地裁判決(うち求刑死刑) |
高裁判決(うち求刑死刑) |
最高裁判決(うち求刑死刑) |
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30(3)
| 26(6)+7※
| 17(2)+2※
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氏 名 | 重岡和博(40) |
逮 捕 | 2010年6月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
横浜市西区の無職重岡和博被告は2010年4月28日午後3時ごろ、西区の歩道橋で歩行中だった同市都筑区に住む無職女性(当時54)の左胸を折りたたみナイフ(刃渡り約8cm)で数回突き刺し、現金約97,000円などが入った財布を奪った。女性は翌29日午後、失血死した。重岡被告と女性に面識はなかった。 県警は現場近くの複数の防犯カメラに写っていた不審者から、重岡被告を割り出した。重岡被告は、同市内の食品加工工場で派遣社員として働いていたが、2月に辞めてからは定職がなかった。一人暮らしで、住んでいたアパートの部屋は電気やガス、水道が止められ、逮捕前はロウソクで暮らしていた。 |
裁判所 | 横浜地裁 秋山敬裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年1月14日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年1月11日の初公判で重岡被告は起訴内容をおおむね認めた。冒頭陳述で検察側は「ナイフで数回、女性の左胸を目がけて突き刺した。動機は身勝手で、殺意も強固」と主張したが、弁護側は「刺して金を奪おうとまで考えておらず、もみ合ってパニック状態となり、気付いたら刺していた。刺したと認められるのは1回。殺意もそれほど強くない」と反論した。 13日の論告で検察側は「ナイフの長さより深い傷が遺体に残り、手加減せずに刺すなど殺意は強固。金に困ったのは、(事件を起こす前の)約1年10カ月間、仕事に就こうとしなかったのが最大の原因。他人から金を奪うのは言語道断」と指摘した上で、「更生可能性がないとは言えず、死刑は躊躇せざるをえない」と述べた。弁護側は「ナイフを刺したときはパニック状態で、記憶は欠損している」と強い殺意を否定し、「事件前にガスや電気も止められた極貧状態で、自殺しようと思い続けたができず、精神的に追い詰められて金を奪おうと思うようになった」などと酌量減軽を求めた。被害者参加制度を利用し、被害者の夫の代理人弁護士は「遺族の傷は時間がたてば癒えるというものではない。考慮すべき情状は無く、被告に対し厳正な処罰を求める」と述べた。また、被告は最終陳述で「身勝手な理由で尊い命を奪いました。本当に申し訳ありません」と述べた。 判決で秋山裁判長は「財物を奪う強い意欲を持ち、強い殺意で被害者を刺した点は非難に値する」と認定。被告側が犯行の動機は経済的な困窮とした点については、「被告人に同情することはできない。強盗で自己の経済的困窮を脱しようとしたこと自体、身勝手というほかない」と指弾した。そして「夫や子供らを残して落命した無念の情は察するに余りある。被告に更生可能性が十分あることを最大限考慮しても、(法定刑を下回って)酌量減軽すべき事案とは考えられない」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2011年中に東京高裁で被告側控訴が棄却されたものと思われる。 |
氏 名 | 野地卓(25) |
逮 捕 | 2008年4月15日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂、銃刀法違反他 |
事件概要 |
福岡市の無職野地卓被告は2008年3月25日18時30分頃、同市城南区で女性会社員(当時31)に果物ナイフ(刃渡り約10cm)を突き付け現金を要求。応じなかったため、胸や腹などを突き刺して重傷を負わせた。その後バックを探ったが、金目の物がなかったためそのまま逃走した。 また4月14日19時頃に同市早良区のアパート前で、無職女性(当時78)から金を奪おうと果物ナイフで首などを多数回刺し失血死させた。悲鳴を聞いて駆け付けた男性が、女性のそばに立っていた野地被告をいったん羽交い締めにしたが、野地被告は振りほどいて逃走した。似顔絵や、現場近くに残されていた自転車から野地被告の指紋が出たことから捜査本部は15日午後2時前、自宅から出て来た野地被告に任意同行を求め、事情を聴いたところ殺害したことを認めたため、同夜、強盗殺人などの容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 福岡地裁 松下潔裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2011年2月2日 無期懲役 |
裁判焦点 |
福岡地検は2008年5月16日に福岡地裁に鑑定留置を請求し認められたため、同月19日から7月25日までの約2か月、専門医が事件当時の精神状態などを調べた。「責任能力に問題はない」とする鑑定結果が出たため、8月1日に起訴した。 2009年4月22日の初公判で、野地被告は起訴内容について「殺害するつもりはなかった。強盗ではなく恐喝のつもりだった」と、殺意や強盗目的を否定した。 5月21日の第4回公判で、松下裁判長は弁護側が求めていた精神鑑定の実施を決めた。 2010年2月24日の第6回公判で、精神鑑定の担当医師は「妄想性人格障害を持っていたが、人格の核心に著しい影響を及ぼすような精神疾患はない」と証言した。 2010年12月26日の論告で検察側は「通り魔的に無差別に被害者を狙い、人間性のかけらすら見いだすことができない。更生の可能性を認めることはできず、更に被害者を出していた可能性もある」と指摘。死刑選択の基準「永山基準」に照らした上で「亡くなった被害者は1人だが、反社会性の大きさは際立っている」と断罪した。 同日の最終弁論で弁護側は「被告には人格障害があり、ストレスで一過性の精神病症状を起こす可能性があった。ナイフを突き付けた被害者がすぐにバッグを出さなかったことなどに動揺し、野地被告がパニックに陥った」と殺傷行為時の責任能力を否定し、強盗未遂罪にあたると主張して有期刑を求めた。捜査段階と裁判中に計2回行われた精神鑑定でいずれも責任能力が認められたことについては、「鑑定人は信用性に疑いのある自白調書を過信しており、鑑定結果には問題がある」と指摘した。 判決で松下裁判長は犯行態様や経緯などから責任能力を認定した。そして「生活費に困窮したという犯行の経緯や動機は身勝手で短絡的。死刑を適用することも十分に考えられる極めて重大な事件だが、殺害する意図は計画的だったとまでは言えない。若年でこれまで凶悪犯罪の前科はなく、更生の可能性もあり、極刑はちゅうちょせざるを得ない。生涯にわたって贖罪の日々を送らせるのが相当だ」と述べた。 |
備 考 | 検察・被告側は控訴した。2012年2月16日、福岡高裁で検察・被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | 藤木誠司(60) |
逮 捕 | 2010年1月11日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
福岡県小竹町のタクシー運転手藤木誠司被告はギャンブルなどで消費者金融や勤務先などから約650万円の借金があり、暴力団から返済を迫られていた。そこで藤木被告は、知人の北九州市に住む元タクシー運転手の無職男性(当時82)に借金を申し込んだ。2009年12月24日、男性は銀行に借りた150万円を含む約160万円を貸そうと藤木被告の自宅を訪れたが、保証人を巡って口論になった。そして午前0時半頃、藤木被告は居間で男性の首を包丁で刺すなどして殺害し、現金約158万円を奪った。そして遺体を廊下に遺棄した。奪った金は借金返済やパチンコなどに使った。 藤木被告と男性は10年来の付き合い。男性は2009年1月からタクシー会社で働いていたが健康上の理由で退職し、11月に知人の藤木被告をタクシー会社に紹介し、身元引受人にもなっていた。 男性は一人暮らし。親族が2010年1月8日に捜査願を提出。10日に藤木被告宅から大家らが遺体を見つけて通報。11日、福岡県警が筑紫野市で身柄を確保し、逮捕した。 逮捕時は死体遺棄も容疑に含まれていたが、起訴時の容疑からは外されている。 |
裁判所 | 福岡高裁 川口宰護裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月4日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 控訴審で被告側は、犯行を決意したのは一審が認定した2日前ではなく直前と主張したが、高裁は藤木被告の調書の信用性を認めて退けた。有期刑を選ばなかった一審が重すぎるとした点は「ギャンブルにおぼれて借金を重ねた結果、犯行に至っており、責任は重い」と判断した。 |
備 考 | 2010年7月16日、福岡地裁小倉支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | 田中龍郎(58) |
逮 捕 | 2010年2月8日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
甲府市の飲食店員田中龍郎被告は2010年1月31日午後8時前ごろ、富士河口湖町に住む新聞販売店従業員の女性(当時61)宅で、女性をビニールひもで絞殺し、約57万円を奪った。現金は新聞の集配金と女性の所持金であった。田中被告は1994年から2年間、新聞販売店で働いており、女性とは同僚であった。田中被告は多方面から借金しており、借金の合計は110万円以上に上る。女性からも借金をしていた。 捜査本部は女性の携帯電話の通話履歴に田中被告の名前があったため、2月2~4日に田中被告から任意で事情を聴いたが容疑を否認。さらに5日午前も出頭を求めたが現れず、行方をくらました。女性の着衣に付着したDNAと田中被告のDNAが一致したため、全国に指名手配をした。 捜査員が2月8日午後1時50分頃、静岡市の温泉宿泊施設で田中被告を発見。「田中だな?」と声をかけると「はい」と答えたため、逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 小西秀宣裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月15日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
田中被告は一審同様無罪を主張した。 小西秀宣裁判長は女性の爪や衣服などに付着したDNA型が田中被告の型と一致したことや、田中被告が持っていた現金から女性の指紋が検出されたことなどから、田中被告が殺害して現金を奪ったことは強く推認できると結論づけた。 |
備 考 | 2010年8月4日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2011年11月16日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 稲毛勝則(47) |
逮 捕 | 2010年1月16日(自首) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反、住居侵入 |
事件概要 |
静岡県富士市の無職稲毛勝則被告は2010年1月15日午後10時ごろ、同市に住む建設業の男性方に持っていたバールで玄関を壊して侵入。男性の妻(当時32)の胸などを包丁(約25cm)や自作したとみられる刃物(約80cm)で刺して殺害した。事件当時男性は外出中で、他に男性の長女、長男がいたが無事だった。 別棟に住む男性の父親が110番通報。事件直後、稲毛被告は富士署に自首した。 稲毛被告は2006年に男性の会社で1週間ほど働いていたが、7月に自宅を訪ねてきた男性と退職を巡って口論、「殺してやる」と言いながら包丁を持って男性を追いかけたとして殺人未遂容疑で逮捕。2006年12月に懲役2年執行猶予3年の有罪判決を静岡地裁沼津支部で受けていた。 静岡地検沼津支部は1月下旬から6月上旬まで稲毛被告を鑑定留置し精神鑑定した結果、刑事責任能力があると判断し、6月14日に起訴した。 |
裁判所 | 静岡地裁沼津支部 片山隆夫裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月17日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年2月14日の初公判で、稲毛被告は起訴内容を認めた。検察側は冒頭陳述で、「被告は2006年、元雇用主の男性を洋包丁を持って追い掛け回し、有罪判決を受けた。これを機に恨みを持つようになった」と説明。「男性宅に押し入った被告は逃げ場のない男性の妻を洋包丁で突き刺しており、極めて悪質で冷酷非道な犯行だ」と指摘した。これに対し、弁護側は「被告は反省しており、被害者の家族と今後一切関わらないと誓っている。犯行には『妄想性パーソナリティー障害』の影響があった」などと主張した。 2月15日の論告で検察側は「凶器を準備し、子どもの目の前で母親を殺害するなど強固な殺意に基づく計画的犯行。被告は無防備な被害者に対し、殺傷能力の高い刃物で一方的に攻撃して殺害した。家族にも計り知れない精神的打撃を与えており、結果は非常に重大だ。完全な逆恨みで、男性の妻に落ち度は無く、理不尽だ」とした。「4年前に男性を襲い裁判になった時も反省を口にしたが、保護観察中に再び男性を殺そうと自宅に訪れるなど、被告の性格を変えることは極めて困難。男性を恨み続け、再び殺害に及ぶ危険性が非常に高い」などと述べた。同日の最終弁論で弁護側は「犯行直後、反省が深まらなかったのは妄想性パーソナリティー障害の典型的症状。被告には更生の可能性があり、期間を定めずに懲役を科すのは更生の意欲をそぐ」と有期刑の選択を求めた。元雇用主の男性が被害者参加人として意見を述べ、「たった2日間雇った男に恨まれ、妻を殺され納得できない。犯人に命の重みを分からせるため極刑を求める」と涙ながらに裁判員に訴えた。 片山隆夫裁判長は、「元雇用主を逆恨みしたうえ、妻に殺意を向けており動機は理不尽極まりない。子どもたちの前で、無防備な被害者に苛烈な攻撃を繰り返した残虐かつ冷酷非道な犯行だ。被害者の無念、子どもが幼い心に負った傷の深さは計り知れない。再び他者に危害を及ぼす可能性がある」と厳しく指摘した。また、「犯行は『妄想性パーソナリティー障害』の影響で、更生のため有期刑が妥当だ」とした弁護側の主張について、「障害は性格傾向の一つにすぎない。自ら出頭したことなどを考慮しても、終生にわたって被告に罪を償わせるのが相当だ」として退けた。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 江角一子(60) |
逮 捕 | 2005年7月6日(窃盗容疑。8月10日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、詐欺、詐欺未遂、窃盗、窃盗未遂 |
事件概要 |
名古屋市の民生委員江角一子被告(当時54)は2005年3月22日夜、自らが担当していた名古屋市北区の市営住宅に住む1人暮らしの無職女性(当時83)に睡眠薬を飲ませ、さらに首を絞めて殺害。翌日、女性のキャッシュカードでATMから現金53000円を引き出した。江角被告は2005年2月にも、女性の孫名義の郵便貯金通帳で現金を引き出そうとしていた。 遺体は翌日発見され、当初は病死と判断されたが、カードから現金が引き出されていたことが判明したため詳しく遺体を調べたところ、首に細い紐で絞められた後があったことから強盗殺人事件として捜査が始まった。 ATMの防犯ビデオの映像から愛知県警は江角被告に任意の事情聴取を続けたが、江角被告は被害者から頼まれて現金を引き出しただけであり、カードと現金は葬儀後に返したと容疑を否認した。愛知県警は7月6日、窃盗容疑で江角被告を逮捕。さらに8月10日に強盗殺人容疑で再逮捕した。 江角被告は被害者の近所に住んでおり、2004年まで交通指導員を22年間務めていたことから推薦され、民生委員に委嘱された。江角被告と夫は消費者金融に併せて約840万円の借金があって返済に窮していた。 江角被告は他に2003年11月、交通指導員の忘年会で同僚女性2人の財布(現金37000円)を盗んだ窃盗、2005年2月2日に勤務先の同僚女性のクレジットカードで約47000円分の買い物をした詐欺および詐欺未遂でも起訴された。 |
裁判所 | 名古屋高裁 志田洋裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月23日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2010年7月14日の控訴審初公判で、弁護側は「死亡推定時刻の認定に誤りがあり、被告のアリバイが成立する」と改めて無罪を主張。詐欺については起訴事実を認めた。検察側は「遺体発見時には出入り口は施錠されており、合鍵を持っていた江角被告が(死亡推定時刻に)女性宅にいたことは明らか」と控訴棄却を求めた。 10月26日の第2回公判で結審した。 事件では凶器などの直接証拠は見つかっていないが、遺体の状況から、犯行時間を一審の認定通り「午後9時前後の一定の幅のある時間帯」としたうえで、〈1〉江角被告が午後9時20分頃に女性方から知人に電話をかけている〈2〉合鍵や睡眠薬を所持していた〈3〉女性が殺害された後、江角被告が女性の預金を引き出した――ことなどを総合的に判断。志田裁判長は「被告は女性宅に出入りし睡眠薬を摂取させることができる立場にあり、アリバイもない」とし、「女性を殺害したと認められる」と判断した。他の窃盗、詐欺など計5件すべてについて有罪とした。 |
備 考 | 2009年9月7日、名古屋地裁で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年2月5日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 今村宗則(50) |
逮 捕 | 2008年11月21日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
大阪府守口市の元塗装工今村宗則被告は2001年8月28日午後9時頃、大阪市旭区の薬局店で店主の女性(当時84)を絞殺し、売上金約70000円やビタミン剤などを奪った。 当時今村被告は事件前まで住んでいた大阪府守口市内のマンションを家賃滞納で退去。事件の1ヶ月前には旭区内の塗装会社を辞めており、収入がほとんどなかった。さらに、消費者金融などのブラックリストにも載るなど、借金もできない状況だった。マンション退去後は、レンタカーの車中で生活。契約期間を過ぎても返却せず、乗り回しては放置することを繰り返していた。 今村宗則被告はこの事件の約2週間前になる8月15日早朝、大阪市北区の洋服店店主(当時84)の店に2階の窓から侵入し、就寝中の店主の頭部を角材のようなもので殴った上、電気コードで首を絞めて殺害。現金約3万円とキャッシュカードを奪った。2001年10月11日、今村被告は逮捕された。無罪を主張していたが、2003年12月1日に大阪地裁で求刑通り無期懲役判決。2004年7月14日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2004年12月13日、最高裁で被告側上告が棄却され、翌年1月に確定。その後は徳島刑務所に服役していた。 今村被告は旭区事件の前日、近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに映っており、元妻に「2人殺した」と打ち明けていたことから、捜査本部は事件に関与しているとみていたが、捜査は難航。2003年3月、北区の事件における大坂地裁の裁判で行われた被告人質問で今村被告は、検察官に旭区の事件とのかかわりを尋ねられが、「知りません」と平然と言い切っていた。 DNA鑑定技術の向上から大阪府警捜査一課は、現場の遺留品であったタオルに付着していた皮膚片のDNA鑑定を実施。2009年8月、DNA型の検出に成功。徳島刑務所で服役中の今村被告から血液を採取し、DNA型を鑑定したところ一致した。2008年11月21日、大阪府警捜査一課は服役中の今村被告を強盗殺人容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 大阪高裁 上垣猛裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2011年2月24日 無期懲役(検察側控訴棄却) |
裁判焦点 |
