サントリーミステリー大賞受賞作を比較してみたら
サントリーミステリー大賞には大賞、読者賞と2つの賞に分けられていた。大賞はプロの選考委員5人が選んだ作品。読者賞は選ばれた読者の投票によって決まっていた。ときには最終選考作の中から佳作が出版されることもあった。
ところがこの賞、プロが選んだ大賞よりも、読者賞や佳作の方が面白かったということが多い。そこで過去に読んだサントリーミステリー大賞受賞作の大賞、読者賞、佳作作品を比較してみた。といっても、個人的な好みを押し出しているのだが。当然のことながら、大賞・読者賞が同じ作品で、佳作も出版されたなかった年は比較しようがないので、ここには書いていない。
なお、サントリーミステリー大賞のリストはこちら。各作品の感想も書いています。
第1回:麗羅>黒川>鷹羽
麗羅は傑作。これを大賞に選ばない選考委員はどうかしている。黒川はユーモアがあってよいのだが、後味の悪さが残念。鷹羽は苦痛でしか無かった。
第2回:井上≧由良>黒川
スケールの大きさはトップクラスの井上作品だが、焦点がぼやけてしまったのがマイナス。由良作品は手堅い本格推理小説だが、本格作品ならではの欠点も多い。黒川作品は今一つ。
第3回:土井>深谷>保田
土井は手堅いけれど、緊迫感に欠ける。深谷は書き込みすぎで整理不足。保田は都合よすぎる展開に辟易。どれも今一つだった。
第4回:長尾>黒川>ヤング
源氏物語ならではの格調高さは全くないが、好みで長尾を上にする。黒川はご都合主義なところがあり、過去2作より劣る。ヤングはバタバタし過ぎ。
第6回:樋口≧笹倉>岩木
大賞と読者賞のどっちもいいというのはこの回が初めて。逆の結果でもおかしくはない。岩木は今一つ。
第7回:中川>黒崎>ロペス
ロペスの面白さが全くわからないのでこの順位。黒崎作品も洗練さに欠けていた。中川作品もご都合主義だったし、今一つ。
第8回:ふゆき>マキタリック>関口
大賞、読者賞のどちらも面白くない。とはいえふゆき作品にも欠点があるし、正直言って低調な回。
第9回:横山>レオン>醍醐>今井
なぜ横山作品が大賞に選ばれなかったのかわからない。レオンは訳が今一つだったかも知れない。醍醐はベテランならでは、というだけの作品。今井は出来が今一つだった。
第10回:ブリッジズ>花木
どちらも題材だけの作品だったような気がする。
第11回:熊谷>祐未>秋川
いずれも低調。選ぶなら、この順位と言うだけ。特に秋川作品はよく出版できたものだというぐらい出来が悪い。
第13回:伊野上>森
どちらも題材はよいのに、料理の腕が今一つ。伊野上の方が量が少し上手かった、という程度。悪くはないのだが。伊坂作品は応募時のままで読んでみたい。
第14回:内田>三宅≧高尾
題材だけは面白かった内田。手堅いけれどそれだけという三宅。もうちょっと読者に納得いく行動を書いてほしい高尾。
第15回:川端>司城>結城
一番面白いのは川端だが、これをサンミスに選ぶ勇気はないだろうなあ。
第18回:笹本>五十嵐
笹本は文句なしの傑作。五十嵐も荒唐無稽すぎるが悪くはない。
第20回:中野>藤森
中野は地味だけど、もっと評価されていい。藤森は恋愛小説であり、ミステリとしての評価はできない。唯一、読者賞が出版されなかった年。とても気になる。
個人的な好みでいったらこんなところだろうか。読んだ本の中では、読者賞>佳作≧大賞といった順になる。確かに佳作受賞者の中で大賞受賞者、読者賞受賞者より活躍している人もいるが、作品で考えたら先の順になるというのが私の意見。他の方はどう思うだろうか。
サンミスでベスト5を挙げるのなら下記かな。
1.笹本稜平『時の渚』
2.樋口有介『ぼくと、ぼくらの夏』
3.麗羅『桜子は帰ってきたか』
4.笹倉明『漂流法廷』
5.中野順一『セカンド・サイト』
【「ミステリエッセイ」に戻る】