別冊宝島『新日本プロレス10大事件の真相』(別冊宝島2250)

 新日本プロレスの10大事件について、当事者や目撃者たちが最終告白する。「「猪木vsアリ」世紀の一戦」「3団体オールスター戦」「全日本との「外国人選手引き抜き」戦争」「第1回IWGP優勝戦「猪木舌出し」事件」「クーデター未遂事件」「タイガーマスクが衝撃デビュー&引退」「第一次UWFの旗揚げと崩壊」「長州力が新日本プロレスを離脱」「「長州乱入・海賊男・TPG」暴動事件」「前田日明のUWF移籍と新日追放」の裏側が語られる。
 告白者は佐山聡、新間寿、桜井康雄、大塚直樹、永島勝司、ミスター高橋、上井文彦、猪木啓介、田中ケロ、ターザン山本、小佐野景浩。
 読んでみて、確かに当事者たちの告白にはなっているのだが、レスラー側が佐山聡しかいないというのはかなり残念。まあ、レスラーがこんなところで告白してしまうと、もう使われなくなってしまうだろうから今更何も言わないだろうが。ある意味猪木と敵対する側に立って人たちだから、どこまで本当なのかなあ、という部分もある。それ以上に、私が知らないだけで、「秘話」なんてないんじゃないの、という気がしないでもない。
 ただ一つ言えるのは、確かにいい試合よりもスキャンダルの方が記憶に残っている、ということ。そして一般人にも届いている、ということ。例え猪木vsロビンソンが名勝負だったと語り継がれていても、それを知っているのはプロレスファンぐらいしかいない。しかし猪木がアリと戦ったことは誰でも知っている。ホーガンのアックスボンバーで舌を出して失神したことも、たけしが両国国技館に来てその後暴動になったことも、みんな覚えている。そういう意味でプロレスとは闘いではなく、スキャンダラスな人間ドラマであったのかもしれない。そしてそれを一番よく知っていたのが、アントニオ猪木だったのだろう。いや、外から見る分では猪木の人間性って好きになれないんだけれども。




今野敏『自覚 隠蔽捜査5.5』(新潮社)

 連続強制わいせつ事件の容疑者が逮捕されたと東日新聞にすっぱ抜かれた。朝刊を読んで、大森署副署長の貝沼悦郎は、自分の知らない事実に驚く。関本刑事課長に聞くと、昨夜11時に中国人留学生の女性が悲鳴を上げているところを警邏中の地域課係員が現行犯逮捕したという。しかし逮捕された男性は、出会いがしらにぶつかっただけだと犯行を否認。逮捕から48時間以内に送検するかどうかの判断をしなければならない。情報を漏らしたのは誰か。これは誤認逮捕か。貝沼は悩む。「漏洩」。
 警視庁警備企画係の女性キャリア・畠山美奈子は藤本警備部長の命により、大阪で1週間のスカイマーシャル(旅客機に搭乗し、ハイジャック等の犯罪に対処する武装警察官)研修に派遣される。同行するSATのメンバーからは敵視され、女性の非力さから実践想定訓練や格闘技は散々な結果。しかも夜は酒の席に呼ばれ、大阪府警の警備部長たちの酌をさせられる始末。たった1日で思い悩んだ美奈子は、以前世話になり尊敬する竜崎に電話をする。「訓練」。
 警視庁第二方面本部へ新たに弓削篤郎警視正が本部長として赴任した。野間崎政嗣管理官は弓削との「レクチャー」で、大森署の竜崎が変人で問題署長だと報告する。興味を持った弓削は竜崎に会いたいと言い出し、野間崎は電話で呼び出そうとするが、竜崎は強盗傷害事件が発生して緊急配備の指令が出たところなので拒否する。野間崎の報告を聞いた弓削は直接大森署を訪ねるが、竜崎は関本刑事課長と一緒に現場にいちばん近い交番へ行っていた。「人事」。
 住宅街で夜中に強盗殺人事件が発生する。現場を臨場する森署の関本良治刑事課長や警視庁本部捜査一課の田端守雄捜査一課長。捜査の途中で発砲音が響き、慌てて駆けつけると、大森署の一匹狼、戸高義信が人質を取っていた犯人に発砲して捕まえたところだった。拳銃の使用についてはマスコミがうるさい。戸高をどうすべきか苦悩する関本。「自覚」。
 久米政男地域課長の所へ怒鳴り込んできたのは関本刑事課長。話を聞くと、地域課に配属されている卒配(警察学校で初認教養を終えた後、各警察署に分散して配属され、実習を行うこと)の新人・加瀬武雄が、緊急手配されていた常習窃盗犯に職質をかけておきながら、犯人と気付かずに逃がしてしまったという。職質をかけたのは緊急手配前であると、新人を庇う久米。そのまま地域課と刑事課の仕事の内容の言い争いになり、その言い争いは本庁捜査三課や貝森副署長まで巻きこんでしまう。「実地」。
 警察庁から検挙数と検挙率をアップしろという通達が入った。しかもやり玉に挙がったのは、強行班係と組対係。関本からの命を受けた小松茂強行班係長は係のメンバーにその内容を伝えると、不満に思う戸高は「やれと言われればやりますが、どんなことになっても知りませんよ」と言いつのる。そして翌日から、大森署は微罪で捕まった人たちであふれかえるようになった。「検挙」。
 大森署管内で強姦殺人事件が発生。捜査会議に駆けつけた伊丹俊太郎刑事部長は、女性の部屋を訪れた宅配員が居て部屋の中の指紋と比較していることを知り、「指紋が一致したら逮捕でいいな」と言ってしまう。しかし逮捕された容疑者は犯行を否認するも、伊丹は送検してよいと言ってしまった。ところが取り調べ中、犯行現場に残されていたDNAが容疑者と一致しなかったことが判明する。「送検」。
 『小説新潮』2011年から2014年に断続的に掲載。2014年10月、単行本化。

