作品名 | 『青髪鬼』 |
初 出 |
『少年クラブ』(講談社)1953年1月号~12月号連載 連載時タイトル『大宝窟』
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底 本 |
『青髪鬼』(偕成社)1954年4月
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挿 絵 |
伊勢田邦彦
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粗 筋 |
東京の大新聞に載せられた三つの死亡広告。宝石王の古家万造。理学博士の神崎省吾。そして13歳の少女、月丘ひとみ。しかし三人とも生きている。新日報社に来た川崎という男は、受付にいた探偵小僧こと御子柴進に、幾人もの命に係わる重大な事件があるから三津木俊助に会わせてほしいと頼むが、会議中で会えなかった。帰る川崎を尾行する進。日比谷公園にいたのは、呼び出された月丘ひとみ。そして川崎が血を吐いて倒れていた。体の上には、1mほどの大きなクモ。そこに現れた男は、ステッキで一振りし、クモの姿が空気のように消えた。川崎の正体は、古家万造の秘書、佐伯恭介だった。そして男は広告主で、三人に復讐し、盗まれた大宝靴を取り戻すと進に宣言。帽子を外すと、まるでサタンのような顔に、真っ青な髪の毛。男は青髪鬼と名乗った。さらに佐伯が進に渡した手紙を預かった山崎編集長のところに、神出鬼没の変装の名人、白蝋仮面が俊助に化けて現れ、手紙を奪い取っていった。青髪鬼や白蝋仮面と対峙する俊助と進。そして大宝窟の謎へ。
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感 想 |
白蝋仮面は『読売新聞』1952年12月から1953年4月に連載された三津木・御子柴ものの絵物語「探偵小僧」(『横溝正史探偵小説選V』(論争ミステリ叢書)に収録)が初登場。本作と同じ時期に少年物の『白蝋仮面』にも登場する。乱歩の怪人二十面相みたいな役どころにしたかったのかもしれない。 内容はといえば、過去の自作を色々と流用し、つなぎ合わせたような展開。ネタ切れだったのか、掲載誌が違ったから別に構わないと思ったのか。 |
備 考 |
冒頭の展開は、『幽霊鉄仮面』(弾3巻収録)の冒頭を改変したものである。角川文庫版では、山村正夫による文章の改変が行われている。
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作品名 | 『真珠塔』 |
初 出 |
『少年画報』(少年画報社)1953年1月号~12月号連載
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底 本 |
『真珠塔』(ポプラ社)1954年4月
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挿 絵 |
古賀亜十夫
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粗 筋 |
金色の蝙蝠が深夜の空を乱舞するという恐ろしい噂が飛び交っている。新日報社に入ったばかりの給仕、御子柴進は帰り道、二台の車が追いかけっこをしているのを見て、追いかけようとすると、二発の銃声が鳴り響く。慌てて駆けつけると、運転手と女性が射殺されていた。女性はレヴューの女王、丹羽百合子だった。車の中には、金蝙蝠が一羽飛んでいた。百合子のハンドバックの中にあった暗号を、進と三津木俊助は解き明かす。そこには、真珠王柚木翁が真珠塔を披露する夜会が開かれることになっており、俊助も警護を兼ねて招かれていた。その日の夜、二人が呼び寄せた自動車に乗ると、助手台の男がいきなり催眠剤を放射したため、二人は眠りこけてしまった。夜会では金蝙蝠の男に柚木翁が殺された。しかも、飾られていた真珠塔は偽物だった。
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感 想 |
由利先生と三津木俊助が出ていた中編「深夜の魔術師」(第3巻収録)を、三津木俊助と御子柴進ものに改作した作品である。戦前の舞台を戦後に移したための設定の改変はあるが、大筋は変わらない。催眠術などの無理な設定が目立つ。
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備 考 |
角川文庫版では、山村正夫による文章の改変が行われている。
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作品名 | 『獣人魔島』 |
初 出 |
『少年少女冒険王』(秋田書店)1954年7月号~1955年6月号連載
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底 本 |
『獣人魔島』(偕成社)1955年8月
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挿 絵 |
岩田浩昌
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粗 筋 |
