北村薫『鷺と雪』(文春文庫)
昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ〈ベッキーさん〉シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
2008年、『オール読物』に掲載された3篇をまとめ、2009年4月、刊行。2009年上半期、第141回直木賞受賞。2011年10月、文庫化。
士族の出身、上流階級の花村家に若い女性運転手のベッキーさんが来た。お嬢様の英子が遭遇した謎を、博学のベッキーさんこと別宮みつ子が謎を解く。『街の灯』『玻璃の天』に続くベッキーさんシリーズ最終作。そういえば『玻璃の天』は読んでいないけれど、まあ、いいかと思って手に取った。
とはいえ、毎度のごとく「日常の謎」ばかりで、本格探偵小説として読むとつまらない(とまで書くとやや誇張しているが、それほど面白いものでもない)。むしろ、昭和初期という時代とその当時に生きていた人々を描写した作品といった方がピッタリくる。北村薫がそういう作風なのはわかっているので、それ以上のものは求めちゃいけないことはよくわかっているが、自分とは合わないなあ、と思って読み進めたことは事実。だから、それ以上は書きようがない。強いて言うなら、「獅子と地下鉄」の真相はちょっと面白かったかな、という程度。
直木賞を取ったから一応読んでみたけれど、いつもの北村薫ワールド。巧いと思うけれど、面白いとはもう思えない。6度目のノミネートでようやく取れてよかったですね、と言いたいぐらいか。
東川篤哉『探偵さえいなければ』(光文社)
関東随一の犯罪都市・烏賊川市では、連日、奇妙な事件が巻き起こります。でも大丈夫。この街では事件もたくさん起こるけど、探偵もたくさんいるのです。ひょっとしたら、探偵がいなければ事件も起こらないのかも……。日本推理作家協会賞にノミネートされた佳編「ゆるキャラはなぜ殺される」など、安定感抜群のユーモアミステリ5編を収録した傑作集! (帯より引用)
『宝石 ザ・ミステリー』に2013年~2016年に掲載された5つの短編を収録。2017年6月、ソフトカバーで単行本刊行。
洋食屋のプロデューサーを自認する倉持和哉だが、采配を振るうようになってから店は閑古鳥状態。だからカフェに作り替えたいと頼み込むも、妻の叔父でオーナーの安西英雄はうんと言わない。だからトリックを思いついた倉持は安西を殺害し、アリバイを証明してもらうために探偵事務所の鵜飼杜生を呼んだ。「倉持和哉の二つのアリバイ」。
鵜飼と二宮朱美は、烏賊川市年に一度のビッグイベント「烏賊川市民フェスティバル」に来たが、「烏賊川市ゆるキャラコンテスト」に出場するハリセンボンが喫煙テントの中で、アイスピックで殺害された。一緒にいて倒れるところを見た鷲は、手に物を持つことができない。警察が今来たらパニックになるという市役所観光課長の懇願で、コンテスト開始時間までに事件を解決することになった鵜飼であった。「ゆるキャラはなぜ殺される」。
秋葉原研究所の秋葉原博士はとうとう、人工知能と音声人気システムを持つ人間型二足歩行ロボット「ロボ太」を開発した。ところが開発費用5000万円の返済を深川から求められ、クリスマスイブの夜、秋葉原は深川を殺害。ロボ太を利用して犯行時刻を誤魔化すことにした。「博士とロボットの不在証明」。
塚田京子は、息子の妻の浮気を疑い、鵜飼探偵事務所に依頼をした。鵜飼と見習い戸村流平の調査結果、それが証明された。しかも夫婦が互いに5000万円の生命保険を最近かけ、しかも妻が大きなノコギリを購入していた。妻は実家に出かけている今、調査結果を息子に報告しようと、京子は鵜飼たちと一緒に訪れたのだが、家には鍵がかかっていた。窓ガラスを破って中に入ると、ダイニングキッチンには血の付いたナイフが。血の跡をたどると風呂場に血の付いた大きなノコギリ。湯船のふたを開けると、バラバラになった死体があり、息子の顔が浮かんでいた。「とある密室の始まりと終わり」。
