工藤會関与事件


 福岡県北九州市小倉北区に本部を置く特定危険指定暴力団・工藤會(以後は、マスコミ表記に倣い、「工藤会」とします)の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果についてまとめたものです。人物は、全て被告表記としています。
 これらに載せた以外にも複数の事件があり、2013年12月20日に北九州市で漁業協同組合の組合長が射殺された事件など、一部は未解決のままとなっている。

 工藤会は福岡県警によると、結成は1946年ごろ。北九州市で対立していた草野一家と工藤会が1987年に合併し、現在の工藤会となった。福岡、山口、長崎3県に勢力を持ち、構成員約560人、準構成員約390人(2013年末)で、構成員の人数は当時全国7番目。北九州に進出を図った指定暴力団山口組と1963年と2000年に抗争するなど武闘派として知られる。
 2000年1月、野村悟被告が4代目会長に就任。2008年7月、溝下秀男前会長が死亡。2011年7月、野村被告が総裁に、田上不美夫被告が5代目会長に就任。
 工藤会は2000~2009年、一般人を対象にした報復目的の殺人未遂や放火事件を5件起こしたとして、2012年12月に全国の暴力団で唯一、改正暴力団対策法に基づき福岡、山口両県公安委員会によって「特定危険指定暴力団」に指定された。
 福岡県暴力団排除条例が施行された2010年以降、同県内で切り付けや放火、手投げ弾の投てきなど30件以上の襲撃事件が発生し、一般人2人が死亡している。
 米財務省は2014年7月、同会と野村、田上両被告について、米国内の資産を凍結する金融制裁の対象に指定した。
 東京都や千葉県にも事務所を置いて活動しているとして、警視庁は2014年10月、専従捜査班による対策室を設けた。


【工藤會関与事件】
  1. 〈元漁協組合長射殺事件〉
     1998年2月18日午後7時頃、北九州市小倉北区の高級クラブ前路上で、北九州市最大の脇之浦漁協(現・北九州市漁協)元組合長で、砂利採取販売会社会長だった男性(当時70)に至近距離から拳銃を発射し、4発を命中させて殺害した。(殺人、銃刀法違反)
     1996年に公表された大規模港湾事業公共工事において、着工には地元漁協の同意が必要であった。男性は港湾土木業界や周辺の漁協に影響力を持っていた。事件当時、 野村悟被告は工藤連合草野一家若頭兼田中組組長、田上不美夫被告は田中組若頭だった。野村被告は、公共工事の利権介入を狙ったが男性に拒否されていた。野村被告と田上被告は、配下の中村数年被告らに指示を出した(として起訴されたが、その後の裁判で野村被告の関与は否定された)。
     (1)では2002年6月26日、工藤会系組長中村数年被告、同組幹部NT被告が殺人容疑で逮捕された。28日、同系組長KS被告、同系組長で田中組のナンバー2であった田上不美夫被告が殺人容疑で逮捕された(KS受刑者と田上被告は恐喝罪などで服役中)。7月、福岡地検小倉支部は3人を起訴するも、田上被告は「共謀関係を立証する証拠が足りない」として処分保留で釈放し、後に不起訴となった。
     2006年5月12日、福岡地裁小倉支部は、実行役の中村数年被告に無期懲役(求刑同)、見届け役のKS被告に懲役20年(求刑無期懲役)を言い渡した。しかし実行役とされたNT被告には無罪(求刑無期懲役)を言い渡した。判決では氏名不詳者と共謀とされた。
     NT被告については双方控訴せず確定。2007年10月5日、福岡高裁は中村被告の判決に対する被告側控訴、KS被告の判決に対する検察・被告側控訴を棄却した。2008年8月20日、2人の被告側上告棄却、確定。
     野村被告、田上被告の福岡高裁における公判で、中村数年受刑者は今までの無罪主張を翻して関与を認めるとともに、もう一人の実行犯がNT元被告(2011年7月死亡)であったと証言した。ただし中村受刑者は、当初の控訴趣意書で事件の首謀者は工藤会系F組のFS組長(2008年6月死亡)、実行犯はF組ナンバー2のK幹部(2011年8月死亡)であると名を挙げていたが、Kは事件当時収監中であったため、証言を翻していた。

