若木未生『ヘヴンズ・クライン』(集英社 コバルト文庫)
ハイスクール・オーラバスターシリーズ最新刊。久々に、日常系のんびり編。いやー、こういうのが嬉しいわ。しかーし、愛する神原さんが出ていないではないか。許せない!
小森収編『ミステリよりおもしろい ベスト・ミステリ論18』(宝島社新書)
ミステリより面白いかどうかはともかく、こういう企画自体は嬉しい。個人的には、坂口安吾の評論が一番参考になった。これで、ミステリ論の元本を読もうという読者が増えれば、結構な話。こういう企画をやるのなら、「クリスティー論」「乱歩論」「横溝論」など、作者別に集めれば、色々と比較できて楽しいのに。そういう意味で、『レイモンド・チャンドラー読本』(早川書房)に入っている船戸与一のエッセイは楽しかったな。
評論は、「対象となるミステリを読んでいないと面白くない」評論と、「対象となるミステリを読んでいなくても面白い」評論に分かれる。個人的には後者がベストだと思う。ただ前者の場合、「そのミステリを読んでいながらも、気付かなかった発見」がある可能性が高い。評論家は、どちらにポイントを置いて評論を書くのだろうか。これは読書の感想にも通じますね。難しい問題です。
この本を読んで、気になったことが一つあったのだが、それについてはいずれ別の稿でまとめてみようと思う。というか、以前からの宿題の一つなのだが。
香山二三郎『日本ミステリー最前線 2』(双葉文庫)
「小説推理」誌連載中の日本ミステリー時評「国内 今月のベストミステリー」の1989年1月号~1994年12月号をまとめたもの。
この頃になると、ミステリの新刊をこまめにチェックしていたせいか、「全然知らないよー」的作品はほとんどない。それでも、石田一正『極秘・終生免疫計画』(講談社)は初めて聞いた。こういう作品が書評として残ることに、この本の意義があるといってよいだろう。
今回も数えてみました。ベストに挙がった72作品中、既読は30作。持っていて読んでないのが11作。こう見ると、自分の読書傾向はやっぱり偏っているのかな。それともまだまだ勉強不足かな。
7
香山二三郎『日本ミステリー最前線 1』(双葉文庫)
「小説推理」誌連載中の日本ミステリー時評「国内 今月のベストミステリー」の1983年5月号~1988年12月号をまとめたもの。月刊時評では、年間時評では埋もれがちな作品も取り上げることが多いから、こういう時評がまとまって読めるのは、とても嬉しいことである。
積極的に新刊を読むようになったのは、1990年頃からだった。それまでは、古典と呼ばれる作品、そしてガイドブックや推理クイズに載っている本を中心に読んでいた。週刊文春が年末にミステリーベスト10を行っているということを知ったのも、たまたま「史上最大のアンケート ミステリーベスト100」が、週刊文春の新聞広告に載っていたのを見つけてからだった。
余談になるが、これはいまだにコピーを持っている。郷原宏、権田萬治、瀬戸川猛資、内藤陳の座談会は、とても勉強になった。これを読むまでは、海外の冒険小説にはほとんど手を付けていなかったし、敬遠していたロス・マクドナルドが本格としても面白いという発見もなかっただろう。しかし、チャンドラーの良さというものは、いまだに分からない。
かなり話がそれたが、自分にとって鬼門は1980年代の作品である。実際に統計を取ってみたわけではないので自信はないが、読んだ数が一番少ないと思う。1980年代のミステリを再確認するという意味で、非常に勉強になった。ちなみにベストに挙がった68作品中、読んだのはたったの23冊。ハードボイルド、冒険小説系を敬遠している私の読書傾向がはっきりと出ている。このあたりは、少し補完しなければいけない。
関口苑生『江戸川乱歩賞と日本のミステリー』(マガジンハウス)
噂には聞いていたけれど、凄いわ、これ。江戸川乱歩賞を通して、日本ミステリの流れがきめ細やかに書かれていて、とても勉強になる。多種多方面からの引用も適切。おまけに江戸川乱歩賞受賞作の評価も、好みに偏ることなく(『テロリストのパラソル』は褒めすぎのような気も。好きだけどね)評価しており、安心できる。それぞれの選評、予選委員担当としての裏話も面白い。できれば山村美沙、夏樹静子、折原一などの最終候補作にもう少し言及してほしかった気もしたが、限られた枚数の中では仕方のないことだろう。
昭和三十年代の社会派〈推理小説〉から、現代の多様化したミステリまでを勉強するには、最適の一冊。初心者から、マニアまで、是非とも読んでみて下さい。来年度の、日本推理作家協会賞評論・その他部門賞最有力候補。と言いたいけれど、協会賞って度量狭そうだから、どうかなあ?