北山雅人は、バーで働く田代直美から、親友の復讐のため、雅人の腹違いの兄である姉小路一彦を殺害したい、その替え玉としてアリバイを作ってほしいと依頼される。直海から見せられたスマホにあった写真は、髪の毛の濃さを除いては雅人にそっくりだった。うまくいけば一彦の代わりに会社を継げると考えた雅人は、その依頼を受ける。被害者によく似た男」。
ユーモアミステリの第一人者として人気作家となった東川篤哉の、原点ともいえる烏賊川市シリーズの最新作。関東随一の犯罪都市とまで開き直る作者のユーモアたっぷりの作品が並ぶ。「倉持和哉の二つのアリバイ」「博士とロボットの不在証明」「被害者によく似た男」は倒叙もの。凝ったトリックがあるわけでもなく、ユーモアと結末の皮肉さで誤魔化している感がなくもない。いや、計画が崩れていく様は面白いんだけどね。
「ゆるキャラはなぜ殺される」は本作品中、一番の出来。その場にいた者たちがいずれもゆるキャラの被り物をしているため、その条件まで含めて推理をしなければならない、という特殊状況と、緊張感のかけらもないやり取りが、バカバカしいまでのユーモアを醸し出している。結末がもう少しすっきりしたものであれば、協会賞を受賞していたかもしれない。
「とある密室の始まりと終わり」はあまりにもバカバカしくブラックな展開が待ち受けている。こんなシチュエーション、よく考えたものだと感心してしまった。
ただ、本来のレギュラーメンバーが全員そろった作品は一つもない。「倉持和哉の二つのアリバイ」は鵜飼だけ、「ゆるキャラはなぜ殺される」は鵜飼と朱美、「博士とロボットの不在証明」は朱美のみ、「とある密室の始まりと終わり」は鵜飼と戸村、「被害者によく似た男」は砂川警部と志木刑事である。上乗寺さくらは今回も未登場。彼らのバカバカしいやり取りが魅力の一つであるこのシリーズなのに、メンバーがそろわないというのは何とも片手落ち。
最近の作者は色々なシリーズを書いているが、そろそろ烏賊川市シリーズの長編をお願いしたい。いっそのこと、鵜飼と朱美のロマンスが進むとか、驚きの展開も欲しいところである。
モーリス・ルブラン『ルパン、最後の恋』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
突然自殺した父レルヌ大公は、一人娘のコラへの遺書に意外なことを記していた。コラの身近には正体を隠した、かのアルセーヌ・ルパンがいる。彼を信頼し、頼りにするようにと。やがて思いがけない事実が明らかになり、コラはにわかに国際的陰謀に巻き込まれることに……永遠のヒーローと姿なき強敵との死闘が幕を開ける! 著者が生前に執筆しながら封印されていた、正統アルセーヌ・ルパン・シリーズ正真正銘の最終作!(粗筋紹介より引用)
2011年、ルブランのエッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」を併録し、フランス・バロン社より刊行。『ジュ・セ・トゥ(Je sais tout)』第6号(1905年7月15日)に掲載された、アルセーヌ・ルパン・シリーズ第一作である「アルセーヌ・ルパンの逮捕」(雑誌初出版)を加え、2012年9月、ハヤカワ・ポケットミステリより邦訳刊行。『バーネット探偵社』未収録作品「壊れた橋」を加え、2013年5月、ハヤカワ・ミステリ文庫化。
稀代の怪盗、アルセーヌ・ルパンシリーズ最終作。ルブランが1936年9月にいったん書き終え、推敲を始めながらも2か月後に脳血栓発作を起こし、1937年初頭で加えられた推敲を最後に、最終稿に至らないまま忘れ去られ、幻の作品となっていた。存在は知られながらも、『奇岩城』のような傑作に及ばないから、という理由でルブランの息子・クロードが出版化を拒否していたという。クロードが1994年、妻ドゥニーズが1997年に亡くなり、膨大な資料を受け継いだ孫娘フロランスが2011年に発見したという。
40歳になったルパンの最後の冒険、となるのだが、不幸な子供たちを救っていろいろ教え込むと言ったあたりは非常に珍しい。ただ唐突な場面転換、よくわからない設定が登場するなど、まだまだ推敲不足といった感はある。ルパン・シリーズ最後の作品という意図をもって描かれたとのことだから、ルパンの意思が未来まで引き継がれていくというあたりをもっとふくらませて書いていただろう。それが『ルパン三世』(漫画)に出てくるルパン帝国になったらちょっと嫌だが(苦笑)。