 『初陣』に続く「隠蔽捜査」シリーズのスピンオフ作品第2弾。前作は伊丹刑事部長が主人公の短編集であったが、今回は竜崎を取り巻く人々が1話ずつ入れ替わって主人公となっている。
 もっとも、悩みや問題に対して相談された竜崎が一刀両断するという展開は変わらない。原理原則で動く竜崎の言葉が、「常識」と思い込んでいたしがらみを解き放してしまうところは、毎度のことながら鮮やかであり、痛快である。ただし、前作と比べて事件の謎を解き明かすという部分がほとんど無くなったのは残念。
 それにしても大森署の中で竜崎の考え方が少しずつ浸透し、竜崎を絶対視する考えが広まっているのにはちょっと笑えた。そんな中で、相も変わらず勤務態度が不真面目なれど、自分の信念に忠実な戸高義信の動きには感心する。「漏洩」「自覚」「検挙」の3作品に登場し、キーパーソンとなっているが、戸高と竜崎のやり取りを見るのは実に楽しい。特に「検挙」での戸高のやり口はお見事としか言い様がない。普通だったら思いついても実際に行動に移したり周囲を巻きこんだりすることはしないだろう。逆にその後の竜崎とのやり取りをも想定した行動であり、二人の阿吽の呼吸が見て取れて面白い。
 個人的ベストは、表題作の「自覚」ではなくて「実地」。新人の失敗と思われた事件が、竜崎のところで一転してしまう構造が巧い。
 「隠蔽捜査」シリーズは長編も面白いのだが、このようなスピンオフ短編にも色々と面白いところがある。それだけ人物造形が豊かなのだろう。できることなら、家族の中で竜崎がやり込められる短編も見てみたかった。大森署メンバーの主だった人が主人公になっているので、ファンにはたまらない一冊。ただ、斎藤治警務課長の主人公の話が無かったことは残念。この人がいちばん竜崎と大森署で接しているだろうに。
 「訓練」にある竜崎のアドバイスなど、生きる上でヒントになるような事例がごろごろ転がっているので、そういう観点で読んでみると別の面白さが発見できるかも知れない。




ホルヘ・ルイス・ボルヘス、アドルフォ・ビオイ=カサーレス『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』(岩波書店)

