ジェローム・ルブリ『魔女の檻』(文春文庫)

 魔女裁判で女たちが殺された山。その麓には実業家が私財を投じて管理する村があった。今そこで怪死事件が頻発する。警察署長ジュリアンとその部下たちの奔走をよそに、死と恐怖は雪の舞う夜に沸点へ駆け上がる。村に隠された秘密とはいったい――? フランスの鬼才が贈る恐怖と驚愕の荒れ狂うホラー・サスペンス。(粗筋紹介より引用)
 2021年発表。作者の第5長編。2024年10月、邦訳刊行。

 『魔王の島』で話題になった作者の二作目の邦訳。
 二年前にモンモール村で起きた、村民の大量死。その真相を知っているというメールを受け取ったカミーユはエリーズという女性と会い、村へ向かう車の中で事件の経緯が書かれたファイルを読み続ける。
 17世紀末から18世紀にかけ、村人がいなくなるまで魔女狩りが続けられたモンモール村。魔女狩りで殺された岩山の麓のモンモール村は、二十年前に製薬会社のオーナーであるアルベール・ド・ティオンヴィルが村長となって莫大な私財を投じて整備した。今まで事件はほとんどなかった村だったが、前所長の事故死によって新たにジュリアン・ペローが赴任するとともに、不可解な事件が続く。村人に語り掛ける謎の声の正体は何か。
 立て続けに起きる不可解な事件。捜査に向かうジュリアン、サラ、フランク。しかし彼らたちも事件に巻き込まれていく展開はスピーディーで、読んでいて面白い。残酷な事件は続くが残虐な書かれ歌をしているわけではなく、それでいて背筋が震える不気味なムードが漂う展開はなかなかうまい。あまりにも人工的な舞台には、もうちょっと何とかしてほしかったとは思ったが。
 ただ終盤、カミーユがファイルを読み終わった後の展開は、今までのムードを台無しにするもの。なぜここまで読者をがっかりさせるんだと、作者に問い詰めたくなってしまった。
 この失望感が強い終わり方、フランスでは受け入れられたんだろうか。そして次の邦訳はあるのだろうか。

S・A・コスビー『黒き荒野の果て』(ハーパーBOOKS)

 米国南部の町で自動車修理工場を営むボーレガード。裏社会で語り継がれる伝説のドライバーだった彼は、足を洗い家族とまっとうに暮らしていた。だが工場の経営が傾きだしたことで運命の歯車は再び狂い始める。金策に奔走するボーレガードに昔の仲間が持ちかけてきたのは宝石店強盗の運転役。それは家族を守るための最後の仕事になるはずだった。ギャングの抗争に巻き込まれるまでは――。(粗筋紹介より引用)
 2020年発表。2021年、アンソニー賞長編部門、マカヴィティ賞、バリー賞最優秀小説部門受賞。2022年2月、邦訳刊行。

 日本で最初に訳されたコスビー作品。作者の第2長編であり、3冠を達成した。そう言えば読んでいないやと思って、今さらながら手に取ってみる。
 訳者あとがきにあるウォルター・モズリイの、「コスビーはアメリカの犯罪小説を再発明した」という推薦文がピッタリくる作品。裏社会で名を馳せた主人公が表の世界で静かに暮らすも、仕事に失敗(と書くのはちょっと可哀想だが)して1度だけの約束で裏の仕事に手を染めるも、そこから運命の歯車が狂い始める。言ってしまえば使い古されたストーリーである。なのに面白い。
 なんといってもカーアクションに迫力がある。これだけ興奮させる描写も珍しいのではないか。シチュエーションこそ違うが、大藪春彦を思い出すね、これは。
 この後のコスビー作品と比べると、まだまだ暴力度・絶望度が少ない気はするが、それは仕方がない。コスビー入門書としてはちょうどよいかもしれない。

