清涼院流水『ジョーカー 旧約探偵神話』(講談社ノベルス)
すべてのミステリの総決算……。究極の連続不可能犯罪を企む天才犯罪者が、陸の孤島で「幻影城殺人事件」を演出する。 作家・江戸川乱歩と同じ本名を持つ富豪が、生涯を賭して築いた幻影城。美しい湖の小島に浮かぶ紅の城は、様々な趣向が凝らされた「異形の館」である。推理作家たちが秘境を訪れる。――老いた探偵が惨劇に引き寄せられた時、舞台は整い、物語が始まる。作家の1人が執筆する推理小説が、現実世界を侵蝕し、虚構が世界を包む。虚無の深淵に在る闇の水脈(みお)から惨劇が生じ、空前の事件が幕を上げる。装飾的な不可能犯罪が繰り返される。屍は日を追うごとに増えていく。推理小説のありとあらゆる構成要素をすべて制覇すべく犯行を続ける「犯人」――その正体は、限られた「登場人物」の中の1人! 事件を支配する犯人の武器は、その天才と「言」の魔力。ひたすら「言」が「迷」い続ける「謎」の山に挑むのは、言と謎を極めた推理作家の集団、百戦錬磨の警察精鋭捜査陣、犯罪捜査のプロフェッショナルたるJDC(日本探偵倶楽部)の名探偵チーム……そして「読者」――「君」自身。神出鬼没、史上最凶の天才「真犯人」、その名は「芸術家」! 物語の覇者たる「神」は誰か?「真犯人」の究極の正体は!? 旧約(ちぎり)に操られた世紀末の探偵神話を語る「僕」とは!? JDCの切り札・九十九十九(つくもじゅうく)が、決して解けない世界の秘密――「神の理」――を悟る時、匣の中の物語は幻魔作用(ドグラ・マグラ)を失い、世界は暗黒の死の館から、めくるめく虚無の彼方へと飛翔する。時の輪が完成する最後の一行。終焉を迎えた世界に「読者」=「君」は何を読む?(粗筋紹介より引用)
お待たせしました(誰も待っていないって)。『流水大説』だから許される舞台であり、事件である。『ミステリ』として読んだらバカを見るのは当り前。『ミステリ』はあくまで『流水大説』の道具としてしか使われていない。好きな人だけ読めばいいと思うし、嫌いな人は突き放すべき。
『コズミック』で触れられていた「幻影城殺人事件」が『ジョーカー』の舞台、すなわち『コズミック』より前の時間の物語である。よって、『コズミック』の主要人物(捜査する側も捜査される側も)が出てくるため、気になってしょうがない。あいも変わらず、殺されるだけの登場人物、執拗としか言い様のない言葉遊び、全く解かれない(解きようがない)謎、無駄の多すぎる文章とほめる部分は全くないが、780ページを読ませるパワーは相当のものである。今は若さで一気に書いている感があるが、その若さがなくなったとき、どんな作品を書くかを期待したい。個人的には『コズミック』より面白かったぞ、と思いながら★★★★。
二階堂黎人『バラ迷宮』(講談社ノベルス)
断崖に建つ雪の日の洋館で起こった足跡なき殺人に迫る「変装の家」、舞台に突如バラバラ死体を降らせる恐怖を描く「サーカスの怪人」、バラ園のある館で催されたパーティでの毒死―花ことばと呪われた家系の秘密を解く「薔薇の家の殺人」など、才気と優しさに溢れる、名探偵二階堂蘭子の鮮やかな推理傑作集。(粗筋紹介より引用)
「サーカスの怪人」「変装の家」「喰顔鬼」「ある蒐集家の死」「火炎の魔」「薔薇の家の殺人」を収録。
例によって不可解な6つの謎を二階堂蘭子が解き明かす短編集。面白いことは面白いが、どこかで見た風景であるのは否めない。今さらトリックには期待しないが過去の風景を移植するなら、もう少し二階堂らしさを見せてほしい。長編ならともかく、短編では二階堂黎人の味が全く出てこないため、どことなく醒めた目で読んでしまう。★★。
今野敏『蓬莱』(講談社ノベルス)