検察側は、「(今回の事件は)連続強盗殺人の一環だ」として一審同様極刑を求めた。 上垣裁判長は判決理由で「仮に連続強盗殺人事件として審理されていれば極刑が選択される可能性は否定できない」としながらも、死刑を念頭にすでに確定した事件を評価し直して量刑を決めることは憲法39条が禁止する二重処罰に抵触する-と判断した一審判決を踏襲した。その上で「2件の無期懲役で服役すれば被告の年齢では平均余命がすぎても仮釈放される見込みはほとんどなく、一審判決が軽すぎるとは言えない」と指摘した。 |
備 考 |
別の事件で無期懲役判決が確定し、現在服役中。 2010年5月31日、大阪地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。検察側は上告した。2012年12月17日、検察側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 江上竜一(23) |
逮 捕 | 2009年6月8日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗致傷他 |
事件概要 |
名古屋市中川区の土木作業員江上竜一被告は、建築会社の元同僚であったとび職S被告、とび職O被告と共謀し、薬物の売人を襲って覚せい剤と現金を奪うことを計画。江上被告が別のイラン人に電話で薬物購入を持ちかけ、2009年5月2日午前0時25分頃、同市東区で取引現場に現れた覚せい剤密売人のイラン人男性(当時31)の胸を江上被告が刃物で刺して殺害し、乗用車1台と覚せい剤約2.2gを奪った。車は3日、守山区の住宅街で見つかった。車内に残された指紋から3人が浮上した。 他にS被告、江上被告、別の覚せい剤取締法違反容疑で起訴されていたとび職N被告は、2009年3月17日、東区の路上で覚せい剤密売人のイラン人男性(当時26)を刃物で刺して足や手に3週間の怪我をさせたうえ、覚せい剤や現金を積んだ乗用車1台を盗んだ。 |
裁判所 | 名古屋高裁 下山保男裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月24日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 下山保男裁判長は「被害者を刺したとする捜査段階の自白は信用できる」と述べた。 |
備 考 |
強盗致傷容疑で起訴されたN被告は2010年5月21日、名古屋地裁(手崎政人裁判長)で懲役3年6月(求刑懲役8年)が言い渡された。検察側は、被告について、手を下していなくても実行者2人と同様の責任を問える共謀共同正犯が成立すると主張したが、判決は「仲間の計画に途中から参加した」として従犯と認定した。双方控訴せず、確定。 殺意がなかったとして強盗致死容疑で起訴されたO被告は2010年10月8日、名古屋地裁(田辺三保子裁判長)で懲役18年(求刑懲役25年)が言い渡された。検察側は江上竜一被告の証言を基に、O被告が事件を持ちかけたと主張したが、判決は「事件を持ちかけたのは江上被告だとするO被告の法廷供述の方が信用できる」と判断した。 S被告は殺意がなかったとして、強盗致死で起訴された。2011年3月18日、名古屋地裁(田辺三保子裁判長)で懲役30年判決(求刑無期懲役)。田辺裁判長は「事件を計画したリーダー格で、弱みにつけこむ卑劣な犯行」と指摘したが、被害者遺族と示談が成立したことを有利な事情とした。 2010年7月29日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2011年9月5日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 国谷義一(62) |
逮 捕 | 2009年11月17日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗強姦未遂、銃刀法違反 |
事件概要 |
山梨県都留市の無職国谷義一被告は2009年11月8日午前3時10分ごろ、甲斐市のスナックで持参したペティナイフ(刃渡り約9cm)で経営者の女性(当時68)の背中を2回突き刺すなどし、床にあおむけに倒れたところを馬乗りになって暴行しようとした。女性が抵抗したため、さらに首や腹、胸などを多数回突き刺し、死亡させた。 国谷被告は、女性を殺害した後に逃走するつもりだったが、女性に舌をかまれ、舌の出血がひどいことに動揺して自分で救急車を呼んだ。退院後の11月17日に逮捕された。 逮捕当初は殺人と強制わいせつ致死、銃刀法違反の逮捕容疑だったが、国谷被告が体調を崩して9月頃に無職となり生活が苦しくなったため、10月上旬に犯行を計画し、自宅にその計画を記したメモを残していたことが判明したため、強盗殺人と強盗強姦未遂、銃刀法違反の罪で起訴した。 |
裁判所 | 甲府地裁 深沢茂之裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月25日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 当初は2010年9月28日~10月7日で裁判が予定されていたが、弁護側から「被告の主張が大きく変更される可能性が出てきた」との申し出があり、弁護側、検察側、裁判所の3者で話し合い、同地裁が22日付で決定した。公判前整理手続きで争点は「強盗及び強姦の故意が認められるか」と「犯行態様」に絞られていたが、10月1日に公判前整理手続きが再開された。 2011年2月15日の初公判で国谷被告は、ナイフを持っていたことは認めた上で、強盗殺人と強盗強姦未遂罪について「間違っています」と否認した。 検察側は冒頭陳述で、金に困っていた国谷被告は好意を持っていた女性に目薬入りの酒を飲ませて昏睡させて乱暴し、殺害して金を奪おうと企てたと主張。女性が眠らなかったためナイフで刺し、馬乗りになって乱暴しようとしたが、舌をかみ切られ未遂に終わったとした。押収したメモの中に「注入」「SEX後殺す」など、犯行計画を書いたような内容があったことを明らかにした。 弁護側は、県警科捜研のDNA鑑定で、店内から国谷被告と女性以外の別人の血痕が検出されたことを挙げ「第三者が犯人の可能性がある」と主張した。仮に国谷被告が犯人だったとしても、メモは被害者を想定して作られたのではなく、乱暴目的や強盗目的はなかったと訴えた。 甲府地検は、取り調べの中で国谷被告が自白しているとされる約8分間のDVDを証拠申請したが、弁護側が「取り調べの一部でしかない自白は信用性が低い」として拒否し、採否留保となっている。 17日の公判で、再鑑定を担当した県警科学捜査研究所(科捜研)の男性研究員が証言。2009年12月のDNA鑑定では、犯行現場から採取された血痕と血液で行われた。最初の鑑定は死亡した別の男性研究員が実施。鑑定書には「被告とも被害者女性とも異なるDNA型が犯行現場に残った血痕から検出された」との内容が記載された。一方、同じ試料を使った2010年10月再鑑定では第三者のDNA型は検出されなかった。異なる結果が出た理由について、再鑑定をした研究員は〈1〉最初の鑑定は1度だけで、同じ結果になるかどうか再確認していなかった〈2〉DNA量を示す蛍光強度の数値が一般的な基準よりもやや低いままDNA型を判定していた--などが考えられると述べた。 18日の公判で検察側は、採否が留保されていた取り調べ中に録音録画されたDVDについて、証拠請求を取下げた。DVDは約8分間で、国谷被告が供述調書を確認している場面を録音録画したものとされる。公判前整理手続きで検察側が証拠請求し、弁護側が「裁判員の誤解を招く」として採用しないよう求めていた。 2月23日の論告で検察側は、当初の鑑定で血痕から第三者のDNA型が検出されたことについて「他の客や従業員の皮膚やつばなどが混入した可能性が高い」と主張。そして国谷被告が刺したことを一貫して認めていた上、凶器のナイフは国谷被告が持ってきたことや、駆け付けた警察官にナイフの隠し場所を示したことなどから、「国谷被告以外に犯人はあり得ない」と主張。供述の任意性や信用性について「取調官が知り得ない事実を述べるなど、供述の任意性や信用性に疑いの余地はない」と述べた。犯行直前に「SEX後殺す」などとメモ書きしていたことから強盗と強姦の故意は明らか、とし動機は「金を奪うことと、自らの性的欲求を満たすことであり、厳しく非難されるべきだ」と指摘した。そして「ペティナイフで30カ所以上突き刺すなど犯行は執拗かつ残虐で異常」と述べた。 弁護側は最終弁論で、当初の鑑定は経験豊富な研究員がルールに則して行ったと指摘し、「血痕から第三者のDNA型が検出されたことは否定できず、犯人性の立証には不十分」とした。また、「仮に犯人だとしても、強盗や強姦の故意はなく、殺人と強制わいせつ致死に当たる」と主張。「供述の重要部分が変遷しており、(検察側は)当初の来店目的から強盗、メモから強姦というストーリーを作り、被告を誘導した」と批判した。 深沢裁判長は判決で「ナイフは被告のもの。被告は駆け付けた警察官に凶器の場所を示し『何回刺したか分からないくらい刺した』と述べたほか、犯行直後の現場には被告と女性しかいなかった」などから「犯人であることを合理的に推認できる」と認定。その上で、「SEX後殺す」などと書いたメモを作成したことや、金に窮していた状況などから、強姦や強盗の故意も認定した。また、調書の任意性や信用性について「誘導や心理的圧迫により自白したとは認められない」などと述べた。そして「被害者の苦痛、屈辱感、無念さは察するに余りある。不合理な弁解をして無罪を主張しており、反省の態度は認められない」と述べた。 |
備 考 | 控訴せず確定と思われる。 |
氏 名 | 平川隆則(42) |
逮 捕 | 2010年7月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
千葉県市川市の無職平川隆則被告は離婚訴訟を起こした妻と、代理人である横浜市の弁護士男性(当時42)に怒りを募らせ、2010年6月2日午後2時40分ごろ、スタンガンやガソリンなどを持って横浜市の法律事務所を訪問。男性の胸などをアウトドアナイフで数回刺し、殺害した。 平川被告はその後逃走。現場の事務所内にあった離婚訴訟の資料から、平川被告が浮上。神奈川県警は事件後に平川被告と連絡を取ろうとしたが行方が分からなくなっており、平川被告の車から男性の血痕が付着した衣類が発見されたことから、捜査本部で平川被告を指名手配。6月28日に、平川被告の防犯カメラの画像などを公開すると、7月1日夜、加賀町署に出頭した。 |
裁判所 | 横浜地裁 小池勝雅裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2010年2月28日 無期懲役 |
裁判焦点 |
2011年2月22日の初公判で平川被告は「殺意は否認します」と起訴事実を一部否認した。また複数回刺したとされる起訴内容について、「私の記憶では1回」と主張した。 冒頭陳述で検察側は、離婚訴訟のこじれから、妻の代理人である男性に不満を抱いていたと指摘。「致命傷の刺し傷は2か所で深さ7.5cm以上。相当強い力で刺している」と殺意を強調した。これに対し弁護側は、脅すために3個も用意したスタンガンを前野さんに取り上げられたため、バッグからナイフを取り出したと説明し、「心臓から遠い部分を刺しており、ナイフを突き出した瞬間に男性が向かって来たため傷が深くなった」などと殺意を否認した。そして「離婚訴訟で都合のいいことばかり言う妻に会い、うそを認めさせようと、男性を脅して居場所を聞き出すのが目的だった」と述べ、傷害致死罪にとどまると主張した。 2月23日の第2回公判で、平川被告は、2010年3月と4月、横浜家裁での妻との離婚訴訟の裁判の際、法廷にスタンガンや粘着テープを持参したことを証言。裁判官と妻側代理人の男性を縛り上げた上で妻に離婚の経緯について話をさせる計画を立てていたことを明らかにした。実行には移さず、男性の事務所を襲う計画に変更した。 2月24日の論告で検察側は「ナイフを使って強い力で胸を2カ所刺しており、殺意があったのは明らか。被告の弁解は不合理の極みだ。暴力で主張を押し通そうと弁護士を殺害したのは、法治国家で許されない行為」と指摘した。殺害の動機については「妻の居場所を教えない男性を怒りに任せて殺害したと考えられる」とし、「命がけで依頼者の安全を守った男性の態度は立派で、落ち度はない。極めて特別な事件で、社会に与えた衝撃は大きい」とも述べた。 同日の最終弁論で弁護側は「近づいてきた男性に対し、来ないでほしいという気持ちから、ナイフを持った手を突き出しただけ。離婚訴訟の妻側代理人だった弁護士を脅して妻の居場所を聞き出そうとしただけで、殺意はなく傷害致死罪にあたる。弁護士を脅す計画を立てたことは正当化できず、男性が亡くなったのも事実だが、謝罪の気持ちを持っている。懲役10年が相当」と述べた。 平川被告は最終意見陳述で、被害者や遺族に謝罪し「機会が与えられるなら、償いと社会貢献をしたい」と述べた。 判決で小池裁判長は、「弁護士を脅して妻の居場所を聞きだそうとしたが激しく抵抗され、とっさに殺意を抱いたと考えられる。刃渡り約19cmの殺傷能力の高いナイフで胸を2度突き刺しており、相当強い殺意があった」と認定し、被告側の「刺したのは1回」「脅すつもりだった」などの弁解については不自然だと退けた。そして弁護士が係争中の裁判に関連して襲われた点を重視し、「裁判中に暴力で自分の言い分を押し通そうとした。法治国家の根幹を揺るがす極めて悪質な犯行。動機や経緯に酌むべき事情は見あたらず、真剣な反省も見られない」と被告を非難した。さらに「同種の事件が頻発しており、弁護士や利用者が萎縮するのを防ぐためにも毅然とした態度で臨む必要がある。被害者1人の殺人としては最も重い部類で、計画的犯行でないことなどを考慮しても無期懲役をもって臨むのが相当だ」と量刑の理由を説明した。 |
備 考 |
判決を受け横浜弁護士会の水地啓子会長は「いかなる弁護士業務妨害にも屈しない」とする談話を発表した。 被告側は控訴した。2011年7月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。2011年11月21日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 浜田誠(43) |
逮 捕 | 2010年1月25日(自首) |
殺害人数 | 3名 |
罪 状 | 殺人 |
事件概要 |
大阪市の調理師浜田誠被告は、株取引の失敗で消費者金融から借りた約600万円の返済に行き詰まり、無理心中を計画。2010年1月24日未明、自宅で妻(当時42)、中学3年生の長男(当時15)、小学6年生の長女(当時12)の首を絞めて殺害した。その数時間後、浜田被告は「職場に迷惑はかけられない」と同市内の飲食店に出勤。仕込みなどをした後、インターネットカフェに行き、カッターナイフで手首を切ったが死にきれず、25日夕に出頭した。 妻は複数の仕事を掛け持ちし、「子どもの学費に」と浜田被告に内緒で約2,000万円を蓄えていた。 約2か月にわたる精神鑑定の結果、大阪地検は「犯行時に責任能力があった」と判断し、4月23日に起訴した。 |
裁判所 | 大阪地裁 和田真裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年2月28日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年2月21日の初公判で、浜田被告は起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、浜田被告が風俗店通いや株取引の失敗などで約580万円の借金を抱えていたと指摘。不仲だった妻に借金が発覚すると離婚で親権が取られると思い、就寝中の3人の首を腕で絞め、殺害したと指摘。事前に睡眠薬をジュースに混ぜて飲ませるなど計画的で、完全責任能力があったと主張した。弁護側は「被告は適応障害だった。借金の返済が強いストレスになり、判断能力が弱まっていた」と心神耗弱を主張した。 最終弁論で弁護側は、自殺すれば子どもが悲しみ、妻が残されるのもかわいそうだと考えた末の犯行だとして、懲役15年が妥当と訴えた。 和田裁判長は判決理由で「株取引の失敗で借金を重ねたのは自業自得で、自殺の道連れにしようと家族を殺害したのは身勝手極まりない。妻は子どもの将来を考え、多額の貯金をしていた。子どもを一番に考えたなら、自己破産して再起を図るはず。無理心中が本当の愛情とは言えない。3人の尊い命を奪った責任は重く、生涯をかけて罪を償わせるのが相当」と述べた。弁護側の被告が心神耗弱だったという主張については、「子どもに睡眠薬を飲ませるなど行動は計画的で、責任能力に問題はない」と退けた。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 篠原一樹(25) |
逮 捕 | 2009年7月15日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火、強姦致傷、住宅侵入、強姦未遂、窃盗 |
事件概要 |
茨城県水戸市の水産会社職員篠原一樹被告は2007年10月頃から、ひたちなか市に住み、同僚であるパート従業員の女性と交際を始めたが、2009年6月頃、メールをしても返事が来なくなったことから、復縁しなければ火を付けるなどと脅そうと考え、ガソリンとライターを用意した。6月16日午前3時30分頃、出勤しようとした女性(当時40)を自宅前で待ち伏せしたが、復縁を拒否されたため、殺害しようと女性の首を絞めた。そして自分と女性に関わるものを燃やそうと午前3時40分頃、鍵を使って女性方に侵入し、一階にガソリンをまいて火を付け、木造2階建て住宅述べ125平方メートルを全焼させ、女性の夫である会社員の男性(当時42)に全治1ヶ月、次女(当時15)に全治7ヶ月以上のやけどを負わせた。その後、女性が生きていることに気がついて自分の犯行が発覚するのを恐れ、4時頃、女性のズボンにダンベル2個(約10kg)を入れたうえで女性を那珂川に投げ入れて殺害した。 火災があったことを知った会社の上司が篠原被告宅を訪問。肘などが焼けただれた篠原被告が出てきて、放火を認めたため、水戸署に出頭した。放火は認めたが、行方不明になっている女性については何も知らないと否認。しかし全身火傷のため、入院した。6月22日、ひたちなか西署員が遺体を発見した。7月15日、回復した篠原被告は逮捕された。 他に篠原被告は2009年5月17日午後9時35分頃、水戸市内で女性(当時21)を強姦し軽傷を負わせるとともに、現金約4,000円などを盗んだ。 |
裁判所 | 東京高裁 矢村宏裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年3月2日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 公判では、篠原被告が被害者の自宅を放火する際、家族への殺意があったかが争点となっていた。篠原被告は「家に人がいるとは考えず、殺意はなかった」と主張していたが、判決では殺意を認定した。 |
備 考 | 2010年10月5日、水戸地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず、確定。 |
氏 名 | 島袋信秀(54) |
逮 捕 | 2009年1月17日(窃盗容疑) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体損壊・遺棄、窃盗 |
事件概要 |
那覇市の暴力団組員島袋信秀被告は、福岡市の自営業H被告、福岡市の無職W被告、同市のK被告と共謀。2008年11月30日から12月1日までの間で、北谷町に住む自営業の男性(当時50)を殺害し、遺体を切断して同県大宜味(おおぎみ)村の山間部に埋めた。さらに男性のキャッシュカードで計約415万円を引き出し、仲間と分けた。 男性の実兄が、弟と連絡が取れなくなったと12月8日に沖縄署に家出人捜索願を提出。12月20日、畑の所有者が地面に血痕があるのを見つけ、駐在所に通報。名護署員が掘り返し、ビニール袋に入った男性の切断遺体を発見した。 2009年1月17日~19日、無断でキャッシュカードから現金を引き落とした窃盗容疑で島袋被告、H被告、N被告を逮捕。2月9日、死体遺棄容疑で3人を再逮捕。3月2日、強盗殺人容疑で島袋被告を再逮捕した。3月4日、H被告、W被告、K被告を強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 那覇地裁 鈴木秀行裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年3月14日 無期懲役 |
裁判焦点 |
弁護側は被告が強盗殺人の実行行為者とする検察側の立証が不十分として無罪を主張している。2010年12月16日に結審した。 鈴木裁判長は「供述が不自然で信用できない」と被告側の主張を退けた。そして「冷酷非情な犯行。被告が首謀者として犯行に関わったと認められ、責任は格段に重い」と述べた。 |
備 考 |
