無期懲役判決リスト 2019年




 2019年に地裁、高裁、最高裁で無期懲役の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は死刑判決との差を見るためです。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントなどでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。



地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
18(3)
11(2)
10(3)

 司法統計年報によると、一審18件、控訴審11件(棄却10件、破棄自判1件。上告9件)、上告審10件(うち判決1件)。
 検察統計年報によると、一審確定3件、控訴棄却確定2件、上告棄却確定11件。



【2019年の無期懲役判決】

氏 名
池田徳信(31)
逮 捕
 2016年7月9日(死体遺棄容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、死体損壊、住居侵入
事件概要
 東京都世田谷区の無職、池田徳信(やすのぶ)被告は2016年6月20日ごろ、世田谷区のマンションの2階の部屋に忍び込もうとベランダから上ったが、鍵が閉まっていたため、一つ上の3階に住む無職の女性(当時88)の部屋の窓の鍵が開いていたため、侵入。寝ていた女性が驚いて大声を出したため、首を絞めるなどして殺害し、現金約35万円を奪った(ただし現金を奪ったことは裁判で認められなかった)。さらに、室内にあった包丁で女性の遺体を浴室で切断。一度帰宅した後、翌21日に忍び込み、遺体を持出し区立碑文谷公園内の池に遺棄した。
 池田被告は当時、女性のマンションから約500メートルのマンションに母親と二人暮らしだった。
 6月23日午前10時半ごろ、公園の清掃作業員の男性が切断された一部が池に浮いているのを見つけた。その後の捜索で首や腰、両手足などが見つかった。捜査本部は7月3日に池の水を抜いて約50人態勢で大規模な捜索をした。
 池田被告が女性のマンションに出入りする姿や、公園近くにいる姿が防犯カメラに映っていたことや、池田被告の足跡などが見つかったことから、警視庁碑文谷署捜査本部は9日、池田被告を死体遺棄容疑で逮捕した。8月2日、強盗殺人容疑で再逮捕した。遺体は8月17日、すべての部位が見つかった。
裁判所
 最高裁第二小法廷 山本庸幸裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年1月8日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 目黒区は事件後、警察捜査と園内の整備に伴い、一部を除き区立碑文谷公園を閉鎖していた。2016年9月15日、公園の利用を10月3日に再開すると発表した。園内の防犯対策に向けた整備が終了したためで、同日再開式も行う。また、池のボートは10月8日に再開した。
 2017年9月29日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年4月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
ランパノ・ジェリコ・モリ(37)
逮 捕
 2017年9月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦致死
事件概要
 フィリピン国籍のランパノ・ジェリコ・モリ被告はフィリピン国籍の少年2人(事件当時19、18)と共謀。2004年1月31日午前0時から6時半ごろまでの間、茨城県阿見町の路上で、散歩で通りがかった茨城大農学部2年の女子学生(当時21)の腕をつかんで車に連れ込み、美浦村舟子の清明川に向かう車内で暴行を加え、手などで首を絞めた。さらに、清明川の河口付近で首を刃物で複数回切るなどして殺害した。
 ランパノ被告は母親らと2000年に入国。事件当時、ランパノ被告は土浦市内に住み、美浦村内の電器部品加工会社に勤務していた。女子学生と面識はなかった。
 遺体は31日の午前9時半ごろ、発見された。
 ランパノ被告や共犯の2人は2007年にフィリピンに出国するも、ランパノ被告は再び日本に入国。2010年からは岐阜県瑞浪市に母親や妻、子供らと住み、工場に勤めていた。
 茨城県警は交友関係を中心に調べるもトラブルは無く、犯人につながる手掛かりが乏しく捜査が長期化。県警は殺人罪などの公訴時効が2010年に撤廃されたことを受けて、未解決事件に専従する捜査班を翌年に設置した。新たな情報提供を呼びかけるなどした結果、2015年に情報が寄せられ、ランパノ被告が捜査線上に浮上。捜査を続けた結果、ランパノ被告が友人らに対し、事件への関与をほのめかしていたことが判明。遺体に付着した微物のDNA型がランパノ被告のものと一致した。茨城県警は2017年9月2日、岐阜県瑞穂市で工員として働いていたランパノ・ジェリコ・モリ被告を強姦致死と殺人の疑いで逮捕した。また県警は同日、ランパノ被告の妹と日本人の夫について偽装結婚したとして電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕、さらに夫と同居するタイ国籍の飲食手順従業員の女性を入管難民法違反(不法在留)容疑で逮捕している。
 9月5日、茨城県警はフィリピン国内にいると思われる共犯2人の逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配した(なお1人についてはフィリピンで日本の取材に応じている)。ただし日本とフィリピンとの間には事件捜査の協力を要請できる「刑事共助協定」がなく、容疑者の身柄引き渡しに関する条約もないため、フィリピン政府に引き渡しを求めることができない。
裁判所
 東京高裁 栃木力裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年1月16日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2018年12月12日の控訴審初公判で、弁護側は、一審判決が重すぎると主張。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。被告人質問でモリ被告は「被害者に申し訳ない。罪を償い、社会に出られたらきちんと生活したい」と述べた。
 判決で栃木裁判長は、モリ被告は、女性に乱暴し口封じのため殺害することを、事前に他2人と話し合って事件を起こしたと指摘。通りすがりの被害者を暴行し、発覚を防ぐため殺害したと認定し、「被害者の人格を踏みにじる卑劣な犯行で、殺害態様も残虐。被告が反省していることを踏まえても、無期懲役が相当だ」とした一審判決は適切と判断した。
備 考
 2018年7月に改正刑法が施行され、強姦罪は「強制性交罪」に変わり、法定刑が引き上げられた。ただ今回の事件は2004年に発生しており、改正前の刑法が適用された。
 2018年7月25日、水戸地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定。

 共犯の元少年(当時18)は県警が国内外の関係者に働きかけ、出頭するよう促すと、元少年側から出頭の意思があると伝えてきた。県警は捜査員をフィリピンに派遣し、捜査員がマニラ空港から飛行機に同乗。2019年1月24日、成田空港に到着した元少年が再入国したところで殺人と強姦致死容疑で逮捕した。2021年2月3日、水戸地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。控訴せず確定。
 共犯の元少年(当時19)はフィリピンに帰国し、国際手配中。

氏 名
少年(19)
逮 捕
 2018年3月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 千葉県茂原市の土木作業員の少年A被告(事件当時18)は、同市内のアパートで同居する無職少年B(当時18)、無職少年C(当時17)と共謀。2018年2月26日午前1時15分ごろ、同市に住む女性(当時85)宅に侵入。寝室で女性を床に押し倒して殴ったり首を絞めるなどして現金約12,000円を盗み、包丁で首を3回刺して殺害した。
 女性は長女と同居していたが入院したため1人で生活。近くに住む長男夫婦が頻繁に訪れていた。
 26日午前8時55分ごろ、長男の妻が倒れている女性をみつけ、119番通報。3月2日、捜査本部は少年3人を強盗殺人と住居侵入の疑いで逮捕した。
 千葉地検は3月19日、少年A被告と少年Cを千葉家裁に送致した。同家裁は同日、2週間の観護措置を決定した。23日、少年Bを千葉家裁に送致した。家裁は同日、2週間の観護措置を決めた。4月3日までに千葉家裁は少年A被告に対し、2週間の観護措置延長を決定した。千葉地検は同日、少年Bと少年Cを別の窃盗事件で再逮捕した。千葉家裁は4月13日、少年A被告を検察官送致(逆送)とする決定をした。千葉地検は20日、強盗殺人罪などで少年A被告を起訴した。
 県警捜査3課は6月7日、茂原市を中心に2017年12月~2018年3月に相次いだ窃盗事件約50件に関与したとして、少年B、少年Cを含む同市などの17~19歳の少年5人を窃盗などの容疑で逮捕・送検したと発表した。そのうち少年Bと少年Cは事件前日の2月25日未明から早朝にかけて、盗み目的で女性方に侵入し金品を物色していた。千葉家裁は6月29日、少年Bと少年Cを検察官送致(逆送)とする決定を出した。千葉地検は7月6日、少年Bと少年Cを強盗殺人や住居侵入などの罪で起訴した。
裁判所
 千葉地裁 川田宏一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年1月24日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年1月15日の初公判で、少年は強盗目的で殺害したことを認めた。一方で「お金を取ったことは分からない」と述べた。
 冒頭陳述で検察側は、同市内のアパートで同居していた共謀の2人に強盗に誘われ、指紋を残さないようにゴム手袋をして女性宅に侵入し、目を覚ました女性をあばら骨が折れるほどの力で床に押さえ付けたと指摘。他の2人が室内を物色し現金を強取したが大金は見つからず、女性が「金は腹の中にある」「殺すなら殺せ」と言ったため、被告少年がナイフを持ってくるように指示し首を3回刺したと述べた。犯行後、少年Cから現金1万円を受け取り、事件時に履いていたスニーカーを用水路に捨てたこと、強盗を「たたき」と呼んでいたことを明らかにし「殺害を実行して主要な役割をしている。事前に役割分担し計画的で悪質」と批判した。弁護側は「現金を盗んだという事実まで認められるかは疑問。現金を受け取ったことは事実だが、事件の時に取ったものなのか」と述べ、現金強取の有無について争うとした。
 検察側は「孫をかわいがり、よくお小遣いをあげていた。なぜ母を殺したのか。厳重に処罰してほしい」とする女性の長男の調書を読み上げた。
 同日、少年らと同居していた男性が証人として出廷。事件当時の状況を話し、少年B、Cがふざけた様子で少年を「殺人鬼」と呼び、少年は「うるせーよ」と答えたと証言。2人は「1万2、3千円取った」「1万円で殺人は安いよな」などと話したという。また、男性は少年B、少年Cらと事件前日に金品を盗む目的で被害者宅に侵入し、共謀少年が被害者の通帳を見つけ、多額の預金があることを確認。現金が見つからなかったことから、共謀少年らが強盗を意味する「“たたき”をしないか」と話していたとした。
 16日の第2回公判で少年Cは、犯行後の帰宅途中に1万円札を被告少年に手渡したとし「想定外の殺人を目にして、持っていたくなかったのであげる意味だった」と証言。1万円札については「(少年Bが住宅の)どこかから手に入れて渡してきたと思った」と、犯行現場の住宅寝室で少年Bから受け取った紙幣だったと明らかにした。証人尋問で少年Cは、少年Bが強盗を持ち掛けたとし、当初ためらっていた被告少年に対し「できねぇのかよ」と挑発するように話していたとした。また、被告少年が被害者を押さえ付けたのを確認してから、室内の物色を始めたと述べた。少年Bは公判を控えるため「黙秘する」と証言を拒否した。
 17日の第3回公判の被告人質問で少年は、当初は被害者の首を絞めて気絶させ、その間に金を盗んで逃げるつもりだったが、金が見つからず、気絶した被害者が目を覚まし「金は腹の中にある」「殺すなら殺せ」と話したため、「頭が真っ白になり、どうにでもなれと思った」という。取りに行かせた包丁で首を1回刺した後、共謀した少年Bから「とどめを刺せよ」と言われ、さらに2回刺したとした。強盗を行った理由を、少年Bから「そんなこと(強盗)もできないのかよ」と挑発され、「ばかにされたくない思いから誘いに応じてしまった」と説明。報酬とされる1万円札について、共謀の少年Cが犯行後の帰宅途中に手渡したと証言したのに対し「(自宅アパートの)リビングで受け取った」と述べた。また、被害者と遺族へ「人生を奪ってしまい申し訳ない。取り返しのつかないことをしてしまった。心から反省しています」と謝罪の言葉を口にし、「更生することが自分ができる償いだと思います」と続けた。
 18日の論告で検察側は、強盗に入ったのに金のありかが分からず、思い通りにならないことに怒り、被害者を殺害した」と指摘。「殺害など主要な役割を積極的に行った。当時18歳だったが成人と変わりない。犯行は同種の強盗殺人事件の中でも重い部類で、酌量減刑には当たらない」と主張した。
 同日の最終弁論で弁護側は、現金の強取に疑いが残るとした上で「まだ未熟。少年には更生する可能性がある。無期懲役は重過ぎる」として、少年法に基づき懲役10~15年の不定期刑が妥当とした。
 最終陳述で少年は「心から反省しています」と謝罪した。
 判決で川田裁判長は、被告は当初は強盗の誘いを断っていたが、自ら手袋を準備し率先して暴行し、凶器のナイフを持ってくるように指示して殺害したと認定。義娘が現金を管理していた女性の財布から1万円札がなくなり、財布に物色された跡があったことや、事件現場の寝室で共謀した少年が別の少年に1万円札を手渡したことから、現金強取を認定。そして「強盗には計画性があり、少年は率先して主体的に重要な役割を果たしていた。被害者が金の在りかを言わないことに憤慨し、殺害の動機も身勝手で、とどめを刺すために首を包丁で突き刺す行為は残忍で悪質」と指摘。少年の育った環境や性格が事件に及ぼした影響は限定的とし、「(事件当時)少年は18歳4カ月だったが、結果は重大で刑事責任は極めて重い」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2019年6月27日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。

氏 名
横山拓人(25)
逮 捕
 2018年5月31日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂
事件概要
 静岡県御殿場市のクレーンオペレーター、横山拓人被告は、神奈川県厚木市の無職武井北斗被告、甲府市の土木作業員W被告、山梨県甲斐市の建設作業員N被告と共謀。山梨県昭和町の貴金属買取店の金品を奪おうと計画した。
 2016年11月26日午後9時ごろ、甲州市に住む貴金属買取店店長の男性(当時36)宅に武井被告、横山被告、W被告が2階の窓や玄関から侵入して待ち伏せ。N被告が会社から帰宅する男性を尾行。帰宅した男性の頭や胸などを棒状の物で強打して殺害し、店の鍵1束と乗用車1台(約503,000円相当)などを奪った。27日未明、長野県南佐久郡南牧村の畑で男性の遺体を畑の所有者の重機を使い、遺体を埋めた。さらに4被告は27日午前3時ごろ、男性が店長を務めていた昭和町の貴金属買取店に侵入。商品の貴金属を奪おうとしたが、警備システムが働いて警備員が駆け付けたため、何も取らずに逃走した。
 同日午前、男性の遺体が畑で見つかり、畑から約2km離れた村道脇では、男性が仕事で使っていた車が全焼した状態で見つかった。
 甲府市の会社役員を強盗目的で襲い死亡させた罪で2018年2月に逮捕された武井北斗被告の足跡と、遺体の遺棄現場に残された足跡が似ていることが判明。さらに防犯カメラの映像や携帯電話の通信履歴から武井被告らが現場にいたことがわかった。2018年1月に東京都武蔵野市で別の強盗傷害事件を起こして武井被告とともに起訴されたW被告が、山梨、長野両県警の任意の事情聴取に対し、武井被告とともに男性の遺体を遺棄したことを認めた。
 山梨、長野県警の合同捜査班は2018年5月31日、横山被告とN被告を逮捕した。6月1日、武井被告を逮捕した。6日、W被告を逮捕した。さらに数日前に貴金属買取店などを下見していたとして強盗予備容疑で28日までにK被告(別事件の強盗致死他で起訴済み)を再逮捕した。

 他に武井被告、K被告、横山被告、N被告は2016年11月20日午後11時半ごろ、甲府市内のガソリンスタンドの事務所に侵入し、売上金など現金13万8千円が入った耐火金庫1台(1,000円相当)を盗んだ。同21日午前1時55分ごろ、同市内の車両整備会社の事務所に侵入し、金庫をこじ開けようとして失敗した。
裁判所
 甲府地裁 丸山哲巳裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年1月28日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年1月15日の初公判で、横山拓人被告は事件への関与は認める一方、「殺害するつもりはなく、被害者を殴るなど暴行をしていない」と、起訴内容の一部を否認した。
 冒頭陳述で検察側は、横山被告が武井北斗被告とW被告とともに男性に暴行したと指摘。横山被告が体当たりしたり、土木用のハンマーで殴ったりするなど、暴行に関わっていると指摘した。弁護側は、横山被告が男性と面識があると勘違いし、自宅での暴行には加わらず、外で見張りをしていたと主張した。殺意も無く、強盗致死にとどまると訴えた。
 この日出廷した証人は、武井被告から聞いた話として、貴金属買い取り店を狙った理由を証言。「武井被告が『昔、盗品を売りに行ったら通報されて検挙された恨みがある』と話していた」と述べた。  16日の第2回公判でW被告が出廷。男性への暴行は、武井被告、W被告、横山被告の3人で行ったと説明した。W被告は「横山被告が体当たりし、土木用のハンマーで胸を殴っているのを見た」と証言。検察側から「横山被告は外で見張りはしていないのか」と問われると「一切していない」と述べた。
 17日の第3回公判で武井被告が出廷。しかし弁護側から横山被告との関係を問われても「自分の裁判が終わっていないので何も話すつもりはない」と述べた。その後は「全然気分が乗らない。話すことは特にない」などと具体的な証言を拒み、5分足らずで終了した。
 同日の被告人質問で、横山被告は自身の役割について「見張りならやると引き受けた」と話し、男性への暴行を改めて否認した。W被告の証言に大しては「(計画に)誘い込んでしまったから恨まれていたかもしれない」と語った。
 22日の論告で検察側は、W被告が「横山被告を含む3人で侵入して暴行した」と証言したことを挙げ、「(W被告は)自ら出頭し証言していて、信用できる」と説明。ハンマーで執拗に胸を殴るなど暴行を加えているとし、「強い殺意が認められる」と指摘した。また横山被告が武井被告に金銭の相談を持ち掛けたことが犯行のきっかけで主導的な立場にあったと指摘し、「目的は金品であり、身勝手で悪質。ハンマーで胸を殴ったりするなど、凶悪かつ危険な暴行を加え、強い殺意が認められる。反省の情も口先だけで皆無だ」と指弾した。
 弁護側は最終弁論で、武井被告との共謀を否定。横山被告が暴行したことを示す直接的な証拠はないとし、W被告の証言も「現場の状況と矛盾し、信用できない」と指摘。被告は見張り役だったとして暴行への関与や殺意を否認し、強盗致死罪が相当だとした。
 判決で丸山哲巳裁判長は、、横山被告が武井被告とW被告とともに、男性に暴行を加えたと認定。「3人で暴行した」としたW被告の証言を「客観的事情と整合し、大筋で信用性が認められる」と判断した。一方、横山被告が「外で見張りをしていた」と主張していることについては「不自然、不合理で信用できない」と退けた。「ハンマー様の凶器で胸部を多数回殴打した」とし、殺意と強盗殺人の共謀についても認定した。そして「横山被告が金を欲して計画されたもので、武井被告とともに事件を主導し、主犯の一人」と指摘。証拠隠滅や共犯者への口止めにも触れた上で、「謝罪や反省が真摯なものとは言えない。刑事責任は極めて重く、酌量減刑する余地はない」と指弾した。
備 考
 強盗殺人などに問われたW被告は2018年11月30日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役30年(求刑同)判決。量刑については、共犯者の指示を受けて犯行に及び、警察に出頭して捜査に協力したとして酌量の余地があるとした。2019年5月9日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。
 強盗致死などに問われたN被告は2018年12月14日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。被告側控訴中。
 別の事件で強盗致死などに問われたK被告は2019年2月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役28年(求刑懲役30年)判決。控訴せず、確定。
 主犯とされる武井北斗被告はまだ公判が開かれていない。

