西澤保彦『神のロジック 次は誰の番ですか?』(コスミック文庫)
人里離れた全寮制の〈学校〉で、生徒は厳しい制約を受けながら推理ゲームなど風変りな課題に挑んでいた。やがて次々と殺人事件が起きて…。犯人は誰なのか? 生徒たちは何のために世界中から集められたのか? 全貌が明らかになったとき、大きな衝撃が読者を襲う! 驚愕の長編ミステリー。(粗筋紹介より引用)
2003年5月、講談社の本格ミステリマスターズより『神のロジック 人間のマジック』のタイトルで単行本刊行。2006年9月、文春文庫化。2021年6月、コスミック出版より改題のうえ、刊行。
2025年、惜しくも亡くなった西澤保彦。64歳は早いよなあ。タックシリーズが完結せずに終わったのは残念。ということで、今頃だけど未読本を手に取ってみる。
アメリカが舞台だけど、国籍も性別もバラバラな6人の生徒がいる謎の学校。出だしはスローで退屈になるほどだが、途中からの緊迫感はさすが。ただ章立てがぶつ切り感があるのは残念。
殺人事件の謎そのものよりも最後に出てくる学校の謎の方が大仕掛けであるが、同時期に出ている某作品と似た設定(時期的に偶然だろう)になっているので、驚きがない結果になっているのは、作者にとって不運な結果になっている。まあ先行作品を抜きにしても、わかりやすい書き方をしてくれているが。
エンタテインメントよりもサプライズやトリックを優先した結果になってしまった作品。本格ミステリにとって、どっちがいいのかね。
エリック・ガルシア『さらば、愛しき鉤爪』(ソニー・マガジンズ ヴィレッジブックス)
おれの名前はヴィンセント・ルビオ。ロサンジェルスが根城のケチな私立探偵だ。つまらない仕事のかたわら、謎の死を遂げた相棒アーニーの死因を探っている。そんなおれを〈評議会〉がけむたがっているのは承知の上だ。ところでおれは、人間じゃない。人間の皮をかぶり、人間にまぎれて暮らしているヴェロキラプトルダッシュダッシュ恐竜だ。ああ、それにしても昔はよかった……。世界中で熱狂の渦を巻き起こした恐竜ハードボイルド、ついに登場!(粗筋紹介より引用)
1999年、アメリカで発表。2001年11月、邦訳刊行。
作者はマイアミ出身、26歳。本書でデビュー。
主人公はロサンジェルスの私立探偵。しかしその正体は人間の扮装をした恐竜、ヴェロキラプトル。恐竜は滅びず、人間にばれないように扮装をして人間社会に溶け込み、生活をしているという、馬鹿馬鹿しい設定である。原題も"Anonymous Rex"である。
恐竜がどうやって生き延びたとか、サイズ的にどうなんだとか、そもそも扮装しただけでごまかすことができるのか、とかそういうことを考えてはいけない。恐竜は人間にばれずに社会に紛れ、医者や警察にも仲間がいて、恐竜社会を守るための〈評議会〉があるのだ。そして主人公のヴィンセント・ルビオは探偵事務所を開いていて、恐竜の夫の不倫を暴いてほしいという依頼に応えて恐竜同士の行為という証拠写真を撮ろうとするしがない私立探偵で、そしてアルコール中毒ではなくバジル中毒なのだ。
それでも内容はハードボイルドの定型的なパターンである。ロサンジェルスで最大の探偵事務所「トゥルーテル」から仕事を回してもらい、サンフェルナンドヴァレーにあるナイトクラブの不審な家事の真相を探る。そのうちに相棒だったアーニー・ワトソンの交通事故の真相に近づくようになり、当然のことながら暴力シーン、そしてロマンスもある。すでに手垢の付いた設定とストーリーでも、それが恐竜たちが巻き起こしているとなると笑える。それでも恐竜ならではのヒントや手掛かりの見せ方は巧い。なんだかんだ言っても最後は、作者が用意する落としどころへ吸い込まれていく。
徹底したパロディなのに、最後はハードボイルドの世界へ収まるのだから大した腕だ。二作目『鉤爪プレイバック』は相棒であるアーニーが健在な頃の話。三作目『鉤爪の収穫』も邦訳されている。
柚月裕子『凶犬の眼』(角川文庫)
広島県呉原東署刑事の大上章吾が奔走した、暴力団抗争から2年。日本最大の暴力団、神戸の明石組のトップが暗殺され、日本全土を巻き込む壮絶な抗争が勃発した。首謀者は対抗組織である心和会の国光寛郎。彼は最後の任侠と恐れられていた。一方、大上の薫陶を受けた日岡秀一巡査は県北の駐在所で無聊を託っていたが、突如目の前に潜伏していたはずの国光が現れた。国光の狙いとは? 不屈の警察小説『孤狼の血』続編!(粗筋紹介より引用)
『小説 野性時代』2016年6月号、2017年2月号、8~10月号掲載。2018年3月、KADOKAWAより単行本刊行。2020年3月、文庫化。
『孤狼の血』の2年後の話。1984年からはじまった山一抗争、1985年1月に起きた山口組四代目組長射殺事件を基にしている。
前作の面白さは継続しているが、逆に言うと前作ほどの衝撃はない。まあ、これだけ面白い作品を書けるのは凄いと思うが、もう一つ何か欲しかったというのが正直なところ。読者はわがままである。
このシリーズは三部作であり、この作品は完結冠へ向けての“ため”なのかもしれない。
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