アスファルトの虎 メモ




 大藪春彦の最大長編『アスファルトの虎』を読んでいて、何の気無しにとっていたメモをまとめただけのものです。アスファルトの虎 登場人物および組織メモもあります。ただそれだけです。


アスファルトの(タイガー)
作品概要
 『アスファルトの(タイガー)』は大藪春彦による長編。『野性時代』(角川書店)1983年2月号から1993年2月号まで連載され、同誌が休刊した後は書き下ろしで刊行された(PART13後半、14)。それとは別に、同じ主人公によるアクションノベル『凶獣の罠』がある。連載回数は120回。第100回が掲載された1991年6月号は、大藪春彦特集号となった。またこの回で、高見沢はF1レース初登場初優勝の偉業を成し遂げる。当初は3年程度の連載予定だったらしい。執筆枚数7,300枚と、大藪春彦の中では最大長編である。
 主人公高見沢優は有閑マダム相手のジゴロであり、将来はF1を目指すパシフィックフォーミュラー(FP)レースのレーサーでもある。ビッグスポンサーを得てF2にステップアップするが、重要な客でもある首相夫人からある秘密を聞き出し、それを知られた田口元首相のボディガード集団の命令で暗殺者となる。政敵の暗殺を請け負う毎に巨額の報酬を受け、その金を基にF2及びグランチャンで総合優勝を果たし、そして待望のF1レーサーとしてマクラーレンチームに入る。
 大藪春彦最大の長編となったが、正直言ってただ長いだけの作品といってよい。大藪の代表作である『汚れた英雄』の四輪版ともいえるが、北野晶夫ほどのアピール性はない。「主人公の高見沢優は、自分の野望達成のためには、あらゆる手段を用いることを躊躇しない強靱な意志力を持っている」とは第1巻に書かれている作者の言葉だが、その「強靱な意志力」に説得力はあまりない。北野晶夫が戦争孤児であり、世界の偶像となるまでに世間と戦ってきた姿から見ると、高見沢はどちらかといえば恵まれた環境にあったせいか、読者が共感を持つことができないのだ。
 内容としても、同じ事の繰り返しが延々続く。丹念に描写している、一つ一つを丁寧に書いている、という見方もできるだろうが、実際は作者が年を取ってくどくなったと見た方がよいと思われる。
 それでもやはり、本作品は大藪作品集大成といえる。この作品を支える核は三つ。レーサーとしての高見沢、トロフィーハンターとしての高見沢、そして暗殺者としての高見沢である。それらに加えて全世界の美女とのセックス。大藪作品で描かれてきた、どこか見たシーンがふんだんに出てくる。唯一のアクセントとしたら、食事に対するシーンと肉体トレーニングシーンだろうか。かつては大食、美食を美としていた大藪だが、本作品における高見沢の栄養管理は徹底している。肉体トレーニングシーンにしても、その科学的な描写は初めて見るものだ。
 高見沢は天性の能力を生かし、F1レースでもトップを走り続ける。大スポンサーとの巨額の契約。世界各地におけるレコード破りのトロフィーの数々。世界各地の美女やハリウッドのフィルムスターとの華やかな夜。高見沢は挫折というものがなく、栄光に包まれたまま、物語を駆け抜ける。

各巻ダイジェスト
PART I 血と背徳の序曲(プレリュード)
 カドカワノベルズ1984年11月25日初版発行。角川文庫1987年2月25日初版発行。文庫解説は戸井十月。
 FPレーサーとしての高見沢優の日常と過去を詳細に描写。トレーニング、ジゴロ、射撃練習、スポンサー巡りなど。ビッグスポンサーを得たことにより、戦闘力のあるFPマシンとエンジンを購入し、勝利を得る。

PART II 死の円舞曲(カドリール)
 カドカワノベルズ1985年11月25日初版発行。角川文庫1988年2月25日初版発行。文庫解説は関根章喜。
 高見沢はFPレースで連戦連勝し、1982年度のFPシリーズ総合優勝を勝ち取る。CM出演により、女スポンサーである客も増えた。F2とGCにステップアップし、浅見利夫というマネージャーを迎え入れる。しかし首相夫人との密会、さらに田口元首相の秘密を握ったことを知られてしまい、田口元首相ボディガード軍団の手先として、多額の報酬と引き替えに殺しの依頼を受けるようになる。

PART III 闇に躍る輪舞曲(ロンド)
 カドカワノベルズ1986年11月25日初版発行。角川文庫1987年5月25日初版発行。文庫解説は鳴海丈。
 高見沢はF2とGCで連戦連勝。ボディガード軍団の依頼により、田口元首相の敵を次々と消し、多額の報酬を得る。

PART IV 灼けた野望の舞踏曲(ボレロ)
 カドカワノベルズ1987年8月25日初版発行。角川文庫1990年6月25日初版発行。文庫解説は麻倉一也。
 高見沢は南アフリカでの短いハンティングを楽しんだ後、交渉を続けていたマクラーレン・チームのテストを受け、内定を勝ち取る。高見沢はF2とGCレースで総合優勝を飾った。さらに200万ドルのパッケージ料と引き替えに、F1ドライバーとしてマクラーレン・チームとの契約を果たした。野望を叶えるためのステップを一つ上った高見沢は、ボツワナでビッグゲームハンティングに挑む。獲物はレコードブック上位に載るか、もしくはレコードブレーカーばかりであった。

PART V 猛き情炎の狂想曲(カプリッチオ)
 カドカワノベルズ1988年4月25日初版発行。角川文庫1990年10月25日初版発行。文庫解説はいのまたむつみ。
 ボツワナの猟から帰ってきた高見沢を待っていたのは、田口元首相のボディガード軍団であった。依頼内容は、田口元首相を脅迫してきた新興暴力団を壊滅すること。作戦は成功したが、アクシデントにより警官隊に追われることとなった高見沢は、遮る警官隊を皆殺しにし、必死の逃走を続けた。