 被告側は控訴した。2019年6月20日、東京高裁で被告側控訴棄却。2019年9月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
桜井聖哉(23)
逮 捕
 2017年12月19日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、強盗致傷他
事件概要
 さいたま市の無職桜井聖哉被告と建設作業員S被告は以下の事件を起こした。
  1. 2017年12月6日午前0時40分ごろ、さいたま市中央区新都心の路上で、歩いて帰宅途中の男性(当時61)の後方からバットで頭部を数回殴って金品を奪おうとし、外傷性くも膜下出血などで全治2カ月の重傷を負わせた。
  2. 6日午前1時半ごろ、さいたま市大宮区の歩道上で、通行中の無職男性(当時72)の頭部を背後からバットで殴り、ハンカチなどが入ったバッグを奪った。男性は4週間の重傷を負った。
  3. 6日午前3時45分ごろ、新座市の歩道で通行人の自営業男性(当時58)の頭部を金属バットで殴ってけがを負わせ、現金約3万円などが入ったバッグ1個を奪った。
  4. 6日4時30分ごろ、志木市の路上で通行中の会社員男性(当時63)の頭部を金属バットで殴って印鑑などの入ったリュックサック1個(約15,000円相当)を奪った。男性は14日に死亡した。
  5. 9日午後11時10分ごろ、さいたま市桜区の路上で、徒歩で帰宅中の会社員男性(当時33)から金品を奪うため、金属バットで顔などを数回殴り、全身打撲などの重傷を負わせた。通りかかったタクシー運転手男性が見つけ、2人は走って逃亡した。
 ほかに桜井被告は2017年9月12日午前2時40分ごろ、さいたま市中央区の路上で、近くに住む男性会社役員(当時52)の顔を数回殴って現金約30万円などが入ったバッグを奪い、鼻を骨折させるなどの重傷を負わせた。

 2人は高校時代の同級生。S被告が乗用車を運転し、桜井被告が実行した。防犯カメラの映像や聞き込みなどから2人を特定した。
 県警捜査1課と浦和西署などは12月19日、1の事件における強盗致傷容疑で2人を逮捕。2018年1月11日、2の事件における強盗致傷容疑で再逮捕。2月2日、3と4の事件における強盗致死、強盗致傷容疑で2人を再逮捕。2月27日、5の強盗致傷容疑で2人を再逮捕。4月11日、9月の事件で桜井被告を再逮捕。
裁判所
 さいたま地裁 入江猛裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年2月5日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年1月16日の初公判で、桜井聖哉被告、S被告共に「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は「犯行態様が危険で結果も重大」と指摘。運転手役のS被告についても犯行を遂行する上で重要な役割とした。
 桜井被告の弁護側は「両被告は対等な関係で犯行に及んだ」と主張。S被告の弁護側は「信じやすい性格から桜井被告のうその話を信じ、事件の重大性を自覚できないままに犯行を重ねてしまった」とした。
 1月24日の論告で検察側は、「金品を奪う際、殴る部位を話し合って決めるなど、計画的で悪質な犯行。直接、強盗行為に関わってはいないが、検挙を免れるため、運転したS被告も主導的な役割で被害結果も重大」とし、「無差別的な連続強盗事件で、他に類を見ない最も悪質なもの」と指摘した。
 櫻井被告の弁護人は「無期懲役は重すぎる。行き当たりばったりの犯行で、計画性は高いものとはいえない」とし、懲役25年が妥当と主張した。また、S被告の弁護人は「櫻井被告にだまされて運転手に利用されただけ。強盗行為には直接、関わっていない」とし、懲役13年が適当とした。
 判決で入江裁判長は、「犯行を重ねる中で強い力で攻撃するなどエスカレートさせた面もあり、生命や身体を顧みない極めて危険な行為」と指摘。犯行後、速やかに合流することを考えて、携帯電話を通話状態にしていたことなどから一定の計画性を認め、「手っ取り早く金品を得るために短期間で連続的に犯行を繰り返したことから、強い犯意が認められる。被害結果も重大で、被害者の肉体的、精神的苦痛は計り知れない」とした。そして桜井被告には犯行の発案から実行行為までを担った実行犯としての役割を認め、「奪った金品など実質的な利得を独占し、その責任は格段に重い」と述べた。S被告については、車を調達して逃走を可能にしたことや連絡手段を確保したことなどから、「桜井被告が犯行を決意し実行することを心理的に後押し、分け前目当てに関与し続けた」と指摘。一方で、桜井被告の果たした役割に比べると従属的な面が否定できないことや被害弁償を行っている点などを考慮して、懲役16年が相当とした。
備 考
 S被告は懲役16年判決(求刑懲役18年)を受けた。
 ともに控訴せず、確定。

氏 名
西田市也(22)
逮 捕
 2018年8月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、電子計算機使用詐欺
事件概要
 岐阜県大垣市の土木作業員、西田市也被告は、滋賀県愛荘町のアルバイトの少年(当時18)と共謀。2017年6月18日、滋賀県多賀町周辺で名古屋市のパート従業員の女性(当時53)を車のトランクに入れて現金約5万円やスマートフォン、タブレット端末などを奪った上、USBケーブルで首を絞めるなどして殺害。遺体をキャリーバッグに入れて隠し、20日にはバッグごと同町内の山林に埋めた。さらに7月3日と5日、女性のパスワードなどを使って、女性のインターネット上の専用口座からビットコイン約35万円分を自身の口座に移した。
 西田被告はビットコインに関するセミナーに参加し、セミナーに関わっていた女性と知り合った。女性が参加していた事業は会員を増やすほど自分のランクが上がり、報酬も増える仕組みだったため、女性は西田被告を会員になるよう勧誘していた。西田被告が女性を滋賀県大垣市まで誘い出していた。西田被告と少年は幼馴染だった。
 愛知県警は防犯カメラの映像などから西田被告を捜査。7月30日から任意で事情を聴くとともに、西田被告の自宅や車両を捜索し、自宅からは女性のスマートフォンやかばんが見つかった。31日、西田被告の供述から多賀町の山林を捜索して土中から女性の遺体を発見。8月1日、県警は西田被告と少年を死体遺棄容疑で逮捕した。8月20日、愛知、滋賀県警は強盗殺人容疑で2被告を再逮捕した。11月10日、電子計算機使用詐欺容疑で西田被告を再逮捕した。
裁判所
 名古屋地裁 斎藤千恵裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年2月6日 無期懲役
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裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年1月23日の初公判で、西田市也被告は起訴内容について「この場では無罪を主張します」と述べた。
 検察側は冒頭陳述で、西田被告が滋賀県内の河川敷で、共謀したとされる元アルバイトの少年に「びびるな、やれ」と指示し、少年が両手で女性の首を絞めている間に、西田被告が顔にクラフトテープを何重にも巻き、USBケーブルを使って2人で首を絞めたと主張した。また、奪ったノートなどから、野田さんのビットコインについてインターネット上の専用口座のパスワードなどを割り出し、自身の口座に移して換金したと指摘した。
 弁護側は西田被告が当時、解離性障害を発症して心神喪失状態だったと主張した。これに対し検察側は精神科への通院歴がなく、合理的な行動をしていることなどから完全責任能力があったと反論した。
 30日の公判における被告人質問で、強盗目的を認めつつ「恨みはなかった。初めて会った時に殺意が湧いた。服装や行動がむかついた」「ゲームの中の敵役を倒し、報酬が得られるような感じだった」と述べた。現在の心境について「遺族から女性を奪ってしまったという思いもあるが、エンドロールを迎えたような達成感もある」と話した。共犯の少年については「1人で殺人行為に及ぶのが心細かった」と述べる一方、「殺害しろという意味で犯行を命令したわけではない」と話した。
 31日の論告で検察側は、被告に精神障害は全くなく、事件を主導し、事前に遺体を入れるキャリーバッグを準備するなど犯行は計画性があり達成に向け合理的に行動していて完全責任能力があると主張。「落ち度がないにもかかわらず殺害された被害者の無念は計り知れない。公判での証言も責任逃れに終始している」と指弾した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「被告には解離性障害の疑いがあり、犯行を起こしたときは別の人格であり、責任能力はない」などと改めて無罪を主張した。
 西田被告は最終意見陳述で「友人などの法廷での証言は自分が事件を考え直す上で大きなものになる。判決を真摯に受け止めたい」と述べた。
 判決で斎藤裁判長は、「精神障害の入通院歴はなく、一貫して合理的な行動をしている。動機も異常性を疑わせるものではない」と退け、完全責任能力を認めた。共犯の少年が犯行をやめるよう呼び掛けたのに断念しなかったことを挙げ「犯意は強固で、人命軽視の態度ははなはだしい」と判断。その上で「利欲的で計画性の高い凶悪な犯行。被害者の苦痛や恐怖、絶望感は計り知れず、強い非難に値する。反省が深まっているとは言えず、遺族の処罰感情が厳しいのは当然」とした。
備 考
 共犯の少年は2018年11月22日、名古屋地裁(吉井隆平裁判長)で懲役18年判決(求刑懲役20年)が言い渡された。控訴せず確定。

 被告側は控訴した。2019年5月23日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2019年9月9日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
板橋雄太(34)
逮 捕
 2013年12月7日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、窃盗、傷害、覚醒剤取締法違反
事件概要
 柏市の無職、板橋雄太被告は共犯M・K被告、A・Y被告と共謀し2013年2月22日午前6時50分ごろ、柏市に住む会社員の男性(当時31)の自宅アパート前駐車場から乗用車を盗んだ。そして逃走を阻止しようと立ちふさがった男性を殺意を持ってボンネットに乗り上げさせた上、急加速後に減速して振り落とし、頭を強打させて6日後に死亡させた。そしてM・S被告とM・M被告は盗品と知りながら男性の車を袖ケ浦市内の中古車解体作業所(ヤード)に運搬した。
 現場周辺の防犯カメラに、男性の車ともう1台の車が逃げる様子が映っており、県警は自動車窃盗グループによる犯行とみて捜査。男性の車が袖ケ浦市にあるヤード(自動車解体場)に運ばれたことを突き止めたが、車は既に解体されていた。その後も千葉県や埼玉県で自動車盗が相次いだことから、捜査線上にこの自動車窃盗グループが浮上。県警は10月15日、埼玉県春日部市で9月に起きた別の自動車窃盗事件でA・Y被告を逮捕。A・Y被告は調べに対し、事件発生時に男性の車を運転していたのは板橋被告だったと説明。県警は、現場に残ったタイヤ痕などから板橋被告が約50mにわたり車の急発進と急ブレーキを繰り返し、ボンネットに乗り上げた男性さんを振り落としたとみて、強盗殺人容疑での逮捕に踏み切り12月7日、板橋被告、M・K被告、A・Y被告(二人は窃盗容疑)を逮捕した。板橋被告は事件後、松戸市から柏市に引っ越していた。同日、M・S被告を、12月8日、M・M被告を逮捕した。
 逮捕された5人のグループは計十数人で構成され、県内や周辺の都県で自動車盗を繰り返していた。
裁判所
 千葉地裁 坂田威一郎裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年2月26日 無期懲役
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裁判焦点
 2015年7月の千葉地裁での判決では、「被告が運転していたことが常識的に見て間違いないと認められるほどの証明はなされていない。被告が男性をはねた車を運転していたとするには合理的な疑いが残る」と強盗殺人罪について“無罪”との判断を示し、車を盗んだ窃盗罪を認定した。しかししかし2016年8月の東京高裁で、「運転者は被告と優に認められる」と判断。その上で「もう一度裁判員裁判で、殺意の有無を判断し、量刑を決めるべきだ」として審理を差し戻した。被告側は上告するも、2017年3月、上告が棄却され、差し戻しが確定した。

 2019年1月28日の初公判で、「私は犯人ではありません」と、盗んだ車を運転して男性を殺害したことを改めて否認した。  検察側は冒頭陳述で、現場にいた仲間2人の供述や、仲間の1人に身代わりになるよう証言協力を求める手紙を出していたとして「被告が運転していた」と指摘。はねられボンネットにしがみつく男性を振り落とそうと、急発進や急ブレーキを繰り返したことから、殺意があったとした。弁護側は、共謀して車を盗んだことを認めた上で、被告が運転していたとする仲間2人の供述は信用できず、現場での役割状況からはねた車の運転を否定。「誰が運転していたにせよ殺意の有無を争う」と、同罪について無罪を主張した。
 2月8日の論告で検察側は、正面に立ちふさがった男性をボンネットに跳ね上げ、急加速、急減速して振り落としており「死亡する危険性が高いのは明らかで、殺意があった」と指摘。現場にいた仲間2人の供述や、仲間の1人に身代わりになるよう証言協力を求める手紙を出していたことから、被告が車を運転していたとした。そして「反省の情は皆無」と断じた。
 同日の最終弁論で、弁護側は改めて殺人罪の無罪を主張した。
 判決で坂田威一郎裁判長は板橋被告が共犯者に宛てた手紙などに自分が犯人であることを前提とした内容が多く見られることや、人を殺したことを認めるような記載があると指摘。「車を運転していたのは被告だと強く推認される」と被告が殺害したと認定した上で、「自己の利益を優先し、生命軽視が甚だしい。極めて身勝手な態度は強い非難を免れない」と述べた。
備 考
 窃盗で逮捕されたM・K被告は懲役5年が確定、A・Y被告も懲役3年6月が確定している。盗品等運搬容疑で逮捕されたM・S被告、M・M被告は不明。

 2015年7月9日、千葉地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役6年判決。判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)。2016年8月10日、東京高裁で一審破棄、差し戻し判決。2017年3月8日、被告側上告棄却、差し戻しが確定。
 被告側は控訴した。2020年2月13日、東京高裁で被告側控訴棄却。2020年9月2日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
松井広志(44)
逮 捕
 2017年3月5日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、窃盗
事件概要
 名古屋市の無職松井広志被告は2017年3月1日、帰宅途中に、近所に住む夫婦の妻(当時80)から「仕事もしていないのに良いご身分ね」と声をかけられたことに腹を立て、午後8時ごろ、夫婦宅に侵入。夫(当時83)と妻(当時80)の首を包丁で刺すなどして殺害。その後、1,227円が入った財布を奪った。
 松井被告は生活保護を受けて暮らしていたがギャンブル好きで、近所のスナックや飲食店で支払いを巡ってトラブルが生じていた。事件当日は、支給された生活保護費の大半をパチンコで使い果たしていた。
 2日午前8時ごろ、近所に住む女性が夫婦宅を訪れ、発見。松井被告は4日午後6時45分頃、捜査本部のある県警南署に1人で出頭。供述に基づき県警が松井被告のアパートを捜索したところ、財布などが見つかったため、翌5日午前0時20分ごろに緊急逮捕した。
裁判所
 名古屋地裁 吉井隆平裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年3月8日 無期懲役
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裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年2月5日の初公判で松井広志被告は、起訴内容について聞かれると、「弁護人に任せます」と話した。
 冒頭陳述で検察側は、松井被告は預貯金が425円しかなく、借金や飲食店のツケの支払いに困窮し、自宅アパートの大家や知人への借金返済のため、金があると思っていた顔見知りの夫婦を襲うことを計画、2人が殺害された結果は重大と述べた。
 弁護側は、松井被告は事件当日に妻から嫌みを言われたことに腹を立て、殺害目的で犯行に及んだとし、財布を持ち出そうと考えたのは殺害後だったとして殺人罪と窃盗罪を適用すべきと主張。事件当時は軽度の知的障害と精神障害の影響で心神耗弱状態だったとし、自首したことも挙げ「死刑を選択すべきではない」と主張した。  15日、3人の遺族が意見陳述。息子は「突然人生を閉じることになった両親のことを思うと、悲しみで胸が張り裂けそうです」と、極刑を求めた。
 同日の論告で検察側は、被告はパチンコで借金を抱えて金に困っており、2人の殺害直後に室内や車内を物色した形跡があることなどから強盗殺人罪が成立すると主張し、「金品を得るためなら人の命を犠牲にすることも顧みない態度」と批判した。完全責任能力を認めた上で、「あらかじめ包丁を準備するなど強固な殺意が認められ、真摯な反省の態度も見られない。落ち度のない2人を殺害する残虐な犯行で、最大限の非難が与えられるべき。罪責は誠に重大で動機に情状酌量の余地はなく、自首や軽度の知的障害を考慮しても極刑はやむを得ない」となどと述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「殺害前に金品を奪う目的があった事情が立証されていない」として殺人罪と窃盗罪の適用を主張した。当時は心神耗弱状態で、自首による捜査進展を考慮すべきだとして、無期懲役が妥当と訴えた。
 松井被告は最終意見陳述で「大切な2人の命を奪ってしまい、誠に申し訳ありません」と述べた。
 判決で吉井隆平裁判長は、「金品目的なら広範囲を物色するのが自然なのに、バッグを物色、財布を持ち去るだけにとどめたのは不自然だ」と指摘。以前にも同様の状況があったとして「殺害してまで金品を奪おうと考えるほど追い詰められていたかは疑問だ」と述べた。さらに物色の範囲から見て、殺害後に金品を盗もうと思い立った可能性を否定できないとして、強盗殺人罪の成立を認めず、殺人と窃盗の罪を適用した。その上で「強固な殺意に基づく残忍な犯行」と批判しつつ、完全責任能力はあるものの知的障害の影響が見られる▽計画性が低い▽自首が成立する――ことを挙げ「死刑の選択が真にやむを得ないとまでは認められない」と結論づけた。
備 考
 検察・被告側は控訴した。2020年1月9日、名古屋高裁で一審破棄、差し戻し判決。2020年9月14日、被告側上告棄却、差し戻し確定。2023年3月2日、名古屋地裁の差し戻し裁判員裁判で、強盗殺人を適用し、求刑通り一審死刑判決。