共犯のH被告は2010年3月29日、那覇地裁(吉井広幸裁判長)で懲役22年判決(求刑懲役25年)。控訴せず確定。 共犯のK被告は2010年12月16日、那覇地裁(鈴木秀行裁判長)で懲役14年判決(求刑懲役20年)。 共犯のW被告もすでに判決が出ている。 被告側は控訴した。2011年中?に福岡高裁那覇支部で被告側控訴棄却。2013年12月25日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 元少年(21) |
逮 捕 | 2009年2月?日(別の強盗傷害事件。2月24日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗傷害、窃盗 |
事件概要 |
フィリピン国籍の無職元少年(事件当時19)は、友人であるフィリピン国籍の無職少年(事件当時18)と共謀し、通行人から所持金などを奪おうと計画。2009年1月31日午前0時25分頃、静岡県沼津市で勤務先から徒歩で帰宅途中だった飲食店アルバイトの男性(当時33)をナイフで数回突き刺して殺害。友人が現金約9000円入りの財布などが入っていたリュックサックを奪った。 他に強盗傷害2件、窃盗1件。 静岡地検沼津支部は、刑事処分相当の意見を付け、3月17日に静岡家裁沼津支部に送致した。静岡家裁沼津支部は4月8日に18歳の少年を、10日に19歳の少年を逆送した。 4月17日、静岡地検沼津支部は当時19歳の少年は強盗殺人で、18歳の少年は殺意がなかったとして強盗致死で起訴した。また別の事件における強盗致傷と窃盗でも起訴した。 |
裁判所 | 東京高裁 安井久治裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年3月14日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 2011年2月14日の控訴審初公判で弁護側は「被告は当時、ナイフで軽く突いて相手の抵抗を弱めるつもりだった。見境なく刺しており、心神耗弱状態だった」と指摘。強盗殺人罪は成立しないと主張、一審の無期懲役判決は重すぎるとして刑の減軽を訴えた。検察側は控訴棄却を求めて結審した。 |
備 考 |
共犯の無職少年は殺意がなかったとして強盗致死で起訴。2009年11月6日、静岡地裁沼津支部(片山隆夫裁判長)は懲役5年以上10年以下の不定期刑(求刑同)を言い渡した。控訴せず確定。 2010年10月8日、静岡地裁沼津支部で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | 浦上剛志(32) |
逮 捕 | 2009年6月9日(窃盗容疑。別事件で4月22日に逮捕済み) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、逮捕監禁、不正アクセス禁止法違反、電子計算機使用詐欺、旅券法違反、犯罪収益移転防止法違反他 |
事件概要 |
大阪府のゲーム機リース業、浦上剛志被告は2008年8月5日、一宮市の輸入卸業M被告と共謀し、バンコク市内に滞在していた岐阜県山県市出身の男性(当時33)のマンションで男性の両手首を手錠で、両足も粘着テープで拘束し、パソコン2台やキャッシュカード3枚などを強奪。M被告が現場を離れた際、浦上被告が男性の頭を浴槽に沈め、水死させた。帰国後の8月6日~10日、浦上被告はM被告と奪ったキャッシュカードやパソコンを使ったりして、男性の預金約1640万円を不正に得た。 8月9日、タイ山中で男性の遺体が発見された。タイ警察は8月21日に殺人容疑で浦上被告、M被告の逮捕状を取った。浦上被告は京都府警に出頭し、「自分は無関係」と述べた。岐阜県警の捜査員も駆け付けたが、タイ警察による殺人容疑の逮捕状は日本国内では効力がなく、身柄を拘束できず、帰宅させていた。その後浦上被告は行方不明となった。9月11日、岐阜県警は窃盗容疑で両被告の逮捕状を取り、16日にM被告が逮捕された。 浦上被告は都内へ移動し、数か所のホテルを転々としていた。12月以降、偽造パスポートでカナダや中国、韓国などに計6回の出入国を繰り返した。その後闇サイトの掲示板で浦上被告は他人名義の口座売買を持ちかけたため、2009年4月22日、警視庁は別事件の犯罪収益移転防止法違反容疑で逮捕した。このとき浦上被告は黙秘していたため、氏名不詳のまま逮捕している。しかし部屋に残っていたパソコン用メモリに入っていた少年時代の画像から「浦上」という苗字が判明。指名手配の照会により、岐阜県警が指名手配していることが判明。連絡を受けた岐阜県警が、指紋で浦上被告と確認。6月9日、岐阜県警が浦上被告を窃盗容疑で逮捕。8月4日、浦上被告、M被告を逮捕監禁と強盗殺人容疑で再逮捕した。 他にM被告は2008年6月5日、JR京都駅構内の旅行会社で浦上被告になりすまし、同名義のカードで新大阪-東京間の回数券3つづり(79万4400円相当)を購入し、同日中に京都市内の金券ショップでこれらの回数券を換金。そして浦上被告が翌6日、京都市内の警察署にカードの遺失届を出し、購入代金の支払いを免れた。 |
裁判所 | 岐阜地裁 宮本聡裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年3月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年3月1日の初公判で浦上被告は「何もやっていない」と無罪を主張した。 検察は冒頭陳述で、為替取引に失敗した浦上被告が男性の財産を狙って殺害を企て、浦上被告のパソコンに殺害計画が残されていたと指摘。浦上被告がM被告をだまして強盗の実行犯に仕立て上げ、自分は表に出ないようにしたと主張した。 弁護側は、事件当日の2008年8月5日、浦上被告が午前9時半過ぎにパタヤに行くことを決め、片道1500バーツ(約4500円)でタクシーを呼び、ビーチで本を読んでいたため、アリバイがあると主張した。同午後6時ごろ、M被告から「今どこにいる」と電話があり、「パタヤ」と答えたと主張した。さらに、帰国したM被告が浦上被告に対し、「ケンジ」という人物と男性を監禁して遺棄したと打ち明けたとし、浦上被告が自首を勧めると、M被告は「お前のせいにしてやる」と言ったと訴えた。弁護側は今回の事件で浦上被告の指紋やDNAが検出されていないことを挙げ、「疑わしきは被告人の利益に。少しでも疑問があるならば、無罪の判断を」と強調した。また逮捕後に一時殺害を認めていたことについては浦上被告の通院記録を証拠として提出し、「精神的不安で供述が一時変遷していた」と主張した。 3月11日の論告で検察側は、M被告が浦上被告とともに男性を拘束して財産を奪ったという証言を「具体的かつ一貫した内容で信用できる」と指摘。浦上被告のパソコンから見つかった殺害を示唆する内容の日記があったこと、死体の処理法などを訪ねたインターネット質問サイトの内容、男性の財産が浦上被告の口座にほぼ全額移されていることなどの間接証拠と合わせ、「被告が計画を立てて殺害して財産を奪った」と主張。当日は事件現場にいなかったとする浦上被告の供述は「M被告や証拠と相反し、不自然で信用できない」と指摘した。そして「金欲しさのための極めて利欲的な犯行。首謀者として周到に計画していた」と述べた。 一方、弁護側は、M被告が浦上被告に頼まれ、会ったことのない「おじさん」のために被害者から借金を取り返そうと共謀してマンションに監禁し、浦上被告から外に出ているよう言われた間に殺害されていたなどとするM被告の供述は「不合理で信用できない」と反論。さらに、殺害計画を示唆するとされるパソコン内の日記などの間接証拠については「M被告など第三者が書き込む余地がなかったとは立証されていない。浦上被告が犯人だと推認できない」と指摘した。他人名義のパスポートを作成した旅券法違反罪などについては浦上被告が起訴内容を認めており、執行猶予付き判決を求めた。 判決はM被告の「自分が外出中、浦上被告が殺害した」との証言について、「客観的な証拠とも一致し、信用できる」と判断。浦上被告はパソコンに殺害計画のメモを残していた上、「財産も減っていて動機もあった」として、「殺害した犯人と認められる」と結論付けた。そして「首謀者として共犯者を利用し、極めて計画的に行った」と批判。浦上被告のアリバイ主張については「明確な根拠がない」と退けた。 |
備 考 |
共犯のM被告は強盗致死他で起訴。2010年12月9日、岐阜地裁(山田耕司裁判長)で懲役13年判決(求刑懲役15年)。被告側控訴中。この裁判員裁判は、国外犯規定の初の適用事例である。また現金を引き出した窃盗罪などについて森被告は先に起訴されており、2009年6月30日、岐阜地裁(田辺三保子裁判官)で懲役3年(求刑懲役4年)判決。10月28日、名古屋高裁(片山俊雄裁判長)で被告側控訴棄却。上告するも棄却され確定。 被告側は控訴した。2011年11月30日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2013年3月12日、被告側上告棄却、確定。 |
大林久人(54) | |
2007年5月18日 | |
1名 | |
殺人、殺人未遂、公務執行妨害、銃刀法違反、監禁、傷害 | |
愛知県長久手町の元暴力団組員大林久人被告は2007年5月17日午後、自宅別棟に元妻(当時50)を監禁。午後3時47分、長男(当時25)が自宅から110番通報。午後4時10分頃、駆けつけた県警愛知署長久手交番の2警官のうち、巡査部長(当時54)が首を撃たれ、玄関先に倒れた。さらに大林被告は自宅で長男と次女(当時21)にも発砲、長男は腹部、次女は足を負傷した。大林被告はさらに仰向けに倒れた巡査部長と、横で開放する次女に向け3発発射したが、当たらなかった。その後、長男と次女は、自力で自宅から逃げ出した。大林被告は元妻を人質にしたまま、自宅に立てこもった。 玄関前に倒れたままの巡査部長を救出するため、午後9時23分に捜査員が突入。巡査部長は救出されたが、この際、現場近くの路上で警戒に当たっていた機動隊員で、特殊部隊(SAT)所属の巡査部長(当時23 死後二階級特進)が左胸を撃たれ、18日午前0時14分に搬送先の病院で死亡した。巡査部長は防弾チョッキを着ていたが、チョッキのすき間の左鎖骨から入った銃弾が心臓に達した。死因は出血死だった。SAT隊員が現場で死亡したのは初めて。また救出された巡査部長は、現在も身体の自由がきかない状態である。 18日午後2時51分、人質となっていた元妻が家のトイレから自力で脱出し、県警に保護された。元妻は軽症。このとき、大林被告は地元のFMラジオ局に電話をかけており、指名したDJが折り返し電話をかけ、事件の動機などについて語っていた。 午後8時30分ごろ、説得に応じた大林被告は自宅から出てきた。48分、機動隊員が大林被告を取り囲み、緊急逮捕した。 大林被告の元妻は2005年11月、愛知署へ家庭内暴力などについて相談に訪れ、県女性相談センター(名古屋市)に保護された。2005年12月半ばからは県内の別のシェルター(避難所)に移り、2006年6月に離婚した。この間、大林被告は長女方を訪れた元妻を待ち伏せて刃物を示したり、次女と面会中に押しかけて復縁を迫ったりしたため、DV防止法に基づいて妻への接近を6ヶ月間禁じる保護命令も名古屋地裁から出された。 しかし、17日に家族全員で復縁などについて話し合い、その最中に大林被告が激高、拳銃を持ち出して暴れたため、家族が110番した。大林被告は15日にも長男と口論になっており、さらに16日には拳銃で試射をしていた。 大林被告は10年前に山口組系暴力団を破門されていたが、自宅に拳銃や銃弾を持ち続けていた。 | |
最高裁第三小法廷 那須弘平裁判長 | |
死刑 | |
2011年3月22日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) | |
判決で那須裁判長は「刑事責任は重大で、死刑にするべきだとする検察側の上告理由も理解はできる」としたが、「警察官1人を殺害した犯行は、死亡してもやむを得ないという程度の殺意にとどまり、周到な計画性もなく、遺族らに謝罪の態度も示している」と指摘。「一、二審の判断を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない」とした。減刑を求めた弁護側の主張も「上告理由に当たらない」として退けた。 | |
2008年12月17日、名古屋地裁で一審無期懲役判決。2009年9月18日、名古屋高裁で検察・被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 前田孝行(43) |
逮 捕 | 2009年8月6日 |
殺害人数 | 0名 |
罪 状 | 強盗強姦、わいせつ略取誘拐、強盗強姦未遂、強姦、強姦未遂他 |
事件概要 |
堺市の会社員前田孝行は、2009年2月から8月、堺市や岸和田市、高石市内などで10代から20代の女性に道などを尋ね、お礼を装って差し出した睡眠薬入りの缶ジュースを飲ませて昏睡させ、自分の車に乗せて暴行を重ねた。一部の女性からは現金等を盗んだ。合計13件で起訴されている。被害女性は15人に上るが、1人は告訴を取下げた。 8月5日深夜、堺市のJR駅付近で、別の強姦事件の現場付近の防犯カメラに写っていた車と同じ車があるのを捜査員が発見。乗っていた前田被告を任意同行し事情を聴いたところ犯行を認めたため、翌日逮捕した。 |
裁判所 | 大阪地裁堺支部 石川恭司裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年3月24日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年3月2日の初公判で前田被告は、暴行の事実は認めたが、強盗の犯意については否認した。 検察側は冒頭陳述で、前田被告がスーツ姿で声をかかける女性を物色し、自分の手帳を渡して女性が立ち去らないようにしたうえでジュースを買いに行き、薬を入れて飲ませていたと指摘した。 14日の論告で検察側は「13人の被害女性に落ち度はない。通り魔的で、若い女性は誰でも被害者になる可能性があった。地域社会を震かんさせた犯罪」と述べた。 被害女性の一人は意見陳述で「性犯罪は心の殺人だと、身をもって知った」と語った。女性は法廷内でついたて越しに陳述。「裁判員にも顔を見られるのは怖いが、地獄のような毎日を少しでも直接伝えたい。一生分の勇気を振り絞って出てきた」と説明した。事件後、心から笑えなくなり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、死を考えたこともあったことを明かした。 同日の最終弁論で弁護側は「被告は金品を盗もうとは考えていなかった。強盗強姦罪は成立せず、懲役20年が妥当」と主張した。 判決で石川恭司裁判長は「質道をたずねるふりなどをして女性に近づき、お礼として薬の入った飲み物を渡していて人の善意や親切心に付け込んだ犯行。好みの女性が見つかるまで場所を変えて待つなど動機は強固で、再犯の可能性は高い。被害者の肉体的、精神的な苦痛は甚大」と述べた。被告側の金銭を奪う目的はなかったという主張については「不合理な弁解」と退けた。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
長井蔵紀(36) | |
2008年10月28日(11月18日、強盗殺人容疑で再逮捕) | |
1名 | |
強盗殺人、死体遺棄他 | |
松山市の元暴力団幹部長井蔵紀被告は元暴力団組員I元被告と共謀。2005年12月3日午後3時ごろ、長井被告の住むマンションで、飲食店経営の女性(当時31)の首を両手で絞めて殺害。I元被告は両足を押さえていた。現金3万円と乗用車1台(時価153万円相当)などを奪った。さらに仲間2人と共謀し、遺体を布団圧縮パックに入れ、伊予市の山中に埋めた。その後、女性の携帯電話でメールを飲食店の客らに送信し、生きているように偽装した。 長井被告は女性と交際し同居していたが、別の傷害事件で服役。出所した2005年11月末、同居先に女性の姿が無く、家財道具もなかったため連絡を取ったところ、別れ話とともに2ヶ月分の家賃を請求されて憎悪を募らせた。 犯行後、長井被告は松山市に住むホステスの女性と共謀し、2007年3月頃、殺害した女性の生命保険契約の解約金をだまし取ろうと画策。女性が被害者になりすまして印鑑証明書を取得し、3月26日に生命保険会社から解約金36万円をだまし取った。2008年12月10日に詐欺と有印私文書偽造・同行使の容疑で逮捕されたが、起訴されたかどうかは不明。 他に長井被告は暴力団幹部の男性、タクシー運転手の男性と共謀して2007年3月7日午後、松山市内の50歳代の自営業男性の自宅兼事務所に侵入、120万円入りの手提げ金庫を盗んだ窃盗容疑で2009年2月3日に逮捕されているが、起訴されたかどうかは不明。 愛媛県警は2008年10月28日、死体遺棄容疑で長井被告、I元被告ら3人を逮捕。供述によって女性の遺体が発見された。遺体が埋まっていた場所は、長井被告の実家裏にある山林だった。 | |
最高裁第二小法廷 須藤正彦裁判長 | |
無期懲役 | |
2011年3月30日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) | |
被告側は一・二審で強盗殺人ではなく殺人+窃盗を主張している。 | |
共犯のI元被告は殺人、死体遺棄で起訴。2009年4月16日、松山地裁(村越一浩裁判長)で「指示されるまま犯行に加担し、酌量の余地はないが、地位は従属的で反省している」として懲役13年(求刑懲役20年)が言い渡され、そのまま確定した。 遺体を埋める穴を掘ったとして死体遺棄ほう助に問われた男性2被告は2008年12月24日、松山地裁(久保雅文裁判官)は「遺棄する認識は積極的ではなかった」として懲役1年執行猶予3年(懲役1年)を言い渡した。すでに確定していると思われる。 2009年10月16日、松山地裁で求刑通り一審無期懲役判決。2010年6月17日、高松高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 堀慶末(35)/川岸健治(44) |
逮 捕 | 2007年8月26日(死体遺棄容疑。9月14日、強盗殺人他容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、営利略取、逮捕監禁、(川岸被告のみ)強盗強姦未遂 |
事件概要 |
住所不定無職の川岸健治被告(当時40)と名古屋市東区泉の無職堀慶末(よしとも)被告(当時32)は2007年8月上旬に携帯電話の闇サイトで知り合った。 2007年8月16日、携帯電話の闇サイト「闇の職業安定所」で犯罪仲間を募集。19日に住所不定無職H元被告(当時29)が、20日に愛知県豊明市の新聞セールススタッフ神田司被告(当時36)が返信し、連絡を取り合うようになった。このときはお互いに偽名を名乗り、以後もその偽名を使ったため、4人は逮捕されるまで本名を知らなかった。 川岸被告、堀被告、H元被告が21日に名古屋市東区で顔を合わせ、堀被告の提案でパチンコ店の常連客を襲う計画を立てたが失敗した。 堀被告、川岸被告は21日午後10時過ぎ、金山駅付近で神田被告と会った。神田被告は女性を拉致して覚醒剤中毒にして風俗店に売ればいいなどと提案。このとき堀被告は金槌を見せており、神田被告、川岸被告と互いに強盗殺人を行う意思があることを確認している。 22日午後6時頃、3被告はH元被告に参加の意思を確認したが、H元被告は殺人に反対し、事務所荒らしを提案した。 H元被告と川岸被告は23日夜、愛知県瀬戸市の薬局に押し入ろうとしたが、客がいたため断念。続いて長久手町の水道工事関連会社の事務所に侵入したが、金が見つからずに逃走。このとき川岸被告が先に逃げたため、土地勘もなく腹を立てたH元被告は24日午前0時55分頃、自ら110番して愛知県警警名東署に出頭、緊急逮捕された。 24日午後3時頃、神田被告、堀被告、川岸被告は名古屋市緑区のレンタルビデオ店駐車場に集まった。神田被告が若い女性を拉致する強盗殺人を提案し、2被告は賛同した。 同日午後7時頃から3被告は車で市内を走り、5人の女性を追尾したが、機会が無く失敗。午後11時頃、帰宅途中だった名古屋市千種区に住む派遣社員の女性(当時31)を発見。千種区の路上で待ち伏せ、女性が車を通り過ぎた際に堀被告が車へ無理矢理連れ込み、安西市の屋外駐車場まで走った。 25日午前0時頃、駐車場で堀被告が女性からバッグを奪い、財布から62000円とキャッシュカード2枚、クレジットカードを奪った。堀被告と神田被告は包丁で女性を脅し、暗証番号を聞き出した。 川岸被告はその後車中で女性を暴行しようとしたが抵抗されたため、女性を平手打ちにした。車外にいた神田被告と堀被告は川岸被告を制止するとともに、逃げられることを恐れ殺害を決意。午前1時頃、3被告は哀願する女性の頭に粘着テープを二十数回巻き、レジ袋を頭にかぶせ、首をロープで絞め、頭を金槌で数十回殴った。女性は窒息死した。 3被告は奪った金を均等に分けた後、午前4時40分頃、岐阜県瑞浪市の山林で遺体に土や草をかぶせて遺棄した。午前9時頃と10時35分頃に、名古屋市にある2箇所のATMで現金を引き出そうとしたが、聞き出した暗証番号は虚偽のものであったため失敗。そこで3被告は夜に再度集まって風俗嬢を襲う計画を立案して分かれた。しかし川岸被告は午後1時半頃に警察署へ電話し、犯行を打ち明けたため、身柄を確保された。「死刑になるのが怖かった」と供述している。午後7時10分頃、愛知県警は女性の遺体を発見。神田被告、堀被告を任意同行した。8月26日、県警は3被告を死体遺棄容疑で逮捕した。 3被告は金持ちが多いからという理由で千種区を物色していた。また女性を狙った理由は、まじめそうで金を貯め込んでいそうだったからと供述している。3被告と女性とは面識がなかった。 3被告は9月14日、強盗殺人と営利略取、逮捕監禁の容疑で再逮捕された。 |
