求刑死刑判決無期懲役【2006年~2010年】





   

事件概要
罪 状
判 決
判決理由
備  考
高塩正裕(52)  福島県いわき市の塗装工、T被告は車のローンやパチンコなどの遊興費による借金から強盗を計画。2004年3月18日昼頃、いわき市に住む無職男性(当時87)方にナイフを持って押し入ったが、男性の妻(当時83)に正体を見破られたため、妻と二女(当時55)の胸や首などを刃物で刺し、殺害した。室内を物色し、バッグの中から現金5万円を奪った。T被告は5、6年前に、仕事を通じて女性らと知り合い、女性方に出入りしていた。男性は当時入院中だった。 強盗殺人 2006年3月22日
福島地裁いわき支部
村山浩昭裁判長
無期懲役
 裁判長は「ナイフは強盗の手段として脅すために用意したにすぎず、殺害は冷静さを失った被告がとっさに決意し実行したもの」と被告の計画性を否定。「無残に殺害された2人の無念さは筆舌に尽くし難いが、犯行は場当たり的で、殺害に計画性は認められない」「反省の態度を示し、更生の可能性がないとはいえない」として死刑を回避した。  2008年10月28日執行、55歳没。
2006年12月5日
仙台高裁
田中亮一裁判長
一審破棄・死刑
 裁判長は「変装して強盗に入った際、正体を見破られた場合は殺害もやむなしと考えており、犯罪意思は極めて凶悪」と指摘。「殺害実行に計画性があるとは認めがたい」とした一審判決は事実誤認とした。その上で「被害者が資産家であることに目を付け白昼、落ち度のない女性2人をナイフで惨殺した凶悪、悪質な犯行。改善更生の余地がないとはいえないが、極刑はやむを得ない」と述べた。
弁護人上告するも、本人取り下げ確定。  被告は高裁判決後、「殺害の意図や計画性を高裁が認めたのは事実と違うが、自分が2人を殺してしまったことは事実で、死刑が当然だと思う」と弁護人に話していた。
片岡清(74)  無職片岡清被告は2003年9月28日夜、広島県東城町に住む一人暮らしの女性(当時91)宅の物置部屋の窓を、ドライバーなどでこじ開けて侵入。寝室にいた女性が驚いて逃げようとしたため、首を手で絞めて殺害、室内を物色したが、何も見つからず逃走した。また片岡被告は、岡山県井原市のそば店店主の男性(当時76)方で2004年12月10日深夜、男性の頭部などをバールで殴って殺害し、現金約5万円などを奪った。 強盗殺人、強盗致死、住居侵入他 2006年3月24日
岡山地裁
松野勉裁判長
無期懲役
 裁判長は広島での事件について「被害者を一時的に気絶させるつもりだった」などとして殺意を否定し、強盗致死罪を適用。「金銭目当ての自己中心的な動機で二人の命を奪い、広島、岡山両県の高齢者を不安に陥れるなど社会的影響も大きい」としながらも「責任は極めて重大で死刑の求刑にも相当な根拠があるが、被害者の遺族に謝罪の手紙を送るなど、参酌すべき事情もある。矯正措置が全く不可能とまでは言えない」と理由を述べた。  2016年2月14日、病死。84歳没。
2008年2月27日
広島高裁岡山支部
小川正明裁判長
一審破棄・死刑
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 判決で裁判長は広島の事件について明確な殺意を認め、「強盗致死とした一審判決には事実誤認があった」とした。そして2件の事件は「いずれも経済的窮境を脱するために他人の生命までも踏みにじったもので、動機は理不尽で極めて身勝手かつ自己中心的。同情すべき点はいささかもない」と指弾した。そして「極刑をもって臨むほかない」とし、一審を破棄した。
2011年3月24日
最高裁第一小法廷
桜井龍子裁判長
被告側上告棄却、確定
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 裁判長は「金品目当ての犯行動機に酌量すべき点はなく、人命軽視の態度は強い非難に値する。犯行態様も執拗、残虐で、落ち度のない2人の命を奪った結果は誠に重大だ」と指摘、「高齢で、反省や謝罪の態度を示している点などを考慮しても、死刑はやむを得ない」と述べた。
熊谷徳久(65)  無職熊谷被告は2004年5月6日、東京駅のキヨスク集金事務所(実際は存在しない)を拳銃で襲撃するつもりだったが、目的の集金所を見つけることができず、腹いせのため午後5時頃、東京駅地下3階の機械室に灯油をまいてライターで放火。廃棄するため置いてあったエアコンやペンキ缶などを焼いた。
 5月27日、熊谷被告は現金を奪おうと横浜市内の警備会社事務所を襲ったが、何も奪うことはできなかった。
 5月29日深夜、熊谷被告は横浜中華街の中華レストラン経営者(当時77)を横浜市中区の自宅前で待ち伏せし、頭を拳銃で撃ち殺害。経営者が持っていた売上金約44万円入りのバックを奪った。
 2004年6月23日朝、熊谷被告は東京メトロ渋谷駅構内で駅員(当時32)の腹を拳銃で撃ち重傷を負わせ、持っていた洗面用具などの入った紙袋を奪って逃走した。
強盗殺人、強盗殺人未遂、強盗未遂、銃刀法違反、現住建造物等放火 2006年4月17日
東京地裁
毛利晴光裁判長
無期懲役
 裁判長は更正の可能性が低く、再犯の可能性が高いと述べながらも、殺害された被害者が一人だったことや、殺人など重大事件の前科がない、自首をした、被害者の家族らに謝罪の手紙を送っていることなどを考慮し、「死刑はいささか躊躇を感じざるを得ない」と判断した。ただ、「仮出獄については、犯行に照らして慎重な運用がなされるべきだ」と付言した。  熊谷被告は1996年1月、横浜市中区で銀行嘱託社員を工具で襲い、小切手を奪った強盗傷害事件で実刑判決を受け、2004年4月に出所したばかりだった。懲役刑を過去に10回受けている。
 2013年9月12日執行、73歳没。
2007年4月25日
東京高裁
高橋省吾裁判長
一審破棄・死刑
 裁判長は「拳銃が使用されて一般市民が標的になり、国民を恐怖に陥れた。他の凶器による犯行以上に危険かつ悪質で社会的な非難は強い」と指摘。「被害者の遺族らの憤激や悲嘆の念は計り知れない。また右ほおに拳銃を押し付けて発射した態様などから、死亡被害者一人だからといって死刑を回避するケースではない。一審は量刑判断を誤っており、破棄を免れない。10回懲役刑に処され、度重なる矯正教育にもかかわらず犯罪性向は深刻化しており、被害者が1人でも死刑をもって臨むほかない」と判決理由を述べた。
2011年3月1日
最高裁第三小法廷
田原睦夫裁判長
被告側上告棄却、確定
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 裁判長は、料理店主殺害と地下鉄渋谷駅での駅員銃撃事件について、「至近距離から発砲するなど、いずれも確定的殺意に基づいており冷酷で残忍」と非難。弁護側の「殺人の被害者は1人で死刑は重過ぎる」という主張については、「撃たれた駅員は右足が完全にまひするなど後遺障害に一生苦しむことになり、結果は重大」と退けた。そして「事業を起こすために大金を得るという身勝手な動機で1人を殺害し、1人に重傷を負わせた人命軽視の態度は強い非難に値し、死刑を是認せざるを得ない」と述べた。
M・H(66)  無職M被告は、2003年11月5日午後11時25分ごろ、東京都荒川区にある居酒屋で飲食代7,000円の支払いを免れようと、調理場にいた店長の男性(当時53)を殺害。現金約7,000円が入っていた手提げ金庫を奪った。M被告は事件直後の11月8日未明、京都市の飲食店で代金を支払わず店を出て、追い掛けた男性従業員2人の腹を刃物で刺して重傷を負わせたとして、殺人未遂の現行犯で京都府警に逮捕された。また2003年10月、名古屋市中区にあるスナックに客を装って入店し、女性経営者(当時42)を包丁で脅して、現金約8万円や預金通帳が入った財布を奪った。M被告は2003年2月頃から、全国各地で無銭飲食を繰り返していた。 強盗殺人、強盗殺人未遂他 2006年5月16日
東京地裁
栗原正史裁判長
無期懲役
 裁判長は「極刑にすべきだという検察官の意見には十分な理由があるが、被告の一連の犯罪で殺害されたのは1人で、刺された他の2人については未遂にとどまっている。計画的とも認められない。死刑選択にはちゅうちょを感じる。無期懲役に処せられれば、再び社会に復帰して凶行に及ぶ恐れはほとんどない」と述べた。  強盗致傷・殺人未遂前科(懲役13年)あり。
2006年12月20日
東京高裁
植村立郎裁判長
検察・被告側控訴棄却
 被告側は殺意を否認し、量刑不当を主張。検察側は死刑判決を求めた。
 裁判長は、殺人を起こすつもりで強盗に入ったとはいえないなどとし、「死刑が真にやむを得ないほど犯情が悪いとはいえない」と指摘。その上で「社会内で自立生活できない極めて危険な犯罪者。無期懲役の中でも最も重い中に位置する」と述べ、一審に続いて未決拘置日数を刑期に参入しなかった。
2007年1月7日
被告側上告取り下げ、確定

