戸梶圭太『レイミ 聖女再臨』ノン・ノベル
暗い夜だった。廃墟と化したビルに五人の男女が集結し始めた。亜紀、和人、幸雄、紫乃、雅治―彼らはそれぞれ異様な物を携えていた。目的は"儀式"だった。物を合体させ、あるものをこの世に甦らせるのだ。それは彼らにとって自分だけが独占したい"聖女"だった。相互不信が走った。神経がキレた。全員が敵同士となった。物の争奪戦が始まった。闇の廃ビルは狂気の地獄と化した。迸る血と絶叫…はたして"聖女"―レイミの正体とは?瞠目の鬼才が放つ超弩級ノンストップ・ホラーの衝撃作。(粗筋紹介より引用)
廃墟のビルでの聖女復活という魅力的な設定。相互不信に陥り、全員が敵同士になる、思わず頷いてしまいつつも驚く展開。戸梶圭太は娯楽というものをよく知っていると思う。ただ、結末がちょっと安易な方向に流れたのが残念。★★★☆。
『ホラーコミック傑作選第5集 白髪鬼』(角川ホラー文庫)
かつて「少年キング」に特集が組まれた乱歩原作漫画の中から、横山光輝「白髪鬼」、桑田次郎「地獄風景」。そして講談社のコミックノベルスで出版された古賀新一「陰獣」の長編3本を収録。横山、桑田は少年誌に掲載されたためか、どぎつい部分はかなり押さえられているし、セックスに関わる部分は一切触れていない。その分、原作に比べると軽く見えてしまうのは否めない。とはいえ、少年誌という制約の中で、うまくアレンジして、読み応えのある作品に仕上がっているのはさすがである。その分古賀は青年コミックスに書かれたせいか、原作の味を損なわず、自分の世界を綺麗に作り上げている。
三作とも、乱歩の世界を自分流にアレンジし、読み応えのある作品に仕上げている。お薦めです。秋に出るとの噂の第2弾も楽しみです。
飯田譲治+梓河人『アナン』上下(角川書店)
その少年は扉を開けた―『未来』という名の扉を…。ホームレスの男と拾われた少年―。運命の絆で結ばれたふたりのまわりで不可思議な現象が起こり始める…。ホラー映像の旗手が描く新境地!会心の書き下ろし1400枚大巨編作品!!世紀末スピリチュアル・ファンタジー、ここに誕生。(粗筋紹介より引用)
これは純然たるファンタジーである。そして、救いの物語である。ちょうどこの頃、自分は精神的にかなり落ち込んでいた。そんな時この本を読み、救われた気分と、そして逆に落ち込んだ気分の両方を味わった。それ以上、この作品について書きたくない。いや、書けない。小説の出来としては『アナザヘヴン』より落ちると思う。しかし、それ以上の何かがこの本にはある。
折原一『耳すます部屋』(講談社)
宮田久恵の娘麻衣と、片桐八重子の娘ゆかりは小学校の同級生で友達だった。夫を亡くし働く八重子のために、久恵は八重子が帰ってくるまでゆかりを預かることにした。しかし家の中のものが少しずつなくなるようになっていった。しかもゆかりは勝手にジュースを飲み、お菓子を食べる。久恵はゆかりがだんだん疎ましくなっていった。「耳すます部屋」。
8歳の男の子が誘拐され、殺害された。死亡推定時刻の頃、同じマンションに住む少女が殴られるという事件があった。少女が事件につながる情報を知っているのではないかと警察は期待したが、少女は一時的な記憶喪失を起こしていた。「五重像」。
この学校には幽霊がいる。そう言ったのは私のクラスの生徒だった。教師である私は、よくある幽霊話だと思っていたが。「のぞいた顔」。
若い主婦の車が、よく来るパチンコ店の駐車場から盗まれた。車の中には2歳の子供が居た。そして主婦の家に、身代金を要求する電話がかかってきた。「真夏の誘拐者」。
白色仮面には、死ぬほど驚かされた。暗い墓場の間から、いきなり姿を現したおぞましい仮面の男は、津野光男を恐怖で打ちのめしたのである。「肝だめし」。
週刊誌の悩み相談室に寄せられた騒音を出す「困った隣人」についての悩み。ところが、当の隣人らしき人物が反論の悩みを週刊誌に送ってきた。「眠れない夜のために」。
連続幼女殺人事件の犯人Mが捕まってから15年。Mが捕まるきっかけとなった6歳の少女は既に女子大生となっていた。彼女のインタビュー記事が女性週刊誌に載ってから、不審な電話がかかるようになった。「Mの犯罪」。
同じ中学校の生徒におきた二つの事件。一つはいじめによる焼身自殺。そしてもう一つは、猟銃の誤射による事故死。しかし刑事たちは、二つの事件に疑問をいだいた。「誤解」。
中学の同窓会の後、4人は通っていた小学校で百物語を始めた。「鬼」。
私は殺人事件を目撃した。ナイフを持った彼女を私はよく知っていた。そして彼女も、私のことを知っていた。「目撃者」。
「小説新潮」「週刊小説」「オール讀物」「ミステリマガジン」に1993年~2000年に掲載された10編を収録。
過去10年間の作品を集めた、小技を利かした短編集。短編でも叙述トリックを使うその執念には恐れ入る。初期の作品は、結末が見えると読むのが辛くなるが、表題作などは、結末がわかっていてもその怖さに震えてくる。個人的には「真夏の誘拐者」がお薦め。★★★☆。
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