夏樹静子『Cの悲劇』(角川文庫)

 結婚十周年をむかえた芦田和賢と千巻。夫は在宅勤務を認められたコンピュータのシステム・エンジニア、妻はテニスのコーチ。子供をもつことはできなかったが、二人は東京郊外の閑静な住宅街に一戸建をもち、何の不自由もない優雅な生活を送っていた。千巻は、この満ち足りた生活が壊れてしまうことなど想像もしていない。しかし、隣りに一人の男が越して来たときから、二人の日常を破壊していく悲劇がはじまった…。(粗筋紹介より引用)
 1989年、光文社より出版された作品の文庫化。

 CはコンピュータのCか。それとも千巻のCか。コンピュータ関連の話はさすがに古いなと思わせるが、描かれた時代が15年以上も前だから仕方がないか。違和感はあるものの、苦痛と思わせるほどではないのは筆力だろう。その時代の最先端のものを題材として取り扱うと、こういう違和感は避けられない。
 名作『Wの悲劇』は優れた本格ミステリだったが、本作は男女の仲を核に置いたラブ・サスペンス。夏樹静子、お得意の路線。手際よくまとめられているし、最後はちょっと驚いた。まあ、よくよく考えてみると、この結末しか有り得ないのだが、気付かなかったのは少々不覚。
 それなりに考えられて作られているけれど、今読んだら古くさいと評されるのは仕方のないところ。2時間ドラマ小説と呼ばれても仕方がないだろうな。




はやみねかおる『笛吹き男とサクセス塾の秘密』(講談社 青い鳥文庫)

 怪人笛吹き男vs.夢水清志郎 世紀の対決!!
夕暮れの街で、1つの都市伝説がささやかれる。笛吹き男が、子どもたちを夢の国へ連れていってくれる、と。うわさの中心は、かならず成績が上がるという評判のサクセス塾だった。夢水は、岩崎3姉妹らと、サクセス塾の合宿に潜入。すると、笛吹き男は、生徒130人を消してみせる、と予告してきた! 夢水は、笛吹き男を止めることができるのか? シリーズ10周年を飾る、第12作! (粗筋紹介より引用)

 名探偵夢水清志郎事件ノート最新作は、受験シーズンに合わせたかのように塾が舞台となっている。ミステリ的な小ネタも少なく、笛吹き男の謎やサクセス塾の秘密も、ほとんどの人なら簡単に解いてしまうだろう。せめてお釣りの問題はオリジナルを作ってほしかったな。
ただ、今回はミステリとしてよりも、メッセージ色の方が強いので、先に挙げた不満部分はそれほど気にならない。塾については、色々と考えることがあったんだろうなと思う。
シリーズものとしてはそこそこ楽しめるだろう……程度かな。




貫井徳郎『追憶のかけら』(実業之日本社)

 最愛の妻を亡くした大学講師。失意の底にある彼の許に持ち込まれた、戦後間もなく自殺した作家の未発表手記。そこに秘められた「謎」とは。二転三転する物語は、感動の結末へ。若い世代を中心に、今最も注目されている著者が満を持して贈る、渾身のミステリー巨編。『ジェイ・ノベル』連載を単行本化。(粗筋紹介より引用)

 年末に読み終えていたのだが、気になるところがあったので時間を空けて結末を読み返してみた。なるほど、疑問に思ったところはクリアされているんだな。ただ、動機がちょっと中途半端な気がする。やるならもっと徹底してもいいところだろうに。
 嫌な読み方をしてしまったので楽しめなかった。作家の手記が途中で挟まれているが、どうせどこかに仕掛けがあるんだろうと、間違い探しの目で読んでしまった。これでは物語に集中することができない。作者に申し訳ないことをしてしまった。
 きちんと計算された、ヒューマンドラマの仕上がり。美しい夫婦愛・家族愛を描いた作品だろう。惜しい点は、主人公が魅力的な人物に全く見えないところか。いくら一人称とはいえ、もう少しよい書き方があったのではないだろうか。
 ただ、これをミステリとして読むと弱いだろうね。普通小説に近い仕上がりのせいで、年末のミステリランキングでは予想以上に低い位置に留まったのだと思う。



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