U・K(30)  愛媛県西伊予市の無職U被告(当時29)は2005年1月4日午後8時半頃、停車させた乗用車内で妻(当時23)の首を絞めて失神させた。さらに午後8時50分頃、包丁(刃渡り約14センチ)で首を刺し殺害。長男(当時5ヶ月)も首を切りつけて殺害した。U被告は妻にたびたび暴力を振るっていた。 殺人、銃刀法違反 2006年5月16日
松山地裁
前田昌宏裁判長
無期懲役
 裁判長は被告の自首行為について「捜査を容易にした面は明らか」と一定評価。長男の殺害を「身勝手な犯行」と断罪する一方、刺殺する際「顔を見ることができなかった」などとためらった行動を挙げ、確固たる殺意のあった妻への感情とは異なるとした。  
2007年2月13日
高松高裁
湯川哲嗣裁判長
検察側控訴棄却
 裁判長は「結果は極めて重大だが、冷徹に計画した犯行とまでは言えない」とした。
上告せず、確定。
T・Y(26)  静岡大生T被告は、末期ガンだった知人女性が2003年1月に静岡市内のクリニックで死亡したため、クリニックの医師に殺意を抱いた。2005年1月28日午後5時頃、クリニックに行ったが院長夫妻が不在であったため、クリニックの2階にあり、クリニックの医師の妻が経営している健康商品販売店に侵入。顔を見られたと思いこんで従業員の女性2名(当時60、当時57)の首を刃物で切りつけて殺害、売上金約6万6000円を奪った。 公務執行妨害、器物損壊、銃砲刀剣類所持等取締法違反、住居侵入、殺人、強盗殺人 2006年6月12日
静岡地裁
竹花俊徳裁判長
無期懲役
 T被告は強盗目的について否認。裁判長は、1人の女性については殺人罪が、もう1人の女性については強盗殺人が成立するとした。しかし、「現金を奪ったのは物取りの犯行に見せかけるため」とする弁護側主張を認め、物色した跡のある現場に多額の現金が残っていたことから「典型的強盗殺人事件とは趣を異にしている」とした。そして生い立ちに触れて「実父の虐待と愛情欠如の下で成長し、いじめを受け続けたという劣悪な成育環境が人格形成に悪影響を及ぼした」と指摘。前科前歴がない点や遺族への謝罪なども有利な情状に挙げ、「矯正可能性がないとは言えない」とした。参考人聴取の際に暴れ、警察官にけがを負わせたとして起訴された公務執行妨害などの罪については、判決は「行為は違法な警察官の行為に対するもの」とし、正当防衛が成立するとして無罪とした。  
2007年6月14日
東京高裁
大野市太郎裁判長
一審破棄・無期懲役
 裁判長は判決理由で「無抵抗な女性の首を刃物で切り裂いた犯行は残忍で刑事責任は重大で、極刑で臨むことを十分考慮しなければならない事案」と指摘。「しかし計画的とは言い難く、虐待を受けた境遇が偏った価値観の形成に影響を与えた可能性も否定できない。極刑に処することはためらわざるを得ない」と述べ、死刑を回避した。判決では、1件が強盗殺人、1件が殺人であるという一審の事実認定を踏襲。一審で無罪とした取り調べ時の警察官への暴行などの一部については公務執行妨害罪や器物損壊罪が成立するとして、有罪とした。
2008年9月29日
最高裁第三小法廷
那須弘平裁判長
検察・被告側上告棄却、確定
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死刑を求刑した検察側は「凶悪で二審判決は軽すぎる」と上告。被告側は「子供のころに父から受けた虐待が影響している」と有期刑を求めた。小法廷は「理不尽な動機に酌量の余地はなく、死刑選択も十分考慮される」と指摘したが、計画性がなく、不遇な生育歴が価値観に影響を与えた可能性を否定できないとして二審を支持した。
T・Y(34)  ペルー国籍で広島市安芸区に住む無職Y被告は、2005年11月22日、小学1年女児(当時7)を部屋に無理矢理連れ込み、わいせつ行為をした後、午後0時50分~1時40分頃までの間、首を手で締めるなどをして殺害。段ボール箱に入れてテープで封じ、自転車で近くにある広島市安芸区の空き地に運んで遺棄した。 殺人、強制わいせつ致死他 2006年7月4日
広島地裁
岩倉広修裁判長
無期懲役
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 弁護側は計画性を否定、心神喪失か耗弱の状態にあったと主張し、殺人と強制わいせつ致死については無罪を主張した。
 裁判長は殺意を認め、わいせつ目的の犯行と判断。被告の責任能力を認めた。しかし、1983年の最高裁判決が指摘した死刑選択の基準に触れながら、「被害者は1人にとどまっているほか、犯行が計画的でなく衝動的で、前科も認められない」と指摘し、「矯正不可能な程度までの反社会性、犯罪性があると裏づけられたとまではいえない」と述べて、死刑選択には疑念が残ると結論づけた。
 Y被告は1992、93年の計2回、ペルー国内で幼女暴行事件を起こしているが、1件は起訴猶予、1件は公判前に出国したため時効となっている。
2008年12月9日
広島高裁
楢崎康英裁判長
一審破棄・差し戻し
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 裁判長は判決理由で、女児の血液などの付着した毛布を、被告が「屋外に持ち出していない」と供述したと受け取れる調書について「弁護人が公判前整理手続きで任意性を争うとしたのに、一審は争点整理をまったくせず、当事者に任意性の主張すらさせないで証拠請求を却下した」と指摘。「供述が信用できれば、犯行は被告の部屋で行われたと認定でき、犯行態様などが相当明らかになる」とし、犯行場所を「被告のアパートおよびその付近」とした一審判決には事実誤認があるとした。その上で「一審は審理を尽くしておらず、訴訟手続き違反がある」と結論付けた。
2009年10月16日
最高裁第二小法廷
古田佑紀裁判長
二審破棄・差し戻し
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 被告側が上告。裁判長は、検察側が調書の証拠調べ請求の目的を「殺意や責任能力の立証」とし、「現場の立証」としなかった点などを踏まえ、「被告人質問の内容にまで着目し、任意性を立証する機会を与えるなどの措置をとるべき義務はない」と判断し、「二審は訴訟指揮の解釈適用を誤っている」と結論付けた。
2010年7月28日
広島高裁
竹田隆裁判長
検察・被告側控訴棄却
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 裁判長は判決理由でペルーでの性犯罪歴について「日本の前歴と同じ評価はできず、量刑判断の資料とはいえない」と指摘。また弁護側が否認していた殺意とわいせつ目的について裁判長はいずれも認定した。
上告せず確定。
I・F(58)  無職I被告は2005年12月9日午後11時ごろから翌日午前1時ごろにかけ、高知市のアパート自室で、同市で居酒屋を経営する女性(当時70)にわいせつな行為をした上、首を絞めて殺害した。被害者の女性はI被告を子どものころから知っており、仕事を紹介したり、金に困ったときは数万円を貸すなど親切に接しており、I被告はかねてから女性に好意を抱いていた。 強制わいせつ致死、殺人 2006年9月13日
高知地裁
永淵健一裁判長
無期懲役
 判決で裁判長は「強制わいせつは計画性が認められるが、殺害を意図するだけの動機を見いだし難い。確定的な殺意があったと認定するには合理的な疑いが残る」と述べ、殺意はあったものの未必の故意にとどまるとの判断を示した。さらに、被害者が1人であることや、無期懲役でも再犯防止の効果が期待できることなども死刑回避の理由に挙げた。  I被告は1973年に傷害の現行犯で逮捕された。1978年10月には強姦致傷事件を起こし、服役した。仮出所してわずか1ヶ月後の1981年5月、高知市内で知り合ったホステスの女性(当時40)を自宅に連れ込んで暴行した上、首を絞めて殺害。懲役12年の刑を受けて服役した。出所後の1997年、高知市内で女性を暴行、首を絞めて怪我を負わす事件を起こし懲役6年の実刑判決を受け、2003年5月に出所していた。服役歴は合計で20年になる。
2007年4月17日
高松高裁
柴田秀樹裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は、一審判決判決が「確定的殺意があったと認定するには合理的な疑いが残り、未必の殺意にとどまる」とした点について、「確定的殺意は有していた」と判断したが、「判決に影響を及ぼすとは言えない」と述べた。
2008年4月21日
最高裁第三小法廷
堀籠幸男裁判長
検察・被告側上告棄却、確定
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 裁判長は「結果は重大で死刑選択も十分考慮に値する事案だが、被害者への謝罪を表明しており計画性も認めがたい」と述べた。
K・K(55)  暴力団副組長のK被告は元同組幹部の太田賢治(現姓幾島)被告と共謀し、暴力団組長(当時56)が強引な組織運営をすることなどを疎ましく思い、別の元暴力団幹部伊藤稔(現姓藁科)被告、W元被告に殺害を指示したとされた。伊藤被告らは2000年7月13日、富山県高岡市の組長宅で夫婦を射殺した。 殺人、銃刀法違反 2006年11月21日
富山地裁
手崎政人裁判長
無罪
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 K被告は当初から共謀を否定、無罪を主張。検察側は論告で「犯行を計画した首謀者」と指摘。弁護側は最終弁論で「共犯者として関与した証拠はない」と無罪を主張していた。裁判長は、幾島被告が自分の刑事責任の軽減を図る強い動機があったとして、虚偽の供述をした可能性を指摘。「K被告から電話で殺害を指示されたとする共犯者の供述に信用性が認められない」と述べ、起訴事実の証明が不十分と結論付けた。幾島被告が「K被告は組長に恨みがあった」と供述した点も「K被告と組長夫婦は付き合いが長く、関係も良好だった。殺意まで抱いたとは認められない」とした。  指示を出した幾島賢治被告は死刑判決が2009年3月23日、最高裁で確定。実行者の藁科稔被告は死刑判決が2009年1月22日、最高裁で確定。2009年5月2日病死。56歳没。W元被告は2004年3月26日、富山地裁で一審懲役18年(求刑無期懲役)判決がそのまま確定。
2008年4月17日
名古屋高裁金沢支部
青木正良裁判長
検察側控訴棄却(無罪
 第1回控訴審で、検察側が「原判決は、証拠認定の取捨選択について事実誤認があった」と控訴趣意書を提出し、被告人質問などを申請したが、裁判長は「審理は尽くされている」などとして却下、即日結審した。
 裁判長は判決理由で、争点となった幾島被告の供述について「不自然、不合理な点が多々ある」と指摘。検察側の主張を退け、「原判決に事実誤認はない」と結論付けた。
上告せず確定。
A・S(29)  架空請求詐欺グループの「部長」であったA被告は、「社長」清水大志被告や「部長」渡辺純一被告、伊藤玲雄被告の指示に従い、他の仲間と共謀。伊藤被告の部下であった船橋市の飲食店員の男性Nさん(当時25)ら4人が、幹部らに比べて極端に分け前が少ないことに不満を募らせ、中国人マフィアを利用して清水被告ら幹部を拉致し現金を強奪しようと計画したことを知り、2004年10月14~16日の間、東京都新宿区の事務所内に男性4人を監禁した。その際、1人に熱湯をかけ、別の1人の口を粘着テープでふさぐなどして死亡させ、残る2人の口を粘着テープを巻いたうえで、鼻をふさぐなどして殺害。暴力団に依頼し、4人の遺体を茨城県内の山林に埋めさせた。 殺人、傷害致死、死体遺棄、逮捕監禁他 2007年5月21日
千葉地裁
彦坂孝孔裁判長
無期懲役
 検察側は3人について殺人、1人について傷害致死の罪で起訴したが、判決は2人について殺人、2人について傷害致死とした。裁判長は「人命を全く軽視した非道な犯行で、主導的に殺害行為をした責任は極めて重大だ」と述べたが、A被告については一部で自首が成立すると認めた上、「伊藤被告らの言動に影響された面があった」として死刑を適用しなかった。  殺人や傷害致死、死体遺棄や監禁などの罪で18人が起訴されている。12人は無期懲役~1年2ヶ月の実刑判決、2人に執行猶予付の有罪判決が出ている。清水大志被告は求刑通り一・二審死刑判決が最高裁で確定。渡辺純一被告は一審無期懲役判決も二審で死刑判決が最高裁で確定。伊藤玲雄被告は求刑通り一・二審死刑判決が最高裁で確定。
2009年8月18日
東京高裁
長岡哲次裁判長
検察・被告側控訴棄却
 判決で裁判長は「冷酷で残忍な犯行。だが被告の自首が被害者の遺体発見につながっており、死刑がやむを得ないとまでは言い難い」と述べた。検察側は殺害3人、傷害致死1人と主張したが、裁判長は「殺意があったとは認められない」と主張を認めず、殺害2人、傷害致死2人と認定した一審判決を踏襲した。
2009年10月19日
被告側上告取り下げ、確定

