貫井徳郎『天使の屍』(角川書店)

 謎の中学生連続自殺が発生、しかし原因は「いじめ」ではないらしい。わが子の死の真相を追う父親の前に恐るべき事実が……。彼らを“死”へと駆り立てる「子供の論理」とは何か。気鋭が放つ異色長編。(粗筋紹介より引用)

 アイディアとしてはかなり仰天もの。心理的にはかなり矛盾する気がするが、中学生の心理はわからないので何とも言えない。しかし、中学生の描き方は結構リアルだと思う。社会派新本格(そんなジャンルあるのか?)の星として頑張れ、貫井。★★★。


西澤保彦『麦酒の家の冒険』(講談社ノベルス)

 匠千暁達が迷い込んだ無人の山荘。家具も内装もないからっぽの室内にあったのは、1台のベッドと、なぜかクローゼットに隠された冷蔵庫の中にある、冷えたビールのロング缶96本とジョッキ13個だけ。誰が何の目的で? 匠千暁と仲間達はビールを飲みつづけ、推理に推理を重ねる。果たして真実に辿り着けるか?(粗筋紹介より引用)

 読んでいるこちらの方が酔ってしまうような論理の展開。一の疑問に十の結末をつける落語のような話でしかないが、個人的にタックとタカチのコンビは好きである。犯人が何故、20円高いエビスを選んだのかがわからない。しかしビールはエビスが一番である。★★★。


京極夏彦『絡新婦の理』(講談社ノベルス)

 レギュラーメンバー総出演。超絶の第5弾! 巷に横行する殺人鬼「目潰し魔」を捜索する刑事、木場修太郎は、かつての知人が事件に関係しているらしい事を知る。併発する事件の中心に存在している人物とは!?(粗筋紹介より引用)

 一人称視点ではなく多重視点のため、京極堂が出てくるまではややわかりにくいが、そこから後は一気呵成に読ませる。しかし、いつもと違って予定調和の世界から抜け出ないのが残念。やはりサル(ハハハ)というフィルターを通した方が不条理感を倍増させると思う。★★★☆。


小杉健治『多重人格裁判』(双葉社)

 女性の臀部の肉を抉り取り殺害する…猟奇的連続通り魔殺人の奥に、恐るべきエンディングが待っていた。法廷ミステリーの新たな展開を描き出す。(粗筋紹介より引用)

 事件だけを見ると、なぜ原島弁護士を必要としたのか、原島がこの事件を引き受けたのかがわからない。不勉強で申し訳ないが、多重人格を扱った裁判をこういう風に書いてよいものだろうか(特に検察側)。個人的な意見だが、この裁判の結末に私は反対である。★★。


森雅裕『会津斬鉄風』(集英社)

 幕末激動の時代。数奇な出会いが歴史をつくる。漂泊の名匠河野春明の2枚の鐔のすり替え事件に絡む様々な思惑。表題作ほか4編を収録した連作。土方歳三、唐人お吉と出会うなど幕末ヒーロー、ヒロイン外伝。(粗筋紹介より引用)
「会津斬鉄風」「妖刀愁訴」「風色流光」「開戦前夜」「北の秘宝」の5編を収録。

 5つの短編集であるが、1話目と2話目の古川友哉、2話目と3話目の佐川官兵衛という風に登場人物がつながっているので、連作短編集ともいえる。ちなみにその後は唐人お吉、土方歳三という風に続く。時代的にはよく調べているなと言う感じがするが、話が淡々と進んでいるので残念ながら強烈な印象はない。しかし、安心して読むことが出来る作品である。★★★。


二階堂黎人『奇跡島の不思議』(角川書店)

 絶海の孤島に建つ白亜の館。島を訪れた美大生グループに告げられた過去からのメッセージ。彼らを襲う密室見立て殺人……。それが惨劇の始まりであった。厳密な論理と巧妙な道具立てで読者に挑戦する。(粗筋紹介より引用)

 大学の芸術研究サークルが奇跡島にある「白亜の館」の鑑定に訪れるが、そこで連続殺人事件が起こる。典型的な孤島ものであり、作者の言うとおり、「論理的で厳密な犯人探し」なのだが、そのためか、全てが「いつかどこかで見た風景」なため、いつもの二階堂黎人らしさがなく、純粋に楽しむことが出来ない。殺されるだけの登場人物といい、犯人の性格設定といい、好きになれないなと思いつつ、★★。これを書く前に、『人狼城』を完結させろよ。