氏 名
清野敬史(44)
逮 捕
 2018年4月5日(窃盗容疑で逮捕済み)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、現住建造物等放火、準強制性交、昏睡強盗、窃盗、住居侵入
事件概要
 上越市の介護職員、清野敬史被告は、次の五つの事件を起こした。
  • 2005年1月12日、上越市の当時50代の男性方に侵入し、2階の寝室のタンスから現金約4万円を盗んだ後、タンス内の衣類にライターで火をつけて、室内の一部を焼損させた。
  • 2017年12月24日から27日の間で、新潟県妙高市の一般住宅に窓を割って侵入し、タンスなどを物色した。
  • 2018年1月28日、妙高市内の80代女性宅を訪れ、女性に睡眠導入剤を混ぜたココアを飲ませて昏睡状態にさせ、ネックレス1本(時価5,000円相当)と睡眠導入剤28錠を盗んだ。
  • 2018年2月18日午後4時過ぎ、新潟県上越市のアパートに住む一人暮らしの顔見知りの女性(当時70)に睡眠導入剤を入れたココアを飲ませて抵抗できない状態にし、性交等を行った。証拠隠滅のため、女性が寝ていたベッドや玄関に散乱させたチラシなどにサラダ油をまいてライターで火をつけて一部を焼き、女性を一酸化炭素中毒で死亡させた。
     火災は午後4時40分頃に発生し、同5時に鎮火した。居室で心肺停止状態の女性が発見され、搬送先の上越市内の病院で死亡が確認された。発見時に手を縛られているなど不審な点があったことから、県警が捜査を始めた。
  • 残り1件は不明。
 清野被告は2017年12月の事件において、住居侵入と窃盗未遂容疑で2018年3月16日に逮捕された(4月5日、住居侵入と窃盗で起訴)。3月末、退職。4月5日、殺人、放火などの容疑で再逮捕された。5月31日、2018年1月の昏睡強盗容疑で再逮捕。ほかの事件も自供し、2005年1月の事件で7月9日に再逮捕。
 逮捕後の余罪捜査で清野被告は2004年~2018年にかけて、現住建造物等放火が7件(うち1件は未遂)、建造物等以外放火が1件、住居侵入・窃盗が5件、邸宅侵入(空き家)未遂が1件を自供した。これらは送検されたが、一部を除いて起訴されていない。
裁判所
 新潟地裁 山崎威裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年3月11日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年2月25日の初公判で清野敬史被告は、起訴内容をおおむね認めたが、放火について部屋にサラダ油をまいた点については否認した。
 検察側は冒頭陳述で、清野被告は殺意を持って女性の下腹部にサラダ油をまき、枕元など3カ所にライターで火をつけたと主張。計画的で悪質、残忍な犯行だと訴えた。
 弁護側は、殺意については争わない構えを示した。ただ清野被告が「(女性が)死んでしまってもやむを得ない」と考えて女性の下腹部にサラダ油をまいたことは認めた一方、部屋にはまいていないと一部を否認した。また窃盗など一部の事件では示談が成立していることや、一つの事件については「清野被告がすすんで自分の罪について話したため、自首が成立する」と主張し、情状酌量を求めた。
 3月1日の被告人質問で、清野被告は犯行の動機について「自分の性欲を満たすためだった」と、放火については「女性の記憶や現場に残った自分のDNAを消したかった」と理由を語った。遺族に対しては「どんな判決が出ても控訴しない。それが女性に対する償いだと思っている」と述べた。この日は女性の長男の意見陳述も行われ、長男は「一番重い刑に処してほしい」と訴えた。
 4日の論告で検察側は、清野被告が事前にガムテープや睡眠導入剤を用意するなど暴行は計画的であり、女性に睡眠薬を飲ませて昏睡させた上で性的暴行し、犯行の発覚を恐れて証拠隠滅のため部屋に火を放った際には、女性が死亡することを十分に認識していたと指摘。「きわめて残虐。動機や経緯全体が被告の身勝手な欲望で埋め尽くされており、人の道を大きく外れた所業だ」と非難した。そして殺害行為の残虐性などを示し、「極めて強い非難が妥当だ」と訴えた。
 同日の最終弁論で弁護側は、女性の身体にまいたサラダ油に直接火をつけたわけではなく、焼き殺すつもりはなかったなどと主張。「清野被告が心から反省している」と主張。更生の可能性があるとして、懲役15年以下が妥当と訴えた。
 最終意見陳述で清野被告は、「これからの刑務所生活で自分を見つめ直し、償っていきたい。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。
 山崎威裁判長は判決で「願望のおもむくまま犯行におよび、極めて身勝手で全く同情できない。被告人が反省していることなどを考えても、有期懲役の余地はない」と述べた。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
須川泰伸(40)
逮 捕
 2017年1月27日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、現住建造物等放火
事件概要
 長崎県対馬市の鉄工所経営、須川泰伸(ひろのぶ)被告は、2016年12月6日午前8時半頃から7日午前7時半頃までの間に対馬市内で、市内に住む漁業の男性(当時65)の頭部を金づちのような鈍器で多数回殴って殺害。遺体を男性宅に運び、男性宅で同居する二女で市営診療所職員の女性(当時32)の頭部を金づちのような鈍器で多数回殴って殺害した。そして、男性方にガソリンなどをまいて火を付け、木造2階建て住宅288m2を全焼させた。
 男性は妻と二女との三人暮らし。妻は事件当時、県外の医療機関に入院していた。男性は漁船のエンジンの修理を、須川被告が経営する鉄工所に依頼していた。
 長崎県警は2017年1月27日、現住建造物等放火容疑で須川被告を逮捕。2月17日、男性への殺人容疑で再逮捕、3月10日、二女への殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 福岡高裁 野島秀夫裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年3月13日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 2018年11月28日の控訴審初公判で、弁護側は「真犯人が須川被告が犯人だと装った可能性がある」と主張し、一審同様無罪を訴えた。検察側は「須川被告の犯行であることは明らかで。極めて身勝手な動機で、極刑の選択がやむを得ない」と指摘した。
 2019年1月23日の第3回公判で、弁護側から証拠調べの補足資料が提出され、裁判は結審した。
 野島裁判長は判決理由で「原判決の事実認定に誤りは認められない」と指摘。須川被告の指紋が放火に使われたガソリン缶に付着していたことなど、被告人が犯人でなければ合理的に説明できない点が複数あったと認定した。一方で「突発的に犯行が行われた可能性は否定できない」として死刑求刑を退け、無期懲役が相当とした。
備 考
 2018年3月27日、長崎地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。検察側は上告せず。2019年3月13日、福岡高裁で検察・被告側控訴棄却。2019年12月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
佐竹秀樹(32)
逮 捕
 2017年3月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人他
事件概要
 長崎県佐世保市の露天商アルバイト、佐竹秀樹被告は2017年11月10日午後7時半ごろ、佐世保市にある廃業した自動車解体会社で、元経営者の男性(当時66)から借りた15万円の返済を免れようと、包丁で背中と首を刺すなどして殺害し、事務所内にあった現金約150万円を奪った。男性は5年ほど前に廃業したが、車を担保にした金銭の貸し付けや自動車保険の代理業務を個人的に営んでいた。男性はハトレースが趣味で、会社の敷地内で知人らとハトを飼っており、当日もハトの世話をしていた。
 同日午後8時半ごろ、敷地内の未舗装の地面に血を流してあおむけに倒れている男性を、訪れた知人男性が見つけた。
 長崎県警は11日、佐竹被告を強盗殺人容疑で逮捕した。
裁判所
 長崎地裁 小松本卓裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年3月15日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年3月4日の初公判で、佐竹秀樹被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で「犯行は計画的、合理的」と指摘し、精神鑑定医も犯行当時に精神障害はなかったと診断していると主張した。弁護側は、佐竹被告は解離性障害の診断を受けたことがあり、犯行当時も障害の影響で責任能力が著しく低下した心神耗弱の状態だった可能性があると主張。佐竹被告がかつて勤めていた飲食店の雇用主から毎月金銭を請求されていたことにも触れ、「経済的・精神的に追い詰められていた」として、くむべき事情があると反論した。
 8日の論告求刑で検察側は、「債務を免れ、利益を得るために落ち度のない被害者の命を奪った」と指摘。人気のない時間帯を選んで犯行に及ぶなど行動は合理的と強調した。
 同日の最終弁論で弁護側は、佐竹被告が元雇用主から毎月約20万円を請求され、精神的、経済的に追い詰められていたと主張。「すべての責任を被告に負わせていいのか」と反論した。そして最長で懲役30年が妥当と主張した。
 判決で小松本裁判長は鑑定医の意見を基に、刑事責任能力に問題はないと判断。「反抗できない状態で逃げ出した被害者を追いかけ暴行するなど、殺害への強い意思が認められる」と指摘した。
備 考
 被告側は控訴した。2019年9月27日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2020年2月17日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
オーイシ・ケティ・ユリ(34)
逮 捕
 2017年4月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、詐欺、死体遺棄、旅券法違反、有印私文書偽造・同行使
事件概要
 東京に住む日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告は2014年3月22日午前、大阪市西成区に住む小中学校時代の同級生だった准看護師の女性(当時34)宅で、女性の胸や腹をナイフで何度も刺し、出血性ショックで殺害。現金6,000円やクレジットカード2枚を奪った。オーイシ被告は24日、女性の遺体が入った箱を宅配便で東京の自分が住むマンションに搬送した。マンションの契約期限が切れる4月下旬、便利屋サービスに依頼して八王子市のトランクルームに運び、女性のカードで使用料を支払った。他にも出国前の日用品などの購入を含め、計約12万円を不正使用した。オーイシ被告は奪った健康保険証を利用し、女性になりすましてカード6枚を新たに作成。盗んだカード2枚も含めて利用し、総額は100万円を超えて使用したとされる。
 オーイシ被告は幼いころ、家族とともにブラジルから移住。准看護士の女性の実家と家が近かった。高校生の時に家族でブラジルに帰国し、再び大阪に戻った後は、アルバイトなどをしていた。しかし、2011年ごろ、両親に「友達のところに行く」と出て行った後、連絡は途絶えたままだった。
 オーイシ被告は2011年頃から東京で同居する中国人女性の留学生がいた。留学生は上海の企業に就職が内定し、3月中旬に帰国が決まっていた。オーイシ被告はブラジル国籍で、数年前から在留資格を更新しておらず、不法滞在の状態だった。住居の賃貸契約や就職も難しく、留学生の女性と一緒に中国へ行きたくても、正規の手続きでは不可能だった。
 オーイシ被告は1月頭、フェイスブックで准看護師の女性に「友達申請」を行い、2月1日に大阪市内の居酒屋で再会していた。
 オーイシ被告は3月下旬、大阪市内のパスポートセンターで女性名での申請を行い、4月上旬に受け取りに来た。パスポートの取得歴がある人は、外務省のデータベースに顔写真などの情報とともに登録される。戸籍謄本を提出しても、顔が違えば発給は受けられないが、女性はパスポートを取得したことがなかった。
 オーイシ被告は4月まで女性のアドレスからメールを送り、生きているように誤魔化した。オーイシ被告は5月3日、中国へ向かった。
 女性の母親は、5月4日に大阪府警に相談した。府警の調査で女性名義のパスポートで羽田空港から上海へ出国した記録があった。女性のクレジットカードを発行する会社への照会で、渡航後に上海で買い物をしていたこともわかった。しかし羽田空港での防犯カメラを確認したところ、別人の女2人が出国する様子が映っていた。5月21日、大阪府警は八王子市のトランクルームで女性の遺体を発見した。送付状の依頼主欄にはオーイシ被告の携帯電話番号が記載されており、遺体の梱包物からオーイシ被告の指紋も検出された。
 オーイシ被告は5月27日、元留学生の付き添いで上海の日本総領事館に出頭し、中国の公安当局に不法入国の疑いで身柄を引き渡された。中国の公安当局に不法入国の疑いでオーイシ被告を拘束。大阪府警は死体遺棄と旅券法違反、詐欺などの容疑で逮捕状を取った。日中間には犯罪人引き渡し条約がなく、大阪府警は外交ルートを通じて身柄の引き渡しを要求した。
 2016年5月20日、中国の最高人民法院(最高裁)はオーイシ被告の日本への引き渡しを認めた。中国政府も6月に決定を認めたが、日本での取り調べは詐欺罪に限る条件付きだった。中国は自国の刑法で規定がある罪名でしか、引き渡し後の取り調べは認めなかった。中国には死体遺棄罪がないためで、事実上、殺人事件としての捜査が日本で許されない状況だった。大阪府警は6月、新たに強盗殺人容疑で逮捕状を取って交渉を継続。オーイシ被告は自分の旅券を持っておらず、引き渡し時に中国から出国できないという問題も浮上したため、日本側は夏、オーイシ被告の国籍があるブラジルに旅券発行を申請した。ブラジルは12月、オーイシ被告の旅券を発行した。中国は2017年1月16日、強盗殺人容疑での訴追を認めた。
 2017年1月25日、中国政府は上海空港でオーイシ被告の身柄を大阪府警に引き渡した。府警は航空機内で詐欺などの容疑で逮捕した。逮捕容疑は2014年4月29日、東京都内のペットホテルで女性名義のクレジットカードを使い、犬2匹の宿泊代約37,000円を支払ったとしている。3月3日、強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 大阪地裁 上岡哲生裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年3月14日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。オーイシ被告は起訴後の精神鑑定で、さまざまな人格が現れ、記憶が抜け落ちる「解離性同一性障害(DID)」と診断されている。
 2019年2月22日の初公判で、オーイシ・ケティ・ユリ被告は「どのように述べたらいいか分からず、意見は弁護人に委ねる」と述べた。
 検察側は冒頭陳述で、オーイシ被告はかつて同居していた中国籍の女性と中国で生活しようと考えたが、日本での在留資格が切れ旅券が取得できないうえ、約265万円の借金があったなど経済的に苦しかったと指摘。「中国へ行くのに必要な旅券と資金を手に入れるため、小中学校時代の同級生だった女性を殺害した」と述べた。検察側は、犯行時にナイフを隠し持って女性宅を訪ねるなどしていたことを根拠に、完全責任能力があったと指摘した。一方、弁護側は冒頭陳述で起訴内容を認めたうえで、オーイシ被告は日系ブラジル人3世で日本での生活に苦労し、相談できる相手が中国人女性しかいなかったと説明。オーイシ被告は記憶が抜け落ちるなどの症状が出る「解離性同一性障害」で、幼い頃から記憶が一部抜け落ちることがあり、事件当時も「犯行を止める力が著しく弱まっていた」として刑を軽くするよう求めた。
 2月26日の第2回公判における被告人質問でオーイシ被告は、事件の状況を「私に似た人が1回刺しているのを(自分が)上から見下ろしていた」と述べた。似た人物が女性を刺したのは「おなかあたりと思う」とし、そのとき女性は「立っていたと思う」と証言。一方、女性宅を訪ねた記憶は「ない」と答え、凶器とみられるナイフを事件前日に購入していたことは「思い出せない」と述べた。
 3月4日の第5回公判で、オーイシ被告の精神鑑定を担当した医師が出廷。オーイシ被告には「おとなしい」主とした人格と「大胆で冷酷」な別の人格が存在するとした上で、事件当時は主とした人格が別の人格の行動を止められなかったとした。一方、オーイシ被告は事件前日に女性殺害を一度ためらったとされるが、それについても「別の人格による判断」とした。また、一般的に別の人格が出現した際の記憶はない場合が多いというが、オーイシ被告は別の人格の記憶があるとして、「解離性同一性障害の程度は軽い」と述べた。
 6日の第6回公判における被告人質問でオーイシ被告は、「私のやったことではないと思う」と主張した。
 6日の遺族の意見陳述で、女性のの母親は「娘は被告の理不尽な欲望のために残酷に殺害され、荷物のように宅配便で送られてトランクルームに放置された。自分の命で罪を償ってほしい」と極刑を求めた。
 7日の論告で検察側は、動機について「身勝手さは際立っている」と指摘。突然別人格が現れる「解離性同一性障害」が犯行に影響したとする弁護側の主張は「当時は別の人格だったとしても合理的に行動しており、完全な責任能力があった。量刑を左右するほどの事情ではない」と述べた。そのうえで、「急所の胸などを多数回刺し、女性の苦痛や恐怖心などは計り知れない。看護師を夢見て何の落ち度もない女性から、命、将来の夢や希望を奪った」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、鑑定医の証言などから被告は犯行時は「大胆で冷酷な性格」の別人格に行動を支配され、「激しい怒りも恨みもないのに55カ所も刺した」と説明。事件当時は心神耗弱の状態で、行動を制御する能力が著しく失われていたなどと主張して有期刑を求めた。
 オーイシ被告は最終意見陳述で、しばらく沈黙した後に「悪いことをしたとは思っていないし、悪いことをしたという事実はないと思っています」などと述べた。
 判決で上岡裁判長は、被告が以前同居して親密な関係だった女性がいる中国へ渡航したかったが在留資格がなく、女性になりすまして旅券を取得することだったと動機を認定。その上で、争点だった刑事責任能力の程度を検討。ナイフを事前に準備したり、殺害後に現場の血痕を拭き取ったりしていたことを挙げ、「発覚を防ぐための行動を取っていた」と指摘。「被告が計画的で合理的に行動しており、善悪の判断能力や行動の制御能力が著しく低下していなかったことは明らか。当時は別人格だったとしても、記憶を共有して行動を制御できる状態だった」として、事件当時の完全責任能力が認められるとした。そして「他人に成り代わるという身勝手な理由で、落ち度がない被害者の命を奪った」と指弾した。
備 考
 外務省によると、中国からの身柄引き渡しは1999年に横浜市で起きた強盗事件以来2例目。

 被告側は控訴した。2019年12月12日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2020年9月11日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
笹井政輝(37)
逮 捕
 2017年5月19日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人他
事件概要
 住所不定、無職の笹井政輝被告は、知人男性被告と共謀。2017年5月9日、広島市安佐北区に住む笹井被告の伯父で独り暮らしのアルバイト作業員男性(当時67)方に入り、笹井被告がハンマーで頭などを殴り、男性被告が両手足を結束バンドで縛るなどして金品を奪った。さらに笹井被告は包丁で頭や胸を何度も刺して殺害したうえ、現金およそ9万円の入った財布や車、腕時計などを奪った。
 別の窃盗事件で滋賀県警に捕まった男性被告が、本事件を供述。13日、広島県警安佐北署員が男性宅を訪れて遺体を発見した。15日、富山市のショッピングセンター駐車場で男性の車が発見された。広島県警は17日、笹井被告を強盗殺人容疑で全国指名手配。19日、大津市の知人女性宅にいた笹井被告を逮捕した。20日、強盗殺人容疑で知人男性被告を逮捕した。
 6月8日、広島地検は笹井被告を強盗殺人容疑で起訴。知人男性被告は殺意はなく、殺害の実行行為を行っていないとして、強盗致死容疑で起訴した。
裁判所
 広島地裁 冨田敦史裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年3月15日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年3月5日の初公判で笹井政輝被告は、「伯父さんを殺したことは間違いないが、強盗するつもりで殺したわけではない」と強盗殺人の罪を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、事前の計画通り犯行に及んだことなどから強盗殺人が成立すると主張。弁護側は、金などを持ち去ったことは認めるものの、「被告人は被害者と3親等の親族であるから、窃盗罪は告訴がなければ起訴できない」として、告訴がないことから殺人罪のみの有罪を主張した。
 12日の論告で検察側は、「およそ1か月前から知人と話し合って道具を用意するなど犯行は計画的であり、犯行後も盗んだクレジットカードで多額の買い物をするなど犯行前後を通じて強盗目的が一貫していたのは明らか」などと主張。「犯行は執拗で残虐極まりなく、過去にも窃盗などを繰り返していることから規範意識が欠けていて、矯正は困難」など述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「強盗目的は認められず、偶発的な犯行。反省の態度が認められ更生の可能性がある」などとして有期懲役を求めた。
 判決で冨田敦史裁判長は「約1カ月前から知人の男と犯行の話をし道具を用意しており、計画的な犯行」と指摘し、強盗目的があったと認定。量刑理由について、「被害者の頭部をハンマーで頭蓋骨を陥没させるほどの強い力で殴ったうえナイフなどでめった刺しにした。恩人であるおじを殺害しながらその理由を話していないなど反省が見られず、更生の可能性もひくく、酌量の余地はない」と述べた。
備 考
 知人男性被告は2019年1月22日、広島地裁(冨田敦史裁判長)の裁判員裁判で懲役12年(求刑懲役15年)が言い渡された。控訴せず確定。

 被告側は控訴した。2019年9月26日、広島高裁で被告側控訴棄却。2020年に上告取下げ、確定。

氏 名
戸倉高広(40)
逮 捕
 2016年3月12日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制わいせつ致死、住居侵入
事件概要
 戸倉高広被告は2015年8月25日午前0時50分ごろ、東京都中野区のマンションに帰宅途中だった、アルバイト店員で劇団員の女性(当時25)を見かけ、女性の部屋に侵入。女性を乱暴しようと口を塞いで床に押し倒したところ抵抗されたため、扇風機のコードで首を絞めて殺害した。
 アルバイトを無断欠席したことを不審に思った同僚が中野署に相談し、26日午後10時頃、署員が遺体を発見した。
 捜査本部は顔見知りの犯行との疑いを強めて捜査したが、被害者の爪の中に残っていた微物などから検出された男のDNA型は、生前に交流のあった人物とは一致しなかった。捜査本部は被害者宅から半径500m圏内に住む75歳以下の成人男性に対し、任意のDNA鑑定を実施。さらに、事件直後に現場マンション周辺から引っ越しをするなどしていた複数の人物の転居先を探った。その中の1人が、戸倉被告だった。
 戸倉被告は高校卒業後に上京し、職を転々。事件当時は被害者のマンションから約400m離れたマンションに住んでいたが、被害者との面識はなかった。事件直後の8月末から福島県矢吹町の実家に戻っていた。
 警視庁中野署捜査本部はDNA型が一致したことや、防犯カメラの映像などから2016年3月12日、戸倉被告を殺人容疑で逮捕した。
 東京地検は鑑定留置の結果、刑事責任能力に問題はないと判断し、6月に起訴した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 山口厚裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年4月15日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2018年3月7日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年12月6日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
西田市也(22)
逮 捕
 2018年8月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、電子計算機使用詐欺
事件概要
 岐阜県大垣市の土木作業員、西田市也被告は、滋賀県愛荘町のアルバイトの少年(当時18)と共謀。2017年6月18日、滋賀県多賀町周辺で名古屋市のパート従業員の女性(当時53)を車のトランクに入れて現金約5万円やスマートフォン、タブレット端末などを奪った上、USBケーブルで首を絞めるなどして殺害。遺体をキャリーバッグに入れて隠し、20日にはバッグごと同町内の山林に埋めた。さらに7月3日と5日、女性のパスワードなどを使って、女性のインターネット上の専用口座からビットコイン約35万円分を自身の口座に移した。
 西田被告はビットコインに関するセミナーに参加し、セミナーに関わっていた女性と知り合った。女性が参加していた事業は会員を増やすほど自分のランクが上がり、報酬も増える仕組みだったため、女性は西田被告を会員になるよう勧誘していた。西田被告が女性を滋賀県大垣市まで誘い出していた。西田被告と少年は幼馴染だった。
 愛知県警は防犯カメラの映像などから西田被告を捜査。7月30日から任意で事情を聴くとともに、西田被告の自宅や車両を捜索し、自宅からは女性のスマートフォンやかばんが見つかった。31日、西田被告の供述から多賀町の山林を捜索して土中から女性の遺体を発見。8月1日、県警は西田被告と少年を死体遺棄容疑で逮捕した。8月20日、愛知、滋賀県警は強盗殺人容疑で2被告を再逮捕した。11月10日、電子計算機使用詐欺容疑で西田被告を再逮捕した。
裁判所
 名古屋高裁 高橋徹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年5月23日 無期懲役(被告側控訴棄却)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 2019年5月23日の控訴審初公判で、弁護側は、一審が弁護側による精神鑑定の請求を却下し、完全責任能力を認めた判決には法令違反と事実誤認があり、量刑も不当だと訴えていた。
 即日結審し、同日に判決が言い渡された。
 高橋裁判長は「精神障害による入通院の経歴がなく、犯行時の記憶に欠落もない。精神鑑定の却下は妥当だ。完全責任能力を肯認した原判決に事実誤認もない」と指摘し、弁護側の主張を退けた。量刑については「主犯として第一義的な責任を負う。共犯の知人の少年を引き込んだことも看過できない。少年との刑の不均衡はない」とした。
備 考
 共犯の少年は2018年11月22日、名古屋地裁(吉井隆平裁判長)で懲役18年判決(求刑懲役20年)が言い渡された。控訴せず確定。