I・H(25)  山形県飯豊町の会社員I被告は、カメラ店経営者の長男から小学4~5年の時、性的いじめを受けた。その時は嫌と思うだけだったが、中学生になって意味がわかり、怒りと悔しさがこみ上げるようになった。数年前に実家に戻り、我慢ができなくなり殺害を決意。2006年5月7日午前3時45分頃、自宅から約30mのカメラ店経営者宅に無施錠の玄関から模造刀(刃渡り約43センチ)を持って侵入。寝ていた経営者の男性(当時60)と長男(当時27)を刃物で刺したり素手で殴ったりして殺害。男性の妻で看護師の女性(当時54)も頭や腰などに重傷を負った。女性は襲われた後、自力で逃げ出して隣家に駆け込み、110番通報をした。I被告は逃走したが、同日夜、県警に逮捕された。 殺人、殺人未遂他 2007年5月23日
山形地裁
金子武志裁判長
無期懲役
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判長は、傷の深さや攻撃の執拗さなどから3人全員に対する確定的殺意があったと認定した。争点だった被告が小学生だった15年前、長男から受けた性的ないじめの影響について「心的外傷後ストレス障害(PTSD)に罹患したと認められないが、可能性は否定できない」と述べる一方「責任能力はあった」とした。そして「犯行には衝動的な部分もある。更生の余地が相当程度残されており、贖罪の生活を送らせることが必要と判断した」「犯行に10年以上前の性的暴行が大きく影響していることは否定できず、極刑を選択することはできない」と理由を述べた。
2013年1月15日
仙台高裁
飯渕進裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は、「被告は事件当時、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に罹患していた」と認定した上で、「PTSDの症状による解離状態が犯行に与えた影響は間接的かつ限定的」と指摘。「犯行はあまりに短絡的で、事件の責任は重大だ」と述べた。
2013年5月10日
被告側上告取り下げ、確定

渡辺純一(30)  架空請求詐欺グループの「部長」であった渡辺純一被告は、「社長」清水大志被告や「部長」A被告、伊藤玲雄被告や、他の仲間と共謀。伊藤被告の部下であった船橋市の飲食店員の男性Nさん(当時25)ら4人が、幹部らに比べて極端に分け前が少ないことに不満を募らせ、中国人マフィアを利用して清水被告ら幹部を拉致し現金を強奪しようと計画したことを知り、2004年10月14~16日の間、東京都新宿区の事務所内に男性4人を監禁した。その際、1人に熱湯をかけ、別の1人の口を粘着テープでふさぐなどして死亡させ、残る2人の口を粘着テープを巻いたうえで、鼻をふさぐなどして殺害。暴力団に依頼し、4人の遺体を茨城県内の山林に埋めさせた。 殺人、傷害致死、死体遺棄、逮捕監禁他 2007年8月7日
千葉地裁
彦坂孝孔裁判長
無期懲役
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 渡辺被告については「首謀者ではなく、清水被告らに事の成り行きを任せていた」と裁判長は判断した。検察側が殺人罪の適用を求めた被害者3人のうち1人の死亡について、傷害致死罪に該当すると判断した。  殺人や傷害致死、死体遺棄や監禁などの罪で18人が起訴されている。13人は無期懲役~1年2ヶ月の実刑判決、2人に執行猶予付の有罪判決が出ている。清水大志被告は求刑通り一・二審死刑判決が最高裁で確定。伊藤玲雄被告は求刑通り一・二審死刑判決が最高裁で確定。
2009年3月19日
東京高裁
長岡哲次裁判長
一審破棄・死刑
 控訴審判決は、「事件が重大化したのは、渡辺被告によるところが大きい」と認定した。そして「4人を監禁した後、『殺すしかない』と積極的に発言し、グループでの影響力も大きかった。渡辺被告は反省の念が乏しく、改善・更生が著しく困難。犯行は執拗で残忍。刑事責任は極めて重大」として、死刑を選択した。
2013年1月29日
最高裁第三小法廷
岡部喜代子裁判長
被告側上告棄却、確定
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判長は、「4人の命が失われた結果は重大。被告は犯行の中核メンバーで、殺害の実行を指示するなど重要な役割を果たしており、死刑はやむを得ない」と述べた。
H・N(31)  静岡県沼津市の元暴力団組員H被告は、2003年3月11日未明、車を運転中に三島市内の国道交差点で、赤信号で停止していた同県裾野市に住む金属加工会社社長の男性(当時49)の車に追突。口論となり、近くの駐車場で男性の心臓を狙って拳銃を5発発射して殺害した。さらに遺体を函南町の山中に遺棄、男性の車を埋めるなどして隠ぺいを図った。H被告は当時、無車検・無保険の車を飲酒運転しており、覚せい剤の使用や拳銃を所持していた。 殺人、銃刀法違反他 2007年9月11日
静岡地裁沼津支部
原啓裁判長
無期懲役
 裁判長は「自己中心的かつ身勝手な動機に酌むべき事情は全く見当たらない」と厳しく批判したが、殺害が交通事故という偶然に端を発しており計画性がないことや、被害者が多数でない点などを挙げ、「矯正の可能性が皆無であるとは断定できない。極刑にはちゅうちょを覚える」と述べた。服役後の仮釈放について「被害者の遺族から意見を聴取して意向を十分に尊重することを特に希望したい」と述べ、被害感情への配慮を付け加えた。  死体遺棄は時効が成立している。H被告は2003年4月に覚せい剤取締法違反で逮捕され、服役中。
2008年3月13日
東京高裁
安広文夫裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は判決理由で「落ち度のない一般市民に対し、至近距離から執拗に拳銃を撃つなど極めて身勝手な犯行」とした一方、「暴力団組長との養子縁組関係を解消するなど矯正可能性はあり、原判決の量刑が軽すぎるとは言えない」などと述べた。
上告せず確定。
T・E(35)  滋賀県長浜市の主婦T被告は、長女(当時5)と近所の園児らを送迎する「グループ送迎」当番だった2006年2月17日午前9時頃、同市の農道に軽乗用車を止め、後部座席に乗っていた女の子(当時5)と男の子(当時5)を刺し身包丁(刃渡り約21センチ)でそれぞれ約20ヶ所刺し、出血性ショックにより殺害した。長女も同じ車の中にいた。 殺人、銃刀法違反他 2007年10月16日
大津地裁
長井秀典裁判長
無期懲役
 裁判長は被告に殺意があったと判断した。しかし、統合失調症の影響により心神耗弱の状態において行われた」とし、「終生をもって罪の償いをさせるべきものというほかはない」として無期懲役を言い渡した。  T被告は精神的に不安定になって2003年9月~2005年10月、通院や入院をしていた。精神鑑定では犯行当時、心神耗弱状態であったとされた。
2009年2月20日
大阪高裁
森岡安広裁判長
検察・被告側控訴棄却
 責任能力の評価が争点だった。判決で裁判長は「犯行時、統合失調症の影響で心神耗弱状態だったとした一審判決に誤りはない」と指摘。量刑についても「精神症状に影響されていたから、直ちに被告を責められない面もあるが、被害者からすれば理不尽極まりない」とした上で、「犯行は計画的で著しく残虐。刑事責任は重大だ。重過ぎるとは言えない」と一審を追認した。
上告せず確定。
N・K(37)  N・K被告は2001年1月17日午前3時過ぎ、広島市西区の自宅1階で寝ていた飲食店経営の母親(当時53)の首を両手で絞めて殺害。家に灯油をまいて火を付け、木造2階建て住宅を全焼させた。2階で寝ていた長女(当時8)と二女(当時6)も焼死させ、3人の死亡保険金など計約7300万円をだまし取ったとされた。
 またN被告は元妻であるC元被告と共謀して児童扶養手当をだまし取ろうと計画。実質的には結婚生活を続けているのに2000年5月29日、協議離婚したとする戸籍謄本を児童扶養手当認定請求書に添えて提出するなどして児童扶養手当約11万円をだまし取った。さらに、同年9月、安佐南区役所に虚偽の児童扶養手当現況届を提出するなどして、同年12月から2001年8月までに約64万円をだまし取った。
 N被告は事件から5年後、詐欺事件で逮捕。拘留中に保険金殺人を認め、起訴された。
現住建造物等放火、殺人、殺人未遂、詐欺 2007年11月28日
広島地裁
細田啓介裁判長
無罪
 N被告は捜査段階で犯行を認める供述をしていたが、公判で起訴事実を否認。「動機も当時現場にいたという証拠もない。自白調書は任意性、信用性がない」と無罪を主張した。裁判長は判決理由で、犯行を認めた捜査段階の自白調書の任意性や信用性を検討。「任意性に疑いはなく、客観的な証拠と整合しているところも多々あり、信用性もある程度認められる」と指摘したが、「より詳細に検討すると、犯人が被告と断定することはできない」と述べた。裁判長は判決言い渡し後、N被告に「シロではない、灰色かもしれないが、クロとは断言できない。冤罪を防ぐための刑事裁判の鉄則を守った。『疑わしきは被告人の利益に』を厳格に適用した」と呼び掛けた。  元妻のC被告は詐欺罪で起訴され、2006年8月7日、広島地裁で懲役2年執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決が言い渡され、確定している。
 求刑死刑に対する一・二審無罪判決が最高裁で確定したのは、三鷹事件の2名以来。
2009年12月14日
広島高裁
楢崎康英裁判長
検察側控訴棄却(無罪
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判決理由で「『灯油をまいて放火した』と供述しながら、本来見つかるはずの灯油成分が着衣などから検出されないなど、自白の信用性に見過ごせない疑問が生じている」と指摘。さらに、妹との接見時の発言や手紙を通じ、犯行を告白したとする検察側主張について「自白内容への疑問は解消されず、状況証拠だけでは被告を犯人と認定できない」として退けた。
2012年2月22日
最高裁第一小法廷
金築誠志裁判長
検察側上告棄却、確定(無罪
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 小法廷は(1)自白内容が母の死因など客観的な証拠と一致(2)逮捕前から起訴まで自白を維持(3)妹に「極刑になる」と手紙を送っている――などを挙げ「信用性は相当に高いという評価も可能」とした。
 しかし、保険金目当てなのに契約や額について漠然とした認識しかなかったことや、放火時にまいたとされる灯油が被告の服に付着していなかったことなどを不自然として信用性を否定した二審判決の評価を「論理則、経験則に違反するとはいえない」と支持した。そして「被告が犯人である疑いは濃いが、自白内容の不自然さは否定できない」と言及をした。
N・K(66)  神戸市のテレホンクラブを経営していたN・K被告は1999年12月ごろ、神戸市内で経営するテレホンクラブの営業をめぐり、ライバル関係にあったテレホンクラブ「リンリンハウス」の営業を妨害しようと、広島市の覚せい剤密売グループ会長S被告に1,000万円で犯行を依頼した。S被告はS受刑者、K受刑者、H被告に犯行を指示。3人は2000年3月2日午前5時5分頃、乗用車で神戸駅前店に乗りつけ、一升瓶で作った火炎瓶1本を店内に投げ込んで同店の一部を焼き、店員1人に軽傷を負わせた。10分後には東約1キロの元町店に2本を投げ込んでビル2、3階部分計約100平方メートルの同店を全焼させ、男性客4人を一酸化炭素中毒で殺し、店員ら3人に重軽傷を負わせた。N被告はS被告の求めに応じ、犯行後、報酬や逃走資金などとして計約1億100万円を渡した。 殺人、現住建造物等放火他 2007年11月28日
神戸地裁
的場純男裁判長
無期懲役
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 N被告は逮捕当初から全面否認。判決で裁判長は、N被告が実行グループのリーダーに犯行を依頼したとする下見役とされたN被告の供述について、「謀議の内容などは具体的で臨場感にあふれ、信用できる」と指摘し、N被告の共謀共同正犯の成立を認定。さらに未必の殺意を認めた。しかし裁判長は「死者が出ることは本意ではなく、殺意の程度は低く、生涯罪を償わせるのが相当」などと述べた。  実行グループのリーダーで仲介役のS被告は無期懲役(求刑死刑)判決が2013年に確定。実行犯S被告は無期懲役判決(求刑死刑)が2006年に確定。実行犯K被告は求刑通り無期懲役判決が2006年に確定。運転手H被告は一・二審懲役20年(求刑無期懲役)。手引き役のN被告は二審で懲役6年(求刑懲役15年)判決が最高裁で確定。
2009年3月3日
大阪高裁
的場純男裁判長
検察・被告側控訴棄却
 N被告は一審同様無罪を主張。裁判長は一審判決を認定し、N被告の無罪主張を退けた。また未必の殺意があったことは否定できないが、その程度は高くないとして検察側の死刑主張も退けた。
2010年8月25日
最高裁第一小法廷
横田尤孝裁判長
被告側上告棄却、確定

