折原一『倒錯の帰結』(講談社)

 中堅作家山本安雄が、同じアパートに住む清水真弓に誘われて出かけたのが、日本海に浮かぶ海釣島。過去の事件から、首吊り島と呼ばれている。島の網元である新実家には、湾内にある浮身堂で行者が首を吊ったり溺死したり餓死したりという事件が過去があった。そして現代、跡継ぎが首を吊って死にかけ、当主も同じように首を吊って死んだ。いずれも密室の中での出来事であり、自殺としか思えない状況だが、もしかしたら他殺ではないのか。山本は新実家の未亡人から事件の謎を解くよう求められた。そしてまた長女が浮身堂で矢を射られて死亡し、三女もまた溺死する……。「首吊り島」
 中堅作家山本安雄は、203号室に住む自分のアパートの階段から転落し、気を失った。目を覚ましたとき、彼は102号室に監禁されていた。手錠と足かせをかけられて。彼を監禁した太った女性は、世界の名作に匹敵するような密室殺人ものの推理小説を書けと命令する。「監禁者」
 前代未聞、前からも後ろからも読める本。そして二つの物語を結ぶのは、真ん中で袋とじになった「倒錯の帰結」。『倒錯のロンド』『倒錯の死角』に続く「倒錯シリーズ」待望の完結編。

 長~く待たされた「倒錯シリーズ」。「首吊り島」は横溝テイスト満載の孤島もの。しかも連続密室殺人事件。 「監禁者」は『ミザリー』折原バージョン。しかしどちらにも、どこかで見た名前の登場人物、さらにどこかで聞いたような名前のアパートが出てくる。もちろんこれは、『倒錯のロンド』『倒錯の死角』の登場人物たちであり、舞台である。だけど、しばらくぶりの「倒錯シリーズ」なので、前作とのリンクが今一つ活かされていない。立て続けに出していたのなら、もう少し驚きが増していたかもしれないと思うと、非常に残念である。
 この作品の欠点は、個々の作品である「首吊り島」「監禁者」の設定がとても面白いのに、肝心の「倒錯の帰結」が今一つだったという点に尽きる。この結末には笑えてしまうが、それ以上の衝撃はない。いわば、肩すかしというか、楽屋落ちというか。こんなことなら、それぞれの作品を単独で仕上げてほしかった。特に「首吊り島」は勿体ない。前半のテイストでそのまま仕上がったとしたら、横溝正史の一連の作品に負けなかったのではないだろうか。
 結局この作品、前作との間が空きすぎたことが問題だったのだろう。では立て続けに読んだとしたら、もう少し評価がよかっただろうか。うーん、そうとも思えない。作品の構成に、物語の面白さがついていかなかった失敗作。そんな評価で終わってしまう。
 折原一は構成に凝りすぎるため、かえって面白さをなくしてしまっている。しかし構成をわかりやするすると「単純すぎる」という評価になる。難しい位置にいるんじゃないだろうか。




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