深木章子『殺意の構図 探偵の依頼人』(光文社文庫)
金目当ての義父殺害を疑われる峰岸諒一は、かたくなに無罪を主張していた。弁護人・衣田征夫は、肝心な点で証言を濁す彼に終始翻弄されるが、アリバイの証明により無罪が確定し、釈放に。ところが、間もなく峰岸の死体が発見される! 冤罪事件に端を発し、めまぐるしく浮上する疑惑の果てに潜む真実とは!? 予想は即座に裏切られる展開に、驚嘆必至のミステリー!(粗筋紹介より引用)
2013年12月、光文社より書き下ろし単行本刊行。2016年9月、光文社文庫化。
元弁護士の作者による第三長編。過去二作と同様、私立探偵の榊原聡が探偵役を務める。
第一章は衣田の視点で語られる。民事専門の衣田に、なぜか峰岸諒一は弁護を依頼する。諒一は義父宅に放火して義父・巌雄を殺害した容疑で起訴されている。金に困っていて融資を断られるなど動機も十分。証拠もあり不利な諒一だが肝心なところをぼかすため、衣田は苛立つばかり。ところが公判途中で妻の朱美が別荘で事故死。すると諒一は事件当日、名の開かせぬ女性と不倫旅行していたことを告白する。アリバイが成立し、諒一は無罪判決、釈放された。しかし数日後、諒一は別荘で死亡した。
第二章は朱美の妹・暮葉の視点と巌雄の妻悦子の弟・啓太の後妻・佳苗の視点により事件が振り返られるとともに、事件をめぐる人間関係はより複雑になっていく。
そして第三章、私立探偵榊原が出てきて、もつれた人間模様を紐解いていく。
少ない登場人物でこれだけの複雑な関係を、探偵が解明していく手順は大したもの。断片は予想できるかもしれないが、事件の全容を全て推理するのは非常に難しい。読者は最後の最後まで息を抜けない真祖に目を見張ることになるだろう。
なるほど、これだったら本格ミステリ大賞の候補に選ばれたもおかしくはない。複雑なトリックを使うことなく、読者を心理の迷宮に誘い込む腕は大したものだ。
愛川晶『巫女の館の密室~美少女代理探偵の事件簿~』(光文社文庫)
美少女探偵・根津愛が、刑事・桐野と訪れた奥会津の秘境にある友人の別荘。そこには、急斜面をくりぬいて作った奇妙な離れがあった。十年前、このコンクリートの箱のような建物で不可解な密室殺人事件が起きたという。犯人はどうやって脱出したのか? この謎が解けないうちに、突然愛が失踪! 愛を捜す桐野の前に新たな惨劇が……。「完璧な密室殺人」に挑む傑作本格推理!(粗筋紹介より引用)
2001年8月、原書房より書下ろし単行本刊行。2004年8月、光文社文庫化。
仙台に住む美少女代理探偵・根津愛のシリーズ3冊目。久しぶりに手に取ってみたけれど、微妙だったかな。「完璧な密室殺人」とか言われても、いざ読み終わってみると肩透かし感が強い。根明でポップな出だしなのに、事件の展開は暗すぎる。これだったら、別の探偵だったほうがよかったんじゃないだろうか。大学教授と女子高校生が史実を巡って対等に渡り合う展開もわざとらしい。
大風呂敷を広げるだけ広げて、いざ畳んでみたらあまりにも小さく畳み過ぎた作品だった。
ジャクリーン・ゴルディス『メインキャラクター』(創元推理文庫)
ベストセラー作家、ジネヴラ・Exからプレゼントされた、オリエント急行での三日間の旅。ジネヴラは実在の人物をモデルとして小説を執筆しており、最新作の主人公に選ばれたローリィは、報酬として豪華列車の旅を贈られたのだ。しかしローリィが列車に乗り込むと、そこには兄、親友、元恋人など、彼女と浅からぬ関係をもつ人々の姿が。さらに列車内では件の最新作『湖畔のキャビン』の製本原稿が手渡される。ローリィたちの人生が描かれたはずの本書はミステリで、作中で誰かが死ぬらしい……。盗まれた本、姿なき作家、そして客室の死体。絢爛たる謎に彩られた極上のミステリ。(粗筋紹介より引用)
2024年、アメリカで発表。2026年4月、邦訳刊行。
作者はミシガン大学で経済学の学士号を取得後、ニューヨーク大学ロースクールで法務博士号を取得。シカゴの大手法律事務所で7年間勤務した後に退職し、世界中を旅して小説を書く。2021年、デビュー。
帯で解説の大矢博子が、「オリエント急行というミステリ好きにはたまらない舞台、イタリア西海岸の観光地を巡るトラベルミステリとしての魅力、それぞれ不信感や秘密を抱く四人が同じ列車に集められる趣向という三つの設定が用意されているわけだ」と煽ってくると、手に取ってみたくはなる。とはいえ、物語がつまらないとただの煽りで終わってしまうわけなんだが。