裁判所 | 名古屋高裁 下山保男裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2011年4月12日 無期懲役(堀被告:一審破棄、川岸被告:検察・被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
弁護側は一審判決後、堀慶末と川岸健治両被告に対し、独自に臨床心理士に依頼して心理鑑定を実施した。 2010年8月9日の控訴審初公判で弁護側は独自の心理鑑定結果より、川岸被告は「軽度の知的障害があり、物事全体を理解する力や現実を吟味する力が弱い」、堀被告は「自己主張するよりも同調する傾向や受動的な態度が強い」として一審同様「殺害は場当たり的で直前まで意図していなかった」と主張した。そのうえで、川岸被告については「殺害への関与は従属的。自首がなかったとしても無期懲役が相当」と指摘。自首への評価を加えて有期刑を求めた。堀被告については、遺族が受け取りを拒否した謝罪文を読み上げて「改悛の情が顕著で反省している」と無期懲役を求めた。弁護側は鑑定結果を証拠提出し採用された。検察側は、「川岸被告が闇サイトの掲示板に書き込みをして仲間を募ったのが事件のきっかけ。匿名性の高い犯罪集団を結成させた張本人」と指摘。自首については「死刑や共犯者からの報復を回避する自己保身のためで、過大評価すべきでない」として死刑を求めた。堀被告についても控訴棄却を求めた。 9月24日の第2回公判では、一審後に弁護側の依頼で両被告の心理鑑定を行った臨床心理士の山田麻紗子・日本福祉大准教授の証人尋問が行われた。山田准教授は心理テストの結果などを基に、堀被告の性格について「粗暴で凶悪なところは見あたらない」と証言。川岸被告については「軽度の知的障害や発達障害がある」と述べ、刑の減軽を求める弁護側の主張に沿う証言をした。一方、検察側は鑑定書に記載された犯行経緯が一審判決と異なると指摘、鑑定結果の信用性に疑問を呈した。 10月18日の第3回公判では被害者の母親が証人出廷し、堀被告、川岸被告の死刑判決を求めた。堀被告は「生きて一生苦しみながら償いたい」と述べた。川岸被告は、遺族への気持ちを問われ「申し訳ありませんでした」と答えたが、ほかの質問ではちぐはぐな受け答えをした。 12月3日の公判で結審した。検察側は、弁護側が行った両被告の犯罪心理鑑定について「良心の呵責から自首したという川岸被告の言葉をうのみにしたに過ぎない」と信用性を否定。「遺族の処罰感情も峻烈で、最大限考慮されるべきだ」とした。一方、川岸被告の弁護人は、殺害された被害者の数など死刑適用の基準を示したとされる「永山基準」に言及し「自首を除いたとしても永山基準に従えば死刑選択は許されない」と主張した。堀被告の弁護人は「改悛の情が顕著で、無期懲役で罪を償う機会を与えてほしい」と訴えた。弁護人は堀被告に最後の発言の機会を与えるよう裁判長に求めたが、認められなかった。 判決で下山保男裁判長は「強い利欲目的のみに基づく、無慈悲かつ残虐な犯行」と非難する一方で、「ネットを通じて知り合った素性を知らない者同士の犯行は、意思疎通の不十分さから失敗に終わりやすく、メールの履歴などで発覚が困難とも考えがたい」と指摘。「他の強盗殺人などと比べて過度に強調するのは相当ではない」と述べ、一審の判断を否定した。また犯行の残虐性に触れ「当初から意図的に残虐な方法をとったものではないという点も考慮に入れるべきだ」と指摘した。 そして2人の責任を共犯の神田司死刑囚と比較。「神田死刑囚の殺害提案に安易に応じた側面もあり、計画や実行で最も重要な役割を果たした同死刑囚と同じとは言えない」と判断した。堀被告については「前科もなく、生活歴から犯罪性向が強いとは言えず、矯正可能性もある。最も積極的な役割を果たしたとは言えず、被害者が1人である本件では、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど、悪質な要素があるとはいえない」などとして一審の死刑判決を破棄して無期懲役とした。川岸被告に対しては「殺害の実行行為も、神田死刑囚、堀被告より関与の度合いが低い。また、自首して本件事案の解明に一定の寄与をするなどした点は、量刑にあたり、相応の評価がされるべきだ」として検察側、被告側双方の控訴を棄却した。 |
備 考 |
H元被告は窃盗未遂、建造物侵入、強盗予備で起訴。2007年11月20日、名古屋地裁で懲役2年執行猶予3年(求刑懲役2年)の判決が言い渡され、確定している。 神田被告と川岸被告は2006~2007年頃にそれぞれ闇サイトを悪用した別の詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けている。 2009年3月18日、名古屋地裁で神田司被告と堀慶末被告に求刑通り死刑判決、川岸健治被告に無期懲役判決(求刑死刑)。神田司被告は4月13日に控訴を取下げ、死刑が確定している。 堀慶末被告に対し、検察側は上告した。川岸健治被告の判決に対し検察・被告双方とも上告せず、刑は確定した。2012年7月11日、検察側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 近野洋(45) |
逮 捕 | (死体遺棄容疑。8月18日、強盗致死容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗致死、強盗傷害 |
事件概要 |
元暴力団組長近野洋被告はS被告、M被告と共謀し、貴金属の商談で来日した時計鑑定士の韓国人男性Aさん(当時52)と別の韓国人男性Bさん(当時32)から現金を奪おうと計画。2007年6月29日、静岡県伊東市内の貸別荘で、Bさんの首に改造した空気銃で金属球を2回発射するなどして2週間の怪我を負わすとともに、Aさんの首にも1回発射し、倒れたAさんの首を右手で圧迫するなどの暴行を加えて殺害。二人が取引用に持っていた現金1900万円が入ったショルダーバッグを奪った。S被告とM被告はAさんの遺体を車で函南町の崖下に遺棄した。 Bさんはその後、商談相手の複数の男から暴行を受けたと県警に通報。Bさんは「一緒にいたAさんも殴る蹴るの暴行を受けていた」と説明したが、Aさんはその後、行方がわからなくなっていた。2009年4月、Aさんは白骨死体で見付かった。 6月1日、S被告、M被告、他2名が死体遺棄容疑で逮捕された。6月22日、S被告が強盗殺人容疑で、M被告他2名が強盗致死容疑で再逮捕された。同日、近野被告が死体遺棄容疑で指名手配された。 7月13日、静岡地検沼津支部はS被告、M被告を強盗致死容疑で起訴した。S被告については「殺意を認定できなかった」と説明した。他2名は不起訴処分となった。 8月5日、近野被告が死体遺棄容疑で逮捕された。8月18日、近野被告は強盗致死、強盗傷害容疑で再逮捕された。9月4日、地検沼津支部は近野被告を強盗致死、強盗傷害容疑で起訴した。死体遺棄容疑での起訴は見送った。 |
裁判所 | 東京高裁 若原正樹裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年4月13日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 判決理由で若原裁判長は「被告との共謀を説明した実行犯らの供述は骨格部分が互いに符合しており、十分信用できる」と述べ、共謀を否定する弁護側の無罪主張を退けた。 |
備 考 |
実行役の中心とされたM被告は2009年11月26日、静岡地裁沼津支部(片山隆夫裁判長)で懲役24年(求刑懲役25年)判決。2010年3月31日、東京高裁(中山隆夫裁判長)で被告側控訴棄却。7月13日、最高裁第二小法廷(須藤正彦裁判長)で被告側上告棄却、確定。 実行役のS被告は2010年3月3日、静岡地裁沼津支部(片山隆夫裁判長)で懲役28年(求刑無期懲役)判決。Aさんの死に直結する暴行を加えたことなどが考慮された。7月7日、東京高裁(植村立郎裁判長)で被告側控訴棄却。被告側上告中。 2010年9月17日、静岡地裁沼津支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2011年12月7日、被告側上告棄却、確定。 |
尹麗娜(55) | |
2007年10月15日(殺人容疑) | |
2名(うち1名は傷害致死) | |
殺人、傷害致死、詐欺、有印私文書偽造・同行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用 | |
(注:以下に書く文章は起訴事実に新聞報道などを加味したものであり、裁判で認定された事実とは一部異なっている。認定された事実については、「裁判焦点」の判決箇所を確認のこと) 大阪市で1998年秋からスナックを経営していた中国籍の尹麗娜(イン・リナ)被告は、1998年に結婚した日本人男性と離婚してまもなくの2001年5月、客だった元鉄道公安官の日本人男性との婚姻届を提出、同居するようになった。しかし7月に申請した在留期間更新許可決定が10月になっても下りず、尹被告は偽装結婚を斡旋していたことから強制送還を恐れた。強制送還されれば夫が亡くなっても財産を相続できないため、夫が病死したことになれば多額の財産が早く手に入ると考え、夫同様に糖尿病を患っていた別人を替え玉に仕立てて夫が病死したように装うことを計画。 夫は尹被告が経営していたスナックを閉店した直後の10月28日、家主に家賃を払いに言ったのを最後に消息を絶つ。 尹麗娜被告は2001年10月29日~11月6日の間で、大阪市中央区の自宅で夫(当時77)を殺害した。その後、自宅押入付近で遺体を解体した。夫の遺体は発見されていない。尹被告は10月31日、知人男性の車で奈良市月ヶ瀬(旧月ヶ瀬村)の山中に向かい、ボストンバッグとゴミ袋二つを橋の上から川に投棄した。運転していた知人男性は、何を捨てたのかは知らなかった。逮捕後、この車のトランクから血痕が見つかり、DNA鑑定で夫のものであることが判明している。さらに11月7日には部屋の畳替えを実施している。 尹被告はすぐにKさんを夫の替え玉にして通院させたが、別のTさんの方が身軽であったため、替え玉をTさんに変更。11月20日から12月4日まで入院させ、尹被告は妻として付き添っていた。しかしTさんは血糖値がほぼ正常に戻った。Tさんは12月18日に別の病院へ通院したのを最後に消息を絶つ。尹被告は2001年12月中旬~2002年1月頃、Tさん(当時71)を大阪府かその周辺で殺害し、解体して捨てた。 尹被告は次に無職K被告と共謀。Kさん(同69)を夫になりすませた後、夫の住民票を石川県野々市町に移し、2月4日からK被告の義兄宅で尹被告、Kさんらと暮らし始めた。尹被告らはKさんが糖尿病と知ったうえで、病状を悪化させるためビールを飲ませたり、ステーキを食べさせていた。2月10日、尹被告らはKさんを海岸で数時間歩かせた上、知人宅の納屋に連れていって簀巻きにし、14~15日頃まで監禁した。その間、インスリンを注射せず、糖尿病を悪化させて殺害した。尹被告は石川県警の調べに対し、夫の戸籍謄本などを示しながらKさんが夫であると強調し、認めさせた。 尹被告は2月16日、夫が病死したとする虚偽の死亡届を野々市町役場に提出。さらに夫の娘3人の住民票を無断で異動させて印鑑登録し、夫の土地約380平方メートルを尹被告名義にする虚偽の不動産登記を申請した。さらに夫名義の投資信託や預貯金など計約3200万円を不正に引き出した。尹被告は約1000万円を中国に住む親族の生活費や娘の留学資金として送金しているが、残りは逃走資金などで使い果たしたとされる。また相続した土地は売却に失敗した。この土地は事件発覚後、名義が元に戻されている。 2002年4月、尹麗娜被告の夫の死亡届が出ていることを娘が知り、大阪府警に相談。病死とされた男性の写真を見た家族が別人と訴え、事件が発覚。写真の男性はKさんであることが判明。さらに尹被告が虚偽の不動産登記をした疑いが浮上した。 2002年4月20日、大阪府岬町の山林でTさんの頭蓋骨が発見された。 尹被告は事件発覚後の2002年5月、読売新聞大阪本社に手紙を寄せ、「2001年12月10日に夫婦げんかになり、その晩から帰ってこなくなりました」と、夫失跡の経緯を記していた。しかしその後の5月に捜査本部が尹被告の現場検証を行った際、押し入れから血痕と骨格筋の一部が見つかった。畳替えされた畳床からも微量の血痕が発見され、いずれもDNA鑑定で一致した。Tさんが、夫の健康保険証を使っていたことも判明。 大阪、石川両府県警合同捜査本部は2002年5月、虚偽の登記をしたとして公正証書原本不実記載容疑などで尹被告を指名手配した。 2002年7月4日、Tさんの両足が包まれたポリ袋が入っているリュックサックが、堺泉北港(堺市)の沖合10mで発見された。 捜査本部は2002年7月、尹被告がバッグなどを投げ捨てた橋の下にあるダム付近を捜索したが、夫の遺体は発見できていない。 捜査本部は2003年1月に殺人容疑に切り替えて尹麗娜被告を国際手配した。 尹麗娜被告は2002年5月、和歌山市の旅館で知りあった男性のトラックに同乗して東京・浅草へ向かい、そこで姿を消した。ここで70歳代の男性と出会い、江東区内で同居を始めた。5ヶ月後、屋台の店を営む別の中年男性と知り合い、この男性らとおでん屋台を共同経営することに。2003年秋ごろ、70歳代の男性と別れ、最後の潜伏先となる共同住宅に転居した。周囲には「江里」と名乗っていた。共同住宅には男性数人が出入りし、尹被告はおでん屋台のオーナーを務めた。屋台は無許可営業だったため、2006年には区の指導で廃業した。 「江里」の知り合いであった男性が、未解決事件をまとめた書籍に載っていた尹麗娜被告の特徴と写真を偶然見て、「江里」が尹被告と似ていることに気付き、2007年10月15日に大阪府警へ通報。捜査員が17日に尹麗娜被告に任意同行を求め、Kさん殺人容疑で逮捕した。 2007年10月25日、捜査本部はK被告をKさん殺人容疑で逮捕した。K被告は、土地の不正相続に関与したり、貯金を引き出したりしたとして、2002年に詐欺などの疑いで逮捕され、懲役5年の実刑判決が確定し、服役していた。K被告は当時、合同捜査本部の調べに、替え玉であることは気付いていたが、死亡については関わりを否定していた。 その後、捜査本部は尹被告を詐欺容疑などで再逮捕。2008年1月9日に夫殺人容疑で再逮捕。さらにTさんの両足が入っていたリュックサックに残っていた女性のものとみられる長い毛髪がDNA鑑定の結果、尹被告のものであることが判明。さらにリュックサックが中国製で国内では販売されておらず、たびたび中国に戻っていた尹被告には入手する機会があったと判断。尹被告が似たようなリュックサックを持っていたという証言も得た。合同捜査本部は1月22日、Tさん殺人容疑で再逮捕した。 | |
大阪高裁 古川博裁判長 | |
死刑 | |
2011年4月20日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) | |
一審では夫の事件では傷害致死、Tさんの事件では無罪、Kさんの事件では殺人を認定していた。 2011年1月19日の控訴審初公判で弁護側はKさん事件を「糖尿病の悪化による病死」、Tさん事件は「無関係」、夫事件を「具体的な暴行の様子が不明で、立証は不十分」と訴え、「間接証拠の積み上げによる『冤罪』に巻き込まれた」として、すべての事件で無罪を主張。検察側は一審の無罪判決への反論に加え、一審判決が殺人罪を適用しなかった夫事件にも「殺意を認定すべきだ」として、三件とも殺人罪が成立すると主張した。弁護側は関係者の証人尋問を請求したが、古川裁判長は「必要性がない」としてすべて却下した。被告人質問で尹被告は「すべて陰謀です」などと改めて無罪を主張、即日結審した。 古川博裁判長は判決理由で、一審判決の認定に事実誤認はないと指摘。一審判決が殺人罪の成立を認めたKさん事件について「被告がKさんを納屋に閉じこめたとする知人の証言は信用でき、一審判決に誤りはない」と判断。遺体が見つかっていない夫事件については「アパートから血痕などが見つかっており、被告による暴行があったと推定できるが、周到な準備が見られず殺意の推認には不十分」と指摘し、一審と同様に傷害致死罪にとどまるとした。遺体の一部が同府内の港などで見つかったTさん事件に関しては「死因は不明であり、客観的証拠に乏しく、被告を犯人と認定するのは困難だ」として改めて無罪と判断した。 その上で別の詐欺罪などを併せ、「一審の量刑が重すぎて不当とは考えられない」と結論付けた。 | |
共犯の無職K被告は2009年3月18日、大阪地裁で求刑通り懲役15年判決。2010年2月9日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2010年7月21日、最高裁第一小法廷で被告側上告棄却、確定。 2010年1月28日、大阪地裁で一審無期懲役判決。検察・被告側は上告した。2013年11月11日、検察・被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 石田昇(38) |
逮 捕 | 2009年6月14日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
呉市の無職石田昇被告は2009年6月14日午前4時半頃、以前勤務していた呉市の会社工場で、当時勤務中だった元同僚男性(当時26)に借金返済の猶予を求め会いに行ったが、男性に拒まれ口論となった。石田被告は男性の頭や顔などを事務所にあったバール(長さ約90cm)で殴り、殺害した。さらに現金約11万円などが入った財布などを奪った。石田被告は2年前に同会社を退社。男性から約400万円の借金があり、事件当日が返済期限だった。 朝、出勤してきた同僚が男性の死体を発見。県警は石田被告が借金していたことを知り、同日午後に任意で事情を聞いたところ、借金を巡るトラブルで男性を殺害したと認めたため、強盗殺人容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 千葉勝美裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年4月20日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 判決理由は不明。 |
備 考 | 2010年7月8日、広島地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2010年12月7日、広島高裁で被告側控訴棄却。 |
浅田和弘(35) | |
2004年5月4日 | |
1名 | |
強盗殺人、銃刀法※違反 | |
焼肉店従業員浅田和弘被告は2003年11月26日午前4時25分ごろ、浅田被告が働く焼肉店経営の男性(当時28)の自宅前路上で、営業を終えて帰宅した男性の背後から拳銃2発を発射して殺害し、現金50万円などが入ったバッグを奪った。浅田被告は男性から預かった約500万円を紛失し、返済を迫られていた。 | |
最高裁第一小法廷 白木勇裁判長 | |
無期懲役 | |
2011年4月25日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) | |
浅田和弘被告は捜査、公判を通じ無罪を主張した。凶器の拳銃は見つかっていない。 2006年5月25日、一審判決で大阪地裁の和田真裁判長は求刑通り無期懲役とした。 2007年6月15日、二審判決で大阪高裁の陶山博生裁判長は、浅田被告に拳銃を渡したとされる男性のアリバイを認定したうえで、一審判決が有罪認定の主な根拠とした拳銃の調達を手配したとされるK元被告、J元被告の供述について、「変遷があるうえ、お互い食い違いがある」と信用性を否定した。さらに、浅田被告の知人への「犯行告白」を検討。「犯人性を疑わせる」としながらも、拳銃などの物証が一切発見されていないことから、「ほかの関係者も証人尋問すべきだった。有罪、無罪を判断するには審理は不十分」と結論づけ、審理を一審に差し戻す判決を言い渡した。 検察側と、無罪判決を求めた被告側の双方が上告。 最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は「2人が服役を覚悟の上で、事実に反してまで、拳銃入手の仲介を供述するとは考えにくい。供述は重要な部分で一致しており、高い信用性がある」として、供述の信用性を認めた。そして、「誤った証拠への評価が判決に影響を及ぼすことは明らかで、判決を破棄しなければ正義に反する」と指摘し、審理を高裁に差し戻した。 差し戻し二審で小倉裁判長は、判決理由で「共犯者2人の公判供述は信用できる。矛盾点もあるが、浅田被告の犯行を認めた一審判決の事実認定を左右するものではない」と述べて一審無期懲役判決を支持、被告側控訴を棄却した。 上告審での判決理由等は不明。 | |
