作品名 | 『南海の太陽児』 |
初 出 |
『譚海』(博文館)1940年11月号~1941年8月号連載
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底 本 |
『南海の太陽児』(熊谷書房)1942年11月
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挿 絵 |
玉井徳太郎(地図:芝義雄)
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粗 筋 |
房総半島の龍神館に住んでいるのは退役した海軍軍人である降矢木大佐と、十八の美少年、東海林龍太郎。龍太郎の父親、健三は降矢木大佐の親友で画家だったが、二十年前に日本の委任統治に入った南洋群島を目指して旅立って行方知れずとなった。そして三年後、龍太郎を抱いて帰ってきた。健三は蘭領印度の中にある、純粋の日本人による一大王国で高貴の姫君と結婚し、産まれたのが龍太郎であった。嵐の夜、降矢木大佐が龍太郎に初めてそのことを話した時、ピストルで撃たれて怪我をしている男がやってきた。男によると、健三はやまと王国で熱病で亡くなったが、不吉なことがあった時は息子を呼び寄せろという遺言を残していた。白い皮膚を持った男が王国へ紛れ込んで悪企みを吹き込んでいるという。伝言を伝えに来たその男も、その白人の手先にやられたのだ。龍太郎は降矢木大佐とともに、やまと王国へ向かう。しかしそれは、苦難の旅の始まりだった。
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感 想 |
SFテーマ「失われた種族」ものの冒険小説。龍太郎が降矢木大佐とともにやまと王国へ向かうも、敵の手に陥るも逃げ出し、様々な苦労を重ねてやまと王国に向かい、敵と対峙する。『少年小説大系第18巻 少年SF傑作集』(三一書房)にも再録されているが、こちらは当時の言葉狩りの影響を受けた改変が激しかったが、本巻ではすべて戻されているとのこと。冒険あり、ロマンあり、戦いあり、恋あり、といった古典的な海洋冒険小説。大変と思われるところがすっ飛ばしている部分があったりはするものの、当時の少年をワクワクさせる内容であったことは間違いない。ただ最後の方は駆け足というか、やや投げっぱなしな部分があるのは残念。
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備 考 |
冒頭の展開は、後に『迷宮の扉』(第2巻収録)に転用されている。
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作品名 | 『南海囚人塔』 |
初 出 |
『少年少女 譚海』(博文館)1931年1月号~8月号連載
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底 本 |
初単行本化
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挿 絵 |
嶺田弘
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粗 筋 |
南洋通いの定期郵船上海丸は、シンガポールから横浜に向かっていた。途中で見つけたのは、不思議な漂流船。佐伯船長、甥の少年である速雄と雄二、澤田一等運転士、山口船医たちが調べることにした。どうやら二百年ほど前のオランダ船らしい。中は骸骨の山だったが、船長室にあるトランクには金貨が詰まっていた。そのとき中から出てきたのは気が狂っているらしい日本人の老人。左腕には、黄衣海賊の印の刺青があった。貴重品を積み、老人を連れて船に戻り、漂流船を連れていくことになったが、その夜、途中で雇った下級船員たちが船を乗っ取ってしまった。向かった先は南洋の地獄島。速雄と雄二の冒険譚が始まる。
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感 想 |
掲載誌が近年見つかり、初めて単行本化された冒険小説。漂流船、牢獄からの脱出、海賊との戦い、迷路に宝探しなど、中編の分量の中にこれでもかとばかりに詰め込まれており、今までまとめられなかったのが勿体ない中編である。
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備 考 |
作品名 | 「黒薔薇荘の秘密」 |
初 出 |
『少年クラブ』(講談社)1949年8月増刊号
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底 本 |
『仮面城』(ポプラ社)1952年10月
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挿 絵 |
諏訪部晃
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粗 筋 |
中学二年生の富士夫君が伯父の小田切博士と一緒に伊豆半島の温泉場へ避暑に来た。伊豆半島でいつも立ち寄るのが、黒薔薇荘。主人の古宮元子爵は建築の大家で迷路の研究をしていた。ところが一年前のある日、家じゅうに鍵がかかっていて出た形跡がないのに、姿を消してしまった。しかもたくさんの宝石も消えてしまった。その日の黒薔薇荘のお客は、小田切博士と富士夫、そして隣の別荘に住む柳沢弁護士。目が見えなくなった達子夫人、娘の美智子がもてなして、その日はそのまま泊まった。その夜、富士夫は寝ていた部屋の大時計のガラス戸が左へ開き、中から道化師が出て来るのを目撃した。
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感 想 |
ちょっとした謎解きのある短編。ご丁寧に傍点まで打ってあるのは少年ものならでは。
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備 考 |
作品名 | 「謎の五十銭銅貨」 |
初 出 |
『少年クラブ』(講談社)1950年2月号
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底 本 |
『仮面城』(ポプラ社)1952年10月
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挿 絵 |
諏訪部晃
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粗 筋 |
