初野晴『退出ゲーム』(角川文庫)

「わたしはこんな三角関係をぜったいに認めない」――穂村チカ、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみのホルン奏者。音楽教師・草壁先生の指導のもと、吹奏楽の"甲子園"普門館を夢見る2人に、難題がふりかかる。化学部から盗まれた劇薬の行方、六面全部が白いルービックキューブの謎、演劇部との即興劇対決……。2人の推理が冴える、青春ミステリの決定版、"ハルチカ"シリーズ第1弾。(粗筋紹介より引用)
「結晶泥棒」「クロスキューブ」「退出ゲーム」「エレファンツ・ブレス」の4編を収録。『野性時代』2005年、2007年に掲載された3編に書き下ろしを加え、2008年10月に角川書店より単行本刊行。2010年7月、文庫化。

 2002年に『水の時計』で第22回横溝正史賞を受賞した作者の人気シリーズ。この作品が今一つだったせいか、人気があることはわかっていても今まで手を出す気にならなかった。
 弱小吹奏楽部に所属する穂村チカ(♀)と上条ハルタ(♂)が部員を増やして吹奏楽の甲子園・普門館(全日本吹奏楽コンクール)出場を目指すというテーマと、2人が惚れている吹奏楽部顧問で新任音楽教師・草壁信二郎をめぐる三角関係というテーマの2つがシリーズの芯となっている。
ミステリとしては日常の謎ものだが、知識を要するものが多く、高校生でなんでこんなことを知っているんだ?と言いたくなるようなネタが多い。「退出ゲーム」は即興劇であるが、登場人物の会話によってシチュエーションや設定が次々と加わるというのは現実でも行われているものであり、目新しいものではない。協会賞候補に挙がっていたが、感心するほどのものではなかった。
 恋愛小説を書くのであれば、もっとキャラクターを際立たせるべき。主人公のチカはまだしもハルタはキャラクター像が浮かんでこないし、草壁先生に至ってはどこがいいのかさっぱりわからない。恋愛部分が単なるギミックで、日常の謎を書きたいのであれば、もっと謎のほうに集中してほしい。どうも中途半端な描き方になっている。
 ああ、そういうものがあるのね、という知識は得られる作品だったが、面白いかと聞かれたら微妙。人気あったから、期待が大きすぎたかな。あ、発明部の萩原兄弟は面白かった。いっそのこと、この二人を主人公にしてほしいぐらい。



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