年の手紙が。等々力警部が事件に乗り出し、滋たちと一緒に捜査を始める。
感 想
 同じ雑誌ということもあってだろうが、『大迷宮』に引き続き立花滋少年が登場し、活躍する。金田一耕助は関西で静養中ということもあり、滋たちからの手紙を基に色々とアドバイスを渡す形となっている。赤星博士が宝石狂で、信者から集めた宝石を隠しているとか、七つの礼拝堂とか、似たような設定が出てくるのは仕方がない。乱歩がよく使った消失トリックを始めとし、乱歩の少年物で出てくるトリックが多いのは参考にしていたのかもしれない。滋少年の活躍が目立つ分、等々力警部や警察があまりにも間抜けすぎるのは、少年物として仕方のないことだが、もうちょっと何とかならないものだろうか。
備 考
 

作品名
『迷宮の扉』
初 出
 『中学生の友2年』(小学館)1958年1月号~3月号、『中学生の友高校進学』(小学館)1958年4月号~12月号
底 本
 『迷宮の扉』(朝日ソノラマ)1976年12月が初単行本だが、山村正夫によって文章が全面的に書き換えられているため、底本には初出連載のテキストを使用。
挿 絵
 深尾徹哉
粗 筋
 三浦半島に竜神館という建物があり、そこには東海林日奈児という少年が住んでいる。日奈児は学校に通わず、ずっと館にいる。そこに住んでいるのは、後見人である降矢木一馬という老人と、小坂早苗という若い家庭教師、杢衛という家事全般を行うじいやであった。嵐の夜、金田一耕助はバスに乗り遅れ、たまたま見かけたこの館に泊まらせてもらうことになった。この日は日奈児の14回目の誕生日であり、父親である竜太郎の使いの者が来るまで待っていた。しかしその使いの者は、館の入り口で射殺された。実は日奈児はもともとシャム双生児として生まれ、2歳で切り離された。双子の月奈児は、仲の悪い一馬の妻の五百子と家庭教師の緒方一彦、炊事をする山本安江の4人で、房総半島にある海神館に住んでいる。竜太郎は戦時中に莫大な財産を築いたが、当時の部下に恨まれて姿を隠していた。舞台は東京に移り、依頼を受けた耕助は双玉荘に赴く。母屋を中央に、二階建ての洋館が両翼に建っていた。東翼には日奈児たちが、西翼には月奈児たちが住んでいた。そして竜太郎が死に、遺言状には1年後にどちらかに全財産を渡し、二人とも死んだときは看護婦の加納美奈子に渡すとあった。美奈子は、竜太郎のかつての部下の娘だった。
感 想
 少年物にしては珍しい本格推理作品。典型的なフーダニット作品であるのだが、金田一耕助により論理的に意外な犯人が暴かれる展開がなく駆け足になっているのが残念。もう少しうまく書けば、大人物にも使える設定だっただろう。ただ不思議なことに、一番最初の事件、すなわちの使いの者が殺された動機が全く不明。最後の真相が明かされても、殺される理由が全く浮かばない。
 私の勝手な想像だが、元々の竜神館、海神館という設定をうまく生かす展開が思いつかず、作者が慌てて舞台を東京の双玉荘に変えたのではないだろうか。証拠として残されたコバルトの髪も何だったのだろうという結果になっているし、そもそも事件の犯人は彼を殺す理由が全くない。
 最初から双玉荘を舞台にしていれば、本格推理作品としてもっと膨らますことができただろう。母屋を通らなければ反対側に行くことができず、普段は鍵がかかっているという不可能犯罪が可能な現場である。非常にもったいない、残念な作品であった。
備 考
 

作品名
「灯台島の怪」
初 出
 『少年クラブ』(講談社)1952年8月増刊号
底 本
 『獣人魔島』(偕成社)1955年8月
挿 絵
 岩田浩昌
粗 筋
 避暑を兼ねて伊豆半島のS村にある知り合いの山海寺へやってきた金田一耕助と立花滋少年。近くの灯台島へやってきた二人に、灯台守の島崎さんが不思議な話をする。七日前、灯台見物をしたいと野口清吉という旅人が来たが、天気模様が悪くそのまま泊まることに。嵐が明けた朝、野口が消えていた。助手の古河は、その後来た団体客と一緒に帰ったのだろうと言うが、夜になると地の底から声が聞こえる。もしかしたら、裏にある洞穴に入って、嵐で崖が崩れて入り口が塞がれたから出られなくなったんじゃないか。しかし嵐の翌日、半分ほど掘り起こしたが中にはいなかった。耕助もその話を聞いて洞穴に入ったが、深さ3m程度で隠れるところもない。しかし二人が泊まった夜、やはり人の叫び声が聞こえてくるのであった。
感 想
 立花滋君が登場する短編。ちょっとした暗号物と復讐譚だが、短編ということもありさして膨らませることのないまま、大した推理もなく終わっている。立花滋はこの後も生かすことができたのだろうが、やはり金田一耕助が少年物と肌が合わないのか、今回で退場するのはちょっと残念。
備 考
 

作品名
「黄金の花びら」
初 出
 『少年クラブ』(講談社)1953年1月増刊号(問題篇)、2月号(解答篇)
底 本
 『横溝正史探偵小説コレクション3 聖女の首』(出版芸術社)2004年12月
挿 絵
 山中冬児
粗 筋
 鎌倉にある仏像蒐集家の丹羽博士の屋敷で深夜、娘の由紀子が、泊まりに来ていた竜男を起こした。二階の書斎に泥棒が入っているらしい。博士は留守なので二人で行ってみると、誰かが何かを探っている。ところが竜男が大きなくしゃみをしたため気付かれてしまい、泥棒は逃げ出した。その姿は世間を騒がしている白蝋怪盗だった。竜男は猟銃を取り出し撃つと、怪盗は倒れる。銃声を聞いて、3階の客の黒沼博士、1階の客の小説家の古川先生が窓から顔を出した。四人で怪盗の側へ駆け寄ると、怪盗は撃たれて死んでいた。しかし射撃が上手な竜男は狙いを外したはずだと首をひねる。しかもマスクを外すと、丹羽博士の助手の堀川青年だった。
感 想
 犯人当てだが、ちょっとアンフェア。大事なことを隠しているし、現実的に難しい。それでも正解者が非常に多かったとのことだが、まあ予想できるかな、すぐに。
備 考
 犯人あて懸賞小説

【横溝正史少年小説コレクション(柏書房)】に戻る