駒井不二雄のおじさんの啓吉は小説家だが、36なのに独身で同居している。雑誌社からの「私のマスコット」という取材で、昔もらった五十銭銅貨を見せる。易者からの釣りでもらったものだが、どうやら間違えて渡されたらしい。しかも中には数字の暗号が書かれた紙が入っていた。雑誌が出てから一週間後、隣に住む香山由紀子というお嬢さんが来ていた時、雑誌社からという初めて来た男が原稿を依頼に来たが、それを啓吉が断ると今度は五十銭銅貨を見せてほしいと頼んできた。
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感 想 |
簡単な暗号ものに、ちょっとした味付けがされた少年向けの短編である。
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備 考 |
作品名 | 「悪魔の画像」 |
初 出 |
『少年クラブ』(講談社)1952年1月増刊号
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底 本 |
『蝋面博士』(偕成社)194年12月
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挿 絵 |
岩田浩昌
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粗 筋 |
良平は同居している叔父で小説家の清水欣三と散歩中に古道具屋に立ち寄り、そこで杉勝之助の絵を見つけた。杉勝之助は戦争中に若くして死んだ天才画家で、どの絵にも赤い色が塗りたくられていて赤の画家と言われていた。欣三はその絵を買ったが、そこへ黒メガネの男が入ってきて何倍でもいいから絵を譲ってほしいと言ってきた。その日、泥棒が入ってきて絵を盗もうとしたが、音に気付いた良平や欣三が駆け寄ると逃げていった。しかし、一人の少女が残されていた。そして良平は、赤メガネが落ちているのに気付いた。
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感 想 |
これもちょっとした謎解きのある少年向けの短編。こうやって続けて読むと、残された遺産ものが多いな、横溝には。
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備 考 |
作品名 | 「あかずの間」 |
初 出 |
『少女クラブ』(講談社)1957年7月増刊号
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底 本 |
『姿なき怪人』(角川文庫)1984年10月
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挿 絵 |
高木清
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粗 筋 |
小学三年生の由紀子は家が貧しかったので、平田雷蔵という男の屋敷に引き取られ、学校の時間以外はこき使われていた。広い屋敷に雷蔵はめったに来ず、山下亀吉と梅子という五十過ぎの夫婦が留守番をしていた。屋敷の庭には古い土蔵があって近寄らないように言われていたのだが、10日ほど前に梅子から土蔵の鍵を開け、蛇神様に料理の載ったお盆を置いて、空の食器のお盆を持って来いと命令された。行ってみると、中から女の人の声が聞こえてきた。
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感 想 |
少女向けのサスペンススリラー。特に語るものはない。
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備 考 |
作品名 | 『少年探偵長』 |
初 出 |
『東光少年』(東光出版社)1948年12月創刊号、第二号(1949年2月)、第三号(4月)~第六号(7月)、8月~11月号連載 (海野十三遺作を引き継いで完成) |
底 本 |
『海野十三全集 第一巻』(東光出版社)1950年4月
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挿 絵 |
飯塚羚児
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粗 筋 |
春木清君は、学校で仲良しの牛丸平太郎と山登りへ来たが、東道と西道の分岐点のところで別々の道を進んでどちらが早く滝に着くかの競争をした。春木君が先に滝に着いたが、そこで血まみれで重症の老人を見つける。手当てをしているときに気が付いた戸倉八十丸という老人は、お礼と言って右の義眼を外して渡し、ここを立ち去れと告げた。するとヘリコプターが飛んできて、逃げた春木君は空井戸へ落ちてしまった。そこへようやく滝に着いた牛丸君だったが、ヘリコプターから機関銃が鳴り出し、慌てて柿の木に上った。ヘリコプターから一人の男が下りてきて、戸倉老人を連れ去っていってしまった。牛丸君は春木君が見当たらないので山を下りてしまった。なんとか空井戸からはい出した春木君だったが、すでに暗くなって道がわからないので、野宿をするつもりで持っていたライターで焚火を起こした。義眼を調べていたら落として焚火のそばまで転がり、二つに割れた。中には絹のきれで包まれた、半月型の半分になって奇妙な文字が書かれていた金貨だった。戸倉老人が話していた世界的な宝とは何か。ヘリコプターで戸倉老人を連れていった悪者たちはだれか。殺人事件も発生。牛丸君が誘拐され、春木君は仲間たちと少年探偵団を結成して牛丸君救出に乗り出す。
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感 想 |
海野十三が急死し、連載していた少年向けミステリ『少年探偵長』を横溝正史が書き継いで完成させたものである。少年探偵団を結成するあたりは、江戸川乱歩の影響が見られる。首領の正体などかなり無理な部分があるが、作家が変わったという違和感がそれほどなく、うまく完結させられているのではないだろうか。
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備 考 |
第七回(「燃えあがる山塞」の章)以降が横溝正史の執筆ではないかと推定されている。なお同じく連載中だった『未来少年』は高木彬光が書き継いだ。これも連載中の『美しき鬼』は島田一男が書き継いだといわれている。
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