 ラバス=ブエノスアイレス間をノンストップで結ぶ《パンアメリカン急行》。その中でロシア皇女ゆかりのダイヤが盗まれ、ふたりの男が殺された――事件に巻き込まれ、窃盗と殺人の容疑をかけられたひとりの舞台俳優が、273号独房に収監されているイシドロ・パロディのもとに相談にやってくるが、はたして事件の真相は?……「ゴリアドキンの夜」
《あらゆることは偶然に起こり得ないはずです》――執念ぶかく恨みっぽい父親に、自分の人生を設計し尽くされたひとり息子リカルドの数奇な運命……「サンジャコモの計画」
 秘密の湖の至聖所から盗まれた護符の宝石を取り戻すべく、雲南から、はるか遠くアルゼンチンに送りこまれた魔術師タイ・アンの秘策は?……「タイ・アンの長期にわたる探索」
 ポー、M.P.シール、バロネス・オルツィの伝統を継承しつつ新しく甦らせたボルヘスとビオイ=カサーレスによる、チェスタトン風探偵小説、全6篇。(粗筋紹介より引用)
 新聞記者のモリナリは、アベンハルドゥンから勧められ、イスラム教ドゥルーズ派の加入札の儀式を行った。目隠しをして長い竿で人を探すその儀式が終わり、モリナリが目隠しを外すと、アベンハルドゥンが死んでいた。しかも自分の竿に血が付いていた。「世界を支える十二宮」。
 舞台俳優のモンテネグロは、ブエノスアイレスに向かう列車で、ダイヤ取引業者のゴリアドキンと同室になる。ゴリアドキンは20年前に愛人関係となったロシア皇女から盗んだダイヤの原石を返そうとしていたのだが、ゴリアドキンと別の男が殺され、モンテネグロに容疑がかけられた。「ゴリアドキンの夜」。
 詩人のアングラーダが別荘を開放した時、モンチャと呼ばれる女性との文通の束が盗まれた。アングラーダは手紙が公表されることを恐れて神経がおかしくなり、モンテネグロは農場で保養させることにした。しかしその農場でモンチャの夫が殺された。「雄牛の王」。
 執念深いサンジャコモの一人息子、リカルドがプミータと婚約した。両家が集まった翌日、プミータが毒殺された。「サンジャコモの計画」。
 ヌエボ・インパルシアル・ホテルに田舎者のタデオ・リマルドが泊まり続けていた。経営者から出て行ってほしいと言われても居座り続けている。そんなある日、リマルドがホテルの部屋で死んでいた。「タデオ・リマルドの犠牲」。
 中国雲南にある秘密の湖の至聖所から祭られていた護符の宝石が盗まれた。祭司長は魔術師タイ・アンに奪還を依頼。ダイ・アンはアルゼンチンまで来て泥棒を探していたが、ある日、ファン・シェという男にであった。「タイ・アンの長期にわたる探索」。
 アルゼンチンで欧米の思想、文学の紹介に努めたコスモポリタン的な雑誌『スル』1942年1月号と3月号に「世界を支える十二宮」「ゴリアドキンの夜」を掲載。同年、スル社から単行本刊行。

 ボルヘスとビオイ=カサーレスがH・ブストス・ドメックの名で合作した短編集。スペイン語で書かれた最初の探偵小説ともいわれている。獄中にいるドン・イシドロ・パロディが、面会者から話を聞いて謎を解く安楽椅子探偵物である。ブストスはホルヘスの曾祖父の名前、ドメックはビオイ=カサーレスの曾祖父の名前である。ボルヘスは序言で、盲目という闇の中に閉じ込められた探偵マックス・カラドスにならって、牢に閉じ込められた探偵を思いついたとほのめかしている。
 ボルヘスは名前こそ知っているけれど、読んだことは一度も無い。カサーレスについては、名前すら初めて聞いた。文学ファンなら喜ぶのだろうけれど、そちらに興味が無い私にはどうでもいい情報である。どちらも相当のミステリ・ファンらしい。
 まず会話文が長すぎ。特に面会者が延々と話し続けて事件の概要を説明するためか、所々で脱線して、一体何を言っているのかわからなくなってしまう。名前が難しくて覚えられないのは私の頭が悪いだけだが、この長すぎる会話には辟易した。会話だらけなので、人物像もさっぱり頭にイメージできない。人物像がわからないから、話の筋を把握するのに苦労する。それに注釈が必要とする固有名詞や表現が多いので、理解するだけでも大変だ。翻訳はもっと大変だっただろう。
 安楽椅子探偵が出てきて、依頼者の話を聞いただけで推理するので、ミステリの形式とはなっている。この推理も淡泊すぎて、どこが推理になっているのかよくわからない。チェスタトン風と書かれているのだが、逆説があるようにも見えないので、どこに共通点があるのかさっぱりわからない。所々で出てくる「格言」を指しているのだろうか。イシドロ・パロディの風貌は確かにブラウン神父を彷彿させるものだったが。
 多分3、4回は読み返すと面白さがじわじわ湧いてくるのだと思う。しかしせっかちな私は、そこまで我慢ができないのだった。年取ってからもう1回読んだ方がいいかなあ。
 どうでもいいが、殊能将之のシリーズ探偵、石動戯作の元ネタらしい。一応書いておこう。




大沢在昌『鮫島の貌 新宿鮫短編集』(カッパ・ノベルス)

 新宿鮫こと鮫島警部の活躍を描いた短編集。「区立花園公園」「夜風」「似たも者のどうし」「亡霊」「雷鳴」「幼な馴染み」「再会」「水仙」「五十階で待つ」「霊園の男」を収録。2012年1月、光文社よりハードカバーにて刊行。2014年1月、ノベルス化。