  2. 〈大林組従業員車両銃撃事件〉
     2008年1月17日午後3時40分ごろ、福岡市博多区のビル前の路上で、このビルに入居する大林組九州支店の乗用車に向けて拳銃を4発発射し、フロントバンパーなどを壊した。男性社員ら3人が乗っていたが、けがはなかった。
     同社が北九州市で受注した建設工事などに絡み、工藤会にみかじめ料(用心棒代)を支払わせるため脅そうとした。

  3. 〈工藤会系組幹部銃撃殺害事件〉
     工藤会系組長の木村博被告は組の幹部らと共謀。部下に命じ、2008年9月10日午前2時50分頃、福岡県中間市に住む同会系組幹部(当時66)宅に侵入。拳銃で頭や胸などを撃って殺害した。木村被告が組長を務める2次団体に所属する幹部とは、深刻な対立があった。
     2009年9月、木村被告ら5人が逮捕されたが、木村被告を含む3人が不起訴。2人が起訴され、そのうち実行犯の坂本敏之被告については求刑通り無期懲役判決が確定。連絡役の組員I被告は無罪判決が確定した。
     福岡県警は「再捜査の結果、関与を裏付ける新たな証拠が得られた」として、2015年9月23日、木村博被告ら不起訴になっていた3人を含む計4人を逮捕した。逮捕当時、木村博被告は特定危険指定暴力団工藤会のナンバー5で、広報を担当。2014年9月以降の福岡県警による工藤会壊滅に向けた一斉捜査以降で、トップで総裁の野村悟被告らが逮捕されたのちは、理事長代行として実質的なトップを務めていた。

  4. 〈自治総連合会長宅銃撃事件〉
     2010年3月15日午後11時13分ごろ、北九州市小倉南区で、工藤会の新事務所開設に反対して暴力団追放運動に取り組む自治総連合会長宅の勝手口から男性2人が拳銃を6発撃ち、寝室にいた会長(当時75)とその妻(当時75)夫婦を殺害しようとした。夫婦にけがはなかった。(殺人未遂、銃刀法違反)

  5. 〈清水建設社員銃撃事件〉
     2011年2月9日午後7時12分頃、北九州市小倉北区の清水建設工事現場事務所2階事務所に押し入り、男性社員(当時50)に拳銃を3発撃ち、1発を下腹部に命中させる重傷を負わせた。軽傷を負わせた。(殺人未遂、銃刀法違反)
     2018年の逮捕時、すでに死亡していた当時40代の工藤会系組員も、容疑者死亡のまま、書類送検されている。
     暴力団排除に取り組む建設会社を威圧し、上納金の減収を避けることが目的とされた。

  6. 〈戸田建設社員宅発砲事件〉
     2011年5月6日午前1時35分頃、福岡県福津市に住む戸田建設社員の男性(当時59)方前で拳銃を5発発射し、玄関ドアなどを壊した。事件当時、男性社員など家族4人が住んでいて就寝中だったが、けが人はなかった。(銃刀法違反、建造物破壊)
     暴力団排除に取り組む建設会社を威圧し、上納金の減収を避けることが目的とされた。

  7. 〈建設会社会長殺人事件〉
     2011年11月26日午後9時過ぎ、北九州市小倉北区で、型枠工事会社会長の男性(当時72)の自宅前路上で拳銃を2発撃ち、うち1発を首に命中させて失血死させた。(殺人、銃刀法違反)
     会長は同市周辺の型枠工事業者で作る団体の会長を務めるとともに、暴力団排除活動をしていた。