 2019年2月6日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2019年9月9日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中野稚也(29)
逮 捕
 2017年12月6日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、昏睡強盗、窃盗他
事件概要
 長崎県諫早市の自営業中野稚也(わくや)被告は、実質経営していたスナックの従業員と共謀。2017年4月8日未明、睡眠薬を混入した酒を飲ませて昏睡状態になった客の男性会社員(当時37)から約3万円を奪い、吐いた物を喉に詰まらせ窒息死させた。
 男性客は事件当日、同じビルの下の階の店にいたところ、アルバイト少女に誘われてスナックに行った。男性客はスナックを数回訪れたことがあった。
 その他、中野被告らは3月26日、スナックで客の男性(当時23)に睡眠薬を混ぜた酒を飲ませて昏睡させた上でキャッシュカードを奪い、近くのコンビニエンスストアの現金自動預け払い機(ATM)で100万円を引き出した。
 3月28日、スナックで客の男性(当時21)に睡眠薬を混ぜた酒を飲ませて昏睡させた上でクレジットカードを奪い、店の端末を使って約10万円を決済した。
 長崎県警は12月6日、強盗致死容疑で中野被告、店長の男性Y被告、従業員の女性、アルバイト少女(当時17)、建設作業員の少年(当時17)ら5人を逮捕した。27日、別の昏睡強盗と窃盗容疑で中野被告ら4人を再逮捕し、1人のアルバイト少女(当時19)を新たに逮捕した。2018年1月17日、別の昏睡強盗事件の容疑で5人を再逮捕した。
 5月8日付で長崎地検は、強盗致死容疑で逮捕されたY被告、従業員の女性、建設作業員の少年について不起訴にした。また1件について中野被告ら4人の昏睡強盗罪についても不起訴にした。
裁判所
 長崎地裁 小松本卓裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年5月23日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年5月13日の初公判で、中野稚也被告は「全て間違っています」と起訴事実を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、「被告が経営する店での犯行。店員らに指示するなどして犯行を実行しており、利益の大部分を被告が手に入れている」などと指摘。弁護側は「他の店員との共謀の事実はなく、無罪だ」と反論した。
 5月20日の論告で検察側は、「犯行を主導しながら、反省の態度も見られない」と無期懲役を求刑。弁護側は「被告は睡眠薬を混ぜた酒の作り方を知らない」などと関与を否定し、無罪を主張した。
 判決で小松本裁判長は、「被告は犯行に及ぶかどうか判断して従業員に指示し、犯行で得た利益のほとんどを得ていた」と指摘。「被告のジェスチャーなどの指示で、睡眠薬入りカクテルを飲ませたという従業員の証言は信用できる」と無罪主張を退けた。量刑に関しては、危険性が高い組織的犯行を短い期間に繰り返したとして「違法性は非常に高く、強盗致死事件の中では最も重い部類の事案」と説明した。
備 考
 3月のこん睡強盗並びに窃盗容疑で起訴された元店長のY被告は2018年5月18日、長崎地裁(小松本卓裁判官)で懲役3年6月判決(求刑懲役6年)。控訴せず確定。
 強盗致死容疑で逮捕されたアルバイト少女は、同非行内容で長崎家裁に送致された。
 強盗致死容疑で逮捕され不起訴となった従業員の女性に対し、中野稚也被告は不当と長崎検察審査会に訴えた。2019年4月24日付で長崎検察審査会は「昏睡強盗の共犯であることを自覚しており、加担した犯罪行為により尊い人命が失われている」などとして「不起訴不当」の議決をした。

 被告側は控訴した。2019年11月22日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2020年3月18日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
元少女(22)
逮 捕
 2015年4月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、逮捕監禁
事件概要
 千葉県船橋市のアルバイトの少女(当時18)は、住所不定、無職の中野翔太被告、同井出裕輝被告、東京都葛飾区の鉄筋工の少年(当時16)と共謀。2015年4月19日夜、千葉市中央区の路上を歩いている船橋市の被害少女(当時18)に少女が声をかけ、井出被告が運転する車に乗せた。その後、井出被告、中野被告、少女は被害少女に車内で手足を縛るなどの暴行を加え、現金数万円が入った財布やバッグを奪った。さらに20日午前0時ごろ、芝山町の畑に連れて行き、中野被告が井出被告の指示で事前に掘っていた穴に被害少女を入れ、中野被告が土砂で生き埋めにして、窒息死させた。少女の顔には顔全体に粘着テープが巻かれ、手足は結束バンドで縛られていた。
 被害少女と少女は高校時代の同級生。被害少女は高校中退後に家を出て、アルバイトをしながら暮らしており、飲食費などを複数回、逮捕された少女に借りたことがあった。少女は友人から借りた洋服などを返さなかった被害少女に腹を立て、井出被告に相談し、事件を計画。少女は少年にも声をかけ、参加させた。井出被告は中野被告に協力をもちかけ、犯行に及んだ。井出、中野被告は被害少女と面識はなかった。また少年も、井出、中野被告と面識はなかった。
 21日になって船橋東署に「女性が埋められたという話がある」との情報が寄せられたため、事件に巻き込まれた可能性が高いとみて捜査を開始。24日未明までに、車に乗っていた東京都葛飾区の少年と船橋市の少女、中野翔太被告を監禁容疑で逮捕し、井出裕輝被告の逮捕状を取った。そして供述に基づき芝山町内の畑を捜索し、女性の遺体を発見した。同日、井出被告が出頭し逮捕された。5月13日、強盗殺人容疑で4人を再逮捕。
 6月4日、千葉地検は井出被告、中野被告を強盗殺人罪などで起訴。少女を強盗殺人などの非行内容で千葉家裁に送致した。地検は少女に「刑事処分相当」の意見を付けた。少年は共謀関係がなかったとして強盗殺人では嫌疑不十分として不起訴にし、逮捕監禁の非行内容で家裁送致した。千葉家裁は7月17日、少女について、「刑事処分を選択して成人と同様の手続きを取り、責任を自覚させることが適切」として検察官送致(逆送)した。千葉地検は24日、少女を強盗殺人などの罪で千葉地裁に起訴した。
裁判所
 最高裁第二小法廷 菅野博之裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年6月3日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 
備 考
 中野翔太被告は2016年11月30日、千葉地裁(吉井隆平裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2017年6月8日、東京高裁(大熊一之裁判長)で被告側控訴棄却。2017年10月10日、被告側上告棄却、確定。
 井出裕輝被告は2017年3月10日、千葉地裁(吉井隆平裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年3月1日、東京高裁(大熊一之裁判長)で被告側控訴棄却。2018年12月25日、被告側上告棄却、確定。

 2017年2月3日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年12月11日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
三原賢志(45)
逮 捕
 2016年6月13日(覚せい剤取締法違反(使用)容疑)
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、死体損壊、覚せい剤取締法違反(使用)他
事件概要
 北九州市八幡西区の市営住宅に住む無職三原賢志被告は、2015年5月から冬までの間に自室にて、北九州市の無職女性Mさん(当時43~44)を刃物で刺して殺害し、遺体の一部を切り取った。また2016年6月5日ごろ、北九州市の職業不詳の女性Sさん(当時45)を刃物で刺して殺害し、胸を切りつけた。
 Mさんは2015年6月に、Sさんは2016年6月7日に、それぞれ行方不明者届が出されていた。
 2016年6月13日午後2時15分ごろ、Sさんと連絡が取れないことを不審に思った男性が部屋を訪ね、Sさんの遺体を発見した。駆け付けた福岡県警の警察官が約2時間後、同じ部屋でさらに別の性別不明の遺体を見つけた。県警は同日、覚せい剤取締法違反(使用)容疑で部屋にいた三原被告を緊急逮捕した。7月24日、Sさんへの死体損壊容疑で再逮捕。8月4日、Sさんへの殺人容疑で再逮捕。
 8月14日より2ヶ月の鑑定留置が実施され、10月、Sさんへの殺人ならびに死体損壊容疑で起訴。11月10日、Mさんへの殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 最高裁第一小法廷 小池裕裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年6月5日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2018年3月19日、福岡地裁小倉支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年9月13日、福岡高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
横山拓人(25)
逮 捕
 2018年5月31日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂
事件概要
 静岡県御殿場市のクレーンオペレーター、横山拓人被告は、神奈川県厚木市の無職武井北斗被告、甲府市の土木作業員W被告、山梨県甲斐市の建設作業員N被告と共謀。山梨県昭和町の貴金属買取店の金品を奪おうと計画した。
 2016年11月26日午後9時ごろ、甲州市に住む貴金属買取店店長の男性(当時36)宅に武井被告、横山被告、W被告が2階の窓や玄関から侵入して待ち伏せ。N被告が会社から帰宅する男性を尾行。帰宅した男性の頭や胸などを棒状の物で強打して殺害し、店の鍵1束と乗用車1台(約503,000円相当)などを奪った。27日未明、長野県南佐久郡南牧村の畑で男性の遺体を畑の所有者の重機を使い、遺体を埋めた。さらに4被告は27日午前3時ごろ、男性が店長を務めていた昭和町の貴金属買取店に侵入。商品の貴金属を奪おうとしたが、警備システムが働いて警備員が駆け付けたため、何も取らずに逃走した。
 同日午前、男性の遺体が畑で見つかり、畑から約2km離れた村道脇では、男性が仕事で使っていた車が全焼した状態で見つかった。
 甲府市の会社役員を強盗目的で襲い死亡させた罪で2018年2月に逮捕された武井北斗被告の足跡と、遺体の遺棄現場に残された足跡が似ていることが判明。さらに防犯カメラの映像や携帯電話の通信履歴から武井被告らが現場にいたことがわかった。2018年1月に東京都武蔵野市で別の強盗傷害事件を起こして武井被告とともに起訴されたW被告が、山梨、長野両県警の任意の事情聴取に対し、武井被告とともに男性の遺体を遺棄したことを認めた。
 山梨、長野県警の合同捜査班は2018年5月31日、横山被告とN被告を逮捕した。6月1日、武井被告を逮捕した。6日、W被告を逮捕した。さらに数日前に貴金属買取店などを下見していたとして強盗予備容疑で28日までにK被告(別事件の強盗致死他で起訴済み)を再逮捕した。

 他に武井被告、K被告、横山被告、N被告は2016年11月20日午後11時半ごろ、甲府市内のガソリンスタンドの事務所に侵入し、売上金など現金13万8千円が入った耐火金庫1台(1,000円相当)を盗んだ。同21日午前1時55分ごろ、同市内の車両整備会社の事務所に侵入し、金庫をこじ開けようとして失敗した。
裁判所
 東京高裁 平木正洋裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年6月20日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2019年5月23日の控訴審初公判で弁護側は、横山被告が暴行現場に居合わせず、暴行を加えていないことから強盗致死罪が成立するとし量刑不当を主張した。弁護側は「事実誤認がある」として被告人質問を請求したが、高裁は情状に限定して認めた。横山被告は「一生をかけて償っていく。この先どんなことをしていけば良いのか、ずっと考えていかないといけない」などと話した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で平木正洋裁判長は共犯者が一審で証言した内容の信用性を認め、、被告がハンマーのようなもので男性の胸を多数回殴ったと認定し「一方的かつ執拗に暴行を加えており、非常に無慈悲で悪質だ」と指摘した。量刑についても「正当であり、重すぎて不当であるとはいえない」として弁護側の主張を退けた。
備 考
 強盗殺人などに問われたW被告は2018年11月30日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役30年(求刑同)判決。量刑については、共犯者の指示を受けて犯行に及び、警察に出頭して捜査に協力したとして酌量の余地があるとした。2019年5月9日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 強盗致死などに問われたN被告は2018年12月14日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。2019年6月14日、東京高裁(中里智美裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 別の事件で強盗致死などに問われたK被告は2019年2月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役28年(求刑懲役30年)判決。控訴せず、確定。
 主犯とされる武井北斗被告は、詐欺罪1件について6月24日から区分審理される。裁判員裁判の開始は今秋になる見通し。

 2019年1月28日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2019年9月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
少年(19)
逮 捕
 2018年3月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 千葉県茂原市の土木作業員の少年A被告(事件当時18)は、同市内のアパートで同居する無職少年B(当時18)、無職少年C(当時17)と共謀。2018年2月26日午前1時15分ごろ、同市に住む女性(当時85)宅に侵入。寝室で女性を床に押し倒して殴ったり首を絞めるなどして現金約12,000円を盗み、包丁で首を3回刺して殺害した。
 女性は長女と同居していたが入院したため1人で生活。近くに住む長男夫婦が頻繁に訪れていた。
 26日午前8時55分ごろ、長男の妻が倒れている女性をみつけ、119番通報。3月2日、捜査本部は少年3人を強盗殺人と住居侵入の疑いで逮捕した。
 千葉地検は3月19日、少年A被告と少年Cを千葉家裁に送致した。同家裁は同日、2週間の観護措置を決定した。23日、少年Bを千葉家裁に送致した。家裁は同日、2週間の観護措置を決めた。4月3日までに千葉家裁は少年A被告に対し、2週間の観護措置延長を決定した。千葉地検は同日、少年Bと少年Cを別の窃盗事件で再逮捕した。千葉家裁は4月13日、少年A被告を検察官送致(逆送)とする決定をした。千葉地検は20日、強盗殺人罪などで少年A被告を起訴した。
 県警捜査3課は6月7日、茂原市を中心に2017年12月~2018年3月に相次いだ窃盗事件約50件に関与したとして、少年B、少年Cを含む同市などの17~19歳の少年5人を窃盗などの容疑で逮捕・送検したと発表した。そのうち少年Bと少年Cは事件前日の2月25日未明から早朝にかけて、盗み目的で女性方に侵入し金品を物色していた。千葉家裁は6月29日、少年Bと少年Cを検察官送致(逆送)とする決定を出した。千葉地検は7月6日、少年Bと少年Cを強盗殺人や住居侵入などの罪で起訴した。
裁判所
 東京高裁 後藤真理子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年6月27日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 弁護側は、共犯者の中では関与の度合いが低い、現金を奪っていないなどとして量刑不当を訴えた。
 判決で後藤真理子裁判長は、金銭を管理していた親族や共犯の少年2人の証言を踏まえ、現金を奪ったと認定。そして「共犯者に持ち掛けられた犯行だったが、被害者を確実に殺害しようとするなど、主体的に重要な役割を果たした」と弁護側の主張を退けた。その上で、「計画性が認められ、強固な殺意に基づいており残忍だ」と指摘した。
備 考
 少年C被告は2019年5月31日、千葉地裁の裁判員裁判で懲役20年判決(求刑無期懲役)。殺人について「共謀していなかった」と判断して適用せず、強盗致死を適用した。

 2019年1月24日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定。

氏 名
君野康弘(52)
逮 捕
 2014年9月24日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、わいせつ目的誘拐、死体損壊・遺棄
事件概要
 神戸市長田区の無職君野康弘被告は2014年9月11日午後3時30分ごろ、自宅近くの路上を歩く小学1年の女児(当時6)にわいせつ目的で近づき、「絵のモデルになって」と声をかけてアパート自室に誘い込み、首をロープで絞めるなどして殺害。16日までに遺体を切断して複数のポリ袋に入れ、近くの雑木林などに遺棄した。
 君野被告は鹿児島県南九州市出身で、自衛隊勤務など職を転々とし、2008年ごろに関西に来て、指定暴力団傘下組織の組員となった。2009年ごろには神戸市兵庫区に転居。2011年ごろに刑事事件を起こして服役し、2013年5月に出所。神戸市長田区のアパートに入居するも近隣との騒音トラブルで2週間で退去し、住まいを転々。2013年夏に現在のアパートに引っ越した。家賃等は生活保護費から支払っていた。自宅ではパソコンを使った出会い系サイトに夢中になっていた。
 県警は、11日から目撃情報があった場所周辺を捜索。12日から公開捜査となり、23日夕方に匂いに気付いた県警本部と長田署の捜査員2人が遺体の入ったポリ袋を見つけた。雑木林は住宅街の狭い路地の階段を上りきった場所にあって大通りから死角になる場所で、以前民家あった民家は1995年の阪神大震災で倒壊し、そのまま放置されていた。ポリ袋の中から君野被告名義の診察券が見つかり、袋の中にあったたばこの吸い殻と容疑者のDNA型が一致した。24日、県警は死体遺棄容疑で君野被告を逮捕した。10月14日、殺人容疑で再逮捕。
 神戸地検は神戸地裁に鑑定留置を請求し、10月31日に認められた。鑑定結果から、事件当時は善悪を判断する能力があったと判断し神戸地検は2015年1月30日、君野被告を殺人とわいせつ目的誘拐、死体損壊・遺棄の罪で起訴した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 山口厚裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年7月1日 無期懲役(検察側上告棄却、確定)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 検察側は上告趣意書で、君野被告が抵抗されずにわいせつ行為をするために殺害しており、「偶発的とはいえない」と主張。過去のわいせつ目的の殺人事件で、被害者が1人で計画性がないケースでも死刑が3件で確定している点も挙げ、「計画性がなければ死刑の選択は許されないかのような誤解が独り歩きすることは許されず、(事件の性質を)総合評価すべきだ」と訴えた。
 山口裁判長は決定で、殺害の計画性がなく、他人の命を奪った前科もない点を考慮し、「生命軽視の姿勢は明らかだが、甚だしく顕著だとまでは言えない」と指摘。「究極の刑罰である死刑は慎重に適用しなければならないという観点と同種事件の過去の量刑との公平性の確保を踏まえ、死刑の選択が真にやむを得ないとまでは言い難い」と判断した。5人の裁判官の一致した意見。
備 考
 2016年3月18日、神戸地裁(佐茂剛裁判長)の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。2017年3月10日、大阪高裁で一審破棄、無期懲役判決。

氏 名
西田市也(23)
逮 捕
 2018年8月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、電子計算機使用詐欺
事件概要
 岐阜県大垣市の土木作業員、西田市也被告は、滋賀県愛荘町のアルバイトの少年(当時18)と共謀。2017年6月18日、滋賀県多賀町周辺で名古屋市のパート従業員の女性(当時53)を車のトランクに入れて現金約5万円やスマートフォン、タブレット端末などを奪った上、USBケーブルで首を絞めるなどして殺害。遺体をキャリーバッグに入れて隠し、20日にはバッグごと同町内の山林に埋めた。さらに7月3日と5日、女性のパスワードなどを使って、女性のインターネット上の専用口座からビットコイン約35万円分を自身の口座に移した。
 西田被告はビットコインに関するセミナーに参加し、セミナーに関わっていた女性と知り合った。女性が参加していた事業は会員を増やすほど自分のランクが上がり、報酬も増える仕組みだったため、女性は西田被告を会員になるよう勧誘していた。西田被告が女性を滋賀県大垣市まで誘い出していた。西田被告と少年は幼馴染だった。
 愛知県警は防犯カメラの映像などから西田被告を捜査。7月30日から任意で事情を聴くとともに、西田被告の自宅や車両を捜索し、自宅からは女性のスマートフォンやかばんが見つかった。31日、西田被告の供述から多賀町の山林を捜索して土中から女性の遺体を発見。8月1日、県警は西田被告と少年を死体遺棄容疑で逮捕した。8月20日、愛知、滋賀県警は強盗殺人容疑で2被告を再逮捕した。11月10日、電子計算機使用詐欺容疑で西田被告を再逮捕した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 戸倉三郎裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年9月9日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 共犯の少年は2018年11月22日、名古屋地裁(吉井隆平裁判長)で懲役18年判決(求刑懲役20年)が言い渡された。控訴せず確定。

