エド・マクベイン『クレアが死んでいる』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 平穏な十月の夕暮れどき――87分署の刑事部屋は和やかな雰囲気につつまれていた。クリングと恋人クレアの仲睦まじい電話でのやりとり。からかう同僚たちに閉口しながらも、クリングは喜びを隠しきれないでいた……事件が発生したのはそれから20分後だった。カルヴァー街の本屋で暴漢が拳銃を乱射したのだ。ただちにキャレラとクリングは現場に向った。血にまみれた三人の男たち。そして、クリングの目は第四の被害者のうえに釘づけになった……クレアが死んでいる! 復讐の念に燃えた刑事たちの執拗な捜査活動をリアルな筆致で描く渾身の作。(粗筋紹介より引用)
 1961年発表、87分署シリーズ第14作。1962年翻訳、1978年文庫化。

 第二作『通り魔』で登場したバート・クリングの恋人、クレア・タウンゼンドが殺害されるというショッキングなスタートで始まる本作品。作者はこのシリーズの主人公は87分署の集団そのものであると考えており、元々『麻薬密売人』でスティーヴ・キャレラを死なす予定だったが、編集者との押し問答の末にストーリーを変えてしまった過去を持つ。そこで「キャレラをヒーローということができても、クレアがヒロインであると私を説得することはできないでしょう」ということで、クレアが死ぬストーリーを作ったという。ファンとしては迷惑な話だろうが、現実に有り得ることとして作者が書いたのだから仕方がない。
 どうしても私情を挟むことになるのだから、恋人の殺害事件の捜査にたずさわることができるのだろうか、という疑問は多々あるのだが、クレアが隠していた秘密が明かされる過程も含め、スピーディーな展開は相変わらず。それにしても、事件の解決の虚しさって言ったらありゃしない。なんなんですか、この動機は、と言いたくなるぐらい。あまり後味の良い作品ではないが、これも警察小説を扱ううえでのシリーズの一コマなのだろう。
 この後、クリングはこれでもかというぐらい不幸な遍歴をたどるものの、『命果てるまで』でようやく結婚することになるそうだ。



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