天祢涼『葬式組曲』(文春文庫)

 20代の女性社長・北条紫苑が率いる「北条葬儀社」。妙な関西弁を喋る餡子、寡黙で職人肌の高屋敷、生真面目すぎる新入社員の新実……癖の強い社員が目立つが、遺族からは「あの葬儀社は素晴らしい」と抜群の評価を得ている。なんと、彼らには故人が遺した“謎”を解明する意外な一面があったのだ。奇妙な遺言を残した父親、火葬を頑なに拒否する遺族、霊安室から忽然と消えた息子――。謎に充ちた葬儀の果てに、衝撃の結末が待ち受けるミステリー連作短編集。文春文庫化にあたり全面改稿。(粗筋紹介より引用)  2012年1月、原書房 ミステリー・リーグより単行本刊行。2015年1月、双葉文庫化。全面改稿のうえ、2022年11月、文春文庫化。

 東京でデザイナーとして事務所を開いている久石雄二郎は、兄の賢一郎から蔵元杜氏の父が亡くなったと連絡を受け、十数年ぶりにQ市の実家に帰ってきた。遺言で雄二郎が喪主にしてくれとの話にびっくりしたが、葬儀費用300万円を全額託すと言われ、引き受けることにした。できるだけ費用を減らそうとしたが、北条葬儀社の餡子(あんこ)邦路(ほうじ)にどんどん丸め込まれる。「父の葬式」。
 北条葬儀社を訪れてきた24歳の福沢瑞穂は、生前相談で祖母の火葬だけは止めてくれと依頼する。しかし土葬、水葬とも法律で禁じられているので断ったところで、その祖母が来て火葬で構わないと告げる。その9日後、祖母が階段から落ちて死亡。瑞穂は直葬を依頼し、さらに絶対神ゼロを召喚する棺を準備するという。「祖母の葬式」。
 与党議員・御堂克巳の7歳の息子・隼人が車に轢かれて死んだ。与党はイメージ作りのため、葬式を援助して大々的に執り行うことを決めた。それは家族層を希望した克巳の妻・真由の望まぬことだった。真由は代わりに、通夜の前夜、夜の十時まで斎場の霊安室に隼人と二人っきりにしてほしいと頼み込む。午後9時半ごろ、真由が斎場の宿直の職員に、隼人が消えたと訴えた。しかも自分で出ていったという。「息子の葬式」。
 2か月前、北条紫苑の幼馴染、咲が学会のために借りた短期留学中の友人の部屋で首吊り自殺した。確かに研究がうまくいっていないと聞いているが、自殺するような性格ではない。恨みを持つ人もいないし、ましてや友人の部屋で自殺するなんてありえないし、遺書もない。しかし警察は自殺として処理した。夫の荒垣は直葬にしたが、最近咲の金切り声が自分の耳にだけ時折聞こえるようになった。病院で診てもらっても異常はない。そこで荒垣は、紫苑の会社で葬式を行ってもらうよう依頼した。「妻の葬式」。
 出社した餡子と新実に社長の紫苑は、高屋敷が川に落ちて死亡したと告げた。「葬儀屋の葬式」。

 1年を通じ、北条葬儀社の葬儀で起きた奇妙な出来事の謎を解き明かす連作短編集。単行本版とは、物語の根幹をなす設定を一つ削除しているとのこと。おそらく、近未来設定の部分かな。確かにいらない設定のように思える。
 葬式という舞台ならではの謎解きが続き、うまいなと思いながら読んでいた。北条葬儀社の北条紫苑、餡子邦路、高屋敷慈英、新見直也という4人の登場人物のキャラクターも立っているし、ストーリーも悪くない。なかなか読ませる短編集だな、と思っていたら、最後にやられました。うわー、何これ。
 よく読むと、ちゃんと伏線を張っている。たしかに変だなと想いながらも他の謎解きに気を取られ、いつしか忘れていましたよ、些細な疑問点を。これは凄いな。
 しかし「再文庫版のためのあとがき」で、講演会でラストがやり過ぎだと思った人は挙手してくださいとの問いかけに、たくさんの手が挙がったというエピソードを披露している。作者のコンセプトは「感動できそうな話を四つ並べて、続編があるかもしれない雰囲気を頼和せ、最後に全部ひっくり返す」だったとのこと。確かにそのコンセプトは成功しているのだが、後味という点でどうだろう。私もやり過ぎに手を挙げたい。よくできているとは思うが。

夕木春央『サロメの断頭台』(講談社)

 全ての謎が解けるとき、『サロメの断頭台』が読者を待つ。 天才芸術家の死、秘密を抱えた舞台女優、盗作事件に贋作事件、そして見立て殺人。 大正ミステリを描き抜く『方舟』著者の本格長編。
 油絵画家の井口は、元泥棒の蓮野を通訳として連れて、祖父と縁のあったオランダの富豪、ロデウィック氏の元を訪ねた。美術品の収集家でもあるロデウィック氏は翌日、井口のアトリエで彼の絵を見て、「そっくりな作品をアメリカで見た」と気が付いた。未発表の絵を、誰がどうして剽窃したのか? 盗作犯を探すうちに、井口の周りで戯曲『サロメ』に擬えたと思われる連続殺人が発生してーー(帯より引用)
 2024年3月、書下ろし刊行。