  8. 〈中間市建設会社社長銃撃事件〉
     2012年1月17日午前5時35分頃、福岡県北九州市に本社がある建設会社の中間支店前の路上で、社長(当時)の男性(当時53)が拳銃2発を発射され、全治約3か月の重傷を負った。男性は午前5時頃から支店内で仕事をしており、飲み物を買おうと道路に出たところを撃たれた。近くに居た母親が110番通報し、男性自らも119番通報した。事件後、男性は社長を退任している。
     12月6日、福岡県警は工藤会系組幹部のF・S被告、F・Y被告を逮捕した。2010年4月の同県暴力団排除条例施行後、県内で多発した民間人銃撃で立件された初めての事件。
     2013年11月15日、福岡地裁小倉支部(大泉一夫裁判長)で両被告に無罪判決を言い渡した(F・S被告は求刑無期懲役、F・Y被告は求刑懲役20年)。大泉裁判長は、「(F・S被告が)実行犯である可能性は相当高いが、犯人とするには合理的疑いが残る」と結論付けた。またF・S被告が実行犯でない以上、F・Y被告の共謀なども認められないとした。
     2015年6月29日、福岡高裁(福崎伸一郎裁判長)で両被告に対する検察側控訴棄却(無罪判決)。上告せず、確定。

  9. 〈元警部銃撃事件〉
     2012年4月19日午前7時6分頃、北九州市小倉南区の路上で、バイクの男が福岡県警元警部の男性(当時61)に殺意を持って拳銃を2発撃ち、男性の左腰、左大腿部に命中させて約1か月の重傷を負わせた。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反)
     男性は暴力団捜査に約30年間従事しており、工藤会専従の「北九州地区暴力団犯罪捜査課」で特捜班長も務めた。野村被告は男性が自身を批判する発言を聞いて激怒するなど、確執があった。田上被告は不在時に男性の死期で自宅の捜査を受けたことに立腹していた。工藤会に敵対的だった元警部に対する報復及び警察組織に対する威嚇、権勢が動機とされるが、直接の動機は不明。
     男性は事件の前年に県警を定年退職していたが、退職後、自宅周辺で不審な車が目撃されていたことから県警の「保護対象者」になっていた。当日は、再就職していた市内の病院への通勤途中だった。

  10. 〈不動産会社社長男性襲撃事件〉
     2012年9月13日午後7時5分、北九州市八幡西区の交差点で信号待ちの車の助手席に乗っていた不動産会社の経営者の男性(当時72)の胸などをナイフで複数回刺し大けがをさせた。(傷害)

  11. 〈標章ビル放火事件〉
     2012年8月14日午前4時26分頃、北九州市小倉北区の6階建て飲食店ビルAの3階に停止していたエレベータかごに灯油をまいた後発煙筒を投げ込んで放火し、エレベータかごが全焼、エレベータ前床面の一部を焼損させた。またシャッターや標章に赤スプレーを吹き付けた。ビル内には当時、居住していたビル所有者やその家族、飲食店党の従業員等10名がおり、そのうち飲食店店長らが4人が煙を吸うなどして軽症を負った。(現住建造物等放火)
     さらに午前4時30分頃、約120m離れた別の6階建て飲食店ビルBの3階に停止していたエレベータかごに灯油をまいた後発煙筒を投げ込んで放火し、エレベータかごが全焼した。またシャッターや標章に赤スプレーを吹き付けた。ビル内には誰もいなかった。(非現住建造物等放火)
     被害総額は2つ併せて約5,500万円に上る。福岡県暴力団排除条例の改正に基づき、福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に、暴力団排除特別強化地域で営業する飲食店等に「暴力団員立入禁止」等と記載知れた所定の標章を店に掲示していた。動機は、表彰制度等に反発した田中組による、反暴力団活動への見せしめである。なお、指示役の中西正雄被告は灯油とガソリンの混合油を準備するよう指示していたが、U被告は危険と感じ、独断で灯油だけを準備した。