PART VI 静謐なる狂気の夜想曲(ノクターン)
 カドカワノベルズ1988年11月25日初版発行。角川文庫1991年7月10日初版発行。文庫巻末には、小峯隆生とのスペシャルインタビュー(1991年3月29日)が掲載されている。
 フランスでのマシンテストを終え、高見沢と浅見はロンドンにレースの拠点となる住居を定めた。そして高見沢はモンゴーリア・アルタイ猟に出発する。獲物はいずれもレコード破りの素晴らしいものばかりであった。

PART VII 魂の鎮魂曲(レクイエム)
 カドカワノベルズ1989年7月25日初版発行。角川文庫1992年1月10日初版発行。文庫解説は寺森軍也。
 レコードブレーカーの獲物を射止めたモンゴーリアの猟を終え、日本に帰ってきた高見沢を待っていたのは田口元首相のボディガード軍団。韓国の新興宗教が霊感商法で集めた300億円を横取りする。高見沢の報酬は50億円であった。年が明け、高見沢はF1ドライバーとして、ブラジルでのマシンテストに参加する。

PART VIII 幻の狂詩曲(ラプソディ)
 カドカワノベルズ1989年11月25日初版発行。角川文庫1992年8月10日初版発行。文庫解説ははままさのり。
 灼熱のブラジルで続くマシンテスト。しかしマシントラブルが続き、完走できないままテストは終了した。高見沢はカナディアン・ロッキー猟に挑む。

PART IX 滾る肉体の受難曲(パッション)
 カドカワノベルズ1990年11月25日初版発行。角川文庫1992年12月10日初版発行。文庫解説は泉優二。
 大物を多数射止めたカナディアン・ロッキー猟から帰ってきた高見沢。南フランスでのマシンテストで、高見沢は見事戦闘スピードでの完走に成功する。夜はマールボロ・ガールズ達とベッドでの戦いに明け暮れる。そんなとき、田口元首相が倒れて再起不能であるというニュースが飛び込んだ。田口元首相のボディガード軍団が解散することとなり、最後の仕事として、韓国の金大統領が日本に隠した1,200億円を強奪する。高見沢の報酬は300億円だった。

PART X 熱き欲望の協奏曲(コンチェルト)
 カドカワノベルズ1991年7月25日初版発行。角川文庫1993年9月25日初版発行。文庫解説は斉藤純。
 南アフリカ、キャラミ・サーキットコースでマシンテストを繰り返す高見沢。夜はマールボロ・ガールズの美女が迫ってくる。マシンテスト終了後、高見沢と浅見は日本へ帰国し、スポンサー企業主催のサイン会をかけずり回る。ギャラは合計8,000万円であった。そして再びブラジルに渡る高見沢。F1レース第1戦、そして高見沢のデビュー戦が近づいてきた。

PART XI 栄光と狂瀾の幻想曲(ファンタジア)
 カドカワノベルズ1992年6月25日初版発行。角川文庫1994年4月25日初版発行。文庫解説は柘植久慶。
 高見沢はブラジルでのF1第1戦で初出場初優勝の偉業を成し遂げた。第2戦である南アフリカで、高見沢はフォト・サファリを楽しむ。高見沢はナンバーツードライバーとしての契約によってニキ・ラウダにトップを譲ることもあったが、上位の成績を取り続けた。第4戦のレース終了後、高見沢はニュージーランドで短いハンティングを楽しむ。

PART XII 勝利への奏鳴曲(ソナタ)
 カドカワノベルズ1992年12月25日初版発行。角川文庫1994年8月25日初版発行。
 ルーキーながら圧倒的なスピードで勝ち続ける高見沢のことを、マスコミは優勝の第一候補に挙げるようになった。契約の頸木に縛られながらも、高見沢はドライバーズチャンピョンシップのポイント争いでトップを走り続ける。そんな高見沢の前に現れたのは、ハリウッドスター、ダイアナ・スノーであった。

PART XIII 光と闇の諧謔曲(スケルツォ)
 カドカワノベルズ1993年5月25日初版発行。角川文庫1995年12月25日初版発行。文庫解説は仲英宏。
 映画のキャンペーンで世界中を廻ることとなったダイアナと別れた高見沢であったが、新しい恋人であるハリウッドスターのブルック・シールズとの熱い夜を満喫する。しかし高見沢のマシンにトラブルが続出し、ポイント争いで2位のニキがどんどん迫ってきた。ニキに勝ちを譲る必要がなくなった高見沢は、ビッグスポンサーを得て契約料5億円を手に入れる。目指すはF1のシリーズ・チャンピョンであった。

PART XIV 伝説への終曲(フィナーレ)
 カドカワノベルズ1993年11月25日初版発行。角川文庫1996年4月25日初版発行。
 高見沢がリタイアを繰り返す間に、着実にポイントを重ねてきたニキがついにポイント争いのトップに立った。残されたレースはあと僅か。高見沢は逆転優勝を目指し、トップを取り続けるの。F1レーサーとして伝説となった高見沢優の物語がここに完結する。

凶獣の罠
 書き下ろしとしてカドカワノベルズ1991年11月25日初版発行。角川文庫1994年9月25日初版発行。
 F1レースで好成績を収め、高見沢は休養を取るために極秘で日本に帰ってきた。しかし高見沢を待っていたのは金髪の美女。そして元田口元首相ボディガード軍団の杉原であった。高額の報酬と、過去の仕事をネタに脅された高見沢は、モザンビアに単身潜入する。目的は、東欧ローマニアの独裁者であったタウチェスク首相の遺産である500カラットのダイヤを横取りすることであった。



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