綾辻行人『Another』上下(角川文庫)

 夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。同級生で不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、謎はいっそう深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木が凄惨な死を遂げた! この"世界"ではいったい何が起きているのか!? いまだかつてない恐怖と謎が読者を魅了する。名手・綾辻行人の新たな代表作となった長編本格ホラー。(上巻粗筋紹介より引用)
奇妙な「二人だけの孤独と自由」を過ごす中で、恒一と鳴、二人の距離は徐々に縮まっていく。第二図書室の司書・千曳の協力を得つつ、〈現象〉の謎を探りはじめるが、核心に迫ることができないままに残酷な"死"の連鎖はつづく……。夏休みに入ったある日、発見される一本の古いカセットテープ。そこに記録されていた恐ろしき事実とは!? ――ゼロ年代の掉尾を飾った長編本格ホラー、驚愕と感動の完結巻!(下巻粗筋紹介より引用)
 『野性時代』2006年8月号~2009年5月号掲載。2009年10月、単行本刊行。2011年11月、文庫化。

 綾辻行人の本格ミステリにはほとんど期待していないが、ホラーならまだ読めるだろう、などと思っていたが、読みたいと積極的に思うほどの期待感もなかった。このミスで3位になったということは知っていたが、それも「昔の名前で出ています」感の方が強かった。実際に手に取ってみたが、うーん、微妙。どうせ綾辻のことだから、何らかの叙述トリックを用いているのだろうなと思いながら読んでしまい、素直に楽しめなかったのは事実(しかも予想通りだったし)。ただそれを抜きにしたとしても、首をひねることが多かった。もしかしたら読み落としたのかも知れないが、「三年三組」を無くせばいいんじゃないだろうか。二組の次を四組にするとか、いっそのことA組、B組にするとか。大体こんな呪いがが続いていたら、みんな転校するって。言ってみれば、誰もが考えそうな対策を採っていない点が、あまりにも不自然に見えてしまい、楽しめないのだ。座して死を待つ馬鹿がどこにいるかって言う話。
 中学生のやり取りも硬さが見られるし、ラノベや漫画を読む時のようななるほど感が見られない。どこか、操り人形を見ているような不自然さが残る。
 退屈しのぎにはなったけれど、これでこのミス3位かよ、とは言いたくなる作品だった。
 だけどこれがコミックになり、アニメ化され、映画化もされているんだよな。自分の感覚と世の中は一致しないものだ。




三上延『ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ』 (メディアワークス文庫)

 太宰治の『晩年』を奪うため、美しき女店主に危害を加えた青年。ビブリア古書堂の二人の前に、彼が再び現れる。今度は依頼者として。違う『晩年』を捜しているという奇妙な依頼。署名ではないのに、太宰自筆と分かる珍しい書きこみがあるらしい。本を追ううちに、二人は驚くべき事実に辿り着く。四十七年前にあった太宰の稀覯本を巡る盗難事件。それには二人の祖父母が関わっていた。過去を再現するかのような奇妙な巡り合わせ。深い謎の先に待つのは偶然か必然か? (粗筋紹介より引用)
 2014年12月、書き下ろし刊行。

「プロローグ 入院していた大輔」「第1章 走れメロス」「第2章 駆込み訴え」「エピローグ シリーズ完結に向けて」
 今回も長編の第6巻。お題は太宰治。第1巻で出てきた因縁の「せどり男爵」が登場。最初からこの構想があったかどうだかわからないが、よくぞここまで引っ張ったものだと素直に感心。ただ読んでいて、一番面白くなかったのがこの巻だった。悪意のある人たちの集合としか思えない。もうお前ら、勝手にやれよ。
 まあ、ラノベにはイチャラブを期待してしまう自分が悪いのだろうな。栞子が妙に積極的な割に、そういう展開がほとんど無いのは残念。




三上延『ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時』(メディアワークス文庫)

 静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えは――今はただ待ってほしい、だった。ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然――彼女は母を待っていたのか? すべての答えの出る時が迫っていた。(粗筋紹介より引用)
 2014年1月、書き下ろし刊行。

「プロローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)「第一話 『彷書月刊』(弘隆社・彷徨舎)」「断章Ⅰ 小山清『落葉拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)」「第二話 手塚治虫『ブラック・ジャック』(秋田書店)」「断章Ⅱ 小沼丹『黒いハンカチ』(創元推理文庫)」「第三話 寺島修司『われに五月を』(作品社)」「断章Ⅲ 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』(書肆季節社)」「エピローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)」を収録。
 せっかく栞子に告白した大輔だが、お預けを食らった状態の第5巻。いつもは大輔視点なのに、今回は断章という形で他の人の視点が挟まれる。今回は志田の過去が語られるが、こうやって登場人物たちの闇の部分を出そうとしていくのだろうか。
 最後は栞子がようやく大輔の告白を受け入れるのだが、それにしても面倒な母娘だね。




三上延『ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔』(メディアワークス文庫)

 珍しい古書に関係する、特別な相談―謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが――。(粗筋紹介より引用)

 今回は長編。「第一章 江戸川乱歩『孤島の鬼』」「第二章 江戸川乱歩『少年探偵団』」「第三章 江戸川乱歩『押絵と旅する男』」と乱歩尽くしである。
 東日本大震災後の話。大輔と智恵子の遭遇、そしていよいよ栞子と智恵子が再会する。とはいえ、なんなんだ、この母娘。近親憎悪とはこのことか。
 推理や謎は正直どうでもいいけれど(いいのか?)、ようやく大輔が栞子に告白。まあ、ここで終わるかよとは言いたくなる。
 長編になった分、少しは楽しめたかな。




三上延『ビブリア古書堂の事件手帖3 栞子さんと消えない絆』(メディアワークス文庫)

 鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない――。これは"古書と絆"の物語。(粗筋紹介より引用)
 2012年6月、書き下ろし刊行。

「プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)I」「第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)」「第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』」「第三話 宮澤賢治『春と修羅』(關根書店)」「エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)II」を収録。
 感想は前作とほとんど変わらないのですっ飛ばすが、結構悪意のある登場人物ばかりなのは気になる。もう少し気持ちが軽くなるような作品は書けないものだろうか。



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