 2019年2月6日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2019年5月23日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
横山拓人(26)
逮 捕
 2018年5月31日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂
事件概要
 静岡県御殿場市のクレーンオペレーター、横山拓人被告は、神奈川県厚木市の無職武井北斗被告、甲府市の土木作業員W被告、山梨県甲斐市の建設作業員N被告と共謀。山梨県昭和町の貴金属買取店の金品を奪おうと計画した。
 2016年11月26日午後9時ごろ、甲州市に住む貴金属買取店店長の男性(当時36)宅に武井被告、横山被告、W被告が2階の窓や玄関から侵入して待ち伏せ。N被告が会社から帰宅する男性を尾行。帰宅した男性の頭や胸などを棒状の物で強打して殺害し、店の鍵1束と乗用車1台(約503,000円相当)などを奪った。27日未明、長野県南佐久郡南牧村の畑で男性の遺体を畑の所有者の重機を使い、遺体を埋めた。さらに4被告は27日午前3時ごろ、男性が店長を務めていた昭和町の貴金属買取店に侵入。商品の貴金属を奪おうとしたが、警備システムが働いて警備員が駆け付けたため、何も取らずに逃走した。
 同日午前、男性の遺体が畑で見つかり、畑から約2km離れた村道脇では、男性が仕事で使っていた車が全焼した状態で見つかった。
 甲府市の会社役員を強盗目的で襲い死亡させた罪で2018年2月に逮捕された武井北斗被告の足跡と、遺体の遺棄現場に残された足跡が似ていることが判明。さらに防犯カメラの映像や携帯電話の通信履歴から武井被告らが現場にいたことがわかった。2018年1月に東京都武蔵野市で別の強盗傷害事件を起こして武井被告とともに起訴されたW被告が、山梨、長野両県警の任意の事情聴取に対し、武井被告とともに男性の遺体を遺棄したことを認めた。
 山梨、長野県警の合同捜査班は2018年5月31日、横山被告とN被告を逮捕した。6月1日、武井被告を逮捕した。6日、W被告を逮捕した。さらに数日前に貴金属買取店などを下見していたとして強盗予備容疑で28日までにK被告(別事件の強盗致死他で起訴済み)を再逮捕した。

 他に武井被告、K被告、横山被告、N被告は2016年11月20日午後11時半ごろ、甲府市内のガソリンスタンドの事務所に侵入し、売上金など現金13万8千円が入った耐火金庫1台(1,000円相当)を盗んだ。同21日午前1時55分ごろ、同市内の車両整備会社の事務所に侵入し、金庫をこじ開けようとして失敗した。
裁判所
 最高裁第二小法廷 菅野博之裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年9月24日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 強盗殺人などに問われたW被告は2018年11月30日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役30年(求刑同)判決。量刑については、共犯者の指示を受けて犯行に及び、警察に出頭して捜査に協力したとして酌量の余地があるとした。2019年5月9日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 強盗致死などに問われたN被告は2018年12月14日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。2019年6月14日、東京高裁(中里智美裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 別の事件で強盗致死などに問われたK被告は2019年2月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役28年(求刑懲役30年)判決。控訴せず、確定。
 主犯とされる武井北斗被告は、詐欺罪1件について6月24日から区分審理され、有罪判決が言い渡された。裁判員裁判の開始は9月10日から。

 2019年1月28日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2019年6月20日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
笹井政輝(37)
逮 捕
 2017年5月19日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人他
事件概要
 住所不定、無職の笹井政輝被告は、知人男性被告と共謀。2017年5月9日、広島市安佐北区に住む笹井被告の伯父で独り暮らしのアルバイト作業員男性(当時67)方に入り、笹井被告がハンマーで頭などを殴り、男性被告が両手足を結束バンドで縛るなどして金品を奪った。さらに笹井被告は包丁で頭や胸を何度も刺して殺害したうえ、現金およそ9万円の入った財布や車、腕時計などを奪った。
 別の窃盗事件で滋賀県警に捕まった男性被告が、本事件を供述。13日、広島県警安佐北署員が男性宅を訪れて遺体を発見した。15日、富山市のショッピングセンター駐車場で男性の車が発見された。広島県警は17日、笹井被告を強盗殺人容疑で全国指名手配。19日、大津市の知人女性宅にいた笹井被告を逮捕した。20日、強盗殺人容疑で知人男性被告を逮捕した。
 6月8日、広島地検は笹井被告を強盗殺人容疑で起訴。知人男性被告は殺意はなく、殺害の実行行為を行っていないとして、強盗致死容疑で起訴した。
裁判所
 広島高裁 多和田隆史裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年9月26日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 被告側は一審同様、物を奪うために殺害しておらず強盗殺人ではなく殺人と窃盗の罪にとどまると主張した。
 判決で多和田裁判長は、「一審の判決に不合理な点はなく、刑を軽くする事情は見当たらない」として控訴を棄却した。
備 考
 知人男性被告は2019年1月22日、広島地裁(冨田敦史裁判長)の裁判員裁判で懲役12年判決(求刑懲役15年)が言い渡された。控訴せず確定。

 2019年3月15日、広島地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2020年に上告取下げ、確定。

氏 名
佐竹秀樹(32)
逮 捕
 2017年3月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人他
事件概要
 長崎県佐世保市の露天商アルバイト、佐竹秀樹被告は2017年11月10日午後7時半ごろ、佐世保市にある廃業した自動車解体会社で、元経営者の男性(当時66)から借りた15万円の返済を免れようと、包丁で背中と首を刺すなどして殺害し、事務所内にあった現金約150万円を奪った。男性は5年ほど前に廃業したが、車を担保にした金銭の貸し付けや自動車保険の代理業務を個人的に営んでいた。男性はハトレースが趣味で、会社の敷地内で知人らとハトを飼っており、当日もハトの世話をしていた。
 同日午後8時半ごろ、敷地内の未舗装の地面に血を流してあおむけに倒れている男性を、訪れた知人男性が見つけた。
 長崎県警は11日、佐竹被告を強盗殺人容疑で逮捕した。
裁判所
 福岡高裁 鬼澤友直裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年9月27日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 弁護側は「心神耗弱状態だった可能性がある」と主張した。
 判決で鬼澤裁判長は鑑定医の意見を踏まえ、「目的を実現するため合理的な行動をとっていた。極めて自己中心的で利欲的な動機」だと刑事責任能力に問題はないと判断した。
備 考
 2019年3月15日、長崎地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2020年2月17日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
少年(19)
逮 捕
 2018年3月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、窃盗、自動車運転死傷行為処罰法違反(無免許過失運転致傷)他
事件概要
 千葉県茂原市の無職少年B被告(事件当時18)は、同市内のアパートで同居する土木作業員の少年A被告(当時18)、無職少年C被告(当時17)と共謀。2018年2月26日午前1時15分ごろ、同市に住む女性(当時85)宅に侵入。寝室で女性を床に押し倒して殴ったり首を絞めるなどして現金約12,000円を盗み、包丁で首を3回刺して殺害した。
 女性は長女と同居していたが入院したため1人で生活。近くに住む長男夫婦が頻繁に訪れていた。
 26日午前8時55分ごろ、長男の妻が倒れている女性をみつけ、119番通報。3月2日、捜査本部は少年3人を強盗殺人と住居侵入の疑いで逮捕した。
 千葉地検は3月19日、少年A被告と少年C被告を千葉家裁に送致した。同家裁は同日、2週間の観護措置を決定した。23日、少年B被告を千葉家裁に送致した。家裁は同日、2週間の観護措置を決めた。4月3日までに千葉家裁は少年A被告に対し、2週間の観護措置延長を決定した。千葉地検は同日、少年B被告と少年C被告を別の窃盗事件で再逮捕した。千葉家裁は4月13日、少年A被告を検察官送致(逆送)とする決定をした。千葉地検は20日、強盗殺人罪などで少年A被告を起訴した。
 県警捜査3課は6月7日、茂原市を中心に2017年12月~2018年3月に相次いだ窃盗事件約50件に関与したとして、少年B、少年Cを含む同市などの17~19歳の少年5人を窃盗などの容疑で逮捕・送検したと発表した。そのうち少年B被告と少年C被告は事件前日の2月25日未明から早朝にかけて、盗み目的で女性方に侵入し金品を物色していた。千葉家裁は6月29日、少年B被告と少年C被告を検察官送致(逆送)とする決定を出した。千葉地検は7月6日、2人を強盗殺人や住居侵入などの罪で起訴した。
 他に少年B被告は、2018年2月16日午前、市川市の国道で乗用車を無免許運転し、交差点で停止中のワンボックス車に追突。運転していた30歳代男性にけがを負わせるなどした。
裁判所
 千葉地裁 川田宏一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年10月2日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判の審理の長期化を防ぐため、裁判官のみによる区分審理が先行して進められた。
 2019年8月20日、千葉地裁は無免許過失運転致傷について有罪とする部分判決を言い渡した。

 裁判員裁判。
 9月17日の初公判で、少年B被告は「殺すつもりはなかった」と殺人の共謀など起訴内容を一部否認した。
 冒頭陳述で検察側は、女性が寝室で身動きできない状態にされる中、少年B被告が首の絞め方を指示し、ためらう少年A被告にとどめを刺すよう命じたと指摘。弁護側は、少年A被告が女性を刺したことが少年B被告にとって想定外の事態で「止めるいとまがなかった」と反論した。
 25日の論告で検察側は、「早く殺せ」という発言やナイフを手渡した行為が少年A被告の殺害行為に影響を与えたとし、争点となる殺人の共謀があったと主張。「犯行は残忍で悪質。強盗も計画的だった」と非難した。
 同日の最終弁論で弁護側は、3人の人間関係から少年A被告、少年C被告の供述の信用性を問い、少年B被告がナイフを手渡した事実はないと反論。仲間が刺したのは想定外の事態で「止めるいとまがなかった」と述べて殺害の意思も否定し、成立するのは強盗致死の罪と訴えた。
 判決で川田裁判長は、弁護側が疑問視した仲間2人の証言について「相互に信用性を高め、事実経過に整合する」とした上で「強盗の計画段階から積極的に関与している。殺害を強く促して凶器を受け渡すなど主導的役割だった」と説明。女性を刺した少年A被告と「意思を通じ合ったと推認される」として殺人の共謀を認め、弁護側の主張を退けた。量刑理由では「被害者の恐怖心や無念さは計り知れない」などと述べ、今回の犯行以外に侵入盗を繰り返した点も厳しく批判。区分審理により、すでに自動車運転処罰法違反(無免許過失傷害)などの罪で受けた有罪の部分判決と合わせ、「有期懲役刑を選択する事案とは認められない」と結論付けた。
備 考
 少年A被告は2019年1月24日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2019年6月27日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 少年C被告は2019年5月31日、千葉地裁の裁判員裁判で懲役20年判決(求刑無期懲役)。殺人について「共謀していなかった」と判断して適用せず、強盗致死を適用した。被告側控訴中。

 被告側は即日控訴した。2020年6月3日、東京高裁で被告側控訴棄却。2020年12月16日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
芥川誠(60)
逮 捕
 2016年10月14日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 愛知県北名古屋市の無職、芥川誠被告は2016年8月26日、当時交際していた女性の友人だった、一宮市のパート従業員の女性(当時62)宅を訪れ、女性の首をひもで絞めるなどして殺害、指輪など47点(時価約298万円相当)と現金2,000円、商品券15枚(計15,000円分)を奪った。殺害された女性は20年以上前に夫を亡くし、その際に高額の遺産や保険金を受け取っていたとみられ、独り暮らしだった。芥川被告は交際していた北名古屋市の女性宅に転がり込み、交際女性を通じて被害者女性と知り合った。
 8月30日午後、夫の法要で女性宅を訪れた近所の寺の副住職が遺体を発見。首に圧迫した痕があったことから県警は殺人事件と断定し、捜査を進めた。10月14日、芥川誠被告を強盗殺人の疑いで逮捕した。
裁判所
 名古屋地裁 斎藤千恵裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年10月7日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年9月9日の初公判で、芥川誠被告は「殺害は間違いないが、強盗は一切やったつもりはない」と起訴内容を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で芥川被告について「家賃滞納や自動車の購入代金などの支払いを先延ばししていたなどその場しのぎの生活を続けていた」とし、「支払いに窮し、顔見知りだった女性から金品を奪う意図で計画的に殺害した」などと指摘した。弁護側は、指輪や商品券などは事件前に女性から譲り受けたり、芥川被告が借りていた車に女性が置き忘れたりしたものだと主張。犯行直前の口論が事件の原因として、強盗殺人罪ではなく殺人罪の適用を訴えた。
 10月1日の論告で検察側は、「女性の健忘禄や家計簿に記録がなく、供述は信用できない」と被告側の主張を否定。無職の被告が高級中古車の購入契約など無謀な買い物をし、支払いに追い詰められていたと指摘。さらに中古車の購入代金支払いなどを事件当日まで何度も延期していた芥川被告が、事件翌日に貴金属や商品券を換金し支払いに充てたとして、「貴金属を多数保有していた知人女性を狙い、金品を奪う目的で殺害した極めて悪質な犯行だ。金を奪うためなら人を殺してもいいという非人間的な思考がみえる」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「貴金属は女性から譲り受けた。口論の末の突発的な殺人で、強盗目的はない。殺人罪の適用で、懲役15年程度が相当だ」とした。
 判決理由で斎藤裁判長は、芥川被告が事件前に買取店を訪れ、貴金属を売りに来ると伝えていることなどから「強盗の計画性は明らか」とした。そして「交際女性らの年金に頼る生活をしながら、中古車2台を購入して多額の債務を自ら背負い、支払いに迫られる中で犯行に及んだ。身勝手きわまりない動機。人命軽視の態度が甚だしい利欲的で凶悪な犯行だ。公判では被害者に責任転嫁するなど、反省がうかがえない」と述べた。芥川被告の貴金属を譲り受けたという主張については、「ほぼ面識のない被告に高額な貴金属を譲るのは不自然だ」と退けた。
備 考
 被告側は控訴した。2020年1月30日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。

氏 名
落合和子(44)
逮 捕
 2015年4月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄
事件概要
 栃木県足利市の化粧品販売員、落合和子被告は2015年3月25日、知人で群馬県板倉町に住む40代の女性会社員と共謀し、群馬県内かその周辺で、足利市に住む同業他社の化粧品販売員で知り合いの女性(当時84)の首を絞めるなどして殺害。現金約50万円を奪い、群馬県館林市の川に遺棄した。被害者の女性は落合被告と会う前に自分の口座から現金50万円を下ろしていた。また、女性会社員も自分の預金数十万円を下ろしていた。落合被告は消費者金融などから数百万円の借金があり、奪った金を含む約94万円を同日と翌日、借金の返済に充てていた。
 4月2日、被害者の女性と同じ日に行方不明になった女性会社員の車が千代田町の駐車場で見つかり、車内に被害者の血が付着した衣服や指輪が残されていた。
 4月15日、館林市日向町の多々良川で被害者の遺体が発見された。遺体は頭に枕カバーのような布袋がかぶせられ、首にマフラーのようなものが巻かれていた。翌日、県警が館林署に捜査本部を設置し、被害者を司法解剖するも、死因は特定されなかった。
 6月26日、千葉県我孫子市の利根川で女性会社員の遺体が発見された。7月8日に身元が判明した。死因は水死だった。
 2018年1月24日、群馬県警は死体遺棄容疑で落合被告を逮捕。2月14日、強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 東京高裁 青柳勤裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年10月10日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2019年9月12日の控訴審初公判で、弁護側は一審に続き、落合被告を侮辱されたことに知人女性が腹を立て、単独で被害者を殺害したと主張。落合被告は金に困っておらず、殺す動機、証拠はないと強調した。そして強盗殺人罪の無罪を主張、死体遺棄罪のほう助にとどまるとした。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で青柳勤裁判長は「借金の返済に充てる現金を必要としており、金品を奪う目的で殺害する動機があった」と判断し、知人女性との共謀を認定した一審判決を支持した。
備 考
 2018年12月21日、前橋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2020年3月3日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
O・M(24)
逮 捕
 2015年1月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火未遂、器物損壊、火炎びん処罰法違反(製造)
事件概要
 宮城県仙台市出身で2014年当時名古屋大学在学中の女子学生O・M(当時19)は、子供のころから殺人願望が強く、中学の頃から刃物を持ち歩き、友人宅で猫にはさみを突きつけた。高校では、風邪薬を大量に服用し薬の効き目を自ら試して体調を崩したり、複数の化学物質をカードで購入していた。大学入学後には、ツイッターで殺人願望を想起させる投稿を始めていた。
 2012年5月ごろ、Mが複数の化学物質を購入していることを不審に感じた父親が、Mを連れて警察署を訪れていた。Mは水酸化ナトリウムなど3種類の化学物質を持参し、「実験のため」と説明。署員は事件性はないと判断し、「危険な用途に使わないように」と注意して帰していた。
 Mは2012年以降、以下の事件を起こした。
  1.  2012年5月27日ごろ、高校2年だったMは仙台市のカラオケ店で、中学時代の同級生だった女性のソフトドリンクに硫酸タリウムを混ぜて飲ませた。女性は当時、末梢神経障害のほか、腹痛や脱毛などの症状があり、約9か月間治療を受けた。
  2.  2012年5月28日と7月19日の2回、通っていた私立高校の教室で、同じクラスの生徒だった男性が持参したペットボトルに耳かきで硫酸タリウムをそれぞれ0.8g、0.4g混入して飲ませた。教室に誰もいない時、たまたまペットボトルがあったので混ぜたものだった。男性は、手足の痛みなどを伴う末梢神経障害のほか、両目視力が急激に低下するなどして10月に入院。2013年7月に男子性は復学したものの視力障害が残り、2014年3月、特別支援学校に転校を余儀なくされた。
     男子生徒は2013年2月、地元警察に被害届を提出。不審人物としてMの名前を挙げ、「他の生徒に白い粉をなめさせていたのを見たことがある」と捜査員に話した。この情報は署の課長(当時)まで把握していたが、タリウムの購入履歴の捜査や高校への聞き取りで女子学生の名前が浮上しなかったことから、女子学生の聴取は行われなかった。
     私立高校でMは「危険な白い粉」と校内で見せびらかしており、一部の教職員や生徒の間では当時から「(Mが)毒物を持っているのではないか」との噂があった。高校側はMに厳重注意をしていた。しかし高校側はタリウム混入事件後、在校生への聞き取りや情報提供を求めることをせず、消極的な姿勢に終始した。校長は2013年7月ごろ、「男子生徒が復学します。彼は原因を言いたがっていますが、取り合ってはいけません」と教職員に指示し、Mの件について事実を伏せていた。
  3.  2014年8月30日、宮城県内の実家でペットボトルに灯油を入れて新聞紙を差し込み、火炎瓶1本を製造、同日午前2時50分ごろ、宮城県に住むパート女性(当時66)宅の縁台に点火した火炎瓶を置き、炎が窓を損壊した。近所の人が気付き、住人が消し止めた。Mは妹の同級生である知人を殺そうとしたが、パート女性は名字が同じだったため、家を間違えた。ただしその知人とはほとんど接点はなかった。
  4.  M(事件当時19)は、2014年12月7日午後3時ごろ、昭和区にあるアパートの1階の自室で、千種区に住む女性(当時77)の頭を手おので数回殴り、マフラーで首を絞めて殺害した。手おのは中学生の時に購入したもので、大学入学後は名古屋市の自宅アパートに持ち込んでいた。
     女性は宗教の勧誘で10月中旬から下旬ごろにMと知り合い、事件当日午前、女性は昭和区での宗教団体の勉強会に、Mを連れて参加。勉強会は昼ごろに終了したが、Mが「いろいろ質問したいことがある」と話し、女性と昼食に行った。午後3時ごろ、Mは女性を自室に連れて行き、事件を起こした。
  5.  2014年12月13日午前3時25分ごろ、3の事件の被害者の女性宅の玄関ドアの郵便受けから可燃性の高い液体「ジエチルエーテル」と、着火したマッチを投げ入れて放火、屋内の3人を殺そうとした。女性が物音に気付き、すぐ消火したため、玄関の一部を焼いただけだった。けが人はなかった。ジエチルエーテルは大学入学後、インターネットで購入していた。
 4の事件の被害者は毎週日曜に外出し午後3時半ごろ帰宅する習慣だったが、帰宅しなかったため、不審に思った夫(当時80)が夜に千種署に届け出た。Mは翌日から宮城県の実家に帰省していたが、2015年1月26日夜に名古屋に戻ってきた。この日は遺体のある自室で寝ている。捜査本部は27日朝から千種署で事情聴取。その際、部屋を見せることを拒んだため、署員らがアパートまで同行し、午前9時40分ごろ、女性の遺体を発見した。Mが殺害を認めたため、殺人の疑いで緊急逮捕した。
 Mはこの後、名古屋大学を退学した。
 名古屋地検は2月10日付で刑事責任能力の有無を調べるための鑑定留置を名古屋簡裁に請求し、認められた。期間は2月12日から5月12日まで。
 愛知、宮城両県警合同捜査本部は5月15日、宮城県の私立高校在学時、中学時代や高校での同級生の男女2人に劇薬「硫酸タリウム」を飲ませて殺そうとしたとして、Mを殺人未遂容疑で再逮捕した。
 合同捜査本部は6月5日、Mが事件後に帰省した際、宮城県内で住宅に放火したとして殺人未遂と現住建造物等放火の疑いで再逮捕した(起訴時、放火未遂に変更)。6月11日には別の放火における器物損壊等で追送致した。
 名古屋地検は6月16日、殺人や殺人未遂、現住建造物等放火などの非行事実でMを名古屋家裁に送致した。地検は検察官送致(逆送)を求める「刑事処分相当」の意見を付けた。家裁は同日、2週間の観護措置を決定した。後に2週間、延長された。
 6月19日、宮城県警の横内泉本部長は記者懇話会で、「やるべき捜査はやった」と話し、当時の捜査に問題はなかったとの認識を示した。
 7月3日、名古屋家裁は観護措置を取り消して8月31日まで鑑定留置し、精神鑑定することを決めた。家裁は8月31日、鑑定留置を解き、改めて9月9日までの観護措置とした。後に23日、さらに10月7日まで延長された。
 名古屋家裁は9月29日、少年審判を開き、六つの非行内容を認定し、検察官送致(逆送)すると決定した。岩井隆義裁判長は決定理由で、Mが殺害の動機について「人が死ぬ過程を観察したかった」などと供述したことに対し「自らの好奇心を満たすための実験として行われ、酌量の余地はなく、犯行態様は極めて残虐」などと指摘。また、殺人以外の非行内容は「一連の流れの中で行われた犯行で、殺人と切り離して扱うことは相当でない」とした。その上で、精神鑑定結果を踏まえ、「他者の気持ちを理解することができない、特定の物事に異常に執着するという精神発達上の障害があった」と認定。しかし「責任能力に問題はなく、障害の影響は限定的で、原則通り逆送の決定が相当」と判断した。
 名古屋地検は10月8日、Mを殺人や殺人未遂などの罪で名古屋地裁に起訴した。
 2016年3月29日、名古屋地裁で公判前整理手続きが始まった。夏以降、名古屋地裁が弁護側請求で裁判員法に基づく鑑定実施。検察側請求で補充鑑定も実施。2017年1月10日、手続きが終了した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 林景一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年10月15日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 裁判官4人全員一致の意見。
備 考
 『週刊新潮』は2015年2月5日発売号で、女子学生の顔写真と実名を掲載した。
 Oは未成年時の事件で起訴されているが、名古屋家裁の検察官送致(逆送)決定を受け、名古屋地検が起訴した時点で既に成人になっていた。少年法は未成年の刑事裁判について、有期懲役・禁錮の期間に幅を持たせる不定期刑や、少年院送致などの保護処分が相当と判断した場合の家裁移送などを定めるが、成人になって刑事裁判を受けた場合は適用されない。一方で少年法は、未成年時の犯罪に関し本人が特定できる報道を禁じている。初公判でもOの名前は呼ばれず、名古屋地裁はプライバシーに配慮して傍聴者の手荷物検査を厳しくした。弁護側はOが傍聴席から見えないようについたてを立てるなどの遮蔽措置を要請したが、地裁は退けて一般の被告と同様の扱いにした。
 『週刊新潮』は2017年2月8日と23日発売号で、元女子学生の顔写真と実名を掲載した。日本弁護士連合会は2月24日、「少年法に反する事態で極めて遺憾だ」とする中本和洋会長名の声明を発表した。週刊新潮編集部は「事件の残虐性と重大性にかんがみ掲載した。反省や謝罪の念はうかがえず、実名報道する意義があると考えた」とのコメントを出した。