イタリア西海岸を通るオリエント急行が舞台という、クリスティのオマージュみたいな作品のように見えるが、単にそれは舞台というだけ。語り手が章ごとに切り替わりながら話は進むのだが、中盤までは事件は起きず、主人公たちの人間関係が絡み合いつつもただの観光旅行をだらだら読まされるだけの、下手糞なトラベルミステリさながらの展開。中盤から事件が起きてようやく物語は動き出すのだが、ドロドロした人間模様はこの舞台に似合わないと思うのは、私の偏見だろうか。下手にクリスティの名前さえ出さなきゃ、そこまで斜に構えて読むこともなかったのにとは思うが、これは作者というよりも出版社と解説のミスだろう。
ドロドロとしたメロドラマが展開されるのには困ったものだし、謎そのものも在り来たり。まあ観光旅行サスペンスとして読む分には、そんなに悪くはないと思う。イタリア西海岸なんて、全然知らないからね。ただ、それだけだな、この作品は。作者は変に狙いすぎたんだと思う。期待しすぎました。
駄犬『誰が勇者を殺したか 賢者の章』(角川スニーカー文庫)
物心ついた頃から人を避けて生きてきた魔法使いソロン。
ある日、預言者に「ソロン、おまえを勇者と認める」と告げられ、さらに王国からも勇者認定を受けたソロンは嫌々ながらも一人で魔王討伐を決意する。
その道中、不慣れな旅で力尽きて倒れているところをエーヴと名乗るエルフに助けてもらい、一緒に旅をすることに。
共に旅をする中でソロンはエーヴの人柄に惹かれ、少しずつ心を開き始めると同時に、自分自身が本当に心から求めていたものに気づき始めるのだが……。
これは勇者ソロンとエルフの、世界を超えた小さな奇跡。(粗筋紹介より引用)
2026年5月、書下ろし刊行。
駄犬の「誰が勇者を殺したか」シリーズ4冊目。勇者パーティーの一員である大賢者ソロンが結婚する。しかも平民、馴染みの菓子屋の娘とである。そのことを噂で聞いたエルフが王国を訪れる。そして語られる、ソロンが勇者として選ばれたときの冒険譚。
さすがに4冊目となると、IF STORYの結末はほぼわかってしまう。それでも読んでしまうのが、このシリーズである。本作は、大賢者ソロンを深く掘り下げている。
読んでいるときは楽しいのだが、それでもさすがにネタ切れ感は否めない。とはいえここまで来たら、最後まで付き合いますよ。次の主人公は剣聖レオンか、聖女マリアか。
西式豊『処刑館殺人事件』(早川書房)
群馬県北部の山奥に建つ豪奢な洋館「岨景館」に招かれた、ミステリ作家養成講座出身の男女六人。恩師である宇宿部彬の招集に応じて、売れっ子から新人、デビューできていない者まで、久しぶりに同期全員が集まった。宇宿部の到着を待たずに彼らが敷地へ入ると、入口の跳ね橋が上がり外界から隔絶した閉鎖空間となってしまう。やがて〈黒衣の処刑人〉により、ミステリ作家たちは自身の著作を彷彿とさせるやり方で、一人また一人と殺害されてゆく――。第12回アガサ・クリスティー賞受賞作家による本格ミステリへの挑戦状。
2025年5月、書下ろし刊行。
西式豊は『そして、よみがえる世界。』で第12回アガサ・クリスティー賞受賞。本作は三冊目。前二冊を読んでいないのでどんな作品を書くのか全く分からなかったのだが、この本だけは紹介時から妙に気になっていたので、地雷臭がしつつも我慢できずに購入。
ミステリ作家養成講座出身の男女六人が洋館に閉じ込められ、次々に殺されていくクローズドサークルもの。自作のシチュエーション通りに殺されていくという、連続見立て殺人でもある。クローズドサークル作品への懐疑な発言や、実作家ならではの編集者・読者への愚痴には笑わされるが、連続殺人からの予想外な展開はなかなかのもの。ちょっと説明不足なところはあるが、クローズドサークルらしからぬトリックはそれなりに考えられている。もっとも、この動機については全く納得いかないものではあったが。
ロボットであるかのように最後まで冷静に実行できるか、という点についてはなんとかスルーしたとしても、トリックの肝となるある部分については、都合よすぎないか。断られていたらどうしていたんだろうと思うし、メモでも残したり周りに話していたりしたら、簡単にわかってしまうと思うのだが
クローズドサークルの謎解きに徹した推理ゲームミステリ。(特に本格)ミステリ作家と、クローズドサークルへ捧ぐ悪趣味なレクイエムという気がしなくもないが、手間暇かけて仕掛けに満ちた作品を書き上げたことには拍手する。ただ、そこに面白かったという感情が湧かなかったのは、驚きがなかったからかもしれない。なんなんでしょうね、見た目は凄いけれど、味が全くしない料理を食べさせられている気分で読み終わったこの味気無さは。
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