加賀美雅之『監獄島』上下(光文社 カッパ・ノベルス)

 南フランス、マルセイユの沖合約20kmの洋上に浮かぶ孤島、サン・タントワーヌ島。かつて城塞が作られていたこの島は、17世紀初頭から流刑地として使用されていた。そして1927年の現在でも、タントワーヌ刑務所には終身刑を含む長期刑の服役者が約50人収監されていた。小規模な炭坑があったが現在ではほとんど掘り尽くされ、しかも老朽化が激しい。すでに刑務所も閉鎖が検討されていたが、警視総監イーグルロッシュ伯爵の元に、刑務所内で大掛かりな陰謀が進行しているとの内部告発文書が届いた。刑務所には、かつてシャルル・ベントランが捕らえた国際的犯罪者アレクセイ・ボールドウィンが終身刑の囚人として収監されている。ベルトランはイーグルロッシュ、そして助手であるパトリック・スミスとともに刑務所へ訪れる。折りしもイギリスからはロンドン警視庁副総監ジョン・カーターボーン卿、そして二人の民間人が学術調査のために訪れることになっていた。
 調査を始めたベントランは、ボールドウィンと再会する。しかしボールドウィンは予言する。今夜、何かが起きると。その予言通り、ボールドウィンは脱獄、そして看守長が密室の中で死体となって発見された。その世から立て続けに起きる殺人事件。炎の絞首台、懲罰房内部でのバラバラ殺人、密室での絞殺、雨中の人間松明、ギロチンによる胴体切断。そしてベルトランまでもが凶弾に倒れた。閉じられた島における連続殺人の謎を解くのは誰か。そして事件の裏に隠された陰謀とは。
 『双月城の惨劇』で「KAPPA-ONE」からデビューした著者のベルトランもの長編第二作。

 2400枚、上下二巻と圧倒される分量だが、中身もこれまたすごい。刑務所のある閉じられた孤島における連続殺人事件。しかもそのいずれの事件もが、不可能状況下における犯行である。よくぞこれだけ考えついたものだと感心する。
 時代がかった台詞や物語の展開も、1927年という時代設定においてはかえってピッタリとはまるから不思議だ(逆に言えば、昭和30年以降の舞台でこんな時代がかった文体で書かれるとピンと来ないものがある)。これだけのスケールの大きい本格ミステリなら、そして舞台設定や一つ一つの事件背景を丁寧に書けば、これだけの分量が必要だろう。似たような展開が続くので途中だれる部分がないでもないが、それでも長さを感じさせない迫力は十分にある。
 丁寧に書きすぎた分、犯行方法は完全に解明できないまでも、誰が犯人かはだいたい予想つくだろう。不自然に思われる行動、描写までもきっちりと書いているので、その辺はかえって推理しやすい。ただ、事件の全貌や裏に隠された陰謀までもを推理することはほぼ不可能。辻褄こそ合っているが、ベルトランがどうやって推理することができたのだろうと不思議に思えてしまう。まあ、その辺は本格ミステリが持ち合わせる宿命だろうし、別に傷となっているわけではない。
 この作品は今年度の収穫となる本格ミステリの傑作か。そういう評があっても不思議ではないが、私はそこまでの作品とは思えなかった。いや、今年度のベスト10に挙げるには十分な出来だと思うが、それでも傑作という言葉を掲げるのはちょっと躊躇われる。本格ミステリという予定調和の世界から、一歩も足を踏み出していない作品という印象を受けるのだ。先人たちが一つ一つ築き上げてきた世界観のなかで、庇護されたまま育っただけの作品ではないだろうか。本格ミステリという一定の型式を守ることは大事だと思うし、そうあるべきだとは思うのだが、それでも突き抜けるものがほしいと思うのは欲張りだろうか。
 これだけの作品を作り上げる実力があるのだから、次は一歩踏み出した作品を読んでみたいと思う。偏屈な読者の我が儘かもしれないのだが。




若木未生『ハイスクール・オーラバスター オメガの空葬』(集英社 コバルト文庫)

 ええと何年ぶりだ、オーラバの新刊は。人物紹介に私の愛する神原亜衣ちゃんが載っていないのは淋しい。いつまでたっても高河ゆんのイラストには慣れないな。私にとってオーラバは、やはり杜真琴なのだよ。
 今回は里見十九郎の物語。幻将皓との最後の闘い。第二作『セイレーンの聖母』からの因縁に決着がつく……って、次巻に続くやん。相変わらず引っ張るなあ。どういうわけか亮介、諒、冴子、亜衣ちゃん(ここらあたりが偏愛だ)は修学旅行。相変わらず亮介と亜衣ちゃんはいちゃいちゃと最強カップルぶりを発揮しているし。いいねえ、このあたりが。この二人の普段の生活をもっと書いてほしいと思うね。同人誌ばかりでなく、ちゃんと本編で。二人は本当に箱根に行ったのだろうか(ああ、下世話)。
 ちなみに今回の物語の終焉とともに、オーラバ第二部が終了。第三部は亮介たちが高校三年生になっているとのこと。となると十九郎は大学生か。それとも別の存在になっているのかな。
 ということで、感想というよりは妄想に近い文章でした。



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