森村誠一『新幹線殺人事件』(角川文庫)

 その日、ひかり六十六号のグリーン車は空いていた。列車が終着駅東京に近づいた時、突然男の刺殺体が…。事件の背後に万国博の巨大な利権をめぐる二大芸能プロの暗躍があった。(粗筋紹介より引用)

 推理クイズでよく使われている某トリックを確認するために再読……のはずだが、覚えている犯人が違う。なぜだ。探偵役は確かに警察だけど、本格ミステリファンなら読んでほしい1冊。




佐木隆三『人生漂泊(さすらい)』(潮文庫)

 行動する作家の眼は一瞬にして情況を把握してしまう。そこには怒りと悲しみの皮膚が凍りつき、あるいはやさしい愛の感情が広がる。(表表紙より引用)
 ノンフィクション・ノベルの第一人者が、日常、取材などのことを書いたエッセイ集。潮文庫から、1984年10月に発行されている。

 佐木隆三という作家の日常や取材についてなどを書いたエッセイである。この手のエッセイには、作家の考え方が垣間見られるので、興味深い。とはいえ、それ以上のものがないので、読んでしまえばそれっきりでもある。
 犯罪実録などを追いかけている身にとっては、ちょっと興味を引いたのは「小説という犯罪について」である。『復讐するは我にあり』の取材で、主人公である元死刑囚の父親を探し当て、行ったはいいが、会った瞬間に逃げ出したというものである。わかるなあ、という気がした。




田村隆一『殺人は面白い《僕のミステリ・マップ》』(徳間文庫)

 詩人で翻訳家の作者が、ユーモア溢れる文章で書いたミステリ論。「第三章 ぼくの好きな料理」では海外の著名作家を評しているが、やはり「第一章 ぼくとミステリ」が面白い。翻訳ミステリ創世記に立ち会ってきた作者ならではの思い出話に思わず笑い、そして感心してしまう。ウィット溢れる文章に酔いしれる一冊。




早川書房編集部編『海外ミステリ・ベスト100―ハヤカワ文庫名作ガイド』(早川ミステリ文庫)

 この手のガイド本は、自分がどういう本を読んできたか、そしてどういうストーリーだったかを思い出すのにちょうど手頃なのである。ハヤカワ文庫に限定されているため、自分が余り知らなかった作品が紹介されているというのは嬉しい。海外ミステリをどこから手を付けたらよいか、という時に最適である。何も一番最初から読む必要はない。ここに収録されている100冊のどこからでも読み始めればよい。




亀井トム『狭山事件』(辺境社)

 頂き本である。貴重な本を有り難うございます、I様。戦後犯罪史上、もっともミステリーな犯罪である狭山事件の真実に迫った本。狭山事件は、単なる女子高生誘拐強姦殺人事件として被差別部落のI被告が一審死刑、二審で無期懲役、最高裁で決定した事件である。しかし、それだけでは語れないほど謎が多すぎる。事件関係者は次々謎の死を遂げている。身代金引き渡しの際に犯人が現れながら、犯人を逃すという大失態を警察は犯す。I被告を犯人とするにはあまりにも貧弱で、矛盾だらけの証拠。冤罪は明らかでありながらも、警察、検察、裁判所一体となってI被告を刑務所の中に入れてしまったのである。本書は、高裁審理中に出版された一冊。残された証拠からI被告の無罪を訴え、さらに事件は単なる誘拐強姦殺人事件ではなく、家の騒動が絡んだ複雑な事件であり、真犯人は複数であることを訴えている。
 狭山事件が冤罪であることを訴えた本は数多いが、その中でもこの本はかなり真相に迫っているのではないだろうか。残された証拠から、科学だけではなく、民俗学的にも深く追求している。



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