 1作品当たりのページ数は少ないものの、なかなか味のある作品がそろっている。
 鮫島の新宿署着任当初における防犯課課長の桃井とのエピソードを書いた「区立花園公園」、『狼花』の後日談である「霊園の男」、鮫島が高校の同窓会に出る「再会」、ママフォースが舞台となる「水洗」あたりはシリーズファンへのサービス作品に近い。
「似たものどうし」は『シティーハンター』の冴羽?と共演(槇村香が出ているから『エンジェル・ハート』ではない!)。「幼な馴染み」は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉と競演。後者では鑑識課の薮と両津が幼な馴染みということになっているのだが、これを公式設定にしていいのか(苦笑)。しかも藪が医者にならなかった真の理由も明かされるし。
 個人的ベストは、嵐の夜の小さな酒場を舞台にした「雷鳴」。次は行方不明だったヤクザが現れる「亡霊」。前者は鮫島らしさとハードボイルドテイストが上手く噛み合った佳作、後者は意外な結末が哀愁を誘う。それと「五十階で待つ」のブラックユーモアはなかなか面白い。
 長編シリーズと比べると気軽に読むことができるが、逆に肩の力を抜いて鮫島の活躍を楽しむ向きには手ごろな作品集。個人的には面白かった。




阿部智里『烏に単は似合わない』(文春文庫)

 人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」で、世継ぎである若宮の后選びが始まった。朝廷で激しく権力を争う大貴族四家から遣わされた四人の后候補。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれ魅力的な姫君たちが、思惑を秘め后の座を競う中、様々な事件が起こり……。史上最年少松本清張賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2012年、第19回松本清張賞受賞。同年6月、単行本刊行。2014年6月、文庫化。

 松本清張賞で異世界ファンタジー? しかも受賞者は20歳? 受賞時点では驚きばかりだった作品をようやく読了。作者インタビューで期待値込みみたいな話をしていたけれど、選評は読んでいないが多分そうなんだろうなあと思った。
 朝廷で権力争いをする四家の貴族から集められた四人の姫君。春殿の東家・あせび、夏殿の南家・浜木綿(はまゆう)、秋殿の西家・真赭(ますほ)の薄、冬殿の北家・白珠。最初の展開はまったりとしているので、これは単なる後宮ものと思っていたが、四家の背景も含めて徐々に複雑になり、さらには侍女の死体が見つかり、男子禁制の宮に忍び込んだ男が斬られたりといった事件が起きる。
 姉の不都合により急遽選ばれ、名前も初顔合わせの席で若君の義母から与えられるなど、事情も背景も作法も何も知らないあせびを中心に描くことで、読者にも物語世界を理解させる仕掛けにしているのは上手い。
 最後に謎解きが待っているところは、やはり松本清張賞と言うべきか。それも、事件関係者を集めて探偵役が一気に解き明かすという、ある意味王道な展開である。それを異世界ファンタジーでやってしまうところに非凡な才能を感じる。問題は、伏線こそ張られているものの、探偵役と一部の関係者のみが知っている内容で事件が解決されてしまい、推理がないところだろうか。
 ただ、読者が待っていたのは正統派ラブロマンスだったのではないだろうか。特に単行本の装丁は、それを狙ったファン向けに描かれたとしか思えない。特に、前半の作りと結末にギャップがありすぎる点を、読者はどう評価するだろうか。否定する人が多いのは、間違いないだろう。個人的にも好きになれない結末であるし、探偵役ははっきり言って嫌いだ。アンタ、一体何様、と問い詰めたくなってしまう。ただし、この結末に挑戦した意欲は買いたい。
 異世界想像の設定力は素晴らしいと思うが、登場人物の描き分けはまだまだ。もっと人数を減らすことはできたと思う。背景も含め、説明不足なところもある。登場人物の喋り方は違和感が多いので、もっと見直した方がいい。視点が説明も無しにころころ変わるのは読みにくい。色々な意味で問題作だとは思うし、欠点も多いが、続編が気になることも確か。四人の姫君(+あせびの姉)のその後はできたら読んでみたい。
 最後に出版社と選考委員へ一言。作者が20歳の女性じゃなかったら、受賞させなかったでしょう、絶対。




別冊宝島編集部『プロレス疑惑の男』(別冊宝島2242)

