高田郁『美雪晴れ―みをつくし料理帖』(ハルキ時代小説文庫)
悲しい出来事が続いた「つる家」にとってそれは、漸く訪れた幸せの兆しだった。しかし芳は、なかなか承諾の返事を出来ずにいた。どうやら一人息子の佐兵衛の許しを得てからと、気持ちを固めているらしい―。一方で澪も、幼馴染みのあさひ太夫こと野江の身請けについて、また料理人としての自らの行く末について、懊悩する日々を送っていた……。いよいよ佳境を迎える「みをつくし料理帖」シリーズ。幸せの種を蒔く、第九弾。(粗筋紹介より引用)
2014年2月刊行。
名料理屋「一柳」の主・柳吾から求婚された芳だが、息子・佐兵衛の許しを得てからと承諾の返事を出せずにいた芳。そして文を見た佐兵衛が妻と娘を連れてつる家に現れた。嫁ぐことを決めた芳の代わりに、柳吾はつる家の奉公人にお臼という女性を紹介した。一方、澪は蒲鉾作りに挑んでいたが、思うように行かず悩んでいた。「神帰月 味わい焼き蒲鉾」。
料理番付が売り出される師走朔日。今年は無理だろうと皆思っていたが、つる家は関脇に返り咲いていた。料理は又次の供養として三日精進の時に出した「面影膳」。番付を見た客は料理を出せと騒ぐが、澪の心を酌んだ種市は、三日精進以外には出さないと決めた。そんなつる家を褒めた柳吾は、澪に一柳で修行しないかと誘いを掛けるが、野江を自らの手で身請けするという思いを抱いていた澪は断る。「美雪晴れ 立春大吉もち」。
柳吾が連れてきたつる家の後任の料理人は、澪が小松原の所へ嫁ぐはずだった時に来る予定だった政吉だった。しかも政吉はお臼の夫だった。澪は一柳とつる家の宴における料理を通し、自らの進むべき道に迷う。祝宴の前日、佐兵衛が澪の代わりに鶴の?き物を作った。柳吾は一柳の跡継ぎ候補に澪や佐兵衛がいることを告げる。「華燭 宝尽くし」。
吉原の花見見物で鼈甲珠を売ろうとした澪だったが、吉原の決まりを知らず酷い目に遭う。翁屋を尋ねた澪は、摂津屋の口添えもあり、軒先を借りることができた。鼈甲珠は一月で25両の売り上げとなった。澪の友人である美緒の家、伊勢屋が火事を出したため、財産の没収と追放が命じられた。美緒は坂村堂で女の子を産む。「ひと筋の道 昔ながら」。
朝日新聞に掲載され、小松原が澪の料理と再会する短編「富士日和」も収録。
芳が無事に一柳へ嫁ぎ、つる家の料理人の後釜も決まり、野江身請けに向けての動きもありと、盛り沢山の内容。それにしても、悲しい出来事が続いた澪の周辺にも、ようやく春が巡ってきそうだ。次巻で完結とのことだが、ぜひともハッピーエンドで終わってほしい。
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