横溝正史少年小説コレクション5(柏書房)
『白蝋仮面』



【初版】2021年11月5日
【定価】2,800円+税
【編者】日下三蔵


【収録作品】

作品名
『白蝋仮面』
初 出
 『野球少年』(芳文社)1953年2月号~12月号連載
底 本
 『白蝋仮面』(偕成社)1954年6月
挿 絵
 深尾徹哉
粗 筋
 運転手とせむし男が乗っていたトラックが郵便車と事故を起こした。どちらも故障はしなかったが、トラックの台に乗っていた棺桶には石膏人形が。最初は死体かとびっくりした野次馬もそのまま去っていったが、偶然通りかかった新日報社の給仕、探偵小僧こと御子柴進はダイヤモンドを拾った。乗っていた自転車で後をつけると、二人は空き家の洋館で棺桶を下ろしているのだが、なぜか小さな叫び声が。見張っていたが見つかり、何やら呪文のような言葉を録音させられた。眠らされて翌朝、新聞に怪盗白蝋仮面が石膏像となって逃走という記事を見つけた。白蝋仮面とは、顔そのものが白蝋でできているみたいに自由自在に返送する神出鬼没の怪盗だった。三津木・御子柴コンビと白蝋仮面の闘いが始まった。
感 想
 白蝋仮面が登場するのは、絵物語『探偵小僧』、『青髪鬼』(第4巻収録)に続いて三作目。この三作はほぼ同時期に連載されていることから、作者も何らかのシリーズ化を目論んでいたのではないかと思われる。少年主人公の冒険活劇物なので、矛盾点に突っ込みを入れるのは野暮なのだが、最後の宝石の隠し場所はあまりにもなあという感がある。
備 考
 蝋は実際は印刷標準字体が本当である。

作品名
『蝋面博士』
初 出
 『おもしろブック』(集英社)1954年1月号~12月号連載
底 本
 『蝋面博士』(偕成社)1954年12月
挿 絵
 岩田宏昌
粗 筋
 御子柴進は日比谷公園の北側の道で、トラック同士の衝突に遭遇した。運転手同士が喧嘩していたが、片方のトラックから不気味な老人が下りて、そのまま逃げてタクシーに乗り込んだ。進は自転車で後をつける。一方、老人が下りたトラックの荷物の木箱には洋装の夫人の蝋人形が入っていたが、?が剥げて人間の女の手首が出てきたからびっくり。老人がついた先は雑木林の中のアトリエ。中には新日報社のライバル社、東都日日新聞の田代信三が捕まっていた。不気味な老人、?面博士は秘密を知る人間を皆蝋人形にするというのだ。進が声を出したために?面博士は逃げていった。博士は借りていた別の部屋で、病院から盗み出した死体を蝋人形にしていた。さらに博士は、街の花売りの娘に目をつけ、誘拐して蝋人形にすると脅してきた。御子柴進は、渡米中の三津木の帰りを心から待ちつつ、蝋面博士と対峙する。
感 想
 トラックの衝突で人形が出てくるとか、アドバルーンの逃走とか、同じようなネタが出てくるのは仕方がないところ。乱歩もそうだったし、少年物の宿命だろうか。代作者がいるんじゃないかと思うぐらい、過去作品に似たような設定、似たような名前が多い。しかし、これをよく金田一ものに変えようと思ったな、山村正夫も。
備 考
 蝋は実際は印刷標準字体が本当である。朝日ソノラマ(1975年1月)からの刊行時、山村正夫によって一部文章の改編とともに、三津木俊助から金田一耕助に書き換えられている。

作品名
『風船魔人』
初 出
 『小学五年生』(小学館)1956年4月号~1957年3月号連載
底 本
 『風船魔人・黄金魔人』(角川文庫)1985年7月
挿 絵
 柳川剛一
粗 筋
 天馬サーカス団の馬、プリンス号が上空へ舞い上がっていった。よく見ると馬全体に浮袋のようなものが巻き付けてあり、風船が七つ着いている。なんとすごい浮揚力。サーカス団の射撃の名手、ジョージ・広田が射撃で風船を一つずつ撃ち落とし、ようやく助けることができた。ガス体の研究では世界的学者である畔柳剛三博士も、こんな浮揚力を持つガスは見たことがないと驚いた。1か月後、風船魔人と名乗るものから第二回目の実験を行うとの広告が。夜の九時、全身に夜光塗料を塗った服を着た風船魔人が一直線に飛んできた。ヘリコプターで追いかける三津木俊助、御子柴進、畔柳博士。しかし風船は爆発してしまった。さらに三回目の実験が。
感 想
 馬をも浮かばせる風船を開発した風船魔人というのは、まったく新しい着想。しかし小説中にもある通り、特許を取った方がよっぽどお金になると思うのだが。まあ、犯人は予想通りの人物だが、新機軸の怪人を生み出したところは評価できる。
備 考
 