泡坂妻夫『奇術探偵 曾我佳城全集』(講談社)
魔術城完成そして明かされる曾我佳城の秘密。伝説の女流奇術師・曾我佳城の凄艶に冴える奇跡的推理。奇術&トリックの名手が、20年の時をかけて結実させた珠玉短編の完全版。(粗筋紹介より引用)
「天井のとらんぷ」「シンブルの味」「空中朝顔」「白いハンカチーフ」「バースディロープ」「ビルチューブ」「消える銃弾」「カップと玉」「石になった人形」「七羽の銀鳩」「剣の舞」「虚像実像」「花火と銃声」「ジグザグ」「だるまさんがころした」「ミダス王の奇跡」「浮気な鍵」「真珠夫人」「とらんぷの歌」「百魔術」「おしゃべり鏡」「魔術城落成」の22編を収録。
1980年に「天井のとらんぷ」が発表されてから20年。曾我佳城シリーズ全編収録、完結。
一日一編のつもりが、二編、三編……、その面白さでついぐんぐん読んでしまった。これだけまとめて読むと壮観。改めて、泡坂妻夫の凄さが分かります。奇術の楽しさ、推理の楽しさ、小説の楽しさを味わえます。また、あとがきが洒落ているなあ。久々に「まあ、何も言わず、まずは一編読んでみなよ、そうしたら、すぐに引き込まれるからさ」と言える1冊。20年かけて、よくぞ、完結してくれました。有り難うございます。★★★★★。
『二階堂黎人が選ぶ! 手塚治虫ミステリー傑作集』(ちくま文庫)
初期の貸本漫画時代から晩年の作品まで、幅広い作品のセレクトは、さすが元手塚治虫ファンクラブ会長二階堂黎人ならでは。「カーテンは今夜も青い」「ケン1探偵長」「少年探偵・ロックホーム」「スリル博士」「週間探偵登場」「刑事もどき」「ブラック・ジャック」「鉄腕アトム」「三つ目がとおる」あたりは、予想通りのセレクトだが、「一族参上」あたりは意外。大人物だったら、「最上殿始末」の方がよっぽどミステリ味が強いと思う。また、「探偵ブンチャン」「Qちゃんの捕物帳」などの単行本初収録作品は、とても嬉しい。解説にも出ている「双生児殺人事件」はやっぱり収録は無理だったか。残念。確か、今では表現してはいけないネタ(身体障害者)を使っているはずなので、仕方のないことだろう。個人的には、帯マンガ版『ケン1探偵長』を収録してもらいたかった。トリックも出てくるし、ショートミステリとして綺麗に仕上がった作品である。
横溝正史『喘ぎ泣く死美人』(カドカワエンタテインメント)
横溝ファン必読の一冊!!これまで掲載不明だった作品の「河獺」。当時の交友関係をベースにした物語の「素敵なステッキの話」。外国を舞台とした怪奇小説の「夜読むべからず」と「喘ぎ泣く死美人」。殺人妄想に取りつかれた女性を主人公とする「憑かれた女」。疎開していた作者が、元刑事から探偵談を聞くというスタイルをとっている異色の作品の「絵馬」など、一挙16作品を収録。(粗筋紹介より引用)
「河獺」「艶書御要心」「素敵なステッキの話」「夜読むべからず」「喘ぎ泣く死美人」「憑かれた女」「桜草の鉢」「嘘」「霧の夜の放送」「首吊り三代記」「相対性令嬢」「ねえ!泊まってらっしゃいよ」「悧口」の16編を収録。
ショートショートを含む未収録作品他全16編を収録。これは資料として読む本という気もするが、読んでいて退屈はしない。横溝の色々な面が見られるのは楽しいが、やはり横溝ファン向けの作品集。とはいえ、売れるようならまだまだ未収録短編集が続くはずなので、できるだけみんな買って(笑)。
西澤保彦『依存』(幻冬舎)
今回は、ウサコの視点から二つの物語が流れる。一つは、ウサコの同級生、ルルちゃんこと、木下瑠留のお誕生会までの三日間の物語。そしてもう一つは、お誕生会を行った白井教授での早朝のタックとタカチの話。盗み聞きして聞こえてくる衝撃の告白。「美也子さん(白井教授の再婚相手)はぼくの母だ。そしてぼくには双子の兄がいた。美也子さんが殺したんだ」
面白くて、というより、早く先を知りたくて一気読みをした。なんと表現したらよいかわからない。お誕生会までの物語に、日常の謎が出てくるが、「謎」というにはあまりにも小さい。「謎」はもはや脇役ではない。ここで語られるのは、タックとタカチの絆。ボアン先輩の大きさ。そして、ウサコがひとつ大人になること。「本格推理」の薄い衣に包まれた、愛の物語なのだ。この小説では、様々な愛の形が描かれる。たとえそれが一方的な「愛」でも。あまりにも闇は深く、そして、救いの手はきっとどこかにある。
元々は脳天気な集団だと思っていたら、どんどん人間的に深く重いシリーズになっていったが、こういうのも悪くはない。私は支持します。
【元に戻る】