岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿2 彼女はカフェオレの夢を見る』(宝島社文庫)

 京都の街にひっそりと佇む珈琲店"タレーラン"に、頭脳明晰な女性バリスタ・切間美星の妹、美空が夏季休暇を利用してやってきた。外見も性格も正反対の美星と美空は、常連客のアオヤマとともに、タレーランに持ち込まれる"日常の謎"を解決していく。人に会いに来たと言っていた美空だったが、様子がおかしい、と美星が言い出して…。姉妹の幼い頃の秘密が、大事件を引き起こす。(粗筋紹介より引用)
 2013年4月、刊行。

 1巻が予想以上にヒットしたから2巻が出たのだろうが、はっきり言ってネタ切れ。珈琲ネタの蘊蓄も苦しくなっているし、ワトソン役のアオヤマ君は、1巻の目標はどこへ行ったの、というぐらいへたれてしまった。あれだけバリスタから好意を向けられたら、少しぐらい積極的に動け。最後の「大事件」は、被害者側も加害者側も杜撰すぎ。妹の美空ももうちょっと上手く動かし用があったんだと思う。そもそも、姉の恋路が上手くいくように動けよ、本当に。ミステリとしては最初から期待していない。
 売れると踏んで出版社サイドがシリーズものにしちゃったんだろうが、やらない方がよかったか、ここで終わらせるべきだったんじゃない。




石崎幸二『鏡の城の美女』(講談社ノベルス)

 大手美容チェーンで起こった3D身体データ盗難事件。データを盗まれた女性が次々と通り魔に襲われて、遂に殺人事件まで発生してしまう! 櫻藍女子学院高校ミステリィ研の仁美もデータを盗まれた一人。ターゲットになる可能性は高い。ミリア&ユリと顧問の石崎は、仁美と共にエステグループの総本山・不銹城へ向かう。そこには犯人の最終目標と噂される美女、鏡子がいた。彼女は七枚の堅牢な扉の奥で犯人を迎え撃つと言うのだが…!?(粗筋紹介より引用)
 2013年11月、書き下ろし刊行。

 女子高生シリーズも10作目。なんだかんだと続いているのだが、1作も文庫化されていない。人気があるのかないのか、さっぱりわからないが、とりあえず読み続けている。
 いつものようにミリア&ユリがぐだぐだし、仁美が狙われ、石崎がぼけてミスり、事件を解決したはいいが斎藤瞳刑事にビンタを食らうというおなじみのパターンは今回も健在。それにしても、事件現場より前に斉藤刑事と遭遇したら人が死ぬとか、幾つかのパターンを逆手に取ったようなメタな展開はどうなんだろうと思うのだが、これも一つの味なんだろう。
 登場人物が少ないので、ミステリ慣れした人なら事件の謎自体は解くことができるだろう。作者もそんなことは百も承知で、今回の目玉は外から開けることができるけれど、中から出られない密室の話。作り物であることを逆手に取ったような舞台設定とストーリーだが、これは単純にどのように解けるかを楽しめばいいのだろう。
 リアリティなど欠片もないが、謎と推理と笑えないボケとお約束な展開を楽しむ作品なので、それもまたよしかな。




笹本稜平『南極風』(祥伝社)

 ニュージーランド南島に位置する標高3033mのマウント・アスパイアリング。海外登山ツアー会社「アスパイパリング・ツアーズ」のツアーが下山中に遭難し、客3名と会社社長を含むスタッフ2名が死亡した。森尾正樹はツアーの客を救うべく最大限の努力を払い、生存者を救うべき決死の生還を果たした。
 死んだ社長の代わりに副社長である森尾が会社を清算し終えたが、事件から1年後、森尾は殺人罪で訴えられた。
 『小説NON』2011年5月号~2012年4月号連載作品に加筆修正。2012年10月刊行。

 アスパイアリング登攀から遭難、生還までの流れと、逮捕から裁判までの流れが交互に書かれる構成。どちらにも共通しているのは、人を信じることの強さである。
 数々の山岳小説を書いてきた笹本なので、山のシーンはお手の物。実際に登山をしたことがない私でも、山の素晴らしさと恐さが迫ってくる。そして検察側の思い込みによる逮捕、裁判にいたる流れは、冤罪がどのように作られていくかをストレートに教えてくれる。
 結末にいたる流れはありきたりだが感動した。そして、森尾が濡れ衣を着せられる動機とその手段も考えられていると感じた。ただ、手堅くまとまりすぎた感はある。もう一山あってもよかったんじゃないだろうか。特に裁判の判決あたりはもう少し書き込みがあってもよかったと思う。
 良作ではあるが、もう一つほしいと思わせる作品。作者にはもっと骨太の作品を期待したい。




岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(宝島社文庫)

 京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり―。軽妙な会話とキャラが炸裂する鮮烈なデビュー作。(粗筋紹介より引用)
 第10回『このミステリーがすごい!』大賞の最終選考まで残るも落選。内容が評価され、編集部主導の下大きく改稿され、2012年8月に刊行。

 新聞の広告で気になっていたのだが、シリーズでこれだけ売れてから漸く手に取ってみた。
 いわゆる日常の謎もので、その謎自体も本当にちょっとしたものでしかなく、その部分だけを取ってみれば食傷気味。「その謎、大変よく挽けました」という決め台詞は、ちょっと作りすぎだろうと思ってしまう。結局珈琲店という舞台設定と、へたれなアオヤマくん、魅力的な切間美星という2人の主人公の設定が上手くはまったのだろうと思ってしまった。今時の恋愛小説のやり取りだよね、多分これは。




石崎幸二『皇帝の新しい服』(講談社ノベルス)

 瀬戸内海の島に代々伝わる、名門美蔵家・婿取りの儀式。櫻藍女子学院高校ミステリィ研究会・お騒がせトリオのミリア、ユリ、仁美は美味しい海の幸に目がくらんで、サラリーマン兼ミス研特別顧問の石崎を花婿候補に仕立てて島へ向かうことに。だがその儀式では過去数回にわたり殺人事件が発生し、いまだに真犯人が捕まっていない。さらに、石崎のもとにまで差出人不明の脅迫状が届く! 惨劇は繰り返されてしまうのか。(粗筋紹介より引用)
 2012年12月、書き下ろし刊行。

 女子高生シリーズ第9作目。表紙がラノベ風に変わったが、勝手に抱いていたミリアやユリとイメージが違うのにはちょっとがっかり。もっとバタ臭いイメージがあったなあ。まあ、勝手な戯言だけれども。
 例によって孤島へ行くし、斉藤刑事もお約束で巻きこまれるし、血液型やDNAが事件の謎に関わってくるしと、いつものパターンを踏襲。パターンそのものも会話に組み込んで笑いに取ろうとしているのだから、この開き直りはたいしたものである。
 ページも薄く、内容も薄く、島へ行くまでに半分を費やし、事件が起きたらと思ったらいつの間にか真相に迫っている。石﨑が最後にビンタを食らうのもお約束。ま、気軽に読んでお約束を楽しむ作品だから、これでいいんだろうな。
 たまにはもっと凝った作品を読みたい気もするけれど、それは卒業付近の話かな。ちゃんと進級しているから、時の流れはあるようだし。




笹本稜平『逆流 越境捜査』(双葉社)

 十年前の死体遺棄事件を追っていた鷺沼が暴漢に刺された。 入院した鷺沼に宮野は警視庁管内で起きたが事件化されていない殺人事件があることを告げる。現場は現・財務副大臣を務める木暮参議院議員の旧宅で、死体遺棄事件との関連があるように見えた……。10年前の死体遺棄事件と、12年前に消えた死体。二人の失踪の背後に隠れる謎とは。
警視庁で未解決事件を捜査する鷺沼と、神奈川県警のはみだし刑事の宮野が活躍する、累計20万部突破の『越境捜査』シリーズ最新刊。 (一部データサービスより引用)
 『小説推理』2012年7月号~2013年7月号連載に大幅加筆修正。2014年3月刊行。

 おなじみのシリーズ第4弾。今度の捜査対象は財務副大臣。冒頭から鷺沼が刺されて入院するし、宮野たちの捜査も決め手に欠ける。挙げ句の果てに昇進までちらつかされる始末。終わりのページに近づくと、もうどうにもならなくなっちゃった状態。毎度の事ながらどうなるかと思ったら、こちらも毎度のごとくわずかなページで一気に終わらせてしまう呆気ない展開。まあ、最後で一応派手なシーンがあるのは、少しでもエンディングに動きを付けようとした結果なのかも知れない。
 テンポの良い展開と、ユーモアあふれるやり取りは健在。鷺沼に憧れ、鷺沼の警護に就いていた碑文谷警察署の山中彩香が仲間に加わり、華やかさが増した。だからこそ、ページ配分をもっと考えてほしいんだよなあ、とは毎回言っていることである。
 既に第5弾が連載中。2年振りのシリーズ新刊ということで、加筆修正に結構時間を掛けたのだと思われるが、それだったらエンディングにもっとページを費やしてほしい。



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