 『絞首商會』『時計泥棒と悪人たち』に続く蓮野&井口シリーズ(という名前でいいのか?)第三作。
 帯にもあるが、「天才芸術家の死」「秘密を抱えた舞台女優」「盗作事件」「贋作事件」が絡み合った「戯曲『サロメ』に擬えた連続見立て殺人」。どれだけ謎をつぎ込むんだ、と言いたくなるぐらいの謎の嵐。その割に、通俗ミステリ並の安っぽさを感じるのは、大正を舞台にしていることだけではないだろう。
 元泥棒の探偵役、蓮野は予言者か、と言いたくなるぐらい先を見通していて面白くない。井口のぐずぐずぶりは相変わらずで、妻の紗江子はどこがよくて結婚したのだろうと思ってしまう。蓮野に憧れている姪の峯子、迷惑ばかりの画家大月も登場。お馴染みの登場人物が出てくるのはいいのだが、描き方が悪いカリカチュアライズされている。
 さらに連続見立て殺人の軽さが悲しくなってくる。井口や大月も所属している芸術家の集まり、白鷗会のメンバーが絡んでくるのだが、これまたとんでもない面々の集まり。いや、芸術家だからってこんな書き方しなくてもと思ってしまう。それに簡単に殺されるのもちょっと納得いかないし、犯人の動機も以上にしか思えない。
 長いし、途中で中弛みするし、評価できる作品ではなかった。ということで、完全にキャラクター小説とみなして読んでいました。そう思い込んで読めば、それなりに楽しめます。蓮野にはもっと狼狽えてほしいね。このままじゃ、顔がいいだけのロボットに終わってしまう。

M・W・クレイヴン『ストーンサークルの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 英国カンブリア州に点在するストーンサークルで次々と焼死体が発見された。犯人は死体を損壊しており、三番目の被害者にはなぜか停職中の国家犯罪対策庁の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思しき字が刻み付けられていた。身に覚えのないポーは処分を解かれ、捜査に加わることに。しかし新たに発見された死体はさらなる謎を生み、事件は思いがけない展開へ……英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールドダガー受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2018年発表。2019年、英国推理作家協会賞最優秀長篇賞(ゴールドダガー)受賞。2020年9月、邦訳刊行。

 作者は軍隊、保護観察官を経て2015年に”Born In Burial Gown”でデビュー。本作は三作目になる。
 国家犯罪対策庁(NCA )重大犯罪分析課(SCAS)に所属するワシントン・ポー部長刑事シリーズ第1作。当時警部だったポーは被害者遺族に機密情報を含んだ報告書を渡すというミスを犯し、1年半前に内部調査及び独立警察苦情処理委員会の審問対象となり、停職処分を受けた。38歳の今はシャップ丘陵地の山奥にあるハードウィック・クロフトという天然石作りの家に住んでおり、エドガーという名前のスプリンガースパニエル犬を飼っている。
 マスコミに「イモレーション・マン」と名付けられた連続殺人鬼の三番目の被害者にポーの名前と「5」の字が刻みつけられていたことから、エドワード・ヴァン・ジルNCA情報部長により停職処分を解かれ、元部下でポーの後釜に座ったステファニー・フリン警部の下でポーは捜査に当たることになった。
 ポーと一緒に仕事をすることになるのが、オックスフォード大学出身でSCASの分析官であるティリー・ブラッドショー。16歳で最初の学位を受けて以来、学問の世界で生きてきたため、世間一般の常識に疎く、卵ひとつゆでられない。修士号一つと博士号二つを得、データマイニングで高い納涼を発揮するIQ200近くの天才だが、いつも人の接し方を学ばなくてはいけないとフリンに注意されている。
 不器用なポーとティリーの二人が捜査を通じて徐々に相手のことを知り、心を通わせていく過程がとても楽しい。物語のテンポが速く、そして悲惨な連続殺人とむごい過去の事件が浮かび上がる暗い内容であるが、二人のやり取りが救いとなっている。この二人に振り回されるステファニーの苦労に笑い半分で同情してしまうが、それもよいアクセントだ。
 ポーのほとんど直感ともいえる推理が都合よすぎるところがあるのは気にかかるし、会えてかもしれないが犯人はもうちょっとうまく隠せよと言いたくはなる。翻訳が直訳になっているところがあってこなれていないのは残念だが、テンポの良い刑事ドラマを見ている感覚で楽しませてくれる。既視感バリバリなのはあえて目をつぶろう。これだけの複雑な話をまとめあげた腕は大したものである。ただ、ポーの過去も含め、クリフハンガー方式で幕が下りるのは少々やり過ぎな気がするが。
 近作が評判なので、やはりシリーズ1作目から手に取ってみようと思い購入したが、次作に期待できる内容であった。ということで、次も読んでみることにする。
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