作品名
『黄金魔人』
初 出
 『おもしろブック』(集英社)1957年1月号~8月号連載
底 本
 『風船魔人・黄金魔人』(角川文庫)1985年7月
挿 絵
 伊勢田邦彦
粗 筋
 伊藤伊津子という16歳のデパートの売り子が、全身が黄金でできているという黄金人間に襲われて気を失った。目を覚ますと、パトロールのおまわりさんがいる。夢でも見ていたのだろうか。10日後、ローズ・蝋山という16歳のレビューの踊り子が、黄金人間に襲われた。守衛や警察官などに囲まれた黄金人間は少女を下し。劇場の屋根の上まで逃げた。ピストルの弾も跳ね返した黄金人間は、そのまま深い堀に飛び込んで行方をくらました。次に狙われたのは、御子柴進と同じ中学で仲の良い、喫茶店員の16歳、長谷川花子。黄金魔人はいろは順に16歳の女のことを狙っているようだった。
感 想
 全身金ぴか、顔も金色の仮面の黄金人間。途中からいきなり黄金魔人に名前が変わったのはご愛敬。いろは順に襲うというのは大変で、ローズ・蝋山というのはかなり苦しい。それにしてもまさかの某長編プロットパターンで来るとは思わなかった。とはいえ、わざわざこんな魔人に化けなくても……。かえって捕まりやすくしているだけだと思うが。
備 考
 

作品名
「動かぬ時計」
初 出
 『少女画報』(東京社)1927年7月号
底 本
 『獣人魔島』(偕成社)1955年8月
挿 絵
 岩田宏昌
粗 筋
 高等小学校を出て父親が小使いで働く会社の電話係となった眉子。母親のいない眉子に五月十五日の誕生日、毎年誰からかわからないプレゼントが届く。今年は金時計だった。ところがある日、時計が動かなくなった。
感 想
 少女向けの小品。ミステリ味がほとんどない作品。
備 考
 

作品名
「バラの呪い」
初 出
 『少女世界』(博文館)1928年1月号~3月号連載 掲載時タイトル「薔薇の呪い」
底 本
 『蝋面博士』(偕成社)1954年12月
挿 絵
 岩田宏昌
粗 筋
 S学校の誇りはバラとユリに例えられた妙子と鏡子。しかし妙子は今年の春に亡くなった。それも丹毒で。美しい容貌は一夜で醜く崩れ、高熱のうちに亡くなった。死ぬ前にバラを呪いながら。そんな鏡子のもとに、バラの花束が贈られ、そして復讐するというメッセージが。
感 想
 美少女の死にまつわる復讐劇とその裏にまつわる意外な真相を描いた少女向け作品。昔はこういうことが実際にあったんだろうかと思わせる。
備 考
 

作品名
「真夜中の口笛」
初 出
 『少女倶楽部』(講談社)1933年6月号
底 本
 『蝋面博士』(偕成社)1954年12月
挿 絵
 岩田宏昌
粗 筋
 昆虫採集も兼ね、温泉旅館へ叔父で昆虫学者の片桐敏郎と泊まりに来ていた益美は、夜中にカサカサと動く音で目が覚めた。さらに聞こえる不気味な口笛の音。怖くなって部屋の外に出ると、偶然いたのは同じく泊まりに来ていた高校二年生の畔柳雄策。部屋を見てもらったが、誰もいない。叔父から聞いた話だと口笛の呪いというものがあり、父も母も死ぬ直前、真夜中に口笛が聞こえたという。
感 想
 ドイルの某作品のトリックをアレンジし、少女向け作品に落とし込んだ作品。実際には不可能だと思われる。後にこのトリックは、『不知火捕物双紙』の「笛を吹く浪人」(後日、人形佐七ものに改変)にも使われている。
備 考
 

作品名
「バラの怪盗」
初 出
 『少女倶楽部』(講談社)1936年9月号 掲載時タイトル「薔薇の怪盗」
底 本
 『まぼろし曲馬団』(内田書店)1949年2月
挿 絵
 北田卓史
粗 筋
 最近都内を荒らしまわっているのが、犯行現場にバラを1本残していく「バラの怪盗」。瓜生家の令嬢、朱美の誕生日では瓜生氏の甥の史郎がバラに化けた喜劇を演じていたが、本物のバラの怪盗が朱美を誘拐していった。父親や、最近バラの怪盗を向こうに回して活躍している私立探偵、志賀俊郎が協議をしていたところへ、朱美が書いた手紙がバラとともに届けられ、五十万円を要求してきた。
感 想
 バラの怪盗とそれに立ち向かう青年と少女の物語。ちょっとした暗号が出てくるのはいいが、神出鬼没の怪人がこんなに簡単に捕まっていいのかと突っ込みたくはなる。
備 考
 

作品名
「廃屋の少女」
初 出
 『少女倶楽部』(講談社)1938年5月増刊号 掲載時タイトル「鐘楼の少女」 『少女サロン』(偕成社)1950年10月号で「廃屋の少女」として再録。
底 本
 『青髪鬼』(偕成社)1954年4月
挿 絵
 伊勢田邦彦
粗 筋
 十二の千晶は夜中に目を覚ますと、そこにいたのは二十五、六の泥棒だった。人には親切にしなさいと教えられてきた千晶は泥棒にも優しく、二千円を渡す。感激した泥棒は、自分の妹が病気なのに病院へ入れてあげられなくて泥棒をしたと打ち明けると、指輪とフランス人形を手渡した。それから半年後、父親は亡くなり母親は看病疲れで倒れ、悪い叔父の剛三が乗り込んできた。そんな剛三が親戚で中学三年生の弓雄少年を連れて、千晶を博覧会に連れてきた。そして弓雄と千晶を軽気球に載せたが、不審な男がピストルでロープを斬ってしまったため、気球はどこかへ飛んでいった。
感 想
 ちょっとした恩返し物サスペンス。
備 考
 

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