真門浩平『終着駅で待ち合わせ』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

 仕事のストレスから過食に悩む大野由佳は、かつての同級生に紹介された向井という男性から、明晰夢を操作する方法を学ぶことになった。疑いつつも教えを実践した由佳は、夢の中で思い切り食べることで、食欲を抑えることに成功する。
 数ヶ月後、向井の教え子たちが集まって勉強会を開催中、滞在先のコテージで殺人事件が発生。その晩に由佳が夢の中で見た本には、犯人の名前が書いてあり……(「夢落ち」)。
 日常を出発し、思いもよらぬ結末に行き着く全五編を収録した、新鋭による独立作品集。(粗筋紹介より引用)
   『小説新潮』『紙魚の手帖』2025~2026年掲載の2編に、書下ろし3編を加え、2026年7月刊行。

 中学生の少年が福留町で急行から各停に乗り換えてきた。そして我妻山で下りて急いで階段を上がっていった。しかし我妻山は急行が停まる駅。なぜ少年は、到着時刻が遅くなる各停にわざわざ乗り換えたのか。各停に乗っていた女子学生2人が、推理を繰り広げる。「各停十三駅分の帰り道」。
 正月で兄弟が帰省し、久しぶりに家族がそろった一家。しかし兄が外出中、地震で崩れ落ちた墓に当たる不幸な事故で亡くなる。1か月半後、弟は春休みに入り帰省したが、母はディープステートを訴えるオンライン団体に、妹は大学のサークルに偽装した新興宗教団体にはまっていた。「悲運の死」。
 六年間、毎日雨が降り続ける町、天森町。小学四年生のダイとユリとハカセはコミュニティセンターで遊んでいたが、ダイの兄である小学六年生のヒロが、傘を忘れたと取りに来て、また慌てて外へ出ていった。しかし毎日雨が降っているのに、傘を忘れるなんてことがあるだろうか。「天森町は今日も雨」。
 向井から明晰夢を学ぶメンバーたちで出かけた、勉強会を兼ねた一泊二日の小旅行。楽しく飲んだ次の日の朝、殺人事件が発生する。「夢落ち」。
 高校一年生の一ノ瀬仁と速水士郎は放課後、クラスメイトの坂東月斗から相談を受ける。恋人である坂東と西野実果は日曜日にテーマパークで楽しくデートをしていたが、ジェットコースターを降りてから実果の態度がおかしくなり、いまだにぎくしゃくしているので、理由を考えてほしいと頼まれたのだ。「写真には写らない」。

 第19回ミステリーズ!新人賞、「カッパ・ツー」第三期入選と二冠を達成した作者の第二短編集。
 「夢落ち」が『紙魚の手帖』に発表された時、かなり評判になったとのこと。明晰夢と殺人事件というあまり関係のなさそうな要素が絡み合った本格ミステリであり、読み終わった後、奇妙な読後感を受けた。ただ構造的には昔からあるもので、本格ミステリとしてはそこまで感心するものではなかった。ただその後の描き方は、作者の巧さを感じさせるものだった。
 他の四編は日常の謎もの。『小説新潮』に掲載された「天森町は今日も雨」は舞台こそ特殊なものだが、謎自体は奇抜なものではない。同じ日常の謎なら、「各停十三駅分の帰り道」の方が後味が爽やかでよかった。個人的には本短編集のベスト。
「写真には写らない」に出てくる速水士郎は、『ぼくらは回収しない』に収録されている「速水士郎を追いかけて」の続編。キャラクターとしては悪くないので、いっそのこと速水を主人公にした連作短編集に統一した方がよかった気がしないでもない。
 作者は本短編集出版インタビューで「読者の現実や日常に近いところを舞台にしながらミステリの人工美を描きたい」と語っており、たしかにそれに近い作品を書いているのはわかるのだが、個人的には作品のトーンがバラバラ過ぎて、統一感のない短編集に思えた。短編自体は悪くないのだが、ちょっと小器用なところが鼻につくのが残念。振り幅が左右に広いだけならいいのだが、前にも後ろにも斜めにも不統一で触れてしまうと、見ているだけで酔ってしまって気持ち悪くなる。そんな違和感を抱いた作品集であった。
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