製作スタッフすら、その攻略にはまってしまう特異なゲームソフト「蓬莱」。パソコン版で人気沸騰したため、スーパーファミコンでの発売を計画したソウトハウスに、暴力による恫喝が加えられた。「蓬莱」は作られるべきではなかった、というのだ。ただのゲームを、脅迫者たちはなぜ恐れる!?そこには想像を絶する秘密が封印されていた。(粗筋紹介より引用)
パソコン版で人気沸騰したシミュレーションソフト「蓬莱」をスーパーファミコン(うーむ、古い)で売り出そうとしたソフトハウスに次々と妨害が起こる。そしてソフトの制作者が殺される。なぜ彼らは発売を妨害するのか。シミュレーションソフトと現代を結び付ける発想は凄いし、謎を解き明かしていく過程は非常に面白いが、残念なのは妨害する「理由」が今一つであったこと。「蓬莱」というゲームの発想が非常に良かった分、それだけ(しかし肝心な部分だ)が残念であった。★★★☆。
辻真先『本格・結婚殺人事件』(朝日ソノラマ)
売れないミステリー作家牧薩次が「ざ・みすてり」大賞を受賞し、これを機に幼なじみのキリコとめでたく結婚。だが、審査員が次々と殺人事件や交通事故の犠牲者となるにおよんで、雲行きが…。(粗筋紹介より引用)
何と、まだ1997年なのにポテトとスーパーが結婚(二人が結婚するのは21世紀と作者が話している)。新しく作られた雑誌のミステリ大賞(注、短編)をポテトこと牧薩次が受賞。そしてついにスーパーこと可能キリコにプロポーズ。いいことずくめのはずだったが、ミステリ大賞の選考委員だった作家が殺されて……。最初にあとがきがあったり、大賞の最終選考作が三作も作中にあったりと相変わらずの凝った設定で楽しめる。とはいえ、『仮題・中学殺人事件』のころのジュニアミステリっぽい軽いノリは、結婚前の年齢の彼らにはちょっときつかったのではないか。それでもご祝儀ということで★★★。
西澤保彦『死者は黄泉が得る』(講談社ノベルス)
周囲から隔絶された、死人が甦る館に住む異形の女性たち。その隣り街で起きる連続殺人事件。奇想と謎が交錯し、不思議の物語は驚愕のフィナーレを迎える!殺人犯は、生きている者か、生ける屍たちか。それとも…。(粗筋紹介より引用)
二つの物語の流れがあり、一つは死人が甦る館に住む女性たちの話、そしてもう一つは隣町で起こっている連続殺人事件。SF設定の話とミステリをどういう風に結びつけるかが西澤保彦の腕の見せ所だが、さすがに今回は強引すぎ。おまけに何段階もあるひねりはさすがに無理だろう。「甦る館」内での連続殺人事件にした方が面白かったんじゃないの、と思いながら★★。
森博嗣『詩的私的ジャック』(講談社ノベルス)
那古野市内の大学施設で女子大生が立て続けに殺害された。犯行現場はすべて密室。そのうえ、被害者の肌には意味不明の傷痕が残されていた。捜査線上に上がったのはN大学工学部助教授、犀川創平が担任する学生だった。彼の作る曲の歌詞と事件が奇妙に類似していたのだ。犯人はなぜ傷痕を残し、密室に異様に拘るのか?理系女子大生、西之園萌絵が論理的思考で謎に迫る。(粗筋紹介より引用)
犀川&萌絵の4作目。歌詞通りに起きる連続密室殺人事件だが、密室のトリックは大したことがない、というよりほとんど重点は置かれていない。「なぜ」密室なのかというのが問題となっている。しかしそんな殺人事件なんかどうでもよく(実際、事件はつまらない)、焦点はやはり犀川&萌絵の仲がどうなるか。そういう意味では面白かったかな。けれどこの二人、事件が起きなきゃ関係が進展しないのか。5作目は荒れそうな予感。どうなる事やらと思いながら★★☆。
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