 2017年3月24日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年3月23日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
山野輝之(45)
逮 捕
 2013年8月9日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要
 埼玉県志木市の会社員、山野輝之(当時の姓荒木)被告は2008年12月3日午前5時過ぎ、妻(当時33)と次女(当時4)、長男(当時12)の3人を殺害する目的で、当時住んでいた志木市の自宅木造三階建てに放火して全焼させ、長男は逃げて無事だったが、3階で寝ていた妻と次女が一酸化炭素中毒で死亡した。長女は別居していた。
 埼玉県警は火災の再現実験を重ねるなど捜査した結果、失火の可能性が否定され、火の気のない室内に放火されたとみられることが判明。さらに、外部から人が侵入した形跡がないことも分かった。出火当時、山野被告は「外出していた」と説明していた。山野被告は火災前、別の女性と交際し、妻に離婚を求めて8月に家裁に離婚調停を申し立てていた。火災後、山野被告は再婚して志木市のマンションに暮らしていた。
 埼玉県警は燃焼実験の結果、漏電などによる失火の可能性は低いと判明したことから、放火とみて捜査。2013年8月9日、殺人他の容疑で山野被告を逮捕した。
裁判所
 さいたま地裁 北村和裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年10月31日 無期懲役
裁判焦点
 一審さいたま地裁は、燃焼実験の結果と防犯カメラの映像などから「被告の外出後に放火された可能性がある」と無罪を宣告。二審東京高裁は、実験が当時の状況を正確に再現していたとは言えないとし、「被告を犯人と認めることに合理的な疑いがあるとした一審判決は事実認定を誤っている」と審理を差し戻した。最高裁が弁護側の上告を棄却して差し戻しが確定した。

 2019年10月4日の差し戻し裁判員裁判の初公判で、山野被告は「やっておりません」と改めて無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、交際中の別の女性との再婚を望んでいた山野被告が、離婚協議が進んでいなかった妻ら家族を殺害するために放火したと指摘。「妻の体内からは睡眠導入剤が検出されており、事件当時は寝ていた可能性がある」とも述べ、被告以外に放火はできないとした上で、「残忍な犯行で動機も身勝手だ」と指弾した。弁護側は、精神的に不安定で山野被告との関係やパニック症状などに悩んでいた妻が放火したと主張し、山野被告の無罪を訴えた。
 23日の論告で検察側は「妻には子どもを巻き込んで自殺する動機がなく、火が拡大するために工夫が必要な今回の火災を起こすことは不可能」と指摘。不倫相手との再婚を望んだ被告が、再婚の障害になる妻子を殺害しようと考えて犯行に及んだとして「動機も身勝手で強い非難に値する」と断じた。
 同日の最終弁論で弁護側は「被告に妻子を殺害するほどの強烈な動機は認められず、犯行発覚の可能性もある不確実な方法で放火をするのは不合理」と指摘。「『夫に見捨てられるかもしれない』という不安から妻の病状が悪化し、自ら放火した可能性がある」と無罪を主張した。
 判決で北村裁判長は、弁護側の主張について、精神科医の証言などから否定。さらに「体内から睡眠導入剤が検出されたことから、出火当時は眠っていた可能性が高く、眠っていなかったとしても着火用具を用いて点火するのは困難な状態にあった可能性が高い」と退けた。そして山野被告が火災発生に近い時刻に外出し、別の女性との再婚を望んでいたなどの動機があることから、放火したと認定。「強固な殺意に基づく残虐な犯行だ。動機は身勝手で同情の余地はない」と断じた。
備 考
 2015年3月23日、さいたま地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審無罪判決。2016年7月14日、東京高裁で一審破棄、地裁差し戻し。殺人罪に対する裁判員裁判の無罪判決が破棄されるのは初めてとみられる。2017年2月8日、被告側上告棄却、確定。
 被告側は控訴した。2020年12月11日、東京高裁で被告側控訴棄却。2021年10月12日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
武井北斗(26)
逮 捕
 2018年2月10日
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、強盗致死、強盗致傷、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、詐欺
事件概要
 神奈川県厚木市の無職武井北斗被告は以下の事件を起こした。
  1.  武井北斗被告は山梨県甲斐市のアルバイト、K被告と共謀。金品を奪う目的で2016年8月17日午後10時15分ごろ、甲府市に住む一人暮らしの会社役員の男性(当時73)方の掃き出し窓を割って侵入し、男性の首や腹部に暴行を加えて腹腔内出血に伴う出血性ショックで死亡させた。さらに警報装置が作動して駆けつけた警備員の男性(当時34)を凶器で殴って2週間のけがをさせた。武井被告とK被告は甲府市内の小学校の同級生だった。
  2.  武井被告、K被告、静岡県御殿場市のクレーンオペレーターY被告、山梨県甲斐市の建設作業員N被告は2016年11月20日午後11時半ごろ、甲府市内のガソリンスタンドの事務所に侵入し、売上金など現金13万8千円が入った耐火金庫1台(1,000円相当)を盗んだ。
  3.  武井被告、K被告、Y被告、N被告は2016年11月21日午前1時55分ごろ、同市内の車両整備会社の事務所に侵入し、金庫をこじ開けようとして失敗した。
  4.  武井被告は、Y被告、甲府市の土木作業員W被告、N被告と共謀。山梨県昭和町の貴金属買取店の金品を奪おうと計画した。
     2016年11月26日午後9時ごろ、甲州市に住む貴金属買取店店長の男性(当時36)宅に武井被告、Y被告、W被告が2階の窓や玄関から侵入して待ち伏せ。N被告が会社から帰宅する男性を尾行。帰宅した男性の頭や胸などを棒状の物で強打して殺害し、店の鍵1束と乗用車1台(約503,000円相当)などを奪った。27日未明、長野県南佐久郡南牧村の畑で男性の遺体を畑の所有者の重機を使い、遺体を埋めた。さらに4被告は27日午前3時ごろ、男性が店長を務めていた昭和町の貴金属買取店に侵入。商品の貴金属を奪おうとしたが、警備システムが働いて警備員が駆け付けたため、何も取らずに逃走した。
     武井被告は少年のころ、この貴金属買取店に盗品を持ちこみ、通報されて検挙されたため恨みがあった。
     同日午前、男性の遺体が畑で見つかり、畑から約2km離れた村道脇では、男性が仕事で使っていた車が全焼した状態で見つかった。
  5.  武井被告、K被告、N被告、川崎市のアルバイトS被告は2017年4月10日午後7時10分ごろ、甲府市の質店駐車場で店から出てきた30代の女性を従業員と勘違いし、金庫のカギを奪う目的で女性を車に押し込み暴行し、けがを負わせた。勘違いに気づき、女性を近くの路上で解放した。
  6.  武井被告、K被告、N被告、S被告は2017年4月11日午前3時10分ごろ、南アルプス市の会社事務所に侵入し、現金80万円などが入った耐火金庫1台(15万円相当)を盗んだ。
  7.  武井被告らは2017年11月、架空の民事訴訟をかたった電話詐欺で、兵庫県の70代女性から400万円をだまし取った。武井被告は受け子役だった。
  8.  武井被告はW被告、笛吹市の建設作業員H被告とともに2018年1月10日未明、東京のJR吉祥寺駅近くの駐車場で男性(当時60)の顔を殴り鼻などを骨折させ、現金46万円が入ったトートバッグを奪った。
 1の事件で山梨県警は、周辺の防犯カメラの映像や、現場に落ちていたたばこの吸い殻や髪の毛からのDNA型鑑定などで武井被告、K被告を特定。2018年2月10日、強盗致死傷容疑で2人を逮捕した。
 W被告は武井被告の逮捕を知り、2月17日に県警へ出頭。犯行を自供した。3月15日、8の事件で武井被告を再逮捕、W被告とH被告を逮捕。
 1の事件で残された武井北斗被告の足跡と、4の事件で遺体の遺棄現場に残された足跡が似ていることが判明。さらにW被告が、山梨、長野両県警の任意の事情聴取に対し、武井被告とともに男性の遺体を遺棄したことを認めた。山梨、長野県警の合同捜査班は2018年5月31日、Y被告とN被告を逮捕した。6月1日、武井被告を逮捕した。6日、W被告を逮捕した。さらに数日前に貴金属買取店などを下見していたとして強盗予備容疑で28日までにK被告を再逮捕した。
 7月5日、2と3の事件で武井被告、Y被告、N被告、K被告を再逮捕。8月20日、5の事件で武井被告、K被告、N被告を再逮捕するとともに、S被告を逮捕。
裁判所
 甲府地裁 横山泰造裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年11月8日 無期懲役
裁判焦点
 2019年6月24日、6の事件の詐欺罪における区分審理の初公判が甲府地裁で開かれ、武井被告は罪状認否で「詐欺をやっていないです」などと述べた。弁護側は武井被告が、詐欺組織の見張りを脅して受け子をさせ、その後に現金を奪い取ったとして詐欺罪は成立しないと、無罪を主張した。検察側は、武井被告が受け子としてだまし取った400万円を共犯者1人とともに持ち逃げしたと説明した。
 7月19日、甲府地裁は有罪の部分判決を言い渡した。