朝松健『肝盗村鬼譚』(角川ホラー文庫)

 肝盗村―北海道の片隅に位置する寒村でありながら、夜鷹山万角寺という根本義真言宗唯一の寺院と、古考学界の七不思議といわれる謎の遺跡を有する秘境である。城南大の宗教学者・牧上文弥はこの万角寺に生まれ育ったが、淫逸な父とこの地の風土風習を忌み嫌い22年前に上京して以来、故郷の記憶を封印していた。だが、父危篤の知らせを受け帰省を決めた途端、文弥の周囲には不可思議な出来事が…?!日本古来の恐怖を巧みな筆致で描き出す書き下ろし長編小説。(粗筋紹介より引用)

 函館から東南に35kmの場所にある肝盗村には「考古学会の七不思議」の一つに数えられる“肝盗村遺跡”があり、根本義真言宗唯一の寺院がある。22年ぶりに帰省した主人公の周りに不可思議な出来事が次々と起こる。正直言って滅茶苦茶気持ち悪い話でした。それ以外は何も言いたくない気分で★★(ホラー好きならもっと評価が高いかも知れない)。


遠田綾『人形たちの輪舞-夢のなかの殺人者』(集英社コバルト文庫)

 1995年下半期コバルト・ノベル大賞受賞作家、実は『推理短編六佳選』で「萬相談百善和尚」が載っている。
 女子校のカウンセリングの新任教師が、受け持ちのクラスの女子高生が多重人格であることを見抜き、カウンセリングを開始している折、シスターの転落事件が起きる。流行のカウンセリング+多重人格物をジュニア小説に入れた意欲は買うが、展開がご都合主義で無理があるし、犯人設定も今一つということで★☆。コバルトだから目くじらを立てなくても良いんじゃないかという人もいるが、ジュニア小説もやはり小説ということを認識すべきだ(まあ、魅力的な設定の方が“小説”より重視すべきだとは思うが)。ところで、この新任教師の年齢設定、無理がありすぎないか。計算も合わないし。


風間一輝『男たちは北へ』(早川書房)

 緑まぶしい五月、完全装備した自転車に乗って東京・清瀬を出発、国道4号線を北上し、一路青森へ向かう男がいた。彼の名は桐沢風太郎、44才、貧乏なグラフィック・デザイナー。無類のアルコール好きで、空手の心得もある。この中年男が、そうとは知らずにある極秘文書を所持したまま旅行をつづけ、自衛隊に追われることになった…。道中で出会ったヒッチハイク少年との交流、追う者と追われる者との間に芽ばえる男の友情など、さわやかな読後感を残す冒険サスペンス小説。(粗筋紹介より引用)

 アル中の主人公が東京から青森までを自転車で走破する途中で、ひょんなことから自衛隊の陰謀に巻き込まれる。もっともこの陰謀は彩りでしかなく、主眼はあくまで自転車で走破する過程にある。ヒッチハイカーの少年との交流も気持ちよい。タイトル通り、男たち(この複数形がよい)は北へ行くのである。猿岩石ではないが、こういうのを読むと自分でも挑戦してみたくなる。もっとも、自分の鍛えていない体を見るとため息をつくしかないまま、★★★★。


逢坂剛『よみがえる百舌』(講談社ノベルス)

 今度こそ公安シリーズ最終巻(か?)。主人公は倉木美希(前作で殉死した倉木警視の妻)だし、津城警視正や大杉といったレギュラーもそのまま。タイトル通りあの「百舌」は復活するわ、「百舌」に殺されるのはかつて倉木たちが関わった事件の関連者ばかり。シリーズを通して読んでいない人にはピンとこない部分があるかもしれないが、シリーズ総決算ともいうべき内容。しかしこの作品がシリーズ中で一番軽く感じてしまう(それでも、他の作家から比べれば重厚だが)のは、過去の登場人物に寄りかかっている部分が大きいからか。しかし、鷲ノ島に舞台が移ってからの迫力の展開はさすが逢坂剛、と思いつつ★★★☆。


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