H・S(35)  秋田県藤里町の無職H被告は2006年4月9日午後6時45分頃、自宅から約3km離れた川にかかる橋の欄干(高さ約1m15cm)の上に川の方を向いて腰掛けた長女(当時9)が「怖い」と言いながら上半身をひねり、背後にいた被告に抱きつこうとしてきた瞬間、とっさに殺意をもって、左手で払うようにその身体を押し返し、長女を欄干の上から約8m下の藤琴川に落下させ、長女を溺水により窒息死させて殺害した。
 さらにH被告は5月17日午後3時半頃、2件隣に住む小学1年生の男児(当時7)を下校途中に自宅玄関に呼び入れ、殺意を持って後ろから腰ひもで首を絞めて窒息死させた。H被告は遺体を軽乗用車の荷台に乗せて、同4時5分ごろ、約10km離れた能代市の草むらに遺棄した。
殺人、死体遺棄 2008年3月19日
秋田地裁
藤井俊郎裁判長
無期懲役
 公判前整理手続きの適用により、争点は以下の4つに絞られた。(1)長女への殺意と実行行為の有無(2)長女の死亡原因に関する健忘の有無と程度(3)男児に対する殺害、死体遺棄当時の完全責任能力の存否(4)捜査段階の自白の任意性。
裁判長は長女への殺意を認め、H被告の健忘を否定した。また男児に対する完全責任能力を認定し、捜査段階の自白の任意性を認めた。しかし、2人に対する計画性を否定し、更正の余地は残されているとして、無期懲役を選択した。
 長女殺人事件では、最初に事故死と断定した秋田県警の初動捜査ミスが指摘された。2006年9月4日、秋田県警本部長が県議会で捜査不備を認めた。
2009年3月25日
仙台高裁秋田支部
藤井俊郎裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は長女への殺意を認め、H被告の健忘を否定した。また男児に対する完全責任能力を認定し、捜査段階の自白の任意性を認めた。しかし「結果は重大で極めて凶暴かつ卑劣な犯行だが、利欲的目的を伴うものではなく、著しく執拗、残虐ではない。最高裁で死刑が相当とされた事案と比べると、当然に死刑を選択すべき事案であるとは必ずしも言えない」と述べた。
2009年5月18日
被告側上告取り下げ、確定

