島田一男『捜査線ナンバーゼロ』(読売新聞社)

 




殊能将之『美濃牛』(講談社ノベルス)

「鬼の頭を切り落とし…」首なし死体に始まり、名門一族が次々と殺されていく。あたかも伝承されたわらべ唄の如く。―『ハサミ男』で鮮烈なデビューを遂げた著者の才能を余すところなく表出し、ミステリのあらゆる意匠が豊潤に埋め込まれたこの物語は、新たな探偵小説の地平を切り拓き、2000年ミステリ界の伝説となる。(粗筋紹介より引用)

 横溝+ギリシア神話アレンジのミステリとして、よくまとまった方だと思う。注目作家の第2作ということで肩に力が入りそうなところだが、ぬけぬけとした作風(どんな作風じゃ?)は健在。この人が書くと、蘊蓄も鼻につかないのは不思議。個人的には『ハサミ男』より上。




古処誠二『UNKNOWN』(講談社ノベルス)

 第14回メフィスト賞。ここのところ、当たりの少なかったメフィスト賞だが、殊能正之『ハサミ男』で挽回。期待したいところであるが、さて。
 受話器からノイズがかすかに聞こえる。受話器の裏蓋を開けると、盗聴器が仕掛けられていた。しかしその部屋は自衛隊警戒監視隊の隊長、犬山三佐の部屋。常に監視があり、三佐がいないときは常に鍵が掛けられている。いったい、誰が、どうやって仕掛けたのか。そしてその目的は。監視隊の野上三曹は、防衛部調査班二等空尉朝香仁とともに、捜査に臨む。

 謎は至ってシンプル。別に難しいトリックを使っているわけでもない。しかし、犯人を追いつめていく課程が実に良い。一つ一つ、疑問点を追い、あらゆる可能性を排除していく。「どうやって」の部分はやや反則という気もしないではないが、「誰が」という点では十分な本格。しかし、この小説の面白いところは「なぜ」の部分。自衛隊という部隊を十分に生かし切った設定、動機。そこが素晴らしい。自衛隊の描写がリアルなため、動機、そして謎の部分がより面白く、そしてミステリとしての深みが出ている。
 自衛隊という舞台を扱ったために成功したと言える作品。さて、第二作は何を持ってくるのか。せっかく、朝香仁という面白いキャラクターを作ったのだから、再び自衛隊を舞台にしたミステリを読んでみたいと思うのは私だけだろうか。ただ、作者の実力を計るためには、自衛隊という特殊な舞台を離れた作品を読んでみたい。




若竹七海『名探偵は密航中』(カッパノベルス)

 昭和5年7月、遊び好きの鈴木龍三郎は、株取引で一財産を築き、新聞社を経営する兄亥一郎の命により、横浜発ロンドン着の豪華客船箱根丸に乗り、旅行記を書くことになった。ところが、船出早々殺人事件の容疑者が乗り込んで大騒ぎに。さらに男爵令嬢の逃亡事件、船内殺人事件と猫の乗客、密航する名探偵、幽霊船など奇妙な事件が立て続けに起こる。

 若竹曰く、<オムニバス・昭和初期・船・トラベル・ミステリ>。事件続きではあるが、当時の船旅の様子が楽しく書かれており、自分も一緒に旅をしている気分になる。そう思わせるだけで、まずは一つ成功しているだろう。一つ一つの短編は面白いものの、謎としては弱いものもある。しかし、まとめて読むとそんな欠点が気にならなくなる。それぞれの短編が上手く絡み合うことにより、一層面白さが増してくる。若竹らしい、連作ならではの仕掛けもあり、まずは満足の一冊といえる。
 あえて苦言を言えば、「若竹らしい作品」の域で留まっていること。今回は昭和初期の船旅というアイテムを付け加えているものの、「らしさ」からは抜け出していない。そのため、残念ながら「佳作」以上の評価を挙げることが出来ない。このままでは、テクニシャンのままで終わってしまう。たまには、「らしさ」を飛び越えるような、超弩級のミステリを若竹七海に望みたい。それが出来るだけの実力を持っている作家だと思う。




米田淳一『リサイクルビン』(講談社ノベルス)