 今回は橋本大地のzero1退団→IGF移籍の真相、W-1で起きた金本浩二ファン暴行殴打事件、全日本プロレス元オーナー白石伸生のその後、zero1練習生死亡事故裁判の一審判決、アントニオ猪木側近「IGFの女帝」問題が書かれている。どうでもいいターザン山本vsジミー鈴木インタビューや、もっと詳しく書けと言いたいアブドーラ・ザ・ブッチャーC型肝炎訴訟なども載っている。
 暴露ものとして今回は読みどころが多かった。ネット上ですでに取り上げられているものなのかもしれないが、スポーツ新聞はもちろん、プロレス専門誌では取り上げられない内容が多い。今回は過去の焼き直しも少なくてよかった。どこまでが真実化などは当然わからないが、金本浩二の事件のように写真があるものは説得力がある。これが新聞ネタにならないということは、事件性はなかったということでいいのかな。
 橋本大地については、今からでも新日本プロレスか全日本プロレスあたりで練習生としてやり直さないとだめでしょう。素質は分からないが、血筋としては最高だったのに。まあ、父親もトンパチだったしなあ……。
 白石伸生はメールのやり取りによるインタビュー形式なのだが、いったい彼は何をやりたかったんだろう。結局ただの一杯食わせ物でしかなかったわけだが、武藤全日を滅ぼしたという意味では今後のプロレス史で重要な人物となるだろう。「白石って実は新日本が全日本に送りこんだ工作員だった」という冗談は、結構笑えた。どうでもいいけれど今の全日、KENSOはいらないだろう……。
 「プロレスラー「乱脈私生活」の系譜」は、ようするにプロレス界のお遊び醜聞であり、タイチの件はもっと大々的に扱うかと思ったが、意外と少なめ。やっぱり新日本プロレスに配慮しているのかね。まあ、わざとらしいイニシャル表記のインタビューはどうかと思うが、古いネタだし時効なんだろう。ノーリミットはともかく。昔のプロレスラーは確かに「金星」と呼ばれるそれなりのステータスを持った女性と結婚していたものだったが、今は確かに「観客と選手、どっちがリッチなのかわからない」時代なので、手近な女性と遊ぶしかないのだろう。この本が出た後だが、大日本プロレスの石川晋也も結局不倫がもとで引退してしまったし。オカダ・カズチカあたりに芸能界トップ女性と浮名を流すなどの甲斐性を期待したいところだが。




ジェイムズ・クラムリー『さらば甘き口づけ』(早川書房)

 私立探偵スルーがトラハーンを見つけたのはカリフォルニア州のとある酒場だった。大男のその作家はアル中のブルドッグと一緒にビールを呑んでいた。晴れた春の午後を楽しむというように……。スルーに依頼の電話をかけてきたのはトラハーンのもと妻で、彼が泥酔また泥酔のあげく酒で墓穴を掘らないうちに連れ戻してほしいという。かくして西海岸の酒場という酒場を捜し回り、やっとのことでトラハーンを発見したのだが、あろうことかその酒場で大喧嘩が始まってしまった。トラハーンは負傷の末数日間の入院。ところがその間に、スルーはその酒場のマダムから奇妙な依頼を受ける。10年前に姿を消したまま杳として行方を絶った娘を探してほしいというのだ。やっかいなある中の作家を抱え込んだ上に、スルーの行く手には謎の失踪事件の影が大きく立ち塞がる!
 アル中の作家、アル中のブルドッグなど特異で魅力溢れるキャラクターと失踪した娘の謎に包まれた過去――チャンドラー、ロス・マクドナルドを継ぐ薫り高いハードボイルド・ミステリ。(粗筋紹介より引用)
 1978年、アメリカで刊行。1980年12月、翻訳のうえ単行本で刊行。

『酔いどれの誇り』に出てきた探偵ミロとともに、クラムリーのもう一人の探偵役であるC・W・スルー(小鷹信光訳だとシュグルー)の初登場作品。作者の3作目に当たる。買うだけ買って放っていたのは、チャンドラー系列のハードボイルドが苦手ということもあるが、訳が小泉喜美子というところも大きかったかもしれない(苦笑)。いや、翻訳家としての小泉喜美子はすごいと思うのだが、どうも好みの問題としてなあ……。
 キャラクターとしてのスルーもいいし、トラハーンも面白い。ブルドッグのファイアボール・ロバーツなんか最高。ただねえ、どことなく気障でウィットに富んだ会話というのがどうも肌に合わなくて……。女優に憧れて家出したベティ・スーなんて自業自得という気しか起きないし。
 アメリカでは文学として評価されているとのことだが、それは分かる気がする。ただ、この頃のアメリカの風俗が自分には合わない、それだけのことなのだろう。ベトナム戦争の傷跡が残る人たちと、退廃的なセックスがあふれている70年代に。



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