  12. 〈飲食店経営者女性他刺傷事件〉
     2012年9月7日午前0時58分、北九州市小倉北区のマンション敷地内駐車場で、男がタクシーで帰宅したスナック経営の女性(当時35)に殺意を持って持っていた刃物で複数回切りつけ、女性の左顔面を切りつけ、臀部を1回突き刺して約4か月の重傷を負わせた。さらに男は、女性を助けようとしたタクシー運転手の男性(当時40)を殺意を持って切り付け、首や左手などに重傷を負わせた。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
     女性は2006年ごろに別のスナックを経営を始めたところ、田中組組長であった菊地敬吾被告から要求を受け、みかじめ料として月5万円を支払ったり、菊地被告に誕生日プレゼントなどを渡していた。2010年2月から飲食店ビルBの3Fで別のスナックの経営を始めるにあたり、知人である別の工藤会系暴力団の組員に組員を一切入れないよう依頼し、みかじめ料を支払った。そして田中組にはみかじめ料の支払いを止め、田中組組員の来店を断った。また菊地被告が直接来た時も、退席を促すような接客をさせた。
     被害者の女性の店は、標章ビル放火事件で標章などに赤スプレーを吹き付けられている。

  13. 〈飲食店経営会社役員男性刺傷事件〉
     2012年9月26日午前0時38分、北九州市小倉北区のマンション敷地内で、帰宅した飲食店経営会社役員の男性(当時54)の腰などを刃物で3回刺し、左臀部や右大腿部に重傷を負わせた。(傷害)
     男性は福岡県暴力団排除条例の改正に基づき、福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に、暴力団排除特別強化地域で営業する飲食店等に「暴力団員立入禁止」等と記載知れた所定の標章を店に掲示していた。男性の兄は暴力団追放運動を実施していた会の副会長であり、標章制度を推進する活動を行っていた。男性は転居し、店から標章を外した。

  14. 〈看護師刺傷事件〉
     2013年1月28日午後7時4分頃、福岡市博多区の歩道で、黒いニット帽にサングラスをかけた男が、北九州市小倉北区の美容整形医院から帰宅中だった看護師の女性(当時45)を後方から殺意を持って刃物で数回切り付け、顔などに重傷を負わせた。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
     被害者が勤務していた美容整形医院で下腹部の手術を受けた野村被告が、術後の経過や被害者の対応に不満や怒りを抱いての犯行。

  15. 〈歯科医師刺傷事件〉
     2014年5月26日午前8時29分頃、北九州市小倉北区の駐車場で、男が車から降りた歯科医師の男性(当時29)に殺意を持って刃物で胸などを複数回突き刺し、約3か月の重傷を負わせた。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
     男性は〈元漁協組合長射殺事件〉で殺害された組合長の孫で、父親も漁業協同組合支所の代表理事であり、地元工事に関する漁業権者の代表をしていた。組合長が殺害された後、理事は田上被告から工藤会との交際を要求されるも、拒否していた。2013年12月20日、先に殺害された組合長の弟であり、漁業協同組合の組合長を務めていた男性が何者かに射殺されて死亡。この男性も工藤会に対する反対姿勢を公にしていた。田上被告は知人を通し、工藤会に反対するようであれば次はお前が殺されるかもしれないと、次期組合長の有力候補であった理事に述べた。理事は工藤会の要求を拒絶し、2014年4月以降は警察の保護対象となっていた。しかしその息子である被害者は保護対象とはなっていなかった。
     男性は事件後、関わりたくないとリハビリ医師から診療を断られることもあり、雇ってくれる歯科医院もなかったことから、福岡を離れることになった。



【工藤會関与被告人判決】
 総裁、会長、執行部のメンバーを除き、主に一審判決があった順に記している。
 無期懲役判決を受けた被告人の判決の詳細については、該当する日付の無期懲役判決リスト等を参照のこと。


【参考資料】
 新聞記事各種



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