死刑判決が確定していた梶原一彦が、小菅刑務所から脱走した。裁判で梶原は、死刑を言い渡しが三芳判事の一家を皆殺しにすると宣言していたため、警察は判事の三芳隆吉とその妻・文江、13歳の娘・由紀子、女中のおあきの四人家族の家を厳重に警戒した。三芳判事が出張の夜、近所に住む新日報社の探偵小僧、御子柴進が泊まりに来ていた。そこへ梶原は、外から地下道を掘り、台所から侵入。しかし進が家の中にそっと用意した仕掛けに引っかかり、何もできずに逃走。追いかける警護の警官たちと進。警官のピストルが当たり、血のあとを追いかけるとそこは世界的に有名な医学博士の鬼頭博士の家。木戸を開けると助手の里見一郎が殴られて倒れており、中に入ると鬼頭博士が縄で縛られて倒れていた。そして梶原は姿を消した。しかし進は、鬼頭博士を疑って見張っていると、鬼頭博士と里見は大きなトランクを持って岡山県の宇野まで向かった。進は後をつける。
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感 想 |
『怪獣男爵』を彷彿させる作品ではあるが、さすがに本作ではそのままの展開とはならない。とはいえページが短すぎることもあり、盛り上がりに欠ける。
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備 考 |
作品名 | 「ビーナスの星」 |
初 出 |
『少女倶楽部』(講談社)1936年11月増刊号 掲載時タイトル「ヴィーナスの星」
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底 本 |
『孔雀屏風』(奥川書房)1942年3月 掲載時タイトル「ヴィナスの星」 『少女サロン』(偕成社)1952年1月号で「ビーナスの星」として再録。
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挿 絵 |
深尾徹哉
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粗 筋 |
電車に乗っていたK大学生の三津木俊助は、助けを求めてきた少女・由美子と一緒に降りる。そのまま家の途中まで送っていくが、俊助と別れた由美子はピエロのような扮装をした男にマフラーの半分を奪われた。何とか逃げた由美子が家に帰ると、兄の健一が縛られて倒れていた。
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感 想 |
ルブランの某作品を横溝流に移植した作品。
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備 考 |
作品名 | 「花びらの秘密」 |
初 出 |
『少女倶楽部』(講談社)1936年6月号 掲載時タイトル「真鍮の花瓣」 『少女サロン』(偕成社)1954年1月号で「花びらの秘密」として再録
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底 本 |
『白蝋仮面』1954年6月
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挿 絵 |
深尾徹哉
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粗 筋 |
真夜中、美恵子の部屋に動くな、さわぐな、さわぐと命がないぞという文字の映像が映し出される。映像が消えて泥棒が帰ったが、部屋はきれいなまま。祖父は夢でも見たのだろうと取り合わない。ところが次の日の夜も同じ映像が現れた。由美子は隠し持っていたピストルを構え、電気をつけた。祖父は名探偵の宇津木俊策探偵事務所に電話を描けると、緑川三平と名乗る部下が現れた。
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感 想 |
三津木、御子柴ではなく、宇津木俊策が登場する少女もの。この三津木に似せたような名前の人物は、横溝作品のいくつかで出てきているが、同一人物ではなく、名前を流用しただけである。優しい暗号もので、横溝がよく書いている展開である。
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備 考 |
作品名 | 「『蛍の光』事件」 |
初 出 |
『少女倶楽部』(講談社)1938年2月増刊号
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底 本 |
『まぼろし曲馬団』(ポプラ社)1955年3月
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挿 絵 |
田代光
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粗 筋 |
医学生、宇佐美慎介は帰り道、南京玉が歩道に点々と散らばっているのを見た。後を追いかけ、ある青年に絡まれていた緒方早苗という少女を助ける。早苗の家に電話をかける慎介だったが、受話器は外れるも向こうからの応答がない。そのうち、『蛍の光』のメロディが流れ、そして中途で止まり、物の倒れる音がして、電話が切れた。二人で緒方邸へ駆けつけると、先ほどの青年が逃げるのを見た。家に入ると、緒方博士が刺されて死んでいた。緒方博士は強力な殺人光線を発明したため、狙われていた。
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感 想 |