 警視庁捜査一課特殊犯捜査五係。立件困難なものや、迷宮入りした事件専門のこの部署を、人は「リサイクルビン」と呼ぶ。配属されたばかりの女刑事を待っていたのは、サラ金の無人契約室から女性が消えうせるという「密室誘拐事件」だった!この前代未聞の異常事件も、さらなる巨大犯罪の幕開けでしかなかった。(粗筋紹介より引用)

 立件困難なものや、迷宮入りした事件専門の部署という面白い設定にキャラクター。そして密室誘拐事件というとびっきりの謎に期待したのだが、話はどんどん意外な方向へ。これはこれで面白いけれど、やっぱり、期待した方向とは違いますね。
 うーん、こういう方向に流れるんだ。好き嫌いがはっきり分かれそうなストーリーだな。出だしの謎は、密室ものと言ってよいんだろうか?




南川周三『寒い夏の殺人』(宝文館出版)

 詩人で大学名誉教授の著者がおくる異色のサスペンス・ミステリー。高級クラブの会員が次々6人も殺されるが、動機がわからない、とはいえ、全然サスペンスも何もない。殺される側も全然警戒していない。動機も弱い。

 作者は詩人で大学名誉教授。しかも高級クラブのメンバーが次々六人も殺される。六人が殺される理由は、廻りの人たちはもちろん、当の殺されるメンバー自体がわからない、というミッシング・リンクもののサスペンス。
 新聞広告で見かけたのだが、この手の本は、とてつもない傑作か、とんだいっぱい食わせ物か、どちらかと相場が決まっている。残念ながらこの本は後者であった。
 彼らに共通するキーワードがあることはあるのだが、今ひとつ苦しい。しかも、動機がわかるのは最終章。本格ではなく、サスペンスに分類される小説だが、殺される方に全然恐怖感がないし、なぜ殺されるのかも最後まで思い浮かばない有様。これでは全然サスペンス感がない。ただ6つの殺人事件があり、最後になって犯人の正体が割れるだけの作品である。いったい何を書きたかったのか、理解に苦しむ作品である。
 一言でいえば、大学教授の道楽で書かれた作品といった程度。なんか身も蓋もない書き方だけど、これが正直な感想だから仕方がない。
 かつて、葉山君から「チャレンジャー」との異名を頂いたことがある。久々に本領を発揮したような気がする(笑)。




鯨統一郎『とんち探偵一休さん 金閣寺に密室』(ノン・ノベル)

 将軍職を義持に譲った後も実権を握り続けていた足利義満。義持の異母弟義嗣を帝位に就かせようと企み、もう少しで達成されようとしたとき、義満は死んだ。嵐のある日、金閣寺最上層の究竟頂で首吊り死体で発見された。しかも外からは襖が開かぬようにつっかい棒が施されており、すなわち密室であった。しかし、天下を握る義満が自殺するはずがない。ではいったい誰が犯人か。義嗣の依頼で、賢才の誉れ高い建仁寺の小坊主一休が、世阿弥、検使官蜷川新右衛門、少女茜とともに真相に迫る。

 一休という名前を使うのはともかく、蜷川新右衛門、茜などが出てくるのを見ると、アニメの一休さんが浮かんでくるのにはまいってしまった。もっとも、物語としては良くできていると思う。一休とんち話によく出てくる「このはしわたるべからず」「屏風の虎を捕まえろ」などのエピソードも、ただの飾りではなく、事件と関連を持たせてしまうその腕には感心した。義満、義持や周りを取り巻く武将などもうまく書かれている。室町時代を舞台としたミステリとして、記憶に残される一冊になった。
 ただ、肝心の密室の謎がもう一つ。かなり苦しいのではないだろうか。この密室さえ着地が決まれば、傑作になったと思う。その部分がちょっと残念である。
 それと関係ないが、帯の言葉は笑えます。




大崎善生『聖の青春』(講談社)

 若くして亡くなった天才棋士村山聖九段の生涯。色々な見方があると思うが、私が思うのは、彼がとても妬ましいことだ。自分の生き甲斐を見つけることが出来た彼はとても幸せだと思う。普通に生きるのがいちばん幸せだというが、生き甲斐を見つけられないまま生きるのも辛いことじゃないだろうか。これはいつか感想をきちっと書きたい本です。お薦めします。



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