浅田被告に頼まれたK元被告を通して拳銃調達先を紹介したとして強盗殺人ほう助罪などに問われた元暴力団組員J元被告は2005年9月6日、大阪地裁(和田真裁判長)で懲役8年(求刑懲役10年)が言い渡された。そのまま確定と思われる。 浅田被告から拳銃調達先を頼まれたK元被告は強盗殺人ほう助他で起訴。すでに実刑が確定している。 浅田被告に拳銃を渡したS元被告は2006年5月25日、大阪地裁(和田真裁判長)で懲役4年6月(求刑懲役6年)が言い渡されたが、2007年4月20日、大阪高裁はS元被告に対して無罪を言い渡した。また、別の交通事故での業務上過失傷害罪で禁固1年を言い渡した。控訴審で、男性が受け渡し日に神戸市内の中古車オークション会場にいたことが判明。陶山博生裁判長は「拳銃の受け渡し日時のアリバイがほぼ成立している」と述べた。検察側は上告した。2010年6月3日、最高裁第一小法廷はアリバイ成立を否定して二審無罪判決を破棄、審理を大阪高裁に差し戻した。2010年12月24日、大阪高裁(湯川哲嗣裁判長)は一審判決を支持、被告側控訴を棄却した。2011年6月22日、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は被告側上告を棄却、一審判決が確定した。 2006年5月25日、大阪地裁で一審無期懲役判決。2007年6月15日、大阪高裁で一審破棄、差し戻し判決。2008年11月10日、最高裁第二小法廷で二審判決破棄、差し戻し。2010年1月21日、大阪高裁で被告側控訴棄却。 |
高橋裕子(55) | |
2004年7月22日 | |
2名 | |
殺人、嘱託殺人、詐欺、詐欺未遂他 | |
福岡・中洲のスナック経営高橋裕子被告は1994年10月22日午前3時ごろ、福岡県志免町別府にある2番目に結婚し離婚していた元夫(当時34)の建築設計・施工会社事務所兼自宅で、元夫に酒を飲ませて眠らせ、胸を包丁で突き刺し、殺害した。包丁は遺体近くに置かれていた。 元夫は建築設計会社を経営。1992年ごろに取引先の経営破たんで約1600万円の焦げ付きが発生するなどして経営が悪化していた。1994年9月27日に1回目の不渡り手形を出し、同30日に2回目の不渡り手形を出して事実上倒産。1億3000万円の負債があった。元夫は1回目の不渡りを出す約3週間前の9月3日、福岡県太宰府市の空き地で、2回目の不渡りの翌10月1日には福岡市西区の山中で排ガス自殺を図っていた。 現場には走り書きの遺書もあったことから、県警は当時、自殺と判断した。遺書は現存せず、実際に誰が書いたかは不明。元夫の死後、高橋被告は1億6000万円の保険金を受け取り、事務所兼自宅の売却代金5000万円も得た。 高橋被告と元夫は当初、元夫の自殺で借金を清算することで合意していた。しかし2回とも未遂に終わったため、高橋被告が借金生活から逃れるために殺害を決意したものだった。 高橋被告が手に入れた保険金など約2億1000万円は、大半が、会社の債務整理や福岡市内のマンション購入、福岡・中洲のスナック開業資金などに使われていた。 高橋被告はスナック経営の悪化や浪費により金が底をつき、再び保険金殺人を計画。1999年6月に結婚した3番目の夫である元会社員の男性(当時54)に五件総額1億3740万円の契約を締結させた。このうち、8000万円の保険加入は殺害一ヶ月前で、高橋被告が経営するスナックでホステスとして働いていた女性の母親の外交員が契約を担当していた。 高橋被告は2000年11月12日午前4時ごろ、福岡市南区にある男性のマンションで、入浴していた男性の両肩を押さえつけて沈め、水死させた。男性は、ウイスキーなどと一緒に睡眠導入剤を飲んでおり、意識がもうろうとなっていた。 遺体のひじに擦過傷があり、普段は飲まないビールを直前に大量に飲んだなど、当時から不審点は多かったが、男性には血管閉塞が起きる可能性が高いとされる糖尿病の持病があった。検視した福岡南署は持病の発作により、浴槽内でおぼれて水死したと判断した。司法解剖は行われていない。 高橋被告は生命保険会社に約8000万円の保険金を請求したが、保険会社は糖尿病を申告しなかったと支払いを拒否。2001年9月、保険会社を相手取り、支払いを求めて提訴したが、福岡地裁は2002年10月、「男性は契約の際、持病を告げておらず、告知義務違反にあたる」として、請求を棄却した。 高橋被告は他の生命保険会社から、3件2740万円の保険金を受け取っている。 高橋被告は2001年6月、「不倫関係をばらす」などと言って、過去に交際していた男性会社員を脅し、同7月、自分の銀行口座に100万円を振り込ませたとして、2004年7月22日に恐喝容疑で逮捕され、8月12日に起訴された。他の同様な事件でも追起訴、計客2人から386万円を脅し取ったとされる恐喝罪についても起訴事実を認めた。 高橋被告は9月10日に保険金殺人を自供。殺害容疑で2004年9月15日に再逮捕、I被告も1件目の殺人容疑で同時に逮捕された。 | |
最高裁第一小法廷 白木勇裁判長 | |
無期懲役 | |
2011年4月26日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) | |
判決理由は不明。 | |
1件目の詐欺容疑については公訴時効(7年)が成立している。 I被告は全面無罪を主張。福岡地裁川口宰護裁判長は殺人ほう助罪を認定し、懲役3年6月(求刑懲役12年)を言い渡した。I被告は控訴した。2008年4月22日、福岡高裁陶山博生裁判長は一審判決を破棄し、無罪を言い渡した。判決理由で陶山裁判長は「殺人のほう助犯を認定したにもかかわらず、公判で事後処理の協力の意思があったかどうかについて質問されず、被告人の防御が尽くされてない。一審の訴訟手続きには法令違反がある」と判断。さらに、「I被告が高橋被告のために、何とか力になりたいと思っていたとしても、事後に協力しようと思っていた証拠はない」と、理由を述べた。 2007年7月19日、福岡地裁で一審無期懲役判決。2008年12月18日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 遠藤正巳(53) |
逮 捕 | 2010年7月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗他 |
事件概要 |
住所不定無職遠藤正巳被告は2009年9月9日午後7時25分ごろ、愛知県岡崎市の書店駐車場で、同県幸田町に住む会社員男性(当時45)の乗用車の窓を割って手提げかばんを盗んだが男性に見つかり逃走。追ってきた男性の左胸をナイフで刺し、出血性ショックで死なせた。 現場に残された警棒から販売ルートを捜査し、遠藤被告が浮上。捜査本部は2010年6月、遠藤被告から事情聴取を行ったが、その後遠藤被告は行方をくらました。7月9日、岡崎市内の駅で発見し逮捕した。 遠藤被告は弟に見張りをさせて車上荒らしを繰り返しており、2004年9月~2010年6月、岡崎市や豊川市で乗用車12台から現金計約286万円とバッグなど計86点(時価約85万円相当)を盗んだ。 |
裁判所 | 名古屋地裁岡崎支部 久保豊裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月16日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 5月10日の初公判で遠藤正巳被告は刺した事実は認めたものの、「殺意はなかった」として起訴事実を一部否認した。弁護側も「手加減して刺した。殺意はなく、強盗致死罪にあたる」と主張した。 冒頭陳述で検察側は、遠藤被告は10年近く、車上荒らしを繰り返して生活していたと指摘。「肺に達する深さ12cmの傷を負わせており、殺意があったことは明らかだ」と主張した。 5月11日の論告で検察側は「目の前の男性に相当の力を込めて意図的に刺した」と殺意があったと主張。弁護側は「計画的な犯行ではなくパニック状態の犯行で、懲役17年がふさわしい」と反論した。 判決で久保豊裁判長は「被害者の胴体部分に相当の力を込めてナイフを突き刺し、傷の深さは12cmに及び、被告の供述は信用できない」と指摘。「人を死亡させる危険性が非常に高い行為だ」と殺意を認定した。そして「愛する家族を残してこの世を去った被害者の無念さは計り知れない。逮捕を免れるための自己保身のため事件に及び、動機や経緯に同情の余地は全くない。刃物で刺した態様も非常に危険で悪質」として、求刑通り無期懲役を言い渡した。 |
備 考 |
遠藤被告の弟は、強盗殺人事件時の見張りを含め計4件について窃盗罪で起訴された。2010年12月14日、名古屋地裁岡崎支部(丸田顕裁判官)は懲役1年8月(求刑懲役4年)の実刑判決を言い渡した。丸田裁判官は量刑理由で、「常習性は極めて高く、実刑は免れない。役割は従属的で、強盗殺人への関与は認められない」と述べた。なお弟が逮捕された時の容疑は、兄の逃走を助けたとされる犯人隠避容疑であったが、「自分も事件にかかわり、逃げる必要があった」として、不起訴(起訴猶予)となっている。 被告側は控訴した。2011年10月13日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2012年2月27日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 小林稔(25) |
逮 捕 | 2010年5月1日 |
殺害人数 | 0名 |
罪 状 | 強盗強姦、強制わいせつ、住居侵入、強盗、強姦、強姦未遂、窃盗他 |
事件概要 | 旭川地裁の事務官小林稔被告(事件後に懲戒免職)は2008年8月から2010年5月までに、旭川市などで1人暮らしの女性宅に押し入り、10~20歳代の女性8人に乱暴し暴行した上で、現金や下着を奪うなどした。また、2008年11月から2010年1月にかけて12回にわたり、同地裁での宿直勤務中に、性的興奮を得るため、性犯罪事件の供述調書や捜査報告書581枚をコピーし、自宅に持ち帰った。コピーされた書類に記された被害者と、小林被告の事件の被害者との関連性はない。 |
裁判所 | 札幌高裁 小川育央裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月17日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
4月14日の控訴審初公判で弁護側は量刑不当を主張、検察側は控訴棄却を求めて即日結審した。 小林被告は被告人質問で、「社会でやり直すチャンスを与えてもらい、被害者のために何かしたいと思った」と控訴理由を説明。被害を受けた女性も出廷して意見陳述し、「無期懲役を受け入れずに、被告が反省していると言っても信用できない。事件による心的外傷後ストレス障害(PTSD)が完治せず、夜も睡眠薬を飲まないと眠れない。被告を無期懲役にすることで安心できる」と述べた。 小川裁判長は「無期懲役刑は強盗強姦罪の上限だが、裁判員を含めた評議の結果は基本的に尊重すべきで、量刑判断は重すぎて不当であるとはいえない」と述べた。また被告側は一審について、勤務していた地裁で審理するのは不公平な裁判をする恐れがあったなどと主張したが、小川裁判長は「そうした事情は認められない」と退けた。 |
備 考 | 2010年11月19日、旭川地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役。上告せず確定。 |
氏 名 | 中勝美(62) |
逮 捕 | 2009年4月7日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死 |
事件概要 |
舞鶴市の無職中勝美被告は2008年5月7日未明、同市の朝来川岸付近で、同市に住む高校1年生の少女(当時15)をわいせつ目的で襲い、服を脱がされて下半身を触るなどされたが、抵抗されたことに激高して頭や顔を鈍器で多数回殴打。雑木林内で出血性ショックで死亡させた。 京都府警は5月8日に遺体を発見。11月15日、現場近くに住む無職中勝美被告を別件である女性の下着1枚とさい銭約2000円を盗んだ窃盗容疑で逮捕。捜査中止を求めた弁護人の準抗告、特別抗告によりいったんは延期したが、28日より6日間にわたり弁護人立会いの下、中被告の自宅を家宅捜索した。京都地裁舞鶴支部(浅見健次郎裁判官)は2009年2月25日、窃盗罪で中勝美被告に懲役1年(求刑懲役2年)を言い渡した。控訴せず確定、京都刑務所で服役。 府警は2009年4月7日、殺人と死体遺棄の容疑で逮捕。京都地検は28日、殺人と強制わいせつ致死の罪で起訴した。 |
裁判所 | 京都地裁 笹野明義裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2011年5月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
2009年5月からの裁判員制度施行の直前に起訴されたため、3人の裁判官によって審理された。7月14日から始まった公判前整理手続きは、被告側が無罪を主張したこともあり、2010年12月16日まで計24回開かれた。直接証拠はなく、検察側は間接証拠を積み重ねて起訴した。 12月21日の初公判で中勝美被告は「全部でたらめでウソ。全部間違いです」と起訴事実を全面的に否認した。さらに話をやめようとしないため、裁判長から「あとで聞きます」と止められたものの、「真犯人は--」と、根拠がわからない女性らしき名前を挙げた。 検察側は冒頭陳述で、中被告が事件数時間前の2008年5月7日午前1時20分頃に少女と出会い、一緒に歩いて現場に向かったと主張。その様子に関する3人の目撃証言と道路脇にある3台の防犯カメラ画像を立証の柱と位置づけ、「最終の目撃地点と時刻は、殺害現場と時刻に近接している」とした。また、中被告が捜査段階で「7日午前、少女の遺留品であるベージュ色の化粧ポーチを現場の川に捨てる男性を見た」と実名を示して供述した点について、検察側はこの男性は事件と関係がないと指摘。中被告が挙げた化粧ポーチや財布などの遺留品は、非公表の品と特徴が一致しているものがあり、「犯人しか知り得ない情報だ」と述べた。 弁護側は、目撃証言には変遷や矛盾があって信用できず、防犯カメラの画像も不鮮明で、「中被告と特定できない」と反論、別の目撃者4人の存在を挙げ、裁判での取り調べが必要とした。遺留品に関する供述は「検察官が取り調べで誘導した」とし、「被告を犯人と断定するまでの立証は尽くされていない」と主張した。 争点となっている遺留品に関する供述について検察側は21日の公判で、夜間の実況見分に立ち会った警察職員が、遺留品である薄いピンク色の化粧ポーチが夜はベージュ色に見えることを確認したことなどを説明し、中被告の供述は夜の犯行現場にいないと知り得ない「秘密の暴露」に当たるとした。また別の警察官は「中被告が見たとする約30m離れた場所からは、遺留品やその特徴は見分けられない」と証言した。弁護側は「取り調べの可視化がなされておらず、客観的に検証できないが、調書は検察官の誘導によって作られたものではないか」と反論した。中被告は証人尋問の途中で、突然証人の1人を指さし「この人に暴力を受けた」と叫び、笹野裁判長に注意された。 また2月23日の公判では色彩工学専門の立命館大の篠田博之教授が出廷し、「暗闇ではピンク色はベージュ色に見える」と証言。「中被告は暗闇の中で実際に見て、素直に答えていると考えられる」と述べた。また同日、取り調べを担当した検察官が出廷。中被告が被害者の遺留品について供述した際の状況について「誘導はしておらず自発的に話した」と証言した。 23日には、中被告が少女の遺留品を捨てた人物と名指ししている男性の証人尋問もあり、男性は「被害者とは面識もなく、遺留品を捨てたことなど全くない」と関与を否定した。 目撃証言については1月27日に検察側証人3人が出廷。 事件前まで中被告がいたと検察側が主張するスナックの女性店員が同日午前1時ごろ「自転車で帰る」と言い店を出たと、検察の主張に沿う証言をした。一方「自転車で帰宅するところを見たのか」との弁護側の質問には、女性は「見ていない」と答えた。 目撃者のうちトラック運転手の男性は検察側の質問に対し、事件当日の未明、遺体発見現場近くの交差点で信号待ちをする若い女性の隣で自転車を押す中被告を見たと証言。「黒い野球帽をかぶっていた」などと述べた。これに対し弁護側は、男性が警察に事情を聴かれた際には野球帽に言及していなかったと指摘し、「証言に変遷がある」と主張した。また、捜査段階にこの男性から事情を聴いた検事が「男性に複数の顔写真を見せると、迷わず中被告の写真を選んだ」と証言。一方、弁護側はそれ以前に京都府警の刑事が中被告の顔写真を見せていたとし、「先入観で選んだのでは」と疑問を投げかけた。この男性の供述調書を作成した警察官は顔写真を見せていたミスを認め、「見せるべきではなかった」と語った。中被告が目撃者の男性を指さして「この人が犯人です」と発言する一幕もあった。 一方2月23日の公判で弁護側証人である別のトラック運転手の男性は、被害者とみられる女性と歩いていた男性について「20歳ぐらいに見えた」と証言。中被告に見えたとする他の証人と大きく食い違う証言をした。「顔を見たのか」との検察側尋問には「暗かったので見ていない」と答えた。 2月24日の公判では弁護側が行った実況見分の立会人が出廷。真夜中に走行する車内から見て、歩道の人物を特定できるかどうかについて「顔の輪郭や表情は分からなかった」と証言。検察側の目撃者証言を否定した。 中被告と少女が一緒に写っているとされる現場付近の防犯カメラ映像については、2月9日に鑑定した東京歯科大の橋本正次教授(法人類学)が検察側証人で出廷。実際の中被告の写真を大型モニターを使って重ね合わせ、「耳の形や顔の輪郭などがほぼ一致し、中被告と判断できる」と証言した。弁護側が提出した鑑定人2人の意見書で「画素数が足りずに鑑定ができない」とした点について、橋本教授は「画素数は全く問題ない。画像の身体的特徴も捉えることができる」などと反論した。また弁護側は、橋本教授が、かつて「同一人物」との見方を示した別の写真鑑定について、最終的に別人と判明したケースがあったことを挙げ、画像鑑定の信用性に疑義を唱えた。同日、少女の母親が証人として出廷し、映像の少女が娘であると証言した。 一方、2月24日に弁護側証人として民間鑑定会社の画像解析専門家の男性が出廷。防犯カメラ画像に写っている中被告とされる人物について「画素数が少なく、特徴を捉えられない。同一人物と特定するのは極めて困難」と証言した。これに対し検察側は、この男性が鑑定に使った画像に疑問を呈し、「なぜ最も顔が小さく写っている画像を使ったのか」と質問。男性は「どの画像を使っても結論は同じだ」と答えた。 3月4日には、男女が映った防犯ビデオ画像を鑑定した奈良先端科学技術大学院大学の千原国宏教授(画像情報処理学)が弁護側証人として出廷し、「画像は人物の特徴を分析できるような解像度を有していない」と話した。 3月18日の論告で検察側は、事件直前に道路をトラックで通りかかった運転手の男性2人の証言や専門家による防犯カメラ映像の鑑定から「現場へ向かっていたのは中被告と認められる」と指摘。中被告が少女のポーチの色を供述したことも「他人に罪をなすりつけようとした供述の中で、犯人しか知り得ない情報を明かし秘密を暴露した」と主張した。当日の行動についても「事件当日の居場所や行動について、供述が転々と変わっていて、弁解は信用できない」と述べた。防犯カメラの画像について「中被告と判断できる」とし、弁護側証人の画像鑑定人が「画素数が少なく鑑定できない」とした点については「そもそも鑑定方法が違うため、中立性が疑わしい」と非難。その上で「弁護側の主張は抽象的可能性としての反対事実に過ぎず、中被告が犯人であることに合理的な疑いを差し込む余地はない」とした。その上で、「今回の被害者は1人だが、以前に同種の事件を起こしている」と指摘。「法廷で母親を真犯人と述べるなど反省が見られず、遺族の処罰感情も大変厳しい。わいせつ目的で確定的な殺意に基づいた冷酷で残虐な犯行。改悛の情がみじんもなく、矯正することは困難。極刑をもって臨むしかない」と述べた。 3月23日の最終弁論で弁護側は防犯カメラの映像について独自に依頼した専門家の鑑定結果を踏まえ、「映像の画素数が少なく顔の特徴は分からない」と反論した。目撃証言については「信用性がない」と主張。その根拠として、当時の舞鶴署員が目撃者に中被告の写真を見せた後、複数の写真の中から容疑者と似た人物の写真を選ばせる「面割り捜査」をしたことを挙げた。中被告が取り調べで公表されていないポーチの色を供述したとされる点について、「犯人しか知り得ない秘密の暴露」とする検察側の主張に対しても反論。「捜査員が遺留品に関する質問を繰り返して供述を誘導した」などと述べた。そして「被告の犯行を裏付ける証拠はなく、検察官の立証には合理的疑いを入れる余地がある」と改めて無罪を主張した。 最終陳述で中被告は「事件当日は家にいた。私は無実です。とんでもない罪をかぶせられた。私の苦しみを真犯人に分かってほしい」と述べた。 判決で笹野裁判長は現場に至る道路で被告と被害者を見たとする目撃者2人の証言の信用性を認め、道路沿いの3カ所にある防犯ビデオの画像も目撃証言と合わせて検討し、「映っている男は被告であり、犯行現場近くに犯行時刻に近接した時間、被害者と一緒にいた」と認定し、「2人が別れた後、別の人物が殺害した可能性は想定し難い」とした。一方、検察側の画像鑑定は「単なる印象に基づくものが多い」として証拠能力を認めなかった。続いて被害者の遺留品を詳細に説明した被告の供述について検討。「自発的にされたと認められ、供述を求めた捜査官に違法なものはない」としたうえで、「非公表の特徴と合致する具体的な供述で、知る機会があるのは犯人の他にはほとんど考えられない」と検察側の立証に沿う判断をした。 量刑について笹野裁判長は「経緯、動機に酌むべき点はない」と指弾したが、「帰宅途中に出会った被害者を襲った事案で、連続的な殺害や周到に計画した事案とは異なる。同種前科の刑期終了後は暴力的犯罪を行っておらず、偶発的な面もある」などとして死刑回避の理由を述べた。 |