今度の主人公は宇佐美慎介。殺人光線の設計図というのは当時の時代を表している。例によって例のごとく、あのネタが結末で出てくる。
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備 考 |
作品名 | 「片耳の男」 |
初 出 |
『少女の友』(実業之日本社)1939年9月号 掲載時タイトル「七人の天女」 『少女サロン』(偕成社)1950年12月号で「片耳の男」として再録
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底 本 |
『青髪鬼』(偕成社)1954年4月
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挿 絵 |
伊勢田邦彦
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粗 筋 |
医学生の宇佐美慎介は帰り道、チンドン屋に襲われている少女を助ける。そのチンドン屋には右の耳たぼが半分なかった。その少女は、慎介がよく通う本屋の店員、鮎沢由美子だった。由美子を家に送っていくと、家の中で由美子の兄・俊郎が縛られて倒れていた。俊郎はチンドン屋にやられたといい、おとぎ話の贈り物を横取りしようとしたといった。
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感 想 |
本作も宇佐美慎介が主人公だが、前作との関連は特になし。謎のレベルはちょっと低め。
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備 考 |
作品名 | 「謎のルビー」 |
初 出 |
『少女倶楽部』(講談社)1938年10月号 掲載時タイトル「謎の紅露」
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底 本 |
『青髪鬼』(偕成社)1954年4月 改題「謎のルビー」
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挿 絵 |
伊勢田邦彦
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粗 筋 |
銀座の花売り娘の少女が広告人形の男に近づき、二人は何かを交換した。そこへ刑事が現れ、身体検査をするが、もらったはずの紙切れがどこにもない。男の名前は藤生俊太郎といい、名探偵の藤生俊作の息子だった。そのとき、別の広告人形が近づいて来た。刑事は慌てて人形を追いかけるも、人形に逃げられる。少女の名前は深尾由美。由美はルビー事件で逃亡中の兄、史郎と会う予定だったのだ。ルビー事件とは、実業家志摩貞夫の夫人貞代が持つルビーの指輪が盗まれた。従弟の浪越恭介が当日来ていたので念のためと家へ行ってみると恭介が殺されていて、側に発明仲間の深尾史郎が血まみれの短刀を持ったまま立っていた。当然史郎が犯人と思われたが、史郎は弁解しながら逃げ出した。
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感 想 |
今度の主人公は藤生俊太郎。ちなみに俊太郎も藤生俊作も、過去の作品には出てきていない。どちらかといえば活劇もの。
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備 考 |
作品名 | 「皇帝の燭台」(未完) |
初 出 |
『少年世界』(ロマンス社)1950年1月号~6月号連載(2月号と5月号は休載) ※体調不良のため中絶 ※『少年世界』は1950年7月号で休刊
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底 本 |
初単行本化
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挿 絵 |
梁川剛一
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備 考 |
後に『少年少女譚海』で改めて連載され、『黄金の指紋』(第1巻収録)のタイトルで単行本化。
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作品名 | 「黒衣の道化師」(未完) |
初 出 |
『少年野球画報』(野球画報社)1950年4月創刊号掲載 ※雑誌休刊のため中絶
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底 本 |
初単行本化
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挿 絵 |
川村秀治
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備 考 |
戦前の少年もの「変幻幽霊盗賊」(『横溝正史小説選II』(論争ミステリ叢書)所収)のトリックを再使用。のちに『まぼろしの怪人』第一話(第6巻収録)に同じ形で流用。原型はトマス・W・ハンシュー『四十面相クリークの事件簿』(論争海外ミステリ)にある。
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