笹本稜平『所轄魂』(徳間書店)

 葛木邦彦警部補はかつて警視庁捜査一課の刑事だったが、2年前に妻を亡くしたことがきっかけで異動願を提出し、現在は城東署組織犯罪対策課の係長を務めている。息子で26歳の俊史は、国家公務員試験一種に合格した後警察庁に入り、現在は警視庁捜査一課のキャリア監察官である。
 城東署管内で殺人事件が発生。城東署に捜査本部が置かれ、警視庁からは捜査十三係が派遣されてきた。係長である山岡宗男は強引な捜査が多く、帳場壊しとして知られている。そして監察官として、現場が初めてである俊史が着任した。
 犯人逮捕・事件解決という目的こそ同じだが、捜査方針を巡って穏健派の葛木親子と、強硬派の山岡が対立。しかも続けて被害者が出る連続殺人事件となり、ぶつかり合いは激しくなるばかり。果たして、事件は無事に解決できるのか。

 笹本お得意の警察ものだが、今回は所轄と本庁との対立というテーマをストレートに打ち出してきた。そこに、所轄へ自ら移動した父親と、父を目標に警察官に、そしてキャリアとなった息子という親子の絆、想いが絡まり合う。
 所轄と本庁の対立がテーマとなると、どちらかが完全な悪役になりそうなものだが、本作では犯人に対するアプローチこそ異なるものの、「卑劣な犯人を捕まえる」という方向性では一致しており、単純な対立ものとは一線を画している。また悪役になりやすいキャリアである俊史も、互いの立場を上手く拾いながら捜査を進めており、好感が持てる。何よりも、邦彦と俊史を対峙させたときの描写が上手い。父を尊敬する息子と、息子の成長に目を細める父。そして仕事にプライドを持つ親子の会話は、こういう理想的な関係を築き上げたいと思わせるものである。
 葛木親子や山岡ばかりに目を捕らわれがちであるが、事件の謎についてもなかなか考えられている。いったい犯人は誰なのか、目が離せない展開が続く。結末へのたたき込みは、今までの笹本作品に見られたような忙しなさがなく、解決後の余韻も含めて見事な仕上がりとなっている。笹本にしては、会心の出来上がりではないだろうか。  ここのところシリーズものの警察小説が多かった笹本であるが、話は面白いもののもう一つ何かが足りないような作品が続いていた。しかし本作品では、そのような不満をぶちこわしてくれた。もっと話題に上がってもいい作品と思う。



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