別冊宝島編集部編『「別冊宝島」が報じたプロレス団体暗黒史』(宝島SUGOI文庫)

 2005年の新日本プロレス「身売り劇」以降、完全な氷河期に突入したプロレス界。時代に取り残されたジャンルの悲劇を、スキャンダリズムでレポートし続けた「別冊宝島」のスクープ記事を、団体別に厳選したベスト・セレクション。新日本、全日本、ノアをはじめ歴史的沈没劇を演じた数々の団体の蹉跌は、プロレス衰退の本質を鮮やかに浮かび上がらせる。この1冊でプロレス界の10年がわかる、ファン必携の書。(粗筋紹介より引用)
 2014年2月、発行。

 単純に「別冊宝島」で書かれた記事をまとめたものでしかない。「別冊宝島」自体が文庫化されているのだから、ある意味お手軽な編集による一冊である。それを買う方も買う方だが。これを読んだって、別にプロレス界の10年がわかるわけではない。ただこうして読むと、時の流れに驚かされる。
 どん底まで落ちてリストラを敢行した新日本プロレスは、棚橋や中邑らの頑張りとユークスによる健全経営で持ち直し、さらにブシロード買収後は右肩上がりの勢いである。2005年当時はドーム大会を開いていたNOAHは社長の三沢が亡くなり、テレビも打ち切り、さらに詐欺事件もあって絶対権力者の仲田龍が格下げ(後に突然死)、秋山らが離脱といった状態。最近は持ち直しているかのように書かれているが、実際のところはどうだろうか。全日本プロレスの社長になった武藤は赤字やトラブル続きでギブアップ寸前、スピードパートナーズ社の白石伸生を引きずり込んだはいいが、逆に険悪となって離脱、新団体W-1を立ち上げるも客入りが今一つで苦戦中。全日本プロレスは白石の支払いが悪いことから、ついに秋山準が社長になって新会社設立。名前のみを引き継いで続けている。
 さらに10年後、プロレス界はどうなっているだろうか。少しは淘汰されているだろうか。分裂を繰り返し、よりインディー化しているだろうか。




青崎有吾『水族館の殺人』(東京創元社)

 夏休みも中盤に突入し、向坂香織たち風ヶ丘高校新聞部の面々は、「風ヶ丘タイムズ」の取材で市内の穴場水族館である、丸美水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、サメの巨大水槽の前で、驚愕のシーンを目撃。な、なんとサメが飼育員に喰ついている! 駆けつけた神奈川県警の仙堂と袴田が関係者に事情聴取していくと、容疑者11人に強固なアリバイが……。仙堂と袴田は、仕方なく柚乃へと連絡を取った。あのアニメオタクの駄目人間・裏染天馬を呼び出してもらうために。平成のエラリー・クイーンが贈る、長編本格推理。好評〈裏染シリーズ〉最新作。(粗筋紹介より引用)
 2013年8月刊行。

 鮎川賞を取った『体育館の殺人』に続くシリーズ2作目。『2014本格ミステリ・ベスト10』(原書房)で国内編第2位ということもあり、とりあえず手に取ってみた。といっても、ここ最近はこのベスト10にほとんど興味ないけれど(苦笑)。
 事件から1日も経たないうちに仙堂警部たちが裏染天馬を呼び出すのはどうかと思うが、そこからの展開はまあ悪くない。裏染の家庭の事情や、袴田柚乃の活躍ぶり(スクール水着になったり、カップルにされたり、着替えを裏染妹に覗かれたり)など、単なる推理パズルにならないようなキャラの動きを用意しているところは好印象。アリバイトリックはともかく、全員にアリバイがある展開から一転してアリバイがだれにもないというひっくり返しは楽しめたし、モップとバケツと水滴と足跡から容疑者たちを次々と消去していく推理も面白かった。まあ、分刻みの行動の記憶力や、あそこでモップを使うか、などの突っ込みは野暮なのだろう(個人的な評価は落ちるけれど)。
 本作品の一番よかったところは、なぜこのような殺人を行ったのかというところが明解にされているところかな。はっきり言って後味が悪いものではあったし、そもそも水族館が閉館になったらどうしていたのだろうという疑問はあったのだが。
 シリーズものという点を差し引いても、第1作より出来はよい。推理部分だけではなく、キャラクターの部分でも楽しめるようになっている。本格ミステリ大賞の候補になるだけのことはあると思った。
 どうでもいいが、アニメネタが一部古すぎるのはどうにかならないか。



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