短編「アルセーヌ・ルパンの逮捕」は、単行本版がどうだったか思い出せず、その辺はもう少し解説に書いてほしかった。「壊れた橋」については、バーネット探偵社シリーズらしいやり取りが面白い一冊で、ルブラン円熟期の作品として楽しめる。
何はともあれ、21世紀になってルパンの新作を読めることができるとは思わなかった。その幸福を味わうのが、この一冊である。
天祢涼『キョウカンカク』(講談社ノベルス)
女性を殺し、焼却する猟奇犯罪が続く地方都市――。幼なじみを殺され、後追い自殺を図った高校生・甘祢山紫郎は、“共感覚”を持つ美少女探偵・音宮美夜と出会い、ともに捜査に乗り出した。少女の特殊能力で、殺人鬼を追い詰められるのか? 二人を待ち受ける“凶感覚”の世界とは?(粗筋紹介より引用)
2010年、第43回メフィスト賞受賞。同年2月、刊行。
“共感覚”とは初めて聞いた言葉だったが、文字に色が見えたり、音に匂いを感じたりする特殊な知覚現象のことを言う。主人公である音宮美夜は、音を聞くと色や形が見える「色聴」と呼ばれる現象の持ち主で、声の色で何をしようとしているかがわかってしまう。美夜は推定年齢19歳、良家の子女を思わせる雰囲気の美女で、普段の態度もお嬢様らしさが表れている。ただし髪は透き通った銀色で、眉毛も銀色。元超々々エリート官僚だったのに今はその地位を放り出し、全国の捜査に口出しする権限を持った警察庁の矢萩より依頼を受け、私立探偵もどきの仕事をしている。
本作品では、女性を殺して焼却する「フレイム」とマスコミに名づけられた凶悪犯を、幼馴染みをフレイムに殺された高校生とともに追うストーリー。いかにも次の作品がありますよ、といったエキセントリックな探偵を配置するあたりはあざとさを感じるが、その能力が事件の謎に絡んでくるのだから、逆に言えば本格ミステリにもこういう手法を使えばまだまだ色々なパターンを生み出すことはできる、という可能性を見出したところが勝利か。登場人物が少ないため、誰が犯人かという点については面白みに欠けるが、それなりにトリックも使われており、また事件の動機についても聞いたことのないもの、かつ、この探偵役がいたからならではの動機については、よく考えられている。そういう意味では、読んでいる途中は続きが気になる作品である。
正直言って二作目を読みたいかと聞かれると、あまり……と答えたくなるところはある。探偵役の美夜にしろ、矢萩にしろ、わざとらしさが目立つ。もうちょっとすんなりと世界観に溶け込むことができるように書くことができれば、変わった本格ミステリという位置付けを獲得することも可能だろう。
風森章羽『渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト』(講談社ノベルス)
霊媒師・アーネストのもとに持ち込まれたのは、十六年前、画家・藤村透基の屋敷から消えた少女の捜索依頼。屋敷には渦巻き状の奇妙な回廊があり、最深部には「持ち主の運命を狂わせる」と噂される人形(ビスクドール)が飾られている。依頼を引き受けた友人のことが気にかかって、若き喫茶店店主の佐貴も藤村邸に同行することに。年に一度開かれる紫陽花観賞会に招かれた二人の前で、新たな殺人事件が発生してしまい――。(粗筋紹介より引用)
2014年、第49回メフィスト賞受賞。同年5月、講談社ノベルスより刊行。
ラノベファンにも訴えようとしている表紙。死んだ被害者に犯人の名前でも言わせるつもりなのかと言いたい、霊媒探偵というフレーズ。主人公は英国出身の21歳で、由緒正しき霊媒師一族の跡取り息子。一緒に行動するのは若き喫茶店店主ということで、売れたら二人の同人誌が作れますよと言いたくなるような設定。しかも、第二作の発売がすでに決まっている。うーん、作者が自分で考えたというよりも、編集者が売れるように売れるようにと色を付けていったような内容だ。もっとも、大して面白いとも思わなかったが。