岩森稔(62)  埼玉県狭山市の無職岩森稔被告は2007年2月21日午後、顔見知りである本庄市の無職男性方で、男性(当時69)と妻(当時67)の頭などを鈍器で殴って殺害し、少なくとも現金1万円を奪った。また岩森被告は2月15日午後、同市内の知人男性方で、約1万円入りの財布を盗んだ。
 岩森被告は運送会社を経営していたが2004年頃に倒産。移転後も現場付近をたびたび訪れ、知人らに金を無心していた。
強盗殺人、殺人他 2008年3月21日
さいたま地裁
飯田喜信裁判長
無期懲役
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 検察側は2件とも強盗殺人で起訴。鈍器や針金等を持ち込んでいることから、犯行は計画的だったとした。
 岩森被告側は、現金を借りようとしたとして強盗目的を否定。男性殺害については借金を断られ、腹を立てて殺害した殺人罪と主張した。
 裁判長は「強盗目的で凶器を持参するなど、計画的な犯行。身勝手な動機で結果も重大」としたが「当面の生活費が目的で、夫婦殺害に計画性は認められない」「犯行は計画的とは言えず、死刑を選ぶには躊躇せざるを得ない」と述べた。
 2021年12月11日、東京拘置所で病死。76歳没。
2009年3月25日
東京高裁
若原正樹裁判長
一審破棄・死刑
 判決で裁判長は「夫婦宅を訪問した当初から、2人の殺害、強盗を計画していた」と一審の認定は誤りと述べた。そして「近所付き合いをしていた2軒隣の落ち度のない夫婦の頭や顔をめった打ちにした残虐な犯行で、真摯な反省も認められず、極刑をもって臨むしかない」と述べた。
2012年3月2日
最高裁第二小法廷
竹内行夫晴裁判長
被告側上告棄却、確定
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 判決は「定職に就かず金に困った動機や経緯に酌量すべき点はない。緊縛用の針金や凶器を事前に準備した計画性に加え、頭部など多数の部位を骨折させ、執拗で残忍。2人の生命を奪った結果も重大だ。刑事責任は極めて重く、死刑もやむを得ない」とした。
S・T(61)  指定暴力団会長代行Sは、長崎市長選挙期間中だった2007年4月17日午後7時52分ごろ、JR長崎駅近くの選挙事務所前で、4選を目指して立候補していたI前長崎市長(当時61)の背後に忍び寄り、所持していた拳銃で銃弾2発を発射した。伊藤前市長は心配停止状態で長崎大付属病院に運ばれたが、午前2時28分、大量失血のため死亡した。城尾被告は選挙事務所関係者にその場で取り押さえられた。Sは2003年2月、工事中の市道で自分の車が路面の穴にはまり、破損する事故を起こしており、市に修理代60万円の支払い要求をした。その後、主張はエスカレートし、総額200万円以上を求めてきた。市は「賠償する責任はない」として拒否したが、電話や面会は2004年秋までに約50回に及んだ。Sはこの件で伊藤前市長を刑事告発していたが、長崎地検は2004年に不起訴としている。他にSの知人が経営する建設会社が2002年、市の制度を利用して銀行から融資を受けようとして断られた件でも恨んでいた。 殺人、公職選挙法違反他 2008年5月26日
長崎地裁
松尾嘉倫裁判長
死刑
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 判決で裁判長は「市への不正追及だった」との被告側の主張を退けた。そして動機を「当選を阻止して市への恨みを晴らし、社会を震撼させて力を誇示しようとしたと推認できる」と指摘した。犯行について「選挙民の選挙権行使を否定するものだ。選挙妨害としてこれほど直接かつ強烈なものはない」と指摘。「I前市長が命を奪われる理由はなく、逆恨みの経緯は自己中心的だ」と述べた。さらに背後の至近距離から銃弾2発を撃ち込んだとし、「冷酷かつ残忍、凶悪で卑劣この上ない。通行人らを巻き込みかねない危険もあった」と指摘。被害者が1人にとどまることを考慮しても、民主主義を根底から揺るがす犯行であり、結果の重大性などから極刑を科すことはやむを得ないと述べた。  立候補した政治家が選挙期間中に殺害されたのは戦後初。
2009年9月29日
福岡高裁
松尾昭一裁判長
一審破棄・無期懲役
 判決で裁判長は動機を「被告の不当要求を拒否した長崎市の首長である被害者への怨恨」とし、犯行態様も「暴力団犯罪の典型で極めて悪質」と断じた。争点の一つだった計画性についても「用意周到ではないものの、十分に準備した上での計画的犯行」と認定し、事件を「民主主義の根幹をなす選挙制度をないがしろにするもの。行政対象暴力として極めて悪質」と位置づけた。一方で、「恨みを晴らそうという思いから犯行に及んだもの」として「選挙妨害そのものが目的だったとまではいえない」と指摘。暴力団組織を背景とした犯行ではないことや、被告が経済的に困窮するなどして自暴自棄になって暴発した側面があることなどを挙げた。そして「死刑を選択することについてはなお躊躇せざるを得ない。原判決は重すぎる」と結論づけた。
2012年1月16日
最高裁第三小法廷
寺田逸郎裁判長
検察・被告側上告棄却、確定
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判長は、双方の主張を「刑事訴訟法の上告理由に当たらない」と退けた上で理由を付言。二審判決が死刑判決を回避した点を「肯定できないわけではない」と述べた。一方で犯行の悪質性にも言及。被告の行動を批判したうえで、「無期懲役の判断が量刑面で甚だしく不当とはいえない」と述べた。
I・M(31)  茨城県土浦市の無職I被告(28)は2004年11月24日正午頃、土浦市内の自宅で母(当時54)、姉(当時31)を包丁や金づちで殺害。さらに、同日午後5時半頃に帰宅した同市立博物館副館長の父(当時57)の頭を金づちで殴るなどして殺害した。母親の遺体近くには、おいにあたる姉の長男(11ヶ月)が座っていた。
 I被告は専門学校中退後、19歳ごろから自宅に引きこもっていた。職に就かないことを巡って父からしっ責され、口論になったことから殺害を考えるようになり、包丁や金づちを購入。犯行当日は、里帰り中の姉と口論になり、暴力をふるったのをきっかけに殺害を決意した。
殺人 2008年6月27日
水戸地裁土浦支部
伊藤茂夫裁判長
無罪
 検察側は約4ヶ月の鑑定留置の結果、「刑事責任能力は問える」と判断して起訴。弁護側が請求した精神鑑定の結果、I被告は24歳ごろから統合失調症に罹患していた、などとしたうえで、〈1〉被告は事件当時、心神耗弱状態で、心神喪失だった可能性も否定できない〈2〉統合失調症が現在も悪化の一途をたどっており、治療の必要がある、などと指摘した。
 判決で裁判長は「長期間の引きこもり生活により、父親に殺されるという妄想が次第に悪化。犯行時は物事の善悪を認識して行動する能力を失っていた」と指摘。「被告は統合失調症で、心神喪失だった」とした。

2009年9月16日
東京高裁
植村立郎裁判長
一審破棄・無期懲役
 控訴審でも精神鑑定が実施され、「心神耗弱で限定的に責任能力があった」と指摘された。
 判決で裁判長は玄関に鍵をかけ、勝手口から帰るように仕向けて父親を殺害するなど一貫性のある行動を取っており、110番通報して自首するなど犯行の違法性を理解していたと指摘。善悪の認識能力などが著しく低下していたとしても、全くなかったとは言えないと判断した。その上で「犯行当時は心神耗弱で、善悪を判断して行動する能力が完全に失われていたわけではない」と被告が統合失調症だったと認めた上で責任能力の存在を部分的に認定。3人の殺害は残虐、冷酷で、刑事責任は極めて重大だと述べた。
2012年1月6日
最高裁第三小法廷
白木勇裁判長
被告側上告棄却、確定

Y・M(39)  埼玉県北葛飾郡のY被告は2007年7月18日午前3時ごろ、埼玉県杉戸町にあるファミリーレストランの駐車場に飲食店アルバイトの女性(当時44)を呼びだし、借金約200万円の返済7月分を払えないと告げたところ、全額を返済するように言われた。2人はY被告の乗用車に乗り、駐車場から殺害現場となった路上まで移動。Y被告は女性の頭を鉄製フェンスに打ち付け、殴るけるの暴行を加えて頸髄を損傷させた上、首などを持参していたハサミで数回刺して殺害した。レストラン駐車場に戻って女性の車からカーナビや携帯電話などを持ち去り、自宅へ帰って妻にカーナビや返り血のついたTシャツを鷲宮町内の川に捨てさせた。他に殺人未遂1件、強姦致傷1件、妻への暴行1件、窃盗2件がある。 わいせつ略取、監禁、強姦致傷、殺人、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、窃盗、暴行 2008年9月4日
さいたま地裁
若園敦雄裁判長
無期懲役
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 検察側は改善更生の可能性はないとして死刑を求刑。弁護側は殺人事件について正当防衛を主張。他の事件についても、多量の飲酒による心神喪失を主張した。
 判決で裁判長は、「女性が抵抗困難な状態で切り付けた」と弁護側の正当防衛主張を退けた。その上で「犯行は執よう、かつ強力で残虐。人を人と思わない悪鬼のごとき所業。女性を人間として扱う気持ちがあったとは到底考えられない」と述べたが、計画性は認められず、「殺害は無差別ではなく、知人に対する偶発的な犯行だった。ゆがんだ人格を矯正する余地が完全にないとまではいえない」とし、死刑を回避した。

2009年9月30日
東京高裁
若原正樹裁判長
検察側控訴棄却
 裁判長は「殺人事件では、経済的利益を得る目的や、用意周到な計画性までは認められない」と指摘。ほかの女性三人に対する事件も含め「犯行は悪質だが異常な殺人者とまではいえず、矯正不可能と断定するには疑念が残る」などとして退けた。
上告せず確定。
G・S(45)  青森県八戸市の無職G被告は2007年12月18日午前7時ごろ、八戸市の自宅で寝ていた父(当時76)の頭や胸などをハンマー(長さ87.5cm、重さ4.7kg)で何度も殴って殺し、現金約24,000円とローンカード1枚を奪い、水の張った1階浴槽内に遺体を隠した。また後日、奪ったカードで現金計173万円を引き出した。
 G被告は2007年9月下旬まで父親と同居していたが、トラブルを起こし、父親の口座から約128万円を引き出して家出。その後、金に困って同日早朝に帰宅し、犯行に及んだ。G被告は事件前から定職に就かずパチンコなどを繰り返しては、父親の預金を数回、計400万円を勝手に引き出していた。
強盗殺人他 2008年9月4日
青森地裁
渡邉英敬裁判長
無期懲役
 判決で裁判長は「犯行は悪質で結果は重大」「動機は短絡的で身勝手極まりない」と非難。犯行態様についても「極めて強固な殺意に基づき、執拗で残虐」としたが、「周到な計画性は認められない」「謝罪の意思を示し、更生意欲の兆しが見える」として死刑を回避した。  過去に住居侵入や窃盗などの罪で刑務所に服役している。
2009年5月26日
仙台高裁
志田洋裁判長
検察側控訴棄却
 裁判長は「残虐非道な犯行だが、安易かつ粗雑で、周到に計画したとはいえない。更生の兆しもある」と退けた。
上告せず確定。
S・A(48)  神戸市のテレホンクラブを経営していたN・K被告は1999年12月ごろ、神戸市内で経営するテレホンクラブの営業をめぐり、ライバル関係にあったテレホンクラブ「リンリンハウス」の営業を妨害しようと、広島市の覚せい剤密売グループ会長S・A被告に1000万円で犯行を依頼した。S被告はS受刑者、K受刑者、H被告に犯行を指示。3人は2000年3月2日午前5時5分頃、乗用車で神戸駅前店に乗りつけ、一升瓶で作った火炎瓶1本を店内に投げ込んで同店の一部を焼き、店員1人に軽傷を負わせた。10分後には東約1キロの元町店に2本を投げ込んでビル2、3階部分計約100平方メートルの同店を全焼させ、男性客4人を一酸化炭素中毒で殺し、店員ら3人に重軽傷を負わせた。N被告はS被告の求めに応じ、犯行後、報酬や逃走資金などとして計約1億100万円を渡した。
 他にS被告は2004年2月9日午前0時5分頃、広島市中区の広島東署正面玄関に向けて拳銃を1発発射し、自動ドアのガラス2枚(189000円相当)を割った。
殺人、現住建造物等放火他 2008年12月8日
神戸地裁
岡田信裁判長
無期懲役
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 S被告は逮捕当初から全面否認。判決で裁判長は、S被告がN被告から依頼を受け、S受刑者ら犯行を指示したと認定。しかし「殺意は未必の故意に止まっており、程度は低い。生涯、罪を償わせるのが相当」と死刑を回避した。同じく審理されていた広島東署発砲事件では無罪判決を言い渡した。  実行犯S被告は無期懲役判決(求刑死刑)が2006年に確定。実行犯K被告は求刑通り無期懲役判決が2006年に確定。運転手H被告は一・二審懲役20年(求刑無期懲役)。依頼したN被告は無期懲役判決(求刑死刑)が2010年に確定。手引き役のN被告は二審で懲役6年(求刑懲役15年)判決が最高裁で確定。
2011年5月24日
大阪高裁
的場純男裁判長
一審破棄・無期懲役
 被告側は一審に続き「共謀の事実はない」と無罪を主張、検察側は死刑判決を求めた。
 裁判長は一審判決について「殺人や放火について有罪とした部分は正当」と判断したが、銃刀法違反罪を無罪とした部分が誤りだとして破棄。「被告の指示で撃ち込んだとするメンバーの供述は信用できない」として無罪とした一審の判断を覆し、「火炎瓶の使用を提案したというメンバーの供述は信用できる」と指摘した。そのうえで量刑を検討し、「火炎瓶の大きさなど、具体的なことは認識していなかった。火炎瓶を投げ込むことで多数の死傷者が出るとは予想していなかった」などとして死刑を回避した。
2013年7月8日
最高裁第三小法廷
岡部喜代子裁判長
被告側上告棄却、確定。

