森博嗣『そして二人だけになった』(新潮社)

 遂に森博嗣がハードカバーになったので、「森博嗣は読まない」という禁を破り買ってしまった。やはり舞台に引かれたというのもある。A海峡大橋を支えている〈アンカレイジ〉内部に造られた建物に集まった男女六名。完全な密室の中で次々と殺人が起きて残ったのは盲目の天才科学者と美女アシスタント。こんな設定を用意されたら読まないわけには行かない。魅力的な舞台にエキセントリックな登場人物。そして「閉じられた空間」における連続殺人。これだけ魅力的なアイテムが揃うとやはり物語も面白い。いつもの無機質な文章も今回の物語にはあっている。これはと思って読み続けたのだが……。
 解決部分を読んでがっくりした。このトリックだけは使ってほしくないといったような解決だった。確かにうまい。着地自体は鮮やかである。一昔前だったら、ほお、この手があったかと拍手したかもしれない。しかし、新本格の出現以来、このトリックには食傷気味である。もちろん、各作品でアレンジが異なっているのはわかるのだが、それでもこれをやられると溜息をついてしまうのは私だけだろうか。どんなにおいしい食事を与えられても、毎回同じだと飽きてしまう。そんな気分にとらわれた。どうせなら凝りに凝った機械トリック(一応伏せ字)にしてほしかった。
 舞台や物語の展開が面白くても、着地を失敗すると全てが崩壊してしまう。森博嗣はあえてこれをやりたかったとしか思えない着地点だった。私自身はこの着地が気に入らない。これは人それぞれであると思うので私自身の感想を押し付けるわけにはいかない。とはいえあえて何度も言おう。私はこの着地が気に入らない。ゆえにこの作品は全てが崩壊していると思う。




高見広春『BATTLE ROYALE』(太田出版)

 日本ホラー小説大賞で最終選考作品に残りながらも、余りもの内容の過激さに選考委員から拒絶され、落選させられたという曰く付きの作品。噂では色々と評判が立っていたので、どういう作品だったかかなり期待していたのだが……これは落選させられてもしょうがない。
 中学生の一クラスを島に閉じこめて最後の一人になるまで殺し合いさせる。確かに出版社がこれを大賞作品として挙げるわけにはいかないだろうねえ。映像化は100%無理だし、「3年B組金八先生」の壮絶なパロディだし。
 物語自体の出来は悪くない。いや、面白いといってもよいだろう。42人もの登場人物もそれなりに書かれているし、殺し合い中のそれぞれの心情もよく書かれていると思う。こういう場所に放り込まれれば、逃げ回るだけの人もいれば、殺し合う事に何のこだわりを持たない人もいるでしょう。私からみれば今の中三は充分に大人だと思う(だから少年法は改正すべきだ。ただし、それなりの権利を与えることも必要だけれども)ので、登場人物の動きにはリアリティが充分に感じられる。各章の最後に出てくる【残り×人】という表示も物語の緊迫感を増している。
 とはいえやはりこれはゲーム小説。ゲーム世代の人でなければこの小説を面白く感じることはないだろうし、中三の頃はまだ子供だった世代にとっては不快に感じるだろう。逆にゲームの好きな人、実在しない人物の死に何ら痛みを感じない場合は面白く読めるに違いない。これだけ殺されると逆に死の痛みに不干渉になる気もするけれど。ミステリを読んでいる人が言う台詞ではないかもしれないが、どんな作品にだって限度という物があると思います。面白ければそれでいいという考え方もあるかもしれないけれど。
 もっとも、ゲーム小説だなんて言っていられないかもしれないですね。昭和初期の頃だったらこんなゲームが実際にあったっておかしくないような時代だったでしょうし。オウムだ何だといってみんな拒否するけれど、戦前の日本だって天皇絶対だと言って自ら死ぬことを名誉だと思って特攻隊に入って敵戦艦にぶつかったり、日本人が優秀だという根拠のない理屈で亜細亜を侵略していったのだから、いつこんな事が起きてもおかしくないのかもしれません。そういう意味では問題提起の作品なのか? まあ、そこまで考えて書かれた作品ではないでしょうが。
 今年度の問題作といったらやはりこれになるんでしょう。人によって1位に挙げるか、ワーストに挙げるか、極端に分かれる作品。



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