愛川晶『根津愛(代理)探偵事務所』(原書房)

 美少女代理探偵根津愛が活躍する犯人当て推理小説集。「創元推理」に掲載された「カレーライスは知っていた」「だって、冷え性なんだモン!」の他、「スケートおじさん」「コロッケの密室」「死への密室」の5編を収録。
 『夜宴』の時にも書いたが、美少女探偵というキャラクターを生み出したのは大きい。この設定だけで固定ファンが付くだろう。もちろん、それなりの内容が伴えばだが。謎解きの内容も、日常の謎から本格的な密室までと幅広く、ただのキャラクター小説ではない、本格推理小説に仕上がっている。個人的には大がかりなバカトリックを使用している「死への密室」が好み。




菊田幸一『死刑 その虚構と不条理』(三一書房)

 再読本。死刑廃止論の第一人者、菊田幸一の死刑廃止論を纏めたもの。大学時代に読んだから10年ぶりくらいか。改めて読んでみて、死刑という行為に対しての攻撃は出来ても、廃止論に対する積極的な論理がほとんど語られていないことに驚く。やれ廃止せよと訴えても、代案がないようでは誰も納得は出来ない。




小野不由美『黒祠の島』(祥伝社ノン・ノベル)

 その島は風車と風鈴に溢れ、余所者には誰も本当のことを話さなかった―作家葛木志保が自宅の鍵を預け失踪した。パートナーの式部剛は、過去を切り捨てたような彼女の履歴を辿り、「夜叉島」という名前に行き着いた。だが、島は明治以来の国家神道から外れた「黒祠の島」だった…。そして、嵐の夜、神社の樹に逆さ磔にされた全裸女性死体が発見されていた…。島民の白い眼と非協力の下、浮上する因習に満ちた孤島連続殺人の真相とは? 実力派が満を持して放つ初の本格推理。(粗筋紹介より引用)

 うーん、これのどこが本格推理小説なのだろう? 確かに連続殺人事件を取り扱っているし、謎も推理も存在する。ただ、それだけで本格推理小説といってしまっていいのか? 少なくとも『獄門島』『十角館の殺人』とは別系列の作品である。
 全てのデータを提示していないのはまだしも、解決につながるデータが提示されていない作品を本格推理小説と呼んでしまっていいのか、私は疑問だ。
 私がジャンルわけするならば、これは本格ミステリの手法を利用したサスペンス作品なんだと思う。ついでに書けば、私はこの作品が全く面白くなかったというだけのことだ。たぶん、サスペンス作品としては良質なのだろう。だが読んでいて退屈で、苦痛だった。この人のテンポがどうも肌に合わないらしい。だから、今書いていることも、割り引いて考えてもらえれば、それでいいと思う。




河口俊彦『新対局日誌第1集 二人の天才棋士』(河出書房新社)

 将棋棋士の実際を映し出すライフワーク1986年度版。ちょうどこの年、羽生善治、村山聖がプロ棋士としてデビューしていた。そう考えると、もう15年も経ったのかと驚いてしまう。
 「対局日誌」は最初の頃から読み続けているが、年々面白いエピソードを持つ棋士が減っている感がある。もちろん今の棋士に人間味がないというわけではないのだが、当時の棋士には野武士というかそういう破天荒なところがあった。それがまた魅力の一つでもあったわけだ。そういう棋士が減っているのは少々寂しい。将棋の方でも、奇跡的な大逆転とかがなくなった。佐藤大五郎八段vs真部一男七段(どちらも当時の段位)など、1分将棋の中の鬼気迫る詰め手順など、見られないものか。




青井夏海『スタジアム虹の事件簿』(創元推理文庫)

いつも優雅なドレスに身を包み、綺麗な靴を履いて観客席に現れるおっとりした女性・虹森多佳子。超弩級の野球音痴でありながら、なぜかプロ野球球団のオーナーを務める彼女は、奇妙な謎を次々と解決に導く才能も持ち合わせていた! 安楽椅子探偵の冴え渡る推理と、優勝の夢に向かって走り始めた万年最下位球団の奮闘を描く本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)
「幻の虹」「見えない虹」「破れた虹」「騒々しい虹」「ダイヤモンドにかかる虹」の5編を収録。

 小説の根っ子にある暖かさに、心地よく浸ることが出来る連作短編集。ミステリとして考えると、推理の展開が一方的で、強引に見える部分が気がかり(まあ、大抵のミステリはそうなのだが)。とはいえ、野球と事件をうまく絡める方法はなかなかの出来。自費出版からメジャーに昇格したが、これだったら次作も期待できる。



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