O・H(52)  愛知県長久手町の元暴力団組員O被告は2007年5月17日午後、自宅別棟に元妻(当時50)を監禁。駆けつけた県警愛知署長久手交番の巡査部長や長男、次女に発砲して重傷を負わせた。さらに巡査部長救出で特殊部隊(SAT)が突入した際、現場近くの路上で警戒に当たっていた機動隊員の巡査部長(当時23)に発砲し死亡させた。 殺人、殺人未遂、公務執行妨害、銃刀法違反、監禁、傷害 2008年12月17日
名古屋地裁
伊藤納裁判長
無期懲役
 裁判長は判決理由で、死亡した巡査部長の発砲について「誰かに弾丸が当たって死亡する危険性は認識していた」と殺意を認定する一方、「積極的に狙ったとまではいえない」と判断した。また重傷を負った巡査部長と長男に対しては確定的な殺意を認定し、次女への殺意は認めなかった。薬物の大量服用で心神耗弱状態だったとの弁護側の主張については「行動は合理的で完全責任能力が認められる」と退けた。そして「被告の人命軽視の態度は甚だしいが、綿密に計画された犯行ではない。一生、自らの行為が引き起こした結果の重大性に思いを至らせ、償いを続けさせるべきだ」とした。
2009年9月29日
名古屋高裁
片山俊雄裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は被告を厳しく批判した。しかし一審同様、警部に対する確定的な殺意は認めず、「犯行は短絡的、場当たり的に敢行された」とも指摘し、「一連の犯行が綿密、周到な計画に基づくとは言い難く、警察官の殺害については偶発的な要素もあるなど死刑が相当と断ずることはできない」と述べた。
2011年3月22日
最高裁第三小法廷
那須弘平裁判長
検察・被告側上告棄却、確定
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判長は「刑事責任は重大で、死刑にするべきだとする検察側の上告理由も理解はできる」としたが、「警察官1人を殺害した犯行は、死亡してもやむを得ないという程度の殺意にとどまり、周到な計画性もなく、遺族らに謝罪の態度も示している」と指摘。「一、二審の判断を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない」とした。
H・T(61)  岐阜県中津川市の市職員H被告は2005年2月27日午前7時半頃、自宅で寝ていた整体業の長男(当時33)、母(当時85)の首をネクタイで絞めて殺害。同日午前11時頃、近くに住む長女(当時30)と長女の長男(当時2)と長女(当時3ヶ月)の3人を車で自宅に連れてきて、ネクタイで首を絞めて殺害した。さらに約2時間後、長女の夫(当時39)も包丁で刺し、2週間の軽傷を負わせた。他に飼い犬2匹も殺害している。H被告はその後、自分の首を包丁で刺し自殺を図った。H被告の妻は不在だった。 殺人、殺人未遂 2009年1月13日
岐阜地裁
田辺三保子裁判長
無期懲役
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 起訴事実については争われず、事件当時の責任能力が争点となった。検察側申請の鑑定では責任能力があったと説明。弁護側申請の鑑定では、H被告が妄想性障害、急性一過性精神病性障害であり、心神耗弱が責任能力が限定されると主張した。
 判決で裁判長は「完全責任能力があった」とする鑑定を採用した。そして「一方的思いから孫までも殺し、誠に身勝手、自己中心的だ」と指摘。一方で「精神的に追い詰められた末の一家心中で、私利私欲に基づいておらず、一抹の酌量の余地がある。極刑の選択には躊躇が残る」と述べた。

2010年1月26日
名古屋高裁
片山俊雄裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は犯行に周到な計画性がなく、被告が反省を深めていることや、前科や前歴がなくまじめに社会生活を送ってきたことを指摘。「5人の命を奪った責任は重大だが再犯のおそれは考えがたく、死刑にするにはためらいが残る。残りの人生を全うさせ、被害者らの冥福を祈らせ償いにささげさせることも不合理とは言えない」として検察側の控訴を退けた。また心神耗弱状態であるという弁護側の主張については、「精神障害は認められず、完全な責任能力があった」と退けた。
2012年12月3日
最高裁第一小法廷
横田尤孝裁判長
検察・被告側上告棄却、確定
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 小法廷は死刑選択も考慮すべき事件としたが、「妻を長年いじめる実母を殺害して自殺しようとし、残される家族もふびんなので殺害を決意した。理不尽極まるが、実母の言動で苦悩し追い詰められていた」と動機に一定の理解を示した。裁判官5人中4人の多数意見。検察官出身の横田裁判長は「極刑回避の事情は認められない」として、審理を差し戻すべきだとの反対意見を述べた。
H・T(34)  東京都江東区のマンションに住む派遣会社社員のH被告は、自分の言うことを何でも聞く女性を求め、2008年4月18日、2部屋隣に住んでいた会社員の女性(当時23)が帰宅して玄関の鍵を開けた音を聞くとすぐにわいせつ目的で侵入。包丁を突きつけるなどして女性を自分の部屋に連れ込み暴行しようとしたが失敗。約3時間後、自室ドアがノックされ、女性の部屋の前に警察官が立っているのに気づいたことから、女性が行方不明になったと装おうと包丁を首に突き刺して殺害。5月1日までの間に浴室内で遺体をのこぎりや包丁で細かく砕いて冷蔵庫などに隠し、その後水洗トイレに流したり、ごみ置き場に捨てたりした。 殺人、死体遺棄・損壊他 2009年2月18日
東京地裁
平出喜一裁判長
無期懲役
 H被告側は起訴事実について一切争わず、公判前整理手続きによって争点は情状面、量刑等に絞られた。判決は動機について女性を性奴隷にしようとしたと認定。極めて自己中心的で卑劣、酌量の余地はないと非難した。しかし反抗については冷酷だが残虐きわまりないとまではいえないと判断。遺体をバラバラにした死体損壊・遺棄については殺害行為に比べて過大に評価することはできないとした。またH被告の計画性を否認し、わいせつ行為をしていないこと、謝罪の態度を見せていることなどを考慮した。  裁判員裁判を強く意識する検察側は、犯行の残虐性を強調するため、切断された肉片や、マネキン人形を使った遺体切断時の再現画像を大型モニターに映し出す異例の手法で立証を進めた。
2009年9月10日
東京高裁
山崎学裁判長
検察側控訴棄却
 判決で裁判長は「冷酷かつ残虐、悪質性の程度が高く、人倫にもとる犯行だ。尊い生命が失われ、遺体も完膚なきまでに解体され結果も重大。遺族の処罰感情も峻烈だ」と指摘。一方で「被告は法廷で犯行の詳細を述べ、罪を悔い、謝罪の態度を示している」として、被告に有利な事情を挙げた。そして裁判長は最高裁が1983年に示した死刑適用の「永山基準」に沿って判断、「前科がなく、矯正不可能とまではいえない」などと死刑回避の理由を述べた。
上告せず確定。
堀慶末(33)/K・K(42)  神田司被告、堀慶末被告、K・K被告は携帯電話の闇サイトで知り合い、強盗殺人を計画。2007年8月24日夜、名古屋市千種区の路上で帰宅途中の派遣会社に勤める女性を車内に連れ込み、25日午前1時頃、愛西市内の駐車場で女性の頭を金槌で殴り、首を絞めるなどして殺害。現金約62,000円やキャッシュカードなどを奪うとともに、女性の遺体を岐阜県瑞浪市の山中に遺棄した。 強盗殺人、死体遺棄他 2009年3月18日
名古屋地裁
近藤宏子裁判長
H被告:死刑/K被告:無期懲役
 裁判長は闇サイトを悪用した社会的影響について、社会に対する重大な脅威と述べた。そのうえで〈1〉利欲目的で酌量の余地はない〈2〉落ち度のない市民を拉致し、命ごいに耳を貸すことなく犯行を敢行していて無慈悲で凄惨〈3〉犯行計画は具体的、詳細なものではなかったが、量刑をわけるほど有利な事情とは言えない〈4〉被害者の無念さを言い表す言葉を見いだすことはできない--などを理由として挙げた。
 3被告のうち神田被告については「殺害の計画と実行において最も積極的に関与した」、堀被告については「さまざまな強盗計画を積極的に提案し、被害者を最も積極的に脅迫した」と認めた。一方K被告については、「被害者を2度も強姦しようとしており、他の2被告に比べ刑事責任は劣らないが、自首で事件の解決、次の犯行阻止に寄与したことは有利に評価できる」と判断し「極刑をもって臨むには、躊躇を覚えざるを得ない」と結論づけた。
 神田司被告は求刑通り一審死刑判決。その後控訴取り下げ、確定。
 堀慶末受刑囚は1998年に愛知県碧南市で起こった夫婦殺害事件に関わったとして、2012年8月3日に強盗殺人容疑で逮捕された。2015年12月15日、名古屋地裁で一審死刑判決。2016年11月8日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2019年7月19日、被告側上告棄却、確定。
2011年4月12日
名古屋高裁
下山保男裁判長
堀慶末被告:一審破棄・無期懲役/K被告:検察・被告側控訴棄却
 弁護側は独自に臨床心理士に依頼。心理鑑定結果より、K被告は「軽度の知的障害があり、物事全体を理解する力や現実を吟味する力が弱い」、堀被告は「自己主張するよりも同調する傾向や受動的な態度が強い」として一審同様「殺害は場当たり的で直前まで意図していなかった」と主張した。そのうえで、K被告について有期懲役、堀被告には無期懲役を求めた。検察側は堀被告に対しては控訴棄却、K被告については減軽理由となった自首について「死刑や共犯者からの報復を回避する自己保身のためで、過大評価すべきでない」として死刑を求めた。
 裁判長は「ネットを通じて知り合った者同士による犯罪であることを、過度に強調するのは相当ではない」と述べるとともに、「被害者が1人である本件では、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど、悪質な要素があるとはいえない」とした。そして堀被告については「最も積極的な役割を果たしたとは言えず、死刑がやむを得ないほど悪質ではない」などとして一審の死刑判決を破棄して無期懲役とした。K被告に対しては検察側、被告側双方の控訴を棄却した。
2012年7月11日
最高裁第二小法廷
千葉勝美裁判長
検察側上告棄却、確定(堀被告に対し)
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
K被告については上告せず確定。
 小法廷は「被害者は1人で、『死刑がやむを得ないといえるほど他の要素が悪質とは断じがたい』と判断した二審が誤りとはいえない」と指摘。「身代金目的誘拐殺人と同視すべきだ」との検察側主張については、「同視は相当でない」と退けた。
H・T(31)  群馬県小山市の中古車販売会社役員H・T被告と同市の派遣会社員K・T被告は共謀。2008年3月4日午後7時50分頃、K被告が担当していた派遣社員の日系ブラジル人男性(当時48)宅で男性の首を絞めるなどして殺害。財布などを奪うとともにキャシュカードから100万円を引き出し、遺体を佐野市内の川に遺棄した。
 さらに4月20日午後8時頃、H被告が個人的なトラブルで恨みを持っていた前橋市の中古車販売業男性(当時37)を鉄パイプで殴って殺害し、遺体を茨城県桜川市の山林に遺棄した。
強盗殺人、死体遺棄他 2009年3月19日
宇都宮地裁栃木支部
林正宏裁判長
無期懲役
 裁判長は中古車販売業男性殺害の件について、男性は多額の金銭を要求するなど「H被告に著しい経済的、精神的苦痛を与え続けた。男性自身にも責められるべき要因があった」と指摘した。  K・T被告は求刑通り一審無期懲役判決。控訴せず確定。
2009年11月4日
東京高裁
原田国男裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は殺害された中古車販売業の男性が盗難車に関するトラブルでH被告から多額の金銭をだまし取ろうとしていた点を指摘。「男性の違法行為がなければ借金を負わず事件は起きなかった。一部の被害者遺族の処罰感情も多少融和している。犯行は極めて悪質だが、被害者の落ち度などを考慮すれば死刑は認められない。酌量減軽する事情も到底認められない」などと死刑を回避する事情を挙げ、一審判決を支持した。
上告せず確定。
S・H(24)  東京都杉並区に住む大学生のS被告は2007年1月25日午前3時頃、裏の家に住む無職女性(当時86)方で、女性と会社員の長男(当時61)をナイフで刺殺し、現金約47,000円や貴金属などを奪った。凶器の軍用ナイフは、コレクションとして保有していたものだった。S被告は朝になってクレジットカードを使い、杉並区内のコンビニエンスストアのATM(現金自動受払機)から現金を引き出そうとしたが、暗証番号が正しく入力できなかったため、未遂に終わった。 強盗殺人、窃盗未遂 2009年7月15日
東京地裁
植村稔裁判長
無期懲役
 最初の精神鑑定では責任能力を否定したが、再鑑定では完全責任能力があったとの結論が出た。
 判決では「事件当時の被告の行動などから、完全責任能力があったと認められる」と判断。弁護側の「被告は脳の機能的障害を負っており、犯行時は心神喪失か心神耗弱の状態だった」との主張を退けた。その上で「被告はあらかじめ強盗殺人を計画していたものではない。若年で前科はなく、今後改善更生の可能性がないとはいえないことなどを考慮すると、死刑とするのはやむを得ないとはいえない」と述べた。

