横溝正史少年小説コレクション3(柏書房)
『夜光怪人』



【初版】2021年9月5日
【定価】2,800円+税
【編者】日下三蔵


【収録作品】

作品名
『幽霊鉄仮面』
初 出
 『新少年』(博文館)1937年4月号~1938年3月号連載
底 本
 『幽霊鉄仮面』(東光出版社)1949年1月
挿 絵
 伊藤幾久造
粗 筋
 新日報社の朝刊広告に載せられたカチカチ山の詩と下手くそな絵。櫂を振り上げているのは鉄仮面の男。狸の顔は、宝石王で有名な唐沢雷太だった。新日報社の若手敏腕記者、折井律太はこの新聞広告の主を発見するも、正体を話す前に飛来したナイフで殺されてしまう。三津木俊助は敵討ちを誓い、法医学者で素人探偵として有名な谷田貝修三博士と一緒に事件に乗り出すも、唐沢は予告通り鉄仮面に殺害されてしまう。唐沢の遠縁にあたる御子柴進も加わり、次の犯罪予告に出てきたレビュウ女優、香椎文代を守ろうとする。
感 想
 横溝の少年物では一番長いのではないだろうか。幽霊鉄仮面による犯罪予告とその方法、三津木だけでなく御子柴進、等々力警部、そして由利先生まで登場し、鉄仮面の正体を明かす。それだけでなく、鉄仮面を追って満州の奥地まで追いかけ、鉄仮面民族という恐ろしい一族まで出てきて戦うこととなる。何とも派手な展開であり、スケールの大きい作品でもある。
 鉄仮面の正体そのものはそれほど難しくないが、その裏に隠された真相が意外と複雑で、形勢が二転三転するところもすごい。鉄仮面民族はやりすぎな気もしないではないが、結末までの汗握る展開は、横溝の少年物でも一、二を争う内容である。少年物の傑作。
備 考
 

作品名
『夜光怪人』
初 出
 『少年少女譚海』(文京出版)1949年5月創刊号~1950年5月号連載(1950年2月号は休載)
底 本
 『夜光怪人』(偕成社)1950年4月
挿 絵
 澤田重隆
粗 筋
 夜光帽子をかぶり、夜光マントを着、夜光靴まで履く夜光怪人の噂が広がるようになった。中学三年生の御子柴進は、先輩の家からの帰り道の夜九時過ぎ、光る犬に追いかけられる婦人を助ける。更に後から来た夜光怪人がつぶやいた大宝庫とは何か。新日報社が主催している銀座デパート八階の防犯展覧会で、三津木俊助と御子柴進は夜光怪人の一場面を加えたが、そこで進は自分が助けた婦人を見かけるも逃げられた。そして夜光怪人は、同じ八階で催されている真珠王小田切準造が出品した「人魚の涙」を狙っていた。売り出し中の黒木探偵と三津木が「人魚の涙」を見張っていたが。
感 想
 乱歩にも『夜光人間』という作品があるが、時期的にはこちらの方が早い。今と違ってまだまだ夜は街灯も少なく暗い頃だろうから、闇に浮かび上がる怪人というのは考えたら怖いだろう。ただし、かなり無理な展開があるのはどうかと思うし、あまりにも露骨な伏線があるのはどうか。終盤で獄門島や清水巡査が出てくるのは、楽屋落ち的なファンサービスなのだろうが、当時の読者にわかったのだろうか。それにしても横溝先生、宝探しが好きですね。
備 考
 1975年1月の朝日ソノラマ版では山村正夫によって、由利の代わりに金田一耕助ものにリライトされている。1978年12月の角川文庫版も同様。

作品名
「怪盗どくろ指紋」
初 出
 『譚海』(博文館)1940年1月号 原題「幽霊花火」
底 本
 『白蝋仮面』(偕成社)1954年6月
挿 絵
 深尾徹哉
粗 筋
 大学教授で有名な宗像禎輔博士のひとり娘・美穂子と助手・志岐英三は、博士の部屋に飾っている写真とそっくりな少年がサーカスのポスターに出ているので、国技館に見に来た。三津木俊助はその会話を小耳にはさみ、彼らに注意を払う。その少年とは、空中大サーカス『幽霊花火』の人気者、栗生道之助だった。ところが曲芸中、いきなり警察がやってきてサーカスは大混乱。道之助は世間を騒がせている怪盗どくろ指紋だと、警視庁に投書があったのだ。個の回答は仕事が終わった後、決まって名刺代わりに指紋を一つ残すのだが、その三つの渦巻きがあってどくろのようだと騒がせているのだ。
感 想
 読み切り短編ということもあってか、設定の仰々しさに比べればあっさりとした結末になっている。それにしても横溝先生、時計やオルゴール、好きですね。
備 考
 

作品名
「深夜の魔術師」
初 出
 『新少年』(博文館)1938年8月号~1939年1月号連載
底 本
 『横溝正史コレクション2 深夜の魔術師』(出版芸術社)2004年10月 一部表記は初出誌通り
挿 絵
 川瀬成一郎
粗 筋
 金色の蝙蝠が深夜の空を乱舞するという恐ろしい噂が飛び交っている。三津木俊助は帰り道、二台の車が追いかけっこをしているのを見て、追いかけようとすると、二発の銃声が鳴り響く。慌てて駆けつけると、運転手と女性が射殺されていた。女性はレヴューの女王、丹羽百合子だった。車の中には、金蝙蝠が一羽飛んでいた。百合子のハンドバックの中にあった暗号を、由利先生は解き明かす。そこには、無音航空機の発明に成功した柚木子爵邸の仮面舞踏会へ行く指示が書かれていた。翌日の夕方、由利先生と三津木が呼び寄せた自動車に乗ると、助手台の男がいきなり催眠剤を放射したため、二人は眠りこけてしまった。
感 想
 少年物としてはかなり残酷な展開があり、そもそも自衛本能が働いて無理だろうと思うようなところもある。由利先生と三津木俊助も誘拐されて、その後の展開でも全くいいところなし。古舘譲という少年の活躍ばかりが目立つ。『真珠塔』に改作されたからというのが大きいだろうが、由利や三津木があまりにも不甲斐ないという展開が今まで単行本未収録だったと思われる。
備 考
 後に長編『真珠塔』(第4巻)に改作されている。

作品名
「深夜の魔術師」(未完)
初 出
 『少年少女王冠』(矢貴書店)1950年5月創刊号~7・8月合併号連載 ※雑誌休刊のため中絶
底 本
 初単行本化
挿 絵
 阿部和助、伊勢田邦彦
備 考
 同作のリライト。矢貴書店は桃源社の前身。

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