 強盗殺人他の容疑については裁判員裁判が行われた。
 2019年9月10日の初公判で、武井北斗被告は強盗殺人や強盗致死の両事件について「覚えていないです」と述べ、弁護側は「事件に関与していない」と主張した。男性殺害後、男性が店長を務める貴金属買い取り店への窃盗未遂の罪も否認した。5の事件では、金品を奪う目的を否定して強盗致傷罪の成立を争い、7の事件では「報酬はもらっていない」と述べ、強盗致傷罪の幇助犯にとどまると主張した。このほかに起訴された窃盗や窃盗未遂罪については起訴内容を認めた。
 最初に1の事件について審理が行われた。検察側は冒頭陳述で、武井被告の母親が男性方でかつて家事代行をしていたことや、犯行当時の被告は暴力団に所属し、資産家の男性から金品を奪おうと計画を立て、幼なじみのK受刑者を誘ったと指摘した。弁護側は冒頭陳述で、武井被告は、男性宅への侵入も暴行も覚えがなく、事件への関与はなかったと主張。K受刑者や目撃者の証言の信用性、現場の遺留物の鑑定結果についても争い、検察側の立証の不十分さを明らかにしていくとした。検察側は証拠調べの中で、武井被告のスマートフォンアプリの位置情報から、武井被告が犯行時間帯に男性宅付近にいたと指摘。武井被告の車から押収したドライブレコーダーの映像も公開し、運転する武井被告とみられる人物が事件前、K受刑者に電話をかけ、強盗の段取りを話し合い、「殺しちゃっても大丈夫」などと話している音声も流れた。
 12日の第2回公判で、現場に残された毛髪のDNA型鑑定を担当した県警科学捜査研究所の研究員が出廷し、このうち毛髪1本のDNA型が武井被告のものと同一と認定して「矛盾はない」と証言した。襲われた警備員の男性も証人として出廷。男性を助けようとして鎌を持った男2人に襲われたと証言するも、いずれも顔を布のようなもので覆い、目元だけ出していたため「顔はわからない」と話した。また「ヘルメットがなければ殺されていた。厳罰を下してほしい」と語った。
 13日の第3回公判でK受刑者が出廷。事件への関与を認め、共犯者の存在について「(武井)被告人です」と証言。K受刑者は事件当日、武井被告から電話で強盗の提案を受けたと明らかにした。K受刑者は廃品業者を装って男性の自宅を訪れ、その隙に武井被告が窓から侵入し、男性に跳び蹴りをした、とも説明。「武井被告が男性の顔を踏みつけ、胸や腹に殴る蹴るの暴行をしていた」とした。
 17日の第4回公判で被告人質問が行われ、武井被告のドライブレコーダーに残っていた男性宅に向かう途中とされる事件当日の映像や音声、携帯電話の位置情報が、被害者男性宅付近を示したとする点については、「覚えていない」と繰り返した。検察側は「なぜ『やっていない』と答えないのか」と指摘。共犯とされるK受刑者が武井被告の関与を証言したことへの反論や遺族に対する謝罪の意向を尋ねたところ、武井被告は「黙秘します」と述べた。
 18日の第5回公判で1の事件についての論告と弁論が行われた。検察側は論告で、ドライブレコーダーの記録や毛髪など客観的な証拠があると説明。共犯とされるK受刑者の証言からも「武井被告が犯人であることは疑いようがない」と主張した。弁護側は弁論で「記憶していない以上、関与したとは認められず、無罪だ」と主張。K受刑者の証言は信用性に欠けるとし、携帯電話やドライブレコーダーの位置情報は、家に侵入した犯人であると断定することはできないとした。
 27日の第6回公判から、4の事件についての審理が始まった。検察側は冒頭陳述で、武井被告がY被告とともに店の金品を奪う目的で事件を計画したと主張した。検察側は被害者を畑に埋めるために油圧シャベルのありかを知人に尋ねたり、暴行時には首を絞めたりしたと指摘。また、武井被告が2013年に被害者が勤務していた店に盗品を持ち込み、被害者の通報によって警察に逮捕されるなどしたことも説明した。弁護側は、被害者への暴行や殺害などについて、武井被告が「覚えていない」と話していることや「防犯カメラや通話履歴、足跡からも犯人が被告だとは証明されていない」から、関与は認められないとして無罪を主張した。
 30日の第7回公判で、証人として出廷したW受刑者は事件当日に武井被告から誘われ、帰宅した被害者を棒状の凶器で殴るよう指示されたと説明。南牧村の畑では武井被告が重機を操作し、掘った穴に毛布にくるんだ被害者を埋めたと証言した。事件後には「『警察が来ても黙っていれば大丈夫』と口止めされた」と語った。武井被告の知人男性も出廷。事件当日に武井被告から電話があり、重機のありかなどを聞かれたとし、「重機の場所は使われたら嫌だったので伝えなかった」と話した。
 10月1日の第8回公判で、証人として出廷したN受刑者は事件6日前の2016年11月20日、武井被告に誘われ、被害者襲撃に加わったが失敗し、武井被告から自宅を突き止めるよう指示され、割り出したと説明。事件当日も帰宅する被害者を尾行し、武井被告に報告したとし、被害者を畑に埋めた後、貴金属買い取り店に武井被告とともに侵入したと証言した。同20日の計画に参加し、同事件で強盗予備罪を認定されたK受刑者も出廷。事件当日、武井被告から「(20日の)続きをやるぞ」と誘われたとし、「仕事があるから断った」と話した。
 3日の第9回公判で、2013年に武井被告を逮捕した県警の警察官が出廷。警察官は2013年1月、甲府市内のリサイクル店から高級時計10数点が盗まれた窃盗事件を捜査し、周辺の買い取り店に協力を依頼したと説明。すると、被害者から「盗品を売りに来ている」と通報があり、当時、武井被告の逮捕につながったと証言した。
 7日の第10回公判における被告人質問で、弁護側から被害者への暴行や畑に埋めたかなどを問われると「いいえ、ありません」と答えた。「覚えていないという趣旨です」とも話した。共犯とされる男らが「武井被告が関与した」と証言したことに関して、思い出したことがあるかと問われると「ない」とした。事件6日前に計画されたとされる被害者襲撃への関与も否定。一方、その日に発生した窃盗、窃盗未遂事件の関与は認め、金庫を開けたことなどを説明した。検察側は、共犯とされる男らの証言への反論、人を殺して埋めたとされることへの主張などを尋ねたが、武井被告は「黙秘します」と拒絶。「軽い罪は認め、重い罪は認めないのか」と指摘したが、「黙秘します」と繰り返した。
 8日の第11回公判で4の事件についての論告と弁論が行われた。検察側は論告で、共犯のW受刑者の武井被告が事件に関与したとする証言について、被害者への暴行や遺体を畑に埋めた時の状況を詳細に説明しているなどとして「客観的な証拠とも合致し、信用できる」と主張。N受刑者の証言も信用できるとして、「武井被告が犯人であることは明らか」と訴えた。弁護側は弁論で、改めて無罪を主張。武井被告は、被害者への暴行、殺害、鍵の強取などの行為に覚えがなく、W受刑者が証言した凶器も発見されていないと指摘。「関与したとする客観的な証拠はなく、覚えがない出来事で処罰されるべきでない」とした。
 15日の第12回公判で5の事件についての審理が始まった。武井被告の弁護側は、関与を認めた上で、金品を奪う意図はなかったとして傷害罪の適用を主張した。共犯のN受刑者が証人として出廷。N受刑者は武井被告に誘われたとし、犯行前に武井被告から「店員を襲って鍵を奪い、警備の解除方法を聞き出す」との説明を受けたと証言した。
 16日の第13回公判における被告人質問で、武井被告は「情報元から質店の情報を仕入れ、(共犯とされる)3人を誘った」と説明。「従業員を拉致してから店に連れて行き、金庫の情報を聞いて、店の金を奪う計画だった」などと話した。一方、検察側の質問に対しては「黙秘します」と受け付けなかった。
 18日の第14回公判で5の事件についての論告と弁論が行われた。検察側は論告で、武井被告らが従業員と勘違いして襲った女性から鍵を奪う目的があったと主張。武井被告の説明も鍵の奪取だけを否定したに過ぎず、実質的に強盗目的を認めているとした。弁護側は鍵を奪う意志はなく、共犯者との間に共謀もなかったとし、傷害罪にとどまると主張した。この日7の事件についての審理も行われ、検察側が共同正犯を主張し、弁護側はほう助犯にとどまるとした。
 21日の第15回公判で、7の事件の共犯2名が出廷。共犯とされる男は、武井被告に対し、容姿や車種、駐車場所など被害者に関する情報を提供したと説明。「具体的な指示はしていない」と証言した。
実行役とされる男は、武井被告から「殴ってもいいから絶対奪ってこい」と指示を受けたと証言した。武井被告はこの事件で逃走経路などを確認した上で、近くに止めた車内で待機していたとされている。
 23日の第16回公判で7の事件についての論告と弁論が行われた。検察側は論告で、武井被告が実行犯を誘い入れ、犯行方法を指示するなどの役割を果たしたと指摘。「武井被告なくして犯行は成り立たなかった」と主張した。弁護側は弁論で、共犯とされる情報提供者と実行犯との間の伝達役で、利益も得ていないため、果たした役割は共犯者の手助けに過ぎないとした。
 25日の論告で検察側は、強盗殺人事件について、「金欲しさだけでなく、過去に被害者に盗品の売却を通報されて、少年院送致となったことに対する逆恨みがあった」と動機を指摘。「(貴金属買取店の)鍵を奪うとともに殺害し(遺体を)埋めることまで計画のうちだった」と主張。さらに、「『許してください』との懇願も無視し執拗な暴力で命を奪った」などと指摘し「卑劣、無慈悲、執拗、残虐、冷酷、非道」と非難した。 そして検察側は武井被告について「事件の中心でメンバーを入れ替えながら金を得るために犯行を繰り返した」と指摘。さらに「謝罪の言葉はなく罪と向き合っていない」と述べた。「犯行は卑劣で無慈悲、執拗かつ冷酷に実行され、人としての尊厳も無視した非道なもの」と指摘。「犯罪性向は根深く、更生可能性はない。極刑を回避する理由はない」と死刑を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は強盗殺人、強盗致死などについて、「犯人であるという客観的、直接的証拠はない」と無罪を主張した。弁護側はまた、関与を認めた強盗致傷や窃盗など別の事件については、被告が若いことを踏まえ、「相応の期間、施設内での処遇が必要」と有期刑を求めた。
 武井被告は最終陳述で言いたいことを問われると、「大丈夫です。ありません」と話した。
 判決で強盗致死事件について、武井被告の車に備え付けられたドライブレコーダーに記録されていた「金品財宝をおれの車に積んで」などの音声について武井被告がK受刑者と交わした会話と認定。さらに現場に残された毛髪や足跡痕などを踏まえ、「2人で犯行に及んだことを強く推認できる」と述べた。強盗殺人事件についても、武井被告の指示を受けたというW受刑者の証言の信用性を認めた。強盗殺人事件では「『許してください』と懇願するのを無視して、執拗に暴行を加えた。犯行は悪質」と指摘した。横山裁判長は武井被告について「犯行態様は悪質で、被害者は死に至るまで多大な精神的苦痛を被った。2人の生命が失われるという重大な結果を生じさせた犯罪に主導的に関わっていて、刑事責任は重大だ。公判廷の言動から真摯な反省の情がうかがい難い」と非難した。一方で、「強盗致死事件では殺意はなく、生命侵害に向けた計画性がない。殺害を含む強盗殺人も遺体を埋めるなどの証拠隠滅工作が徹底していないなど計画性が高いとは言えず、重大な暴行に関与したことまでは認められない。事件で経済的利益も結局得られていない」とし、「死刑は究極の刑罰。適用は慎重に行わなければならない。死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるとは言えない」と述べた。
 判決文を読み終えた横山裁判長が「これから一生刑務所で過ごすことになるけれど、被害者のことをよく考えてもらいたいと思う」と述べると、武井被告は軽くうなずいた。
備 考
 強盗殺人などに問われたW被告は2018年11月30日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役30年(求刑同)判決。量刑については、共犯者の指示を受けて犯行に及び、警察に出頭して捜査に協力したとして酌量の余地があるとした。2019年5月9日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 強盗致死などに問われたN被告は2018年12月14日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。2019年6月14日、東京高裁(中里智美裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 強盗殺人などに問われたY被告は2019年1月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で無期懲役(求刑同)判決。2019年6月20日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。2019年9月24日、被告側上告棄却、確定。
 強盗致傷や別の窃盗事件に問われたS被告は2019年2月1日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役4年6月(求刑懲役6年)判決。控訴せず確定。
 強盗致死などに問われたK被告は2019年2月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役28年(求刑懲役30年)判決。控訴せず、確定。
 H被告は不明。

 被告側は控訴した。検察側も控訴した。2020年12月1日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。2021年5月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中野稚也(29)
逮 捕
 2017年12月6日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、昏睡強盗、窃盗他
事件概要
 長崎県諫早市の自営業中野稚也(わくや)被告は、実質経営していたスナックの従業員と共謀。2017年4月8日未明、睡眠薬を混入した酒を飲ませて昏睡状態になった客の男性会社員(当時37)から約3万円を奪い、吐いた物を喉に詰まらせ窒息死させた。
 男性客は事件当日、同じビルの下の階の店にいたところ、アルバイト少女に誘われてスナックに行った。男性客はスナックを数回訪れたことがあった。
 その他、中野被告らは3月26日、スナックで客の男性(当時23)に睡眠薬を混ぜた酒を飲ませて昏睡させた上でキャッシュカードを奪い、近くのコンビニエンスストアの現金自動預け払い機(ATM)で100万円を引き出した。
 3月28日、スナックで客の男性(当時21)に睡眠薬を混ぜた酒を飲ませて昏睡させた上でクレジットカードを奪い、店の端末を使って約10万円を決済した。
 長崎県警は12月6日、強盗致死容疑で中野被告、店長の男性Y被告、従業員の女性、アルバイト少女(当時17)、建設作業員の少年(当時17)ら5人を逮捕した。27日、別の昏睡強盗と窃盗容疑で中野被告ら4人を再逮捕し、1人のアルバイト少女(当時19)を新たに逮捕した。2018年1月17日、別の昏睡強盗事件の容疑で5人を再逮捕した。
 5月8日付で長崎地検は、強盗致死容疑で逮捕されたY被告、従業員の女性、建設作業員の少年について不起訴にした。また1件について中野被告ら4人の昏睡強盗罪についても不起訴にした。
裁判所
 福岡高裁 伊名波宏仁裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年11月22日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 弁護側は共犯者らの供述が変遷しているなどとして事実誤認と量刑不当を主張した。
 判決で伊名波宏仁裁判長は供述について、「信用性に影響を与えるような不合理な変遷にはあたらない」と弁護側の主張を退けた。そして、中野被告を事件の首謀者と認定。量刑についても、多量の睡眠薬を飲ませただけでも危険が高い上、「アルコールに入れ薬理効果を強めさらに危険」とし、「従業員と共謀して各犯行に及んだという認定判断は不合理ではなく、責任は他の共犯者と比べて格段に重い。長崎地裁の量刑が重過ぎて不当であるとは言えない」と結論付けた。
備 考
 3月のこん睡強盗並びに窃盗容疑で起訴された元店長のY被告は2018年5月18日、長崎地裁(小松本卓裁判官)で懲役3年6月判決(求刑懲役6年)。控訴せず確定。
 強盗致死容疑で逮捕されたアルバイト少女は、同非行内容で長崎家裁に送致された。
 強盗致死容疑で逮捕され不起訴となった従業員の女性に対し、中野稚也被告は不当と長崎検察審査会に訴えた。2019年4月24日付で長崎検察審査会は「昏睡強盗の共犯であることを自覚しており、加担した犯罪行為により尊い人命が失われている」などとして「不起訴不当」の議決をした。

 2019年5月23日、長崎地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2020年3月18日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
礒飛京三(44)
逮 捕
 2012年6月10日(現行犯逮捕)
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、銃刀法違反
事件概要
 住所不定、無職礒飛(いそひ)京三被告は2012年6月10日午後1時ごろ、大阪市中央区東心斎橋1の路上で、通行中だった東京都東久留米市に住むイベント会社プロデューサーの男性(当時42)の腹や首などを包丁で何回も刺して殺害。さらに犯行に気付き自転車を押しながら逃げていた大阪市中央区に住むスナック経営の女性(当時66)の背中などを複数回刺して殺害。その後、礒飛被告は男性の方にゆっくり歩いて向かい、倒れている男性に馬乗りになり、再び刺した。通行人の女性から「人が刺された」と110番があり、警察官が現場に駆け付け、そばにいた礒飛被告を殺人未遂の容疑で現行犯逮捕した。逮捕直後、礒飛被告は「人を殺せば死刑になると思ってやった。殺すのは誰でもよかった」と供述した。その後、「事件前夜から幻聴が聞こえ始め、仕事が見つからないこともあって不安になった。幻聴のままに包丁を買い、現場へ行った」とも供述した。
 男性は自身が企画した音楽レーベルのライブツアーに同行するため、9日に名古屋市から車で大阪入りしていた。ライブは現場から約60mの会場で午後6時開始を予定しており、午後1時に近くのライブ会場で待ち合わせしていた。女性は自転車で近くを通りかかったところだった。二人は礒飛被告と面識はなかった。
 礒飛被告は覚せい剤取締法違反罪で新潟刑務所に服役し、満期で5月24日に出所。保護観察所に紹介された出身地である栃木県内の薬物依存者の自立を支援する無料の民間施設に滞在。6月8日に本人の希望で施設を出て大阪に移動し、9日は知人男性とその知人ら数人と大阪市内などを観光し、酒を飲んだ後、夜遅くなってから同市中央区の男性宅に宿泊。事件のあった10日は昼前ぐらいに荷物を持って男性宅を出ていた。そしてコンビニで全財産である現金17万円を下ろし、すぐに百貨店で包丁を買っていた。
 7月2日、大阪府警南署捜査本部は殺人容疑で礒飛被告を再逮捕した。大阪地検は鑑定留置を請求。約3か月半にわたって実施した精神鑑定では、鑑定医が「覚醒剤使用時のような精神状態だった」という趣旨の所見を示していたが、地検は、犯行前後の言動などを踏まえ、完全責任能力があったと判断し、11月8日、殺人容疑などで起訴した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 小池裕裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年12月2日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 検察側は死刑を求め、弁護側は被告の責任能力を認めた二審判決の破棄などを求めていた。
 判決で小池裕裁判長は「犯行態様は残虐で、刑事責任は誠に重大だ」とした。また、「無差別殺人は生命軽視の度合いが大きく、厳しい非難が向けられるが、その程度は事案ごとに異なる」として、死刑を適用するか否かは、死傷者の数や動機、計画性などの要素を総合的に考慮すべきだとした。そして計画性の程度が死刑適用の分かれ目であるかのように指摘した二審について「是認できない」と言及。しかし今回の事件について、覚醒剤中毒の後遺症による幻聴が犯行の一因だったことや、被告が犯行の約10分前に包丁を購入したことを踏まえると場当たり的で衝動的な犯行だったことがうかがえると指摘。「無差別殺人遂行の意思が極めて強固だったとは認められず、生命軽視の度合いも甚だしく顕著だったとはいえない」とした。また、死刑が究極の刑罰であり、その適用は慎重に行わなければならないという観点と公平性の観点を踏まえ、犯情を総合的に評価した結果、死刑を回避した二審判決については「著しく正義に反すると認められない」と判断した。裁判官5人全員一致の結論。
備 考
 亡くなった男性は大阪市出身で、1996年にロックバンド「4-STiCKS」のボーカルとして、大手レコード会社からメジャーデビューをしていた。2012年10月に新宿区のライブハウス「新宿ロフト」で追悼ライブが開かれ、2013年以降もバンドのベーシストたちによって命日の6月10日に追悼ライブが開かれた。一審の裁判員裁判でも、この日前後の6日間は休廷になった。

 2015年6月26日、大阪地裁(石川恭司裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審死刑判決。
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)。
 2017年3月9日、大阪高裁で一審破棄、無期懲役判決。判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)。

氏 名
北嶋祥太(24)
逮 捕
 2018年11月8日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 石川県金沢市の無職、北嶋祥太被告は2018年11月8日午前9時半ごろ、自宅で同居する祖父(当時71)の首をひもで絞めて殺害した上、テレビなど家電製品3点(5万5千円相当)と現金約1万2千円を奪った。犯行後、祖父の軽トラックに乗ってテレビをリサイクルショップで換金し、能美市で11時の開店からパチスロをしていた。
 北嶋被告は祖父と2歳下の弟の三人暮らし。北嶋被告は高校卒業後就職した2014年に友人に誘われてパチスロをし、その後は一人で行くようになった。21歳の時、母を亡くした。コミュニケーション障害の影響もあって相談相手を失った。パチスロなどに使う金が足りず、借金するように。2018年春ごろからは同居する祖父や弟のテレビなどを無断で持ち出し、換金を繰り返した。2018年5月末、無職になった。祖父に叱責され、8月末ごろには家を追い出され、敷地内の納屋などで暮らしていた。
 同日午後5時ごろ、弟が仕事を終えて帰宅したが、祖父や被告の姿は見なかった。いったん外出後、午後8時ごろ帰宅し、祖父の姿を見つけ、警察に通報した。午後9時半ごろ、パチスロをしていた北嶋被告を捜査中の警察官が発見。事情を聴くと犯行を認めたため、緊急逮捕した。
裁判所
 金沢地裁 大村陽一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年12月3日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年11月25日の初公判で、北嶋祥太被告は「間違いないです」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、北嶋被告が事件の前からパチンコに使う金を得る目的で祖父や弟のテレビなどを複数回にわたって換金していて、犯行時には手袋を着用しベルトで祖父の首を絞めるなど、一定の計画性が認められると主張した。弁護側は、北嶋被告はギャンブル依存症で、パチンコをしたいという強い欲求に支配され、心神耗弱の状態だったとして責任能力の有無を争う姿勢を示した。
 28日の論告で検察はギャンブル依存症は動機には影響したが、現場に指紋が残らないようにゴム手袋などを準備していた北嶋被告の計画性を指摘。「物事の善悪を判断することができていて完全責任能力がある。確定的な殺意で首を絞め続けた卑劣な犯行だ」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、北嶋被告が事件後、能美市内のパチンコ店に10時間以上も滞在していたことなどを挙げ、「殺人行為は、ギャンブル依存症が行動をコントロールする能力を著しく障害した結果だ」と説明。心神耗弱の状態であり、再犯の可能性も認められないとして懲役15年が相当と主張した。
 判決で大村陽一裁判長は、「パチンコの資金を得るためという身勝手な動機で無防備な祖父の首を絞めて殺害したことは悪質だ」と指摘。減刑や酌量はふさわしくないとした。
備 考
 被告側は控訴した。2020年6月2日、名古屋高裁金沢支部で被告側控訴棄却。2020年11月9日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
小林遼(25)
逮 捕
 2018年5月14日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄、死体損壊、わいせつ目的略取、電汽車往来危険、児童買春・児童ポルノ禁止法違反
事件概要
 新潟市の会社員、小林遼(はるか)被告は2018年5月7日午後3時過ぎ、下校途中で友人と別れ自宅から300m地点を一人で歩いていた小学2年生の女児(当時7)に軽乗用車をぶつけて車に乗せ、駐車場に止めた車内でわいせつな行為をした上、意識を取り戻した女児が大声を上げたため、首を手で絞めて殺害。遺体をJR越後線線路に遺棄し、電車にひかせた。
 同日午後10時半ごろ、新潟市西区のJR越後線小針駅近くで、女児が列車にひかれた状態で死亡しているのが見つかった。新潟県警は殺人・死体遺棄事件として新潟西署に捜査本部を設置。近くに住む小林遼被告を5月14日に死体遺棄、同損壊容疑で逮捕し、6月4日に殺人容疑で再逮捕した。
 他に、2017年11月27日にネットで入手した児童ポルノが入った携帯電話を所持したとされる児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪でも起訴されている。
裁判所
 新潟地裁 山崎威裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年12月4日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年11月8日の初公判で、小林遼被告は「首を絞めたのは間違いないが、静かにしてもらうためで殺意はない」と述べ、殺意を否認。強制わいせつ致死罪についても「わいせつ行為はしておりません」などと述べた。死体遺棄、損壊やわいせつ略取の罪については認めた。
 検察側は冒頭陳述で、勤務先を無断欠勤した小林被告が車を走行しながら下校中の女子児童を物色し、一人で歩いていた女児を見つけたと説明。女児は車内に連れ込まれた際、泣きながら「頭が痛い。お母さんに連絡したい」と訴えたとした。小林被告が女児の首を5分以上にわたって絞め続け、死亡後に救命措置を取らなかった点について「人を殺害する典型的な行動」とし、殺意があったと指摘。証拠隠滅のため、女児を電車にひかせたとして「一貫して被害者を物のように扱い、特異かつ冷酷非情」とした。
 弁護側は車を女児に衝突させて連れ去り、2度にわたり首を絞めたことや遺体を線路に置いた事実は認めた。一方、首を絞めた行為について「女児に悲鳴を上げられたため、黙らせようと気絶させるためだった」と主張し、殺意やわいせつの意図はなく、傷害致死罪にとどまると主張。強制わいせつ致死罪も成立しないと訴えた。「(被告は)取り返しのつかないことをしたと反省している」とするとともに、小林被告には抑うつ障害などがあったと訴えた。
 11日の第2回公判で女児の遺体を司法解剖した医師が「5分以上は首を絞められたと考えられる。殺意はあったと思う」と証言した。検察側の質問に対し、一般論として「呼吸を停止させるには短くても5分以上、意識がなくなってから2分以上首を絞める必要がある」と指摘。小林被告が捜査段階で「体感で5分以上絞めた」と供述したことについて「(矛盾は)特にない」とした。女児の首には圧迫された明らかな痕はみられなかったと明らかにした上で、「手などで絞めた場合は表面に痕が残りにくい」として、絞めた力が軽かった証拠にはならないと答えた。一方、弁護側が「法医学では殺意を認定できないのでは」と指摘すると、高塚医師は「(被告の内心については)専門ではない」と述べた上で、「5分以上絞めるのは、何らかの意思があったのではないか」と話した。
 12日の第3回公判で小林被告の元同僚が証言台に立ち、仕事に対する姿勢について「真面目だった」と話した。一方で、「失敗があると嘘をつくなどプライドの高いところがあった」と証言した。小林被告が事件当日、会社を無断で休んだ理由について、検察官に人間関係の悩みがあったか聞かれると「なかったと思う」と答えた。また、往来の危険について証言したJRの運転士は、女子児童の遺体にぶつかった時「脱線の危険を感じた」と語った。
 13日の第4回公判で女児の父親が出廷し、小林被告に対し「一切謝罪もない。更生や反省なんて軽々しく口にしてほしくない」と怒りをあらわにし、「死刑でも私たち家族の気持ちは収まらない」と語った。
 14日の第5回公判で、弁護側の依頼を受けて4~7月、小林被告との面談などを実施した精神科医は、小林被告が事件について「反省心はない。裁判はどうでもいい。死刑でも構わない」と話したと証言。こうしたことについて精神科医は、小林被告が抑鬱障害のために自暴自棄になり、他人を殺害することに対する認識が希薄になっていた可能性があると指摘。動機などを解明するために正式な鑑定の必要性があるとした。また、解離性障害をめぐっては、小林被告が「5人くらいの男性の声が聞こえてくる」「(事件当時に)『やめようよ』という声と『やっちゃえ』という声の両方が聞こえた」などと話していたと証言。障害の影響で犯行時の記憶が一部欠けていることなどから、犯行の計画性に疑義を呈した。 一方検察側は、被告の精神科医に対する発言が捜査段階の供述内容と食い違うことを指摘。被告が自分に責任能力がないように見せかけるために嘘をついた可能性を指摘した。
 18日の第6回公判における被告人質問で、弁護人から遺族に対する気持ちを聞かれると、小林被告はその場で立ち上がり、「私の身勝手な行動で(女児を)死なせてしまい、遺族の皆さまに癒えない傷と不自由な生活をさせてしまい、大変申し訳ありませんでした」と低い声で話し、頭を下げた。しかし、「気絶してもらおうと思い、首を絞めました」と、改めて殺意を否定するとともに、事件当日の行動について、一部を「覚えていません」などと話し、強制わいせつ致死罪についても「取調官の話に合わせてしまった」と捜査段階では認めていたとされる、わいせつ行為を否定した。
 19日の第7回公判で被害者参加制度を利用して意見陳述した女児の母親は、「被告にふさわしいのは死刑しかない」と、涙で声を詰まらせながら極刑を求めた。
 22日の論告で検察側は、わいせつ行為中に女児が泣き叫んだため殺害し、証拠隠滅のため遺体を電車にひかせるなど、「凄惨の極みだ」と非難。一貫して被害者の生命より自分の性的欲望を優先し、「被害者を物としか見ていない生命軽視の姿勢は明らかだ」と指摘し、被害者が1人でも死刑を回避すべき事情にはならないと強調した。
 同日の最終弁論で弁護側は、女児の首を絞めたのは気絶させるのが目的と述べ、改めて殺意を否定。一部のわいせつ行為についても「あったとは言い切れない」と主張した。被告が精神的な障害・疾患を抱え、犯行に影響を与えた可能性があるとし、「必要なのは刑罰ではなく治療」と主張した。「障害のある人を死刑にすることが本当に正義にかなうのか」とも訴えた。被告に前科がなく、若いことから、「更生の可能性は高い」と検察に反論した。そして傷害致死を適用すべきで、懲役10年が相当とした。
 小林被告は最終意見陳述で、「身勝手な思いで娘さんを死なせてしまい大変申し訳ない」と頭を下げた。
 判決で山崎裁判長は、争点となった殺意の有無について、首を絞めたのは大きな声を出した女児を気絶させる目的だったと認定。だが、首を絞める行為は人が死ぬ危険性が高いことは子供でも分かると指摘し、被告が女児の呼吸や脈を確認しながらも救命措置をしていない点を挙げ、「死ぬかもしれないと認識していた」として殺意を認めた。また被告の捜査段階の供述や医師の証言、遺体の状況などから、強制わいせつ致死罪も成立するとした。量刑について、究極の刑罰である死刑の適用には慎重な判断が必要で、過去の裁判例との「公平性の確保」にも留意するとした最高裁の判断に沿って検討した。極刑を望む遺族の処罰感情に「できる限りこたえたい」としつつ、裁判員裁判で審理されたわいせつ目的の殺人では、死刑判決が出ていないことや、殺害に計画性が認められないことなどを重視。車を女児に衝突させたことや、遺体を線路に置いて列車にひかせたことは悪質だが、殺害行為そのものではないと指摘し、「何ら落ち度のない被害者が下校中に連れ去られ殺害された。結果は重大で、まれに見る凄惨な事件」と非難し、「遺族の悲痛な思いは察するが、慎重さと公平性は特に求められる」と述べ、同種事件に比べ際立って残虐とは言えず、無期懲役が相当とした。
 判決後、山崎裁判長は「生きて罪を償うことになった以上、命が尽きるその瞬間まで一瞬たりとも謝罪の気持ちを忘れないでください」と小林被告に語りかけた。
備 考
 政府はこの事件を受けて2018年6月、午後3~6時の下校時間帯の見守り活動を強化する「登下校防犯プラン」を新たに策定。新潟市教育委員会も自治体や保護者などで作る防犯マップを市内全学校で更新した。