備 考 |
中勝美被告は1973年9月17日、内縁の女性(当時26)との別れ話のもつれから、女性とその兄を刺殺。さらに近くの民家に押し入り、住人の女性2人を人質に籠城した。1974年11月11日、大津地裁で懲役16年判決(求刑無期懲役)を受けている。 出所後の1991年9月12日、舞鶴市内の夜道で若い女性の自転車に体当たりして転倒させいたずらしようとしたところを通りかかった海上自衛官に取り押さえられ、強制わいせつ、傷害容疑で逮捕。京都地裁舞鶴支部で懲役5年の判決を受けている。 検察・被告側は控訴した。2012年12月12日、大阪高裁で一審破棄、無罪判決。2014年7月8日、検察側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 糸川泰仁(49) |
逮 捕 | 2009年8月5日(死体遺棄容疑。2009年5月15日、詐欺容疑で逮捕済み) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、詐欺、道交法違反、有印私文書偽造・同行使、免状不実記載 |
事件概要 |
韮崎市の自動車板金塗装業糸川泰仁被告は北杜市に住む無職男性(当時55)に348万円の借金があり、このうち168万円を2009年1月13日に返済する約束だった。しかし金を用意できず、午後4時半頃、糸川被告の会社で返済を迫った男性の頭を鈍器で2回強打した後、首を紐で絞めて殺害し、348万円の返済を免れた。男性は資産家で、複数の知人に金を貸していた。その後糸川被告は男性の遺体を、会社にあったブルーシートなどで包んでワゴン車に乗せて隠し、1月27日頃に韮崎市の民家敷地に、建設機械レンタル業者の男性に依頼してあらかじめ掘らせておいた深さ約80cmの穴に、車で運んで穴に遺棄した。糸川被告は男性に「ごみを埋めるため」と偽って穴掘りを依頼していた。 他に糸川被告は顧客の高級乗用車が県税事務所に差し押さえられたことを利用し「差し押さえ解除のために金を貸してほしい」などと言い、2008年3月14日、この顧客から現金約304万円をだまし取った。2007年10月下旬には、別の顧客男性の国産高級車を「展示用に貸してほしい」などと言ってだまし取った。また、同年9月、弟の氏名を使い運転免許証を不正に再交付させた。 県警は詐欺容疑で5月15日に糸川被告を逮捕。会社を家宅捜索し、室内から複数の血痕が見つかり、鑑定で男性の血液と一致した。糸川被告は犯行を否定したが、県警は穴を掘った知人の証言から遺体の遺棄場所を特定。7月29日、遺体を発見し、8月5日に死体遺棄容疑で逮捕。9月10日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 井上弘通裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月19日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
一審で被告側は殺意を否定、傷害致死の適用を求めた。 井上弘通裁判長は「計画性があったとは認められないにせよ、債務を免れようという利欲的な犯行は極めて重大。無期懲役が重すぎるとは言えない」と述べた。 |
備 考 | 2010年12月24日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2012年12月6日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 小野毅(46) |
逮 捕 | 2009年8月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
佐賀県唐津市の養鶏場工従業員小野毅(つよし)被告は、2009年7月29日午前7時15分頃、鶏に給餌中の養鶏場で責任者の男性(当時52)の頭をハンマーで殴って殺害。現金14万円が入った財布を奪った。養鶏場には小野被告や男性は、別の男性従業員が住み込んでおり、3人で午前6時頃から作業していた。 男性従業員が警察に連絡。小野被告は車でJR浜崎駅付近まで逃げ、駅前からタクシーに乗って福岡県前原市のJR筑前前原駅で降りた後は足取りが途絶えた。県警唐津署は同日、小野被告を殺人容疑で全国に指名手配した。 8月21日、小野被告は東京都台東区の工事現場で手首を数回切って自殺を図った。午前11時ごろ、男が倒れているとの通報で駆けつけた警視庁下谷署員が小野被告を発見し、都内の病院で搬送。残されたメモや運転免許証で指名手配中の小野被告と判明。26日、県警唐津署は退院した小野被告を逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 金築誠志裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月23日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 一・二審で小野被告は強盗目的を否定している。 |
備 考 |
養鶏場では2009年4月4日夜、被害者の男性が自宅の購入改築資金として個人的に金融機関から借りた約1470万円が、事務所から金庫ごと盗まれた。そのため捜査本部は当初、この事件と小野被告の関連性も調べていた。2010年1月17日、大分市に住むI容疑者、K容疑者、O容疑者の3人が窃盗容疑で逮捕された。3人は建築関係の派遣会社の同僚。I容疑者は2008年11月から数週間、この養鶏場で働いていたことがあった。金は3人で分け、遊興費などですべて使い切っていた。 2010年3月18日、佐賀地裁唐津支部(桑原直子裁判官)でI被告に懲役3年(求刑懲役4年)、K被告、O被告に懲役2年(求刑懲役3年)が言い渡された。 被害者の母親は小野毅被告に対し、「最愛の息子の命を奪われ、甚大な精神的苦痛を被った」「1999年ごろから、毎月15万円を息子から生活費として受け取って生活し、息子が購入した家で同居する予定だったが、息子の命が奪われ、同居する夢を壊されただけでなく、今後の生活の見通しまでも失った」として、慰謝料550万円の損害賠償請求の訴えを4月12日までに佐賀地裁に起こした。5月14日の第1回口頭弁論で小野被告は事実関係を認め、即日結審した。2010年6月25日、佐賀地裁(野尻純夫裁判長)は220万円の支払いを命じた。 2010年2月26日、佐賀地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2010年10月29日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 坂本明浩(51) |
逮 捕 | 2005年2月13日、広島東署銃撃事件における銃刀法違反他容疑で逮捕。2006年2月10日、「リンリンハウス」放火事件における殺人他容疑で再逮捕。 |
殺害人数 | 4名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)、威力業務妨害、銃刀法違反、組織的犯罪処罰法違反(建造物損壊) |
事件概要 |
神戸市のテレホンクラブ「コールズ」を経営していた中井嘉代子被告は1999年12月ごろ、神戸市内で経営するテレホンクラブの営業をめぐり、ライバル関係にあったテレホンクラブ「リンリンハウス」の営業を妨害しようと、広島市の元会社役員で、覚せい剤密売グループ会長坂本明浩被告に1000万円で犯行を依頼した。 坂本被告は、依頼を承諾し、重機オペレータ佐野和幸受刑者と無職亀野晋也受刑者、暴力団員堀健一被告に犯行を指示。3人は2000年3月2日午前5時5分頃、盗んだナンバープレートを付けた乗用車で神戸駅前店に乗りつけ、一升瓶で作った火炎瓶1本を店内に投げ込んで同店の一部を焼き、店員1人に軽傷を負わせた。10分後には東約1キロの元町店に2本を投げ込んでビル2、3階部分計約100平方メートルの同店を全焼させ、男性客4人を一酸化炭素中毒で殺し、店員ら3人に重軽傷を負わせた。 中井被告は坂本明浩被告の求めに応じ、犯行後、報酬や逃走資金などとして計約1億100万円を渡した。 他に坂本被告は2004年2月9日午前0時5分頃、広島市中区の広島東署正面玄関に向けて拳銃を1発発射し、自動ドアのガラス2枚(189000円相当)を割った。 坂本被告は覚せい剤密売組織「インターナショナル・シークレット・サービス」(ISS)の会長だったとされる。2005年6月27日、広島県警銃器薬物対策課と広島東署などは、2004年12月17日、広島市中区大手町の駐車場で、乗用車の車内にあったカップ食品の容器の中に覚せい剤約420グラムを所持した。 坂本被告は2004年5月に広島市南区の喫茶店で、金融会社の社員を脅し30万円を取ったとして共犯者とともに恐喝容疑で逮捕されているが、2006年5月9日、共犯者と被害者との間で示談が成立したことなどから起訴猶予処分となっている。 |
裁判所 | 大阪高裁 的場純男裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2011年5月24日 無期懲役(一審破棄) |
裁判焦点 |
2010年2月16日の控訴審初公判で、弁護側は一審に続き「共謀はない」と無罪を主張、検察側は死刑判決を求めた。 2011年1月20日、弁護側は「火炎瓶を使うという方法は指示しておらず、共謀はない」と無罪を主張して結審した。 的場純男裁判長は一審神戸地裁判決について「殺人や放火について有罪とした部分は正当」と判断したが、銃刀法違反罪を無罪とした部分が誤りだとして破棄。「被告の指示で撃ち込んだとするメンバーの供述は信用できない」として無罪とした一審の判断を覆し、「火炎瓶の使用を提案したというメンバーの供述は信用できる」と指摘した。そのうえで量刑を検討し、「火炎瓶の大きさなど、具体的なことは認識していなかった。火炎瓶を投げ込むことで多数の死傷者が出るとは予想していなかった」などとして死刑を回避した。 |
備 考 |
広島東署発砲事件では、実行犯である元ISS幹部のM被告が銃刀法違反と組織的犯罪処罰法違反(建造物損壊)容疑で、他の脅迫事件における建造物損壊、威力業務妨害容疑とともに起訴された。2008年2月1日、広島地裁(細田啓介裁判長)で懲役14年、罰金200万円(求刑懲役18年、罰金200万円)が言い渡されている。11月11日、広島高裁(楢崎康英裁判長)は被告側控訴を棄却した。他に3人が有罪判決を受けている。 佐野和幸受刑者(求刑死刑)と亀野晋也受刑者(求刑無期懲役)は2003年11月27日、神戸地裁で一審無期懲役判決。2005年7月4日、大阪高裁で検察・被告側控訴棄却(検察控訴は佐野受刑囚に対して)。2006年11月14日、最高裁で被告側上告棄却、確定。 運転役だった堀健一被告は逃亡し、現住建造物等放火容疑で指名手配されていたが、2008年7月28日、愛媛県新居浜市内で逮捕された。2009年12月16日、神戸地裁で一審懲役20年判決(求刑無期懲役)。2010年8月4日、大阪高裁で検察・被告側控訴棄却。 中井嘉代子被告は無実を主張したが、2007年11月28日、神戸地裁で一審無期懲役判決(求刑死刑)。2009年3月3日、大阪高裁で検察・被告側控訴棄却。2010年8月25日、被告側上告棄却、確定。 手引き等をした神戸市の元土木資材販売業N被告は、殺人容疑で起訴された。2006年11月30日、神戸地裁にて傷害致死ほう助などの罪で、懲役9年(求刑懲役15年)を言い渡された。2007年10月18日、大阪高裁は一審判決を破棄、殺人のほう助罪などを適用したものの「重要な役割を果たしたとは言えない」と懲役6年に減刑した。被告側上告が棄却され、確定。 坂本被告、N被告と一緒に殺人容疑で逮捕された無職男性は、関与の度合いが低かったとされ、起訴猶予となっている。 2008年12月8日、神戸地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年7月8日、被告側上告棄却、確定。 2011年3月24日、坂本明浩被告は、広島県警の男性刑事に拳銃を提供するなどして精神的苦痛を受けたとして、広島県を相手取り330万円の国家賠償を求めて大阪地裁に提訴した。訴状によると、坂本被告は暴力団組長から、刑事に協力すれば捜査で便宜を図ってもらえるなどと持ち掛けられた。自身や親族への捜査を回避し、家宅捜索の情報を入手する目的で、1993~2005年ごろ、刑事に拳銃や金を渡したり接待したりし、違法行為に協力させられたと主張している。 |
氏 名 | 高橋まゆみ(50) |
逮 捕 | 2010年3月3日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人 |
事件概要 |
宮城県亘理町の無職高橋まゆみ被告は、保険金目的で、夫である自衛官の男性(当時45)の殺害を、菅田伸也被告らに依頼。犯罪組織の仲間である菅田伸也被告、YA被告、SH被告、SM被告は2000年8月6日、男性(当時45)方の台所で、ドア上部に架けたロープの輪に男性の首を通して体を押し下げ、窒息死させた。まゆみ被告は「外出先から戻ると、夫が台所で首をつっていた」と警察官に説明していた。県警は、遺体の首付近に血痕が付着しているなど不審な点はあったが、目立った外傷はなかったため、検視で自殺と断定。司法解剖はしなかった。菅田被告はまゆみ被告が仙台市内の飲食店でホステスをしていた時の客であった。まゆみ被告は菅田被告らへの報酬として、保険金1億2000万円からそれぞれ数百万円を支払った。ただしまゆみ被告は、その後も事あるごとにカネをせびられた。 犯罪組織の仲間であった笹本智之受刑囚が、「菅田被告が自殺を装って自衛官を殺害し、保険金を手に入れている」と話したことから、宮城県警が捜査。2010年3月3日、保険金殺人事件で菅田伸也被告、YA被告、SH被告、SM被告、高橋まゆみ被告の5人が逮捕された。刑事部長は逮捕当日、検視に誤りがあったことを認め、「誤認検視の絶無に取り組む」とのコメントを出した。仙台地検は3月25日、5人を殺害他の容疑で起訴した。 |
裁判所 | 仙台高裁 飯渕進裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月24日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 判決で飯渕進裁判長は、「原判決の量刑は重すぎて不当とは言えない」と述べた。 |
備 考 |
亘理町自衛官保険金殺人事件における殺人罪と、仙台市男性強盗殺人事件における逮捕監禁罪に問われたSH被告は2010年7月15日、仙台地裁(鈴木信行裁判長)で懲役17年(求刑同)を言い渡された。12月27日、仙台高裁(飯渕進裁判長)で被告側控訴棄却。 保険金殺人における殺人罪に問われたSM被告は2010年9月10日、仙台地裁(川本清巌裁判長)で懲役15年(求刑同)を言い渡された。控訴せず確定。 保険金殺人における殺人罪に問われたYA被告は2010年10月1日、仙台地裁(川本清巌裁判長)で懲役13年6月(求刑懲役15年)を言い渡された。控訴せず確定。 菅田伸也被告の公判はまだ開かれていない。 2010年11月19日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2011年12月現在で確定済み。上告しなかったものと思われる。 |
氏 名 | 橘大介(37) |
逮 捕 | 2010年8月20日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗 |
事件概要 | 東京都足立区の無職、橘大介被告は同居する無職女性と共謀。2010年7月30日午後10時半ごろ、埼玉県八潮市のパチンコ店で客から金品を奪おうと、換金を終えた男性会社員(当時37)の妻に包丁を突きつけ「カバンをよこせ」と脅したが、近くにいた男性の制止にあい、男性の首を包丁で刺し失血死させた。そのまま逃走し、金品は奪えなかった。橘被告が実行役、女性が高額換金者を物色する役割だった。両被告は生活保護を受給していた。 |
裁判所 | さいたま地裁 大谷吉史裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月30日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年5月23日の初公判で橘被告は「殺意はなかった」と起訴内容の一部を否認した。 検察側は冒頭陳述で「被告は刃渡り20cmの包丁を持参し、被害者の背中に包丁を振り下ろそうとするなど攻撃的な行動を取った上、首を刺した」などと殺意を指摘した。一方、弁護側は「被告が人を殺してしまおうとか、死んでも構わないとか考えたものではない。男性を殴ろうとしただけだった」と主張し、強盗致死罪の適用を求めた。 5月26日の論告求刑公判で、検察側は「傷口は深さ5cmにも達し、明らかな殺意があった。動機も自動車の部品を交換するための金を手に入れるためで身勝手」として無期懲役を求刑。一方、弁護側は「犯行当時、被告は幼少時の虐待に起因する鬱病でパニック状態となっており、包丁を持っていることを忘れて殴ろうとしただけ」と殺意を否定し、強盗致死罪のみ成立すると訴えていた。 大谷裁判長は「弁護側の主張は店内の防犯カメラや傷口などの客観的証拠と整合せず、犯行時だけ記憶が欠落しているのは不自然で到底信用できない。鬱病と犯行の因果関係もない」と退けた。その上で、「刺した後もバッグのひもを包丁で切り取ろうとしており、包丁の存在を明らかに把握していた。被告が(被害者を)排除するために突発的な殺意を抱き、重要部分である首を死ぬと分かっていながら刺したことは明らか」と殺意を認定した。そして「被害者の肉体的、精神的苦痛は筆舌に尽くし難く、最愛の家族を失った遺族の悲しみも深い。犯行は執拗で悪質だ。危険かつ残忍な犯行で動機も酌量の余地がない」と述べた。 |
備 考 |
女性は強盗致死容疑で逮捕されたが、襲撃現場に居合わせていないことなどから、さいたま地検は同罪を適用できないと判断し、バッグを奪おうとした窃盗未遂罪を適用した。2011年1月12日、さいたま地裁(大熊一之裁判官)で懲役1年6月、執行猶予3年の判決(求刑懲役1年6月)。控訴せず確定。 被告側は控訴した。2011年10月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | 浦信彦(57) |
逮 捕 | 2008年11月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)他 |
事件概要 |
名古屋市に拠点を置く山口組系暴力団幹部で人材派遣業の浦信彦被告は、同暴力団組長福富弘被告らから殺害の指示を受け、同組員M被告らと共謀。2007年10月14日午前10時55分ごろ、東京都台東区上野のJR御徒町駅近くにあるアメヤ横丁路上を歩いていた同組元幹部の男性に銃弾3発を発射し、殺害した。 殺害された男性は9月に同組を破門されていた。 |
裁判所 | 東京地裁 藤井敏明裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月30日 無期懲役 |
裁判焦点 | 浦被告はM被告とともに公判で無罪を主張したが、藤井裁判長は、防犯カメラの映像などから両被告が実行犯だと認定。そして「白昼の繁華街での凶悪な犯罪で、一般市民が巻き添えになっても不思議はなかった」と述べた。 |
備 考 |
この事件では6人が逮捕され、5人が起訴されている。残り1人については不明。 福富弘被告、冨士田学被告は公判中。 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)に問われた元組員で食品加工作業員の男性被告は2010年3月18日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で懲役4年判決(求刑懲役18年)。藤井裁判長は「目的を知らされず拳銃運搬役に使われた可能性が高い」と指摘して組織的殺人を無罪とし、銃刀法違反(拳銃加重所持)のみ有罪とした。11月8日、東京高裁(岡田雄一裁判長)で検察側控訴棄却。 浦被告とともに実行犯とされたM被告は、2011年5月30日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で懲役20年判決(求刑懲役30年)。 被告側は控訴した。2012年10月31日、東京高裁で被告側控訴棄却。2014年中に被告側上告棄却、確定と思われる。 |