2010年6月17日
東京高裁
小西秀宣裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は争点となった責任能力について、「精神病や脳の機能低下はなかったとする鑑定をもとに、被告に完全責任能力を認めた原判決の判断に誤りはない」と認定して弁護側の主張を退けた。しかし計画性がないこと、犯行時21歳8ヶ月と若く、前科もないこと、そして被告の父親が遺族に8000万円を支払った点を考慮し、死刑を回避した。
2010年7月9日
被告側上告取り下げ、確定

野崎浩(50)  野崎浩被告は1999年4月22日、横浜市神奈川区の当時の自宅マンションで、交際していたフィリピン国籍の女性(当時27)の首を布団に押しつけて窒息死させた。さらに遺体をカッターナイフ等でバラバラにし、横浜市内のビルのトイレなど数ヶ所に捨てた。
 野崎被告は2000年1月20日、死体遺棄・損壊容疑で逮捕された。しかし検察側は殺人容疑を立証することができなかった。2000年4月14日、浦和地裁は懲役3年6月(求刑懲役5年)を言い渡し、後に確定。野崎被告は服役した。
 野崎被告は出所後の2007年にフィリピン国籍の女性と交際するようになり、12月に東京都港区のマンションで同居を始めた。しかし野崎被告は家賃を支払わなくなり、女性とたびたび口論になっていた。2008年4月3日夕方、出勤しようとした女性(当時22)に声をかけたが無視されたN被告は腹を立て、首を絞めて殺害。包丁などで遺体をバラバラにした。
殺人、死体遺棄・損壊 2009年12月16日
東京地裁
登石郁朗裁判長
無期懲役+懲役14年
 裁判長は1999年の事件について「自白は具体的で、被告の車から人骨が発見されるなど補強証拠もある」と弁護側の無罪主張を退けた。そして「2度にわたって殺人、死体損壊・遺棄の罪を犯し、犯罪性向があることは否定できない」と非難する一方、かつて否認していた99年の殺人について捜査段階で詳細に供述するなど心情の変化が見受けられるとして、「2度にわたり殺人を犯したが、矯正の可能性があり、死刑がやむを得ないとまではいえない」とし、2008年の事件について無期懲役(求刑死刑)、1999年の事件について懲役14年(求刑無期懲役)の判決を言い渡した。  横浜の事件を巡り死体損壊・遺棄罪で2000年に実刑判決が確定していることから、複数の罪を合わせて刑を科す「併合罪」は適用できず、事件ごとに起訴された。刑事訴訟法は二つ以上の刑を執行する場合、重い方を先に執行すると定めているため、懲役14年の刑は執行されない。
 2020年12月13日、慢性腎不全のため東京拘置所で死亡。61歳没。
2010年10月8日
東京高裁
長岡哲次裁判長
一審破棄・死刑+懲役14年
 裁判長は殺害と死体損壊を一連の犯行ととらえ悪質性を判断すべきだとした。さらに「仮釈放後、5年8カ月で再び事件を起こした点を一審は著しく軽く評価している。被告は謝罪の言葉もなく、他の死刑確定事件と比べても死刑が相当」と述べた。
2012年12月14日
最高裁第二小法廷
小貫芳信裁判長
被告側上告棄却、確定
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 小法廷は「動機に酌量の余地はなく、一連の犯行は態様においても悪質極まりない」と指摘。「死体損壊・遺棄罪の服役で、反省、悔悟する機会を与えられたにも関わらず、類似の犯行を敢行した。刑事責任は誠に重大」として、死刑判断を是認した。
M・K(44)  暴力団幹部M被告は大阪府阪南市内の自宅で同居していた無職男性(当時32)の存在が疎ましくなり、2001年12月~2002年4月、男性を金属バットで殴るなど日常的に暴行。2002年5月上旬、衰弱していた男性を大阪府岬町の漁港から知人男性F被告に指示して海へ突き落とし、竹竿で突いておぼれさせ、殺害した。その後遺体を和歌山県串本町(紀伊半島東部)の山中に車で運び、遺体を埋めた。
 またM被告は2006年12月24日午前2時頃、大阪市西成区のアパートで知人の兄だった男性(当時34)に暴行。男性は外傷性の腹部内出血により午後6時頃に死亡。森本被告は同じ暴力団の組員ら3人と共謀し、25日から26日にかけ、遺体を串本町の山中に車で運び、遺体を埋めた。
 このほか、男女6人に暴行した。
殺人、傷害致死、傷害、死体遺棄 2010年1月25日
大阪地裁
笹野明義裁判長
無期懲役
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 公判でM被告は岬町の殺人については否認。2006年の事件については和歌山での死体遺棄を認めているが、傷害致死については否認した。
 裁判長は殺人罪の成立を認めた。そして「虐待を楽しむなど冷酷で非情な犯行で、酌量の余地はない」と厳しく指弾。一方で死刑を回避した理由を「殺人の被害者は1人で、周到に計画された犯行ではない。残忍な殺害方法で連続的に人を殺すのとは犯情が異なる。過去の同種事例の判決に照らすと、死刑を選択するほどではない。残りの人生をかけてひたすら矯正施設内で贖罪に専念させるのが相当」と述べた。