霊媒探偵というわりに、それらしいところはほとんど見せず。なのに誰も疑いの目を向けないのはなぜだ。最後に被害者に語らせるのなら、最初の時点で語らせろよと言いたい。「渦巻き状の奇妙な回廊」という時点で、何かありますよと言っているような仕掛け。勾配はどうなっているのだと聞きたいぐらい、無茶な設定。もうここまで来ると、茶番ですかと作者に聞きたくなる。しかも主人公の過去に関わりありそうな人物が出てくるという、わざとらしい引き。
いや、読む価値ないです、これは。売れそうな要素をあちらこちらから引っ張ってきて、結局破綻しているという状況で、何を楽しめというのだろう。
北夏輝『恋都の狐さん』(講談社文庫)
豆を手にすれば恋愛成就との噂がある、東大寺二月堂の節分。奈良の大学に通うまじめな理系女子の「私」は、二十年間彼氏なし生活からの脱却を願った。大混乱のなか、やっと拾った獲得物からこぼれ落ちた鈴を拾ったのは、狐のお面に着流し姿の奇妙な青年。素顔を明かさぬ「狐さん」との衝撃的な出会いだった。(粗筋紹介より引用)
2012年、第46回メフィスト賞受賞。2012年2月、講談社よりソフトカバーで刊行。2014年3月、文庫化。
メフィスト賞にしては珍しい恋愛小説。他の要素は一切なし。てっきり人外の妖怪とでも恋愛に陥るのかと思ったが、単にある事情で狐の面をかぶり続ける青年に、生まれてから今まで彼氏ゼロの真面目な大学生が恋した、というだけの話。もうちょっと面白い話があるかと思ったが、ただ奈良の街を紹介し、いつのまにか恋してしまった、というだけの話なので、盛り上がりも何もない。恋愛物を書くのなら、もうちょっと心の動きを丁寧に描くべき。そもそもなぜ恋心を抱くようになったのか、さっぱりわからない。何とも都合のよい展開である。
作者は大学院修了の理系女子、とのことだが、過去に恋愛小説を読んだことが無かったのだろうか。多分初恋?なのだから、もう少し恋に対するときめきといったものを描けないようであれば、恋愛小説を書く必要はない。逆に大人の恋愛小説を書きたいのであれば、もっとドロドロとした要素を書けるようにならなければだめだろう。何もかもが中途半端。単なるガイドブックといっていいような奈良の紹介も、もう少し心を込めて書いてもらいたい。
いかにも続編がありそうな書き方だが、これではとても次作を読む気が起きない。まだまだ勉強が足りない。
西尾維新『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』(講談社ノベルス)
絶海の孤島に隠れ棲む財閥令嬢が“科学・絵画・料理・占術・工学”、五人の「天才」女性を招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする! 工学の天才美少女、「青色サヴァン」こと玖渚友(♀)とその冴えない友人、「戯言遣い」いーちゃん(♂)は、「天才」の凶行を“証明終了”できるのか? 新青春エンタの傑作、ここに誕生! 第23回メフィスト賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
第23回メフィスト賞受賞作。2002年2月、刊行。
実は初めての西尾維新。読むつもりは全くなかったが、メフィスト賞を全部読んでみようと思い立ったので、手に取ってみた。
あまりにも個性的すぎる登場人物。孤島の館で発生する密室首なし殺人事件。舞台や登場人物はエキセントリックすぎる内容ではあるが、密室と首なし死体の謎は割とオーソドックス。というか、どちらの謎もスタンダードすぎて、あまり面白くない(死臭とか、どうするんだろう?)。残念ながら、こちらの方はほとんど添え物。結局は5人の天才や、それを招待した財閥令嬢、そして彼女に仕えるメイドたちなどの物語。彼女たちには、いかにも裏と過去がありそうな設定の描き方をしている割に全く描かずに読者に押し付けているところは、昔の同人誌に近い趣がある(高河ゆんが本当にそうだった)。いかにも続きがありますよ、的な描き方は公募新人賞には不利だと思うのだが、メフィスト賞なら何でもありか。
結局「戯言シリーズ」として続くのだが、若い頃ならともかく、今は読む気が全く起きない。
北山猛邦『『クロック城』殺人事件』(講談社文庫)