森本浩一(45) | |
2007年4月28日 | |
2名 | |
殺人、傷害致死、死体遺棄、傷害 | |
暴力団幹部森本浩一被告は大阪府阪南市内の自宅で同居していた無職男性(当時32)の存在が疎ましくなり、2001年12月~2002年4月、男性を金属バットで殴るなど日常的に暴行。2002年5月上旬、衰弱していた男性を大阪府岬町の漁港から知人男性F被告に指示して海へ突き落とし、竹竿で突いておぼれさせ、殺害した。その後遺体を和歌山県串本町(紀伊半島東部)の山中に車で運び、遺体を埋めた。 森本被告は2006年12月24日午前2時頃、大阪市西成区のアパートで知人の兄だった男性(当時34)に暴行。男性は外傷性の腹部内出血により午後6時頃に死亡。森本被告は同じ暴力団の組員ら3人と共謀し、25日から26日にかけ、遺体を和歌山県串本町(紀伊半島東部)の山中に車で運び、遺体を埋めた。 このほか、男性2人、女性4人に暴行したとして起訴されている。うち1件は、2005年10月、堺市内のマンションで知人女性(当時25)に小型の机を投げたり、頭や顔などを殴ったりして軽傷を負わせた疑いである。 関係者の証言により大阪、大分、和歌山の三府県警合同捜査本部は2007年4月25日、山中で男性とみられる遺体を発見。死体遺棄容疑で組員ら3人を逮捕、28日に森本浩一被告を死体遺棄容疑で逮捕した。 森本被告は2005年6月8日夜に走行中の乗用車内で同乗者2人を殴ったなどとして、傷害容疑で滋賀県警に逮捕され、起訴されていた。 森本被告は2007年5月31日、殺人容疑で逮捕された。 さらに建設作業員F被告が2008年2月に自首。合同捜査本部は9月10日、和歌山県串本町の山中を捜査し、2006年の事件で埋められた遺体のそばから白骨化した遺体を発見。合同捜査本部は2008年10月22日、森本被告とF被告を殺人容疑で逮捕した。死体遺棄容疑は時効が成立していた。 さらに森本被告の知人3人は合同捜査本部に対し、約10年前、森本被告に指示され、40歳代後半の無職男性の遺体を埋めたと供述。2009年1月29日、兵庫県三田市の山中で、白骨死体の頭や足の骨片を発見した。この事件で森本被告は1999年、当時40歳代後半の男性に暴行し、衰弱した男性を病院へ搬送せず死なせた疑いがあるが、起訴はされていない。 | |
大阪高裁 上垣猛裁判長 | |
死刑 | |
2011年5月31日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) | |
判決で上垣裁判長は、「残酷卑劣な犯行だが、殺害された被害者は1人で、強固な殺意や計画性があったとはいえない。殺人と傷害致死を同様に評価することはできず、死刑がやむを得ないとまでは言えない」と述べた。 | |
2006年の事件では、死体遺棄容疑で関わった組員ら3人が起訴された。また傷害致死容疑で銀行行員(後に懲戒免職)が森本被告と同日に逮捕されたが、大阪地検は2007年6月20日、暴行に加わっていないなど関与の度合いが低いと判断し、嫌疑不十分で不起訴処分とした。 2010年1月25日、大阪地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。2014年3月17日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 平間敏(49) |
逮 捕 | 2010年2月22日(殺人容疑) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、非現住建造物等放火 |
事件概要 |
宮城県蔵王町の会社役員平間(旧姓庄司)敏被告は、川崎町に住む無職女性(当時66)から預かった投資資金約2500万円のうち、約300万円の支払いを免れようと殺人を決意。2010年1月21日午後7時50分頃、女性宅にて事前に用意したアイスピックで女性の頭や背中を刺して殺害した。さらに、この約1時間後、女性方の1階居間に火を付け、木造2階建て住宅の壁などを半焼させた。 平間被告は生命保険会社の代理店の取締役であり、約5年前から女性宅に出入りし、同時期に死亡した女性の夫が生命保険の契約を結んでいた。 逮捕容疑は殺人であったが、仙台地検は、事件当時、平間被告には債務を返済する資金は無く、金銭の返済を免れる目的で殺害したなどと供述したことなどから、強盗殺人罪を適用した。 |
裁判所 | 仙台高裁 飯渕進裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年5月31日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
被告側は「無期懲役ではなく有期懲役で処罰すべき」などと訴えていた。 判決で飯渕裁判長は、「債務の支払いを免れるため、強盗殺人という最悪の手段で事態の打開を図った短絡的で身勝手な動機に酌量の余地はない」と指摘し、「一審判決の判断に明らかに不合理な点は見あたらない」とした。 |
備 考 | 2010年11月12日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | 吉川博司(61) |
逮 捕 | 2009年6月26日(死体遺棄容疑。7月16日、強盗致死容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体損壊 |
事件概要 |
千葉市若葉区のタクシー運転手吉川博司被告は東京都葛飾区の自営業で韓国籍のK被告と共謀し、2009年5月1日、千葉市若葉区の駐車場にパチンコ景品卸売会社社長の男性(当時58)を呼び出し、男性の車の中などで両手首を縛って顔や腹を蹴って死亡させ、現金503,000円を奪い、同日夜、同市緑区の山林で遺体をプラスチック容器に入れフッ化水素酸に浸して溶かした。 千葉県警捜査本部は、5月1日夜に遺体を山林に遺棄し、10日に遺体を山林から運び出して川に遺棄したとして死体遺棄容疑で2人を逮捕。遺体が見つからなかったことから7月16日、2人を釈放したが、吉川被告の供述や車の中から血痕が見つかったことなどから同日に2人を強盗致死容疑で再逮捕した。捜査本部は、両被告が犯行前に薬品を入手していたことなどから「計画殺人だった」との見方を強めていたが、両被告が殺意を否認し続けたことなどから、千葉地検は強盗殺人ではなく強盗致死容疑で起訴した。 2被告は男性と20年以上交友関係があった。男性の遺体はまだ見つかっていない。 |
裁判所 | 千葉地裁 渡辺英敬裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年6月2日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年5月16日の初公判で吉川被告は「強盗目的ではなかった」と起訴内容を一部否認した。検察側は冒頭陳述で「被告は事業に失敗して生活に困窮し、多額の現金を奪う目的で殺害を計画した」と指摘。弁護側は「目的は金ではなく、長年の恨みを晴らすためだった」と強盗致死罪ではなく、傷害致死罪の適用を主張した。 5月26日の論告で検察側は「犯行を一貫して主導し、責任は重い。反省の態度も見られない」として無期懲役を求刑した。弁護側は「(暴行は)強盗目的ではない」として傷害致死罪の適用を主張した。 判決で渡辺裁判長は「犯行前、被害者に経済的な便宜を要求し断られて被害者を拘束して監禁する計画であったことや、多額の分け前を約束して共犯者を巻き込んだ点から、金を奪う目的があったと推認できる」と述べ、強盗目的を否定する弁護側の主張を退けた。また「被告は共犯者に犯行準備の指示を出すなど、首謀者であるにもかかわらず、被害者やその遺族に対する直接的な謝罪はなく、反省していない」と指摘した。そして「冷酷無慈悲な計画を実行し、一般には想像の及ばないような方法で遺体を損壊した悪質な犯行」と述べた。 |
備 考 |
K被告は2011年4月26日、千葉地裁で一審懲役26年判決(求刑無期懲役)、控訴中。 被告側は控訴した。2011年11月15日、東京高裁で被告側控訴棄却。2012年6月29日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 清水邦三(75) |
逮 捕 | 2010年2月14日(3月5日、強盗殺人で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄・損壊 |
事件概要 |
神戸市の無職清水邦三被告は、好意を抱いていた知人女性との交際費のため、2008年ごろから同じ県営住宅に住む知り合いの無職男性(当時71)から借金を重ねたが、約58万円の借金返済を迫られ、2009年11月5日、自宅で男性を絞殺し、22万円を奪って遺体を切断、淡路市内の山林などに遺棄した。 男性は一人暮らし。2010年1月、男性の姉が捜索願を出した。交友関係から清水被告に事情を聴いたところ、「遺体を捨てた」と供述。2月14日の捜索で白骨化した頭部が見つかったため、捜査本部は清水被告を死体遺棄容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 神戸地裁 細井正弘裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年6月7日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 清水被告は起訴事実を認め、公判前整理手続きで争点は量刑だけに絞られていた。そして2010年8月18~23日に公判期日が指定されたが、16日に弁護人との接見で強盗殺人罪を否認したため、地裁が期日を取り消した。 5月31日の初公判で清水被告は、「共犯として暴力団組員が2人いる。私は手伝っただけで金も奪っていない」と述べ、起訴事実を一部否認した。 冒頭陳述で、検察側は清水被告が主張した共犯者について「被告が言及する場所に暴力団の組事務所は実在しない」と指摘、捜査段階の供述内容などから単独犯だと強調した。弁護側は「男性とトラブルになった組員の指示で犯行を手伝わされ、口止めされていた。組員から口止めされたうえ、警察の厳しい取り調べに嫌気がさして本当のことを供述しなかった。殺人罪にとどまる」と主張した。 6月1日の公判で取り調べの様子を録音・録画したDVDが再生された。計約1時間で、県警の警部補と地検の検事が2010年3月、それぞれ供述調書の中身を読み聞かせる場面が収められている。清水被告は取り調べで警部補や検事に対し、単独犯とする調書を「間違いありません」と認め、署名。検事と談笑する時もあった。その後、被告人質問があり、清水被告は「心の中では違うと思っていた。暴力団員が怖いという気持ちがあった」と述べた。 2日の論告で検察側は「極めて残忍な犯行で、反省の態度はみじんも感じられない」と指摘した。被告側の共犯主張については「組員がいたことを裏付ける証拠は一切なく、その場しのぎの弁解。取り調べ時の供述は客観的証拠と合致した内容で信用できる。自発的に供述しており、単独犯であるのは明らか」と指摘した。 同日の最終弁論で弁護側は「自白は厳しい取り調べによるもの。共犯の暴力団組員に強要された。高齢の被告が1人で犯行の全てをするのは困難で、単独犯とする検察側の主張には疑問が残る。被告の役割は従属的で現金を奪う目的もなかった」と強盗殺人罪ではなく殺人罪の適用を訴え、寛大な判決を求めた。 判決で細井裁判長は「極めて残忍で非人間的な犯行。残りの全生涯をかけ罪を償わせるのが相当」と述べた。被告側の共犯主張には「証拠はなく、支離滅裂で信用できない」と退けた。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 福富弘(65)/冨士田学(56) |
逮 捕 | 福被告:2008年11月28日/冨士田被告:2008年12月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)他 |
事件概要 |
名古屋市に拠点を置く山口組系暴力団組長の福富弘(ふく・とみひろ)被告と同冨士田学被告は、同組幹部である浦信彦被告、組員M被告らに殺害を指示。2007年10月14日午前10時55分ごろ、東京都台東区上野のJR御徒町駅近くにあるアメヤ横丁路上を歩いていた同組元幹部の男性(当時42)に銃弾3発を発射し、殺害させた。 殺害された男性は9月に同組を破門されていた。 |
裁判所 | 東京地裁 藤井敏明裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年6月9日 無期懲役 |
裁判焦点 | 福富弘被告と冨士田学被告はともに無罪を主張したが、藤井裁判長は「被害者と実行犯に接点はなく、被告らが被害者の動向を伝えていたと認定できる。福被告が首謀者で、冨士田被告も実行指揮役を担った」と指摘した。そして「役割分担を決め、周到に計画。白昼の繁華街で拳銃が発射され、市民を巻き込む恐れが極めて高かった」と述べた。 |
備 考 |
この事件では6人が逮捕され、5人が起訴されている。残り1人については不明。 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)に問われた元組員で食品加工作業員の男性被告は2010年3月18日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で懲役4年判決(求刑懲役18年)。藤井裁判長は「目的を知らされず拳銃運搬役に使われた可能性が高い」と指摘して組織的殺人を無罪とし、銃刀法違反(拳銃加重所持)のみ有罪とした。11月8日、東京高裁(岡田雄一裁判長)で検察側控訴棄却。 実行犯の浦信彦被告は2011年5月30日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で求刑通り一審無期懲役判決、被告側控訴中。 実行犯のM被告は2011年5月30日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で懲役20年判決(求刑懲役30年)。 被告側は控訴した。2012年中に東京高裁で被告側控訴棄却。2014年3月18日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 小林文弥(49) |
逮 捕 | 2009年7月3日(現行犯逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
名古屋市北区の無職小林文弥被告は2009年7月3日午後7時ごろ、名古屋市北区の時計店に金を奪う目的で押し入り、居間でテレビを見ていた店主の男性(当時71)に包丁を突きつけた。男性が抵抗したため、小林被告は男性の胸を包丁で刺して殺害した。一緒にいた妻が悲鳴を上げ、2階にいた長男が降りてきて小林被告を取り押さえ、駆けつけた愛知県警北署員に引き渡した。 小林被告はその時計店に一度しか行ったことがなく、男性との面識はなかった。 |
裁判所 | 名古屋高裁 志田洋裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年6月22日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 志田洋裁判長は被告側の「他の男1人と共謀して事件を起こした。単独犯と認定した一審判決には事実誤認がある」との主張を、「共謀は認められない」と退けた。量刑についても「悪質で計画的な犯行」などとして一審判決を支持した。 |
備 考 |
同居していた男性は、別の詐欺事件で起訴されている。 2010年12月17日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2012年1月24日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 長屋弘(59) |
逮 捕 | 2010年9月21日(窃盗未遂容疑。22日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入、窃盗 |
事件概要 |
岡谷市の稲川会系暴力団幹部で建築板金業長屋弘被告は2010年9月19日午前5時頃、金品を奪うため、岡谷市に住む無職男性(当時67)宅に無施錠の玄関から侵入。寝ていた無職男性(当時67)の首をネクタイで絞めて殺害し、現金約2万円やキャッシュカードなどを奪った上、同日、塩尻市内の金融機関の現金自動預け払い機(ATM)で、3回に分けて計50万円を引き出した。さらに同日午前10時頃にも、岡谷市内のATMで、同じカードで現金を引き出そうとしたが、限度額を超えていたため引き出せなかった。この最後の窃盗未遂については不起訴となっている。 長屋被告は男性と飲み仲間で、カードの暗証番号は事件前に偶然知った。 |
裁判所 | 長野地裁松本支部 二宮信吾裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年7月11日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 7月5日の初公判で長屋被告は殺害を認めたが、「金品強取を企てていたわけではない」と起訴事実を一部否認した。 検察側は冒頭陳述で、借金返済が動機につながったと指摘。「事件前日に被害者から暗証番号を聞いていたことや、殺害直後に現金を引き出していることなどから強盗目的はあった」と強調した。一方、弁護側は「金目的ではなく恨みから殺害した」と主張。「偶然、被害者の暗証番号を知り、思いがけず現金を発見した。強盗殺人罪は成立せず、有期刑が選択されるべきだ」と訴えた。 7月8日の公判で、検察側は論告で「事件当時は借金の返済どころか、生活費にも困っていた」と指摘。奪ったカードで引き出した現金を事件直後に使い切っていることなどから「強盗目的は明らか」と強調し、「金のために被害者の命を軽視した利己的な動機。執行猶予中、暴力団員として活動した揚げ句に犯した重罪。更生を期待することは困難」と述べた。 一方、同日の最終弁論で弁護側は「所属する組織などについて、被害者から暴言を吐かれ、恨みを募らせた結果の犯行で、強盗目的はない」と反論。強盗を認めた供述調書は「持病を抱えながら追及を受け続けて検察官が望む通りに署名してしまい、真実ではない」と訴え、強盗目的はなく殺人と窃盗の罪が成立し「贖罪の気持ちがあり、社会生活を通じて罪を償わせる余地を残すべき。懲役17年が相当」と主張した。 長屋被告は最終意見陳述で、「どんな判決になろうと、逃げずに処分される覚悟です」などと遺族に宛てた謝罪文を読み上げた。 二宮裁判長は判決理由で「犯行当日が借金50万円の返済期限で、被告は金に困っていた。殺害直後にキャッシュカードと現金を奪い、犯行当日のうちに手にした現金をほぼ借金返済に充てるなどしており、強盗目的が強く推認される」と指摘。強盗目的で被害者を殺害したと認定した。そして「被告の刑事責任は極めて重いが、過去の量刑傾向に照らすと死刑を選択すべき事案ではない」と述べた。 |
備 考 | 被告側は即日控訴した。2011年11月10日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | 高橋隆宏(38) |
逮 捕 | 2010年6月25日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、詐欺 |
事件概要 |
埼玉県富士見市の無職高橋隆宏被告は、いとこで横浜市に住む内装工の新井竜太被告と共謀。2008年3月13日午前10時ごろ、新井被告の実家の内装会社で、高橋被告の養親である住み込み従業員の女性(当時46)に睡眠薬を飲ませ、浴槽に沈めて殺害。保険会社に「事故による溺死」とうその申告をして、同年7月、預金口座に死亡保険金約3600万円を振り込ませた。新井被告が2800万円を、高橋被告が800万円を手にしていた。 高橋被告は2006年夏ごろに携帯電話のサイトで女性と知り合い、2007年1月に女性を養母とする養子縁組を結び、同年10月には死亡時に保険金が支払われる特約付きの傷害保険に加入させていた。 両被告は深谷市に住む両被告の叔父(当時64)と金銭トラブルが生じ、2009年8月7日、家で酒を飲んで眠り込んだ叔父の胸を、高橋被告が柳葉包丁で刺して殺害した。新谷被告は2月ごろから叔父の家をリフォームしていたが、それにかこつけて金をむしり取っていた。 8月9日午後、洗濯物が干されたままになっているのを不審に思った友人が通報し、警察官が室内で刃物が胸から背中にかけて貫通している遺体を見つけた。2010年6月25日、埼玉県警は交通保険金をだまし取った詐欺事件で逮捕されていた2人をおじ殺害容疑で再逮捕。高橋被告は別の銃刀法違反事件で懲役3年の実刑判決が確定し、服役中だった。11月4日、女性殺害容疑で2人を再逮捕した。 |
