パトリシア・ハイスミス『ふくろうの叫び』(河出文庫)

 結婚に失敗し、精神的に疲れていたロバート・フォレスターに取って、幸せそうに生活する女性ジェニファーの姿をこっそり眺めることが、唯一のやすらぎだった。ある夜、ついに見つかってしまった彼を、意外にもジェニファーは暖かく迎え入れてくれる。その上、彼の孤独感に共鳴し、出会いを運命的なものと感じた彼女は恋人グレッグの婚約を破棄してしまった。嫉妬と復讐にかられたグレッグは、ロバートを執拗にねらうが……
 ハイスミス中期の代表作、待望の翻訳。(粗筋紹介より引用)
 1962年にイギリスのハイネマン社から刊行。1991年翻訳。

 ハイスミスの代表作という謳い文句だが、読み終わってなるほどと思った。確かにハイスミスらしい嫌らしさと薄気味悪さが漂う作品。主要登場人物のいずれもが壊れている。ロバートは人間嫌いで据え膳食おうとしないし(これは違うか)、ジェニファーはストーカーに惚れて家まで押し掛けるし、グレッグはあきらめの悪いストーカー。しかしこの作品でもっとも壊れていると思う人間は、ロバートの前妻ニッキー。実力がなくれ売れない画家なのに野心ばかり強く、いじめ抜いて別れたはずのロバートにもいまだに嫌がらせをするという、不幸をまき散らす要因を全て持ち合わせた人物。いずれにしても、壊れた人物ばかりがそろうんだから、悲劇が起きないはずがない。独白にしろ、会話にしろ、行動にしろ、いらいらすること間違いなし。まあ、気になっちゃって先を読むんだけど……。
 まずいお菓子だけど一度口にしたら止められない、そんな作品だね。いや、作品そのものの出来はいいと思うんだが、気分が悪くなりたい人向けの作品としか言い様がない。



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