終焉をむかえつつある人類の世界。探偵・南深騎と菜美の下に、黒鴣瑠華と名乗る美少女が現れた。眠り続ける美女。蠢く人面蒼。3つの時を刻む巨大な時計。謎が漂うクロック城に二人を誘う瑠華。そこに大きな鐘が鳴り響いたとき、首なし遺体が次々と現れた。驚愕のトリックが待つ、本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)
2002年3月、第24回メフィスト賞を受賞し、講談社ノベルスより発売。2007年10月、文庫化。
そういえばこれは読んでいなかったな、と思って手に取ってみた一冊。まあ、粗筋を読んだだけで引いていた感があったことは否めない。
そもそも1999年に終焉を迎えようとしている世界とか、ゲシュタルトの欠片とか、幽霊退治専門の探偵とか、幽霊・スキップマンとか、訳のわからないセキュリティチーム・SEEMとか、〈真夜中の鍵〉を探す十一人委員会とか、小説世界を色々と装飾しているのだが、クロック城という舞台や登場人物を成り立たせるためだけのものでしかなく、読み終わってみて大いに失望した。
「行き来不能な状況」での二つの部屋での連続殺人。トリックや絵はインパクトこそあるものの、本格ミステリ慣れした人なら予想がつくだろう。実行が可能かどうかは別にして。だからこそ、それを驚愕させるだけの舞台が欲しかったのだが、残念ながら作者が力を入れたのは、本格ミステリの部分ではなくて、終末世界の方だった。そのせいか、犯人の謎解きよりもその後のドタバタの方が筆は快調にみえる。
それにしても、「城」というタイトルの作品はこの後も続くのだから、この設定や登場人物が本作限りという点については驚いた。多く残された謎は一体何だったのか。
まあ、本作に限って言ってしまえば、トリックを一枚の絵に現したインパクトだけは認めますが、その他はつまらないですね。他の作品はまだ読んでいないので、わかりませんが。
似鳥鶏『さよならの次にくる 〈卒業式編〉』(創元推理文庫)
「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏学部の部室に貼られた怪文書。部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、オーボエ首席奏者の渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む「中村コンプレックス」など、〈卒業式編〉は四編を収録。デビュー作『理由あって冬に出る』に続くコミカルな学園ミステリ、前編。(粗筋紹介より引用)
2009年6月、書き下ろし刊行。
市立高校シリーズ(というのか……)二作目。前編とは知らずに買ったので、ちょっと後悔。
「第一話 あの日の蜘蛛男」は主人公で美術部長の葉山君による小学生時代の密室からの脱出トリック。危険度MAXだよなあというトリックには少々引いてしまった。
「第二話 中村コンプレックス」は、葉山君の初恋の人が登場。がんばって奮闘してね、というだけの話。
「第三話 猫に与えるべからず」は、中学生の葉山君の話。ええっと、ここでこのトリックを使うか、と言いたくなった。
「第四話 卒業したらもういない」は名探偵役の伊神恒の卒業と、伊神の過去が語られる話。
高校が舞台で、しかも日常トリックばかりの連作短編集。登場人物もそこそこキャラが立っている割には、読んでいて退屈だったのは、自分が年を取った証拠か。いや、他の作品ではそこまで感じなかったから、単につまらなかったからかな。
過去と現在が入り交じっているのだが、何もシリーズ二作目からこの手法を使わなくても、とはいいたい。はっきり言えばシリーズがパターン化したときの窮余策だろう、これは。葉山、伊神、演劇部部長の柳瀬といったキャラクターが固まり、ある程度パターン化してから書かれるべきだったんじゃないだろうか。特に第一話、無理矢理謎を解こうとする伊神には呆れるしかなかった。
間に入っている「断章」があまりにも思わせぶりだが、それは次巻で解決されるのだろうなあ、とは思ったが、この手法はまとめて読まないと忘れられるだけ。失敗だったと思う。
ということで、続編を見かけたら買おうとは思うけれど、さらに読み続けたいかと聞かれたら微妙。
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