裁判所 | さいたま地裁 田村真裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2011年7月20日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年6月27日の初公判で、高橋隆宏被告は起訴事実を全面的に認めた。 検察側は冒頭陳述で、高橋被告が出会い系サイトで知り合った女性から生活費を取り上げていたなどと指摘。「自らの過去の借金を踏み倒し、新たに借金をするために養子縁組で姓を替えたが、思ったほど稼げず女性の扱いに困るようになり、死亡保険金欲しさに犯行を決意した」と主張した。弁護側は、新井竜太被告が主犯格と主張、「死刑ではない刑を選んでいただきたい」と述べた。 7月6日の論告で検察側は、アリバイを作るなど殺害は計画的で悪質と指摘。「金のためなら殺人もいとわない。極めて悪質。2人の命を直接奪った罪は極めて重い」と述べた。 8日の最終弁論で弁護側は、殺害方法を詳しく指示し、凶器を用意するなどした新井竜太被告が「中心的で主導的立場だった」と指摘。高橋被告は新井被告に服従する関係にあったとして「2人を同じ刑にしていいのかを考えてほしい。二つの殺人事件の全容解明ができたのは高橋被告が詳細な自白をしたから」と述べ、無期懲役が相当と主張した。 判決で田村裁判長は、「強固な殺意に基づく冷酷非道なもので、新井被告に従っていれば分け前をもらえると犯行に至った。身勝手極まりない」と指弾した。死刑を回避した理由については、「新井被告の手足として行動し、従属的立場で、責任は新井被告に比べて相当程度低い。反省、悔悟の情が認められ、死刑を科すにはちゅうちょを覚えざるを得ない」とした。また、養母殺害では神奈川県警が司法解剖を行わず、殺人事件として捜査していなかったが、「高橋被告が自白したからこそ、事件が明らかになった」と指摘した。 |
備 考 |
新井竜太被告は殺人罪で起訴済み。後に死刑確定。 控訴せず確定。 |
氏 名 | 市橋達也(32) |
逮 捕 | 2009年11月10日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強姦、死体遺棄 |
事件概要 |
千葉県市川市の無職市橋達也被告は2007年3月25日、自宅マンション4Fで英国人女性の英会話講師(22)の顔などを殴り、手首を縛って強姦。さらに首を圧迫して窒息死させ、ベランダに置いた浴槽に遺体を遺棄し、園芸用の砂土で埋めた。 26日、被害者と同居していた女性から依頼を受けた千葉県警船橋警察署員が、被害者宅から市橋被告の氏名や電話番号、似顔絵を描いたメモを発見したため、21時40分頃に市橋被告宅に急行。しかし市橋被告は駆けつけた捜査員を振りきり、非常階段からマンションを抜け出して逃走し、そのまま行方をくらました。捜査員は被害者の遺体を発見した。千葉県警は市橋被告を死体遺棄容疑で指名手配。さらに2007年5月から始まった公費懸賞金制度に基づいて懸賞金を掛けた。市橋被告はその後転々とし、途中病院で整形を行った。 女性の家族は何度も来日し、マスコミ出演やビラ配りなどで犯人逮捕への協力を訴えた。 2009年11月5日、名古屋市内の美容形成外科医院が、過去のカルテを整理中に市橋被告らしき写真を発見したため通報。同一人物だと判断されたため、指名手配の写真が整形後のものに差し替えられた。その写真を見て大阪府の建設会社が、市橋被告が10月頃まで住み込みで働いていたことを通報した。11月10日、神戸市の六甲船客ターミナルにて従業員が乗客の中に市橋被告らしき人物を発見して通報。市橋被告が沖縄行き便に搭乗しようとしたが、当日は欠航であったため、就航していた大阪南港発の便を案内し、向かったところで警察に通報。市橋被告は大阪南港フェリーターミナルで身柄を拘束され、逮捕された。そして東海道新幹線を経由して千葉県警行徳署に移送された。 市橋被告逮捕に結びつく重要情報提供に対する総額1000万円の公費懸賞金は、民間人4人に対し、国費から支払われた。公費懸賞金制度で初の支払いとなった。千葉県警が同庁に候補者を挙げて申請。警察庁が審査委員会を開いて支給を決定した。情報の寄与度に応じて分配されるが、同庁は「情報提供者保護の観点から」として4人に関する情報や懸賞金の分配率などは公表しなかった。 |
裁判所 | 千葉地裁 堀田真哉裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年7月21日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。公判前整理手続きで争点は、殺意の有無と強姦致死罪が成立するかどうかとなった。 2011年7月4日の初公判で、市橋被告は中央の証言台の前に来るなり、傍聴席最前列に座るリンゼイさんの両親に向かって土下座。その後、罪状認否で「殺意はなかった」と主張した。死体遺棄については認めた。市橋被告は「リンゼイさんの死の責任は取るつもりです。怖い思いをさせて死なせてしまったのは私です。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。 検察側は冒頭陳述で「強姦の発覚を防ぐため、殺害する動機があった。少なくとも3分程度、被害者の首を圧迫し続けた」として殺意があったと主張した。一方、弁護側は「被害者が声を上げて逃げようとしたため口をふさごうとしたが、腕で首を押さえてしまった」と反論。殺意を否定し、強姦と傷害致死罪の適用を求めた。 8日の公判で被害者の父親が証人として出廷。「私たち家族が一丸となって望むのは(市橋被告に)日本で許される最高刑をもって償わせることだけだ」と述べ、市橋被告に死刑を求めた。11日の公判でも被害者の両親は死刑の適用を求めた。 12日の論告で検察側は「3分以上圧迫しないと窒息死には至らず、殺害は意図的だった」と殺意があったことを強調し、動機を「極度に逮捕を恐れていた」と指摘。犯行後の逃亡は「自分のことだけを考えて逃げた」と非難した。そして「身勝手な動機で何の落ち度もない被害者をじゅうりん、強姦、殺害、遺体を遺棄した刑事責任は極めて重大」と指摘する一方、「被害者が1人であることなどを考えると、死刑を求めるのはちゅうちょせざるを得ない」として無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、首を圧迫した時間は1分程度で、死に至る時間には個人差があると主張。「強姦後にすぐ殺害することは可能だったが、殺意がなかったからしなかった」と改めて殺意を否定した。そのうえで2007年3月25日から翌26日夕方頃までと殺害時期に幅がある点について、「公判で1日半の出来事を明らかにしなかった。死に至る経緯を解明できていない」と指摘。発覚を防ぐために殺害したという動機も、「女性の同居人が市橋被告の氏名、住所などを知っており、女性が行方不明になったら、疑われる対象。発覚を防ぐために殺害したとは考えられない」と否定し、最高刑が無期懲役に達しない強姦罪と傷害致死罪の適用を求めた。 市橋被告は最終陳述で「遺族がこの先どんな気持ちで苦しんで生活していくかや、リンゼイさんが怖い思いで亡くなったことを、苦しんで考え続けながら残りの人生を終わらせることが償い」と述べ、法壇に頭を下げた。 堀田真哉裁判長は殺害までの経緯について、被告が自宅で女性を強姦した後、両手足を拘束し長時間留め置いたと認定。「女性が大声を出し逃げようとしたため、被告が発覚を恐れ殺害した」とした。争点となった殺意の有無は、被告が女性の首を少なくとも3分間圧迫し続けており、明確な殺意があったと指摘。一方、暴行から殺害まで時間が経過しており、起訴内容の強姦致死罪でなく、強姦罪に当たると判断した。そして公判での被告の供述を「客観的証拠と矛盾し、不自然な供述を繰り返しており、罪と向き合おうとしていない」と指弾。「悪質で動機は身勝手極まりない。整形手術を受けてまで逃げ通そうとしたのは真相解明を妨げ、遺族の精神的苦痛を強めた」と批判した。そして「2年7カ月以上にわたり逃亡を続けた。動機は身勝手で、真摯な反省もない」とした。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2012年4月11日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | 山本敬一(27) |
逮 捕 | 2007年10月25日(別件の詐欺罪で9月15日に逮捕、起訴済) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
愛媛県東温市の派遣社員山本敬一被告は2007年9月3日午後、東温市の無職女性(当時87)方で、刃物のようなもので女性の首などを多数回刺して失血死させ、女性の財布と現金約6500円を奪った。 女性は数年前まで孫らと同居し、孫と中学時代の同級生だった山本被告も宿泊することがあった。また約3年前には数ヶ月居座って寝泊まりし、松山南署員に連れ出してもらっていた。 山本被告は他に、2004年8月中旬頃、東温市内の知人方で応対した母親に「息子に7万円貸しているから返してくれ」といって、実際は貸し付けていないのに7万円をだまし取った容疑にも問われた。 山本被告は詐欺罪で9月15日、松山南署に逮捕され、10月6日に松山地裁に起訴された。詐欺罪については本当に課していたと否認している。その後10月25日に山本被告は強盗殺人罪で逮捕された。山本被告の担当弁護士は、「9月に詐欺容疑で逮捕された後、衣服や靴など詐欺と無関係のものの押収やDNA採取、殺人事件に関する取り調べが行われた。不当な捜査だ」と主張している。 しかし松山地検は拘置期限の11月16日、「必要な捜査を終えることができなかった」として処分保留とした。詐欺罪で同被告を引き続き拘置し、捜査を続けた。 11月22日の松山地裁初公判で、山本被告は詐欺の容疑について「貸していた金を返してもらっただけ。(起訴状は)間違いだらけです」と起訴事実を否認した。弁護側は「拘留期間が、東温殺人事件の捜査に利用されているのは明らか」として、近日中に拘留取り消し請求を行うことを明らかにした。 2008年1月11日、松山地検は強盗殺人罪で山本被告を起訴した。起訴に当たり長谷透次席検事は「犯罪事実を十分立証できる補充捜査を遂げた」と述べた。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 桜井龍子裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年7月19日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 一・二審で被告側は無罪を訴えていた。詐欺罪が無罪となったため、検察側も控訴していた。 |
備 考 | 2009年7月3日、松山地裁で一審無期懲役判決。2010年4月15日、高松高裁で検察・被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 平川隆則(42) |
逮 捕 | 2010年7月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
千葉県市川市の無職平川隆則被告は離婚訴訟を起こした妻と、代理人である横浜市の弁護士男性(当時42)に怒りを募らせ、2010年6月2日午後2時40分ごろ、スタンガンやガソリンなどを持って横浜市の法律事務所を訪問。男性の胸などをアウトドアナイフで数回刺し、殺害した。 平川被告はその後逃走。現場の事務所内にあった離婚訴訟の資料から、平川被告が浮上。神奈川県警は事件後に平川被告と連絡を取ろうとしたが行方が分からなくなっており、平川被告の車から男性の血痕が付着した衣類が発見されたことから、捜査本部で平川被告を指名手配。6月28日に、平川被告の防犯カメラの画像などを公開すると、7月1日夜、加賀町署に出頭した。 |
裁判所 | 東京高裁 小倉正三裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年7月25日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 小倉正三裁判長は、「スタンガンや鋭利な刃物を所持していた状況や、殺傷能力の高いアウトドアナイフで、胸などを力を込めて突き刺しており、殺意があったと認められる」と、殺意を認定した一審判決に事実誤認はない判断。さらに「裁判制度を無視し、職務を誠実に行っていた弁護士を殺害した事件は、裁判に携わる関係者に大きな衝撃を与えた。被告の責任は重大で、無期懲役も重すぎて不当とはいえない」と述べた。 |
備 考 |
一審判決を受け横浜弁護士会の水地啓子会長は「いかなる弁護士業務妨害にも屈しない」とする談話を発表した。 2011年2月28日、横浜地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2011年11月21日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 山崎義久(52) |
逮 捕 | 2010年10月17日(窃盗容疑。10月28日、強盗殺人、死体遺棄容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗、建造物侵入他 |
事件概要 |
茨木市の派遣職員山崎義久被告は、2010年9月19日深夜、吹田市に住む知人男性(当時84)の自宅を訪れ、男性がうとうとしたところを刃物で殺害した。キャッシュカードなどを盗み、20日以降4日間で銀行口座から10数回、現金計約340万円を引き出した。山崎被告は9月中旬、派遣会社から10月末に解雇を通知されていた。 山崎被告と被害者は8月の京都日帰りツアーで知り合い、共通の趣味であるカメラを通じて近づいた。 死体遺棄容疑については、のちに不起訴となっている。 他に山崎被告は8月18日、茨城市内の飲食店に侵入し、約5万円を盗んだ。8月30日には電器店で約6万円とクレジットカードなどを盗んだ。 |
裁判所 | 大阪地裁 斎藤正人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年7月27日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 初公判で山崎被告は起訴内容を認めている。 7月22日の論告で検察側は、「親のように慕っていた知人を金目当てで殺害に至る動機は利己的かつ身勝手で酌量の余地はない」と指摘した。 判決で斎藤裁判長は「勤務先から解雇を通知されるとともに、妻には離婚を迫られ、離婚後の生活費も要求されていた」と犯行に至る背景を指摘。舞妓の写真撮影会で知り合った男性の自宅で話すうち、かなりの預金があることを偶然知り、「安易かつ短絡的に殺害し、金品を奪った」と述べた。さらに奪ったカードで約340万円を引き出したり、証拠隠滅を図ったりした点を重視。「利欲目的で他人の生命すら犠牲にするという極めて身勝手な犯行。高齢で体力的に劣る被害者を殺害しており、冷酷で残忍。被告のために酌むべき事情など、まったく見いだせない。遺族の処罰感情も強く、刑事責任は極めて重大だ。生涯をもって罪を償わせるのが相当」と指弾した。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 瀬山一好(67) |
逮 捕 | 2010年9月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、窃盗他 |
事件概要 |
千葉市中央区の無職瀬山一好被告は2010年9月22日午後4時半ごろ、近所のアパートに住む一人暮らしの女性(当時63)の首を手やアンテナコードで絞めて窒息死させた上、現金12000円やキャッシュカードなどが入った財布を奪った。瀬山被告と女性は、以前から近所付き合いがあった。 瀬山被告は、事件発生直後から捜査線上に浮上。26日午前8時すぎに県警が任意同行を求め、その日のうちに容疑を認めたため、逮捕された。 10月17日、千葉地検は殺人と窃盗などの罪で千葉地裁に起訴した。物取りが殺害動機ではなく、強盗殺人罪にはあたらないとしている。 |
裁判所 | 千葉地裁 小坂敏幸裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2011年8月3日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2011年7月28日の初公判で、瀬山被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、「女性に交際中の女性との関係について揶揄され、脅して謝らせようとした」と指摘。被告が突き付けた包丁に女性が騒いだため「2~3分間にわたり手で首を絞め付けた」と主張した。殺害後は遺体発見を遅らせるため、浴槽に遺体を沈めたり、物取りの犯行を装うため、室内を物色した上、財布を盗んだと指摘した。さらに検察側は瀬山被告が強盗殺人事件で1972年に無期懲役判決を受け、事件当時は仮釈放中だったことを明らかにし、「犯罪傾向は根深く矯正は困難」と指弾した。弁護側は「犯行を後悔し反省している」と訴え、慎重な量刑判断を求めた。 7月29日の論告で検察側は、「用意周到とは言えず、事実を認めている点からも死刑は躊躇せざるを得ない」と極刑を回避したが、「動機は自己中心的で態様も冷酷悪質」などと述べた。遺族の代理人弁護士は「40年前に瀬山被告に殺害された方の遺族もこの法廷で傍聴し、今も憎しみを抱えて生きている。量刑相場ではなく、裁判員のみなさんの常識、正義に基づいて判断してほしい。死刑をもって臨むほかない」と意見を述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、計画性のなさや反省態度、更生可能性などを強調し、「謝罪文を作成し、冥福を祈る行動を示している。寛大な判断を求める」と死刑回避を訴えた。瀬山被告は最終陳述で「猛省しており、どんな処罰でも受け入れる」と述べた。 判決で小坂裁判長は、「犯行は執拗で冷酷。仮釈放取り消しを恐れ、被害者を殺害した動機も短絡的で身勝手。仮釈放中に生命を奪った重大犯罪は殺人類型の中でもかなり重い」と断じたが、「計画的犯行とまでは言えず、仮釈放から15年余りは警察ざたにならなかったことなどから、死刑はちゅうちょせざるを得ない」として死刑を回避した。 |
備 考 | 瀬山被告は強盗殺人罪で1972年に無期懲役判決を受け、1985年に出所。その後再収監され、1995年6月に2度目の仮出所。事件当時は無期保護観察中だった。控訴せず確定と思われる。 |
氏 名 | 辻富美恵(52) |
逮 捕 | 2007年1月19日(詐欺罪で服役中) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、現住建造物等放火、詐欺、詐欺未遂 |
事件概要 |
無職辻富美恵被告は2005年12月28日午後9時過ぎ、福山市にある雑居ビル1Fの喫茶店に経営者である夫を呼び出し、睡眠薬を飲ませて眠らせたうえ、石油ストーブの周りに油をまいて火をつけ、約110平方メートルのうち約70平方メートルを焼き、夫を焼死させた。夫にかけられた生命保険金約1億5000万円と火災保険金約2000万円を詐取しようとした。火災後間もない2006年1月上旬、会社勤めもしていた夫を事故死として、社会保険庁福山社会保険事務所に遺族厚生年金の受給を申請。3~12月の6回にわたり、遺族厚生年金計約105万円をだまし取った。 辻富美恵被告は2005年3月頃、知人の紹介で夫と出会い、偽名を名乗っていた。妊娠したとうそを付いて結婚を迫り、事件の9日前に婚姻届を提出するとともに辻被告を受取人とする複数の生命保険金に加入させた。これらの保険金は、保険会社が疑念を抱き支払われていない。辻被告は金融会社などに約1500万円の借金があった。 また辻被告は1999年7月1日、福山市で借りていた木造平屋建て住宅に、実際は住んでいないのに住んでいるように装って家裁共済金をかけ、2000年7月22日に住宅が全焼した火災を利用して共済金の支払いを請求。住んでいたように見せかけるため、電気料金やプロパンガスの領収書を偽造し、自分名義の銀行口座に計480万円を振り込ませた。 辻被告は知人男性とともに、2006年4月に県が事業者に運用資金などを融資する制度を悪用し、福山市内の銀行から約825万円を詐取したとして詐欺容疑で逮捕、起訴されるなどして懲役刑が確定、服役していた。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 須藤正彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役+懲役1年6月 |
判 決 | 2011年8月24日 無期懲役+懲役1年2月(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 |
殺人罪と遺族年金の詐欺罪において、別々に判決を受けている。 辻被告は一・二審で無罪を主張している。 |