2011年5月31日
大阪高裁
上垣猛裁判長
検察・被告側控訴棄却
 裁判長は、「残酷卑劣な犯行だが、殺害された被害者は1人で、強固な殺意や計画性があったとはいえない。殺人と傷害致死を同様に評価することはできず、死刑がやむを得ないとまでは言えない」と述べた。
2014年3月17日
最高裁第一小法廷
山浦善樹裁判長
被告側上告棄却、確定
 弁護側の憲法違反、判例違反は単なる事実誤認の主張であって上告理由に当たらないと判断。そして職権で、同一被害者に対しある程度の期間にわたり反復累行された一連の暴行によって種々の傷害を負わせた事実について、その全体を一体のものと評価し,包括して一罪と解した。そして包括一罪を構成する一連の暴行による傷害について、個別の機会の暴行と傷害の発生、拡大等との対応関係が個々に特定されていなくても、訴因の特定に欠けるところはないとした。
Y・L(54)  起訴状によると、中国人の元スナック経営者L被告は強制送還を恐れ、結婚した日本人夫Kさんの遺産をすぐに相続するために、夫を殺害した後、別人を替え玉にして病死と偽装することを計画。2001年10月末~11月頃、大阪の自宅で夫(当時77)を殺害。12月頃、替え玉として用意したTさん(当時71)を殺害。2002年2月頃、同じく替え玉に仕立て上げたKさん(当時69)を、共犯者の男性とともに殺害。相続届けなどを偽装し、夫名義の預貯金産約3240万円を不正に引き出し、Kさん名義の土地を自分のものにして売ろうとした。Y被告はその後逃亡し、2007年10月に東京で逮捕された。 殺人、傷害致死、詐欺他 2010年1月28日
大阪地裁
長井秀典裁判長
無期懲役
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 検察側は3件の殺人と詐欺などで9つの罪で起訴。Y被告側は一部の詐欺を除く3件5つについて無罪を主張した。夫の遺体は見つかっていない。また夫とTさん殺害については殺害日時と方法が特定されていない。そのため、検察側は40人を証人尋問して状況証拠を積み上げ、論告では「犯罪の証明は十分」と主張していた。
 判決で裁判長は、夫について殺意を認めず、傷害致死と認定。Tさんについては殺人の証明がなく無罪、Kさんについてのみ殺人を認定。また詐欺については起訴内容を認定した。
共犯の日本人男性は、求刑通り懲役15年判決が確定している。
2011年4月20日
大阪高裁
古川博裁判長
検察・被告側控訴棄却
 検察側は3件とも殺人罪の適用を、被告側はすべて無罪を主張した。
 裁判長は判決理由で、一審判決の認定に事実誤認はないと指摘。Kさん事件について「被告がKさんを納屋に閉じこめたとする知人の証言は信用でき、一審判決に誤りはない」と判断。夫事件については「アパートから血痕などが見つかっており、被告による暴行があったと推定できるが、周到な準備が見られず殺意の推認には不十分」と指摘し、一審と同様に傷害致死罪にとどまるとした。Tさん事件に関しては「死因は不明であり、客観的証拠に乏しく、被告を犯人と認定するのは困難だ」として改めて無罪と判断した。
2013年11月11日
最高裁第二小法廷
千葉勝美裁判長
検察・被告側上告棄却、確定

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 検察側は3人に対しいずれも殺人罪を適用し、死刑判決を求めて上告。被告側は3件とも無罪を求めて上告した。
 最高裁は決定で、「死刑も十分に考慮されるが、殺された被害者が1人で犯行状況も不明であり、無期懲役の判断が誤りとは言えない」とした。
I・M(49)  大阪府守口市の元塗装工I被告は2001年8月28日午後9時頃、大阪市旭区の薬局店で店主の女性(当時84)を絞殺し、売上金約70,000円やビタミン剤などを奪った。DNA鑑定技術の向上から大阪府警捜査一課は、現場の遺留品であったタオルに付着していた皮膚片のDNA鑑定を実施。服役中のI被告からと一致したため、2008年11月21日に逮捕した。 強盗殺人、住居侵入 2010年5月31日
大阪地裁
杉田宗久裁判長
無期懲役
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 I被告は強盗目的で犯行に及んだことは認めたが、「死なせたことは認めるが、殺意は持っていない」と殺害の犯意を否定した。検察側は、争点となっている犯意について「確定的殺意があった」と主張。別の強盗殺人で高齢男性を殺した約2週間後に被害者を殺害した経緯を指摘し、「強欲で人命軽視も甚だしく、厳しい非難に値する。人命の尊厳を一顧だにしない犯行は鬼畜の所業。再度の無期懲役刑による矯正教育は無意味」と述べた。
裁判長は判決理由で「強固な確定的殺意に基づく冷酷な犯行で、死刑の求刑も十分理解できる」と指摘。一方で「事件に計画性はなく、死刑選択にはちゅうちょを覚える」と述べた。
 I被告はこの事件の約2週間前になる8月15日早朝、大阪市北区の洋服店店主(当時84)の店に2階の窓から侵入し、就寝中の店主の頭部を角材のようなもので殴った上、電気コードで首を絞めて殺害。現金約3万円とキャッシュカードを奪った。2001年10月11日に逮捕。無罪を主張していたが、2003年12月1日に大阪地裁で求刑通り無期懲役判決。2004年7月14日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2004年12月13日、最高裁で被告側上告が棄却され、翌年1月に確定。その後は徳島刑務所に服役していた。
2011年2月24日
大阪高裁
上垣猛裁判長
検察側控訴棄却
 上垣裁判長は、死刑を念頭にすでに確定した事件を評価し直して量刑を決めることは憲法39条が禁止する二重処罰に抵触する-と判断した一審判決を踏襲した。その上で「2件の無期懲役で服役すれば被告の年齢では平均余命がすぎても仮釈放される見込みはほとんどなく、一審判決が軽すぎるとは言えない」と指摘した。
2012年12月17日
最高裁第三小法廷
大谷剛彦裁判長
検察側上告棄却、確定
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 決定は付言で「量刑判断の際に、確定事件を実質的に再度処罰する趣旨で考慮することは許されないが、犯行に至った経緯としては検討できる」と指摘。ただこの事件では(1)殺害に計画性がない(2)服役を通じ更生の兆しが見える――などの事情を踏まえ、死刑を回避した一、二審判決を不当とはいえないとした。
H・K(42)  千葉市の会社員H・K被告は2008年2月頃から東京都千代田区にある耳かきサービス専門店へ偽名で通い始め、2009年になってからは週末ごとに来店し、店員である港区の女性を常に指名。4月頃には女性に交際を申し込んだが断られ、店から出入り禁止となった。しかしその後もH被告は女性につきまとった。
 2009年8月3日午前8時55分頃、H被告は女性方を訪れ、1階にいた女性の祖母(当時78)を刃物で刺し殺害。さらに2階で寝ていた女性(当時21)の首などを刺した。女性は意識不明の重体となり、9月7日、入院先の病院で死亡した。
殺人 2010年11月1日
東京地裁
若園敦雄裁判長
無期懲役
 検察、被告側とも起訴事実に争いはなく、量刑の判断は情状面に絞られた。判決は被告が抑うつ状態に陥り、思い悩んだ末に起こしたものであり、女性の祖母殺害は計画性のない偶発的な犯行。被告は前科もなくまじめに生活してきたことと、被告なりに反省していることを考慮し、極刑を回避した。  裁判員裁判で初の死刑求刑。検察、被告側双方が控訴せず一審で確定したのは、1988年12月22日の熊本地裁判決以来。
控訴せず確定。


S・M(71)  鹿児島市の無職S・M被告は2009年6月18日夜、鹿児島市に住む夫婦宅に窓ガラスを割って侵入。仏間で夫(当時91)と妻(当時87)の顔などをスコップで十数回殴打して殺害した。夫婦は2人暮らしで、貸家など不動産を多く所有する資産家だった。 強盗殺人 2010年12月10日
鹿児島地裁
平島正道裁判長
無罪
判決文添付文書1添付文書2添付文書3「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判員裁判
 S被告は逮捕当初から無罪を主張。検察側は、●(侵入経路の)窓の割れたガラス片から採取した指紋が、被告の右手薬指と一致した、●物色された痕跡があるタンスや書類に付着した指紋・掌紋計10個もS被告と一致した、●S被告とDNA型が一致する細胞片が窓の網戸から見つかった、ことから被告以外に犯人はいないと主張。動機は、パチンコや飲み代で年金を使い切り、金に困っていたとした。弁護側は、●S被告の目撃情報がない、●別の不審者の目撃情報がある、●S被告と夫婦に面識はなく、動機がないし、被害者宅も知らない、●室内に13万円の現金が残され、金庫に触れた形跡がないことから、強盗目的ではない、●夫への攻撃が執拗であることから、顔見知りによる怨恨が動機、と主張した。
 判決は現場に残された被告の指紋から、「被告が過去に周辺をさわった事実は動かない」としつつ、「後から別人が物色した偶然の一致も否定できない」と述べた。凶器とされるスコップに被告の指紋などがないことや、現金が容易に発見できるところに残され、被害者が激しく殴られている状況などから「金品目的」で侵入したとする検察の主張に疑問が残ることも指摘。「『被害者宅に行ったことは一度もない』という被告の供述はうそだが、その一事をもって、直ちに犯人であるとは認められない」と述べた。鹿児島県警についても「真相解明に必要な捜査をしたか疑問が残る」と指摘。そして「被告を犯人と認定することは『疑わしきは被告人の利益に』という原則に照らして許されない」と述べた。
 裁判員裁判で5件目の求刑死刑。無罪は初めて。裁判員裁判全体での無罪判決は2件目(一部無罪除く)。裁判員裁判で選任手続きから判決まで40日間というのは今までで最長。
検察側控訴中の2012年3月10日、病死。73歳没。3月27日付で福岡高裁宮崎支部は、公訴棄却の決定をした。




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