 検察・被告側は控訴した。2022年3月17日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。2023年12月20日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン(34)
逮 捕
 2015年10月8日
殺害人数
 6名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、住居侵入
事件概要
 2015年9月13日午後1時30分ごろ、外国人の男性から片言で金を無心されたと住民から相談を受けた熊谷市内の消防分署から、意味不明の言葉を話している外国人がいるとの通報があり、ペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告が熊谷署に任意同行された。ナカダ被告は署員に「母国のペルーに帰りたい」「姉が川崎にいる」と話した。
 川崎市に住む姉と電話で話し、姉は「ストレスをためているようだ」と説明。さらに、姉はナカダ被告が帰国を希望していることを明かし、「飛行機代くらいは出す」と伝えてきた。ただ、ナカダ被告も姉も細かい日本語を理解できず、同署は通訳を要請。その間、ナカダ被告はたばこを吸いたいといって署内の正面玄関わきにある喫煙所で一服した後、付き添いの署員を振り切って逃走した。現金3,417円入りの黒革の財布と健康保険証、在留カード、パスポートなどの所持品を残していた。付き添いの警察官は交通量が多いと追わなかった。その後、署員5人が警察犬を連れて付近を捜索したが、見つからなかったという。午後5時9分、熊谷市石原の住宅の物置小屋に男が侵入していると住民から110番通報があった。午後5時34分ごろ、別の民家の敷地に男が侵入したと住民から110番通報があった。いずれも「カネ、カネ」と話していた。
 ナカダ被告は9月14日午後5時ごろ、熊谷市内の夫婦(当時55、53)方に侵入し、奪った包丁で二人を殺害。乗用車とスマートフォン1台、現金約9,000円などを奪った。午後6時5分ごろ、妻の父親が二人の遺体を発見し、110番通報した。
 15日、奪われた車が近くの駐車場で見つかった。熊谷署は、13日の住居侵入事件でナカダ被告の逮捕状を取った。熊谷署は防災無線による注意喚起を口頭で市教委に要請したが、防災無線による注意喚起は、所管する市安心安全課に文書で要請することになっていたたため、注意喚起は行われなかった。
 9月15~16日、ナカダ被告は最初の殺人現場から約1km離れた独り暮らしの女性(当時84)方に無施錠の1階窓から強盗目的で侵入し、1階和室で女性の腹部を数回、突き刺すなどして殺害し、新たに包丁を奪ったほか、遺体を風呂場の浴槽に入れ、蓋などをかぶせて隠した。
 16日、熊谷市の会社員方に無施錠の1階窓から侵入、1階トイレで妻(当時41)の胸を包丁で数回、突き刺すなどして殺害して、敷毛布をかけて1階クローゼットに隠す一方、学校から帰宅した小学5年の長女(当時10)、小学2年の次女(当時7)を2階寝室で切りつけて殺害、2人の遺体を2階クローゼットに隠した。
 16日午後4時半ごろ、三番目の犠牲者方に訪れた女性の義理の娘が、「家の中に血痕があり、義母の姿が見えない」と110番通報。駆けつけた警熊谷署員が浴室で女性の遺体を発見した。この事件で周辺の聞き込みをしていた捜査員が午後5時半ごろ、西に約100m離れた民家の扉が開いたままで中に声をかけても返答がなかったため、裏に回り込んだところ、2階の窓から顔を出し、自分の腕を刃物で刺しているナカダ被告を見つけた。ナカダ被告は間もなく2階の窓から飛び降り、頭の骨を折るなどの一時意識不明の重体となって深谷市内の病院に運ばれた。捜査員はこの家の屋内3人の遺体を発見した。
 ナカダ被告は2005年4月にペルーから入国。在留資格はあった。父が日本人、母がペルー人の日系2世で姉2人と兄2人が日本で暮らしている。その後、派遣会社などに登録し、関東や関西、九州、東海など各地の食品工場を転々としていた2015年7月30日からは埼玉県の工場で働いていたが、「作業があわない」と本人から申告があり、8月15日からは伊勢崎市の工場で働いていた。しかし9月12日、「背広を着た人に追われ、工場に戻れないので辞めます」と人材派遣会社の担当者に電話をかけ、そのまま姿を消していた。
 ナカダ被告は入院から約1週間後に意識を回復。医師の許可が出たため、県警は10月8日、夫婦に対する殺人と住居侵入容疑でナカダ被告を逮捕した。しかしナカダ被告は頭痛がすると言い、15日に再入院。髄膜炎などのおそれがあるとして22日に頭部の手術を受けた。23日、さいたま地検は勾留の執行停止をさいたま簡裁に請求し、認められた。地検は29日、執行停止を取り消すよう申し立て、30日、簡裁は決定を出した。
 弁護団は10月30日付で、証拠保全のための精神鑑定をさいたま簡裁に請求した。後日、同簡裁は「現時点では必要ない」などとして却下していた。
 11月25日、県警は親子3人の殺人容疑でナカダ被告を再逮捕した。
 ナカダ被告は12月8日から2016年5月13日まで鑑定留置された。さいたま地検は5月20日、責任能力が認められると判断して、強盗殺人と死体遺棄、住居侵入容疑で起訴した。
裁判所
 東京高裁 大熊一之裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年12月5日 無期懲役(一審破棄)
裁判焦点
(一審)
 裁判員裁判。公判前整理手続きは2017年4月10日から2018年1月15日まで実施された。
 弁護側は地裁に精神鑑定を請求し、第1回手続きで認められた。弁護側が推薦した、捜査段階とは別の医師が鑑定した。事件時にナカダ被告は統合失調症を発症しており「統合失調症に基づく妄想に支配され、犯行を実行した」などと診断された。

 2018年1月26日の初公判で、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告は罪状認否でスペイン語の通訳を通し、「私もカップを頭の上に置いた」などと意味不明な発言を続けた。弁護側は「被告は事件について語ることができない。全ての起訴内容について意見を留保し、今後犯罪が成立するとなった場合は心神喪失で無罪を主張する予定だ」と述べて認否を留保した。
 検察側は冒頭陳述で、これまでに接点のない3件の事件現場に立ち入り、被害者らと接触した痕跡があることから、被告が犯人であると指摘。包丁で身体の主要部を多数回突き刺す殺意があり、任意同行された熊谷署に現金などを置いたまま逃走していて金銭に窮していたことなどから強盗目的と断じた。また、責任能力については、被告に被害妄想や誰かに追われている追跡妄想があったものの、関係のない6人が殺害され、金品が奪われたこととは直接結び付かず、妄想の影響は間接的であるとした。また遺体を発見困難な場所に隠すなど自己防衛的な行動をとっており、善悪の判断能力に著しい低下はなかったとした。
 弁護側は、被告が統合失調症にかかり、誰かが自分を殺しに来るという妄想に支配されていたと主張。事件の前に任意同行された熊谷署から逃走した後、「気が付くと病院のベッドの上だった」とし、「現在、事件について語ることができない」と述べた。
 29日の第2回公判で、最初の犠牲者となった熊谷市の夫妻の長男は「犯人に一番重い処罰を望む」と極刑を求めた。
 30日の第3回公判で、3番目の犠牲者となった女性の義理の娘が出廷。「なぜ殺さなくてはいけなかったのか。厳罰をお願いします」と述べた。また妻と娘2人を殺害された男性が出廷し、ナカダ被告に対して「絶対に許さない。死刑以上の判決があるなら、それを望みたい。3人が苦しんだ以上の苦しみを3回味わわせたい」と述べた。
 31日の第4回公判で、事件直後に負傷して入院した病院の担当医師が証人として出廷し、被告が意識を回復した後、「2人、殺した」と日本語で言葉を発したことを証言した。一方、医師は、重体患者が意識を回復したときに判断力の低下で幻覚や錯覚を示す場合があるといい、当時の被告についても「その可能性は否定できない」と述べた。「2人」と「殺した」を続けて言ったのではなく、医師との1分間ぐらいのやりとりの中で二つの言葉を発したという。ナカダ被告と17歳離れた実姉も証人として出廷し、来日後に一緒に暮らしていたときに、ナカダ被告が「黒い影が現れて寝かせてくれない。家の中に悪いものがいる」と話していたことを証言。姉によると、ペルーでは悪魔のような存在が人々に広く信じられており、「強い口調で言えば消える」とナカダ被告を諭し、医療機関は受診させなかったとした。
 2月7日の第7回公判でナカダ被告の姉が出廷し、事件直前に被告と電話した内容を証言した。当時のナカダ被告の様子について、「とても焦っておびえていた。意味不明なことを話していた」と証言。その原因について聞かれると、「寝不足によるストレスではないか」と答えた。
 9日の第9回公判で、ナカダ被告は被告人質問で、「日本で人を殺したことがあるか」との弁護人の質問に対し、「覚えていない」と5回繰り返した。その他の質問には、「天使が落ちてきた」「猫が私に言った」など意味の分からない発言をしたり、無言だったりした。
 13日の第10回公判で、地裁が実施した精神鑑定で被告を統合失調症と診断した男性医師が出廷した。医師は、現在の被告の精神状態について「自発的な行動や周囲への反応が少なく、幻聴もある」と指摘。事件前の状態に関しては、「追われている」などの被告の証言や熊谷署に所持品を残して逃走したことなどから「切迫した身の危険からの逃避行中に犯行が行われた。状況を誤って被害的に確信しており、突発的、衝動的な行動が事件に影響した可能性がある」とした。
 14日の第11回公判で引き続き男性医師が出廷し、被告が事件前に語った「追われている」「殺される」などの被害妄想や精神的不穏が犯行に影響した可能性を指摘。一方で「妄想や不穏がなければ事件は起きなかったと思う」と証言した。被告が事件現場となった複数の住宅で財布を物色したり、遺体を隠したとされる行為についても、「妄想で説明がつくか、つかないか、何か現実的な理由があるか。被告の説明が一切得られないので判断できない」と語った。
 19日の論告で検察側は、被告に被害妄想や追跡妄想はあったが「物事の認知は正しくでき、社会的ルールに合わせた行動を取る能力はあった」と指摘。事件後に上着を着替えるなど「自己の行為が犯罪であることを理解し、対処する行動を取っている」と述べ、完全責任能力があると主張した。
 同日の最終弁論で弁護側は、強盗殺人について、妄想により「追跡者から逃れるために家に入ったと考える方が自然」と主張し、殺人と窃盗の罪にとどまると反論。統合失調症の圧倒的影響下にあり「善悪の区別がつかず、思いとどまれなかった疑いが残るなら、裁くことはできない」と訴えた。
 判決で佐々木裁判長は、冒頭で主文を言い渡した。被告は公判で事件について具体的に話すことはなかったが、現場から被告とDNA型が一致する唾液などが検出されていることから「被害者たちの死亡に直接関与したと推認できる」として3件の強盗殺人罪などの成立を認めた。そして、「犯行当時妄想があったとは認められるが、犯行を命令するような幻聴は認められない」とし、「精神障害は犯行に間接的な影響を与えるにとどまっていると考えるべきだ」として、完全責任能力を認定した。また、「被告が人の生命を奪う危険な行為と分かって行っていたことは明らか」と殺意を認定。犯行時、ナカダ被告が被害者の遺体を隠していたことや現場の血痕を丁寧に拭き取るなど証拠隠匿も図ったことなどについては、「自己の行為が法に触れているということが分かっていた」と指摘。被害者の血痕を拭き取っていたことも挙げ、「罪証隠滅に気を払う冷静さもみられる」などと述べた。一連の犯行については「金品を得ようとした一貫してまとまりのある行動」とし、殺害の状況についても「確実に死に至らしめる行為で、特段異常な点は認められない」と認定した。そして、「何ら落ち度のない6人もの生命が奪われた結果は極めて重大。死刑をもって臨むことがやむを得ない」と述べた。

(二審)
 弁護側は即日控訴した。
 2019年6月10日の控訴審初公判にナカダ被告は出廷し、開廷前には両隣の刑務官に盛んに話しかけていたが、開廷後はうつむいたままで、人定質問にも答えなかった。
 弁護側は公判で「被告は統合失調症に罹患し、犯行時は心神喪失状態だった」と改めて無罪を主張した。検察側は控訴棄却を求めた。
 弁護側の依頼で精神鑑定をした医師が出廷し「被告が事件前から統合失調症を発症していたのは間違いない」と一審同様に証言。「(何かを命令されるような)幻聴を聞いていてもおかしくない」とも述べた。
 8月1日の第2回公判で、ナカダ被告の訴訟能力の有無について調べる被告人質問が行われ、被告は「私を殺せばいい」などと供述する一方で、事件とは無関係の発言や質問とかみ合わない回答を繰り返した。
 9月10日の第3回公判で、妻と2人の娘を亡くした男性が意見を陳述。「控訴審での被告は、言葉数も多く、『なぜこんなに元気なんだ』とむなしさと怒りが込み上げた。妻と娘は生き返らないのに、これほどの理不尽はない」と憤りを示し、「私の望みはただ一つ、被告人が死刑になることです」とはっきりとした口調で述べた。
 同日の弁論で弁護側は、「被告は実効的なコミュニケーションを取ることができず、利害を弁別し自身を防御することもできない」と被告の訴訟能力を否定。責任能力についても「各犯行に統合失調症の妄想が大きく関係している」とした上で、「ただちに無罪を言い渡すか、公判手続きを停止するべき」と主張した。検察側は、一審判決に事実誤認があるなどとする弁護側の主張を否定。「事実誤認はなく正当。弁護側の主張はいずれも失当である」として、完全責任能力を認めた一審死刑判決の維持を求め、結審した。
 判決で大熊裁判長は、ナカダ被告の精神障害が犯行に及ぼした影響を直近の状況のみで検討した一審判決について、「精神鑑定の評価に看過しがたい誤りがあって是認できない」と指摘。「妄想上の追跡者から身を隠すために被害者方に侵入し、被害者を追跡者とみなしたか、警察に通報されると考えて殺害に及んだ可能性があり、統合失調症の影響が非常に大きかったことは否定できない」とした。一方、遺体を隠したり、血を拭き取るなど証拠隠滅と受け取れる行動を繰り返していたことから、「自発的意思も残されており、違法性も理解していた。犯行は妄想や精神的な不穏に完全に支配されていたとは言えず、心神耗弱の状態だった」と認定した。その上で「強固な殺意に基づく残忍な犯行で、6人の命が奪われた結果は誠に重大。責任能力の点を除けば極刑で臨むほかない。心神耗弱による法律上の減軽をした上で無期懲役が相当」と述べた。
備 考
 ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告の兄の一人は、ペルーで2005~2006年、拳銃で17人を殺害したとして、2006年に逮捕され、2007年に禁錮35年の刑を言い渡されていた。実際には25人を殺害したと供述していた。妄想型統合失調症と診断され、医療刑務所に収監されている。
 埼玉県警は2015年10月29日、反省点と今後の取り組みをまとめた報告書を公表した。住民への注意喚起が不十分だったとされた点を検討。積極的な注意喚起が必要とし、今後の取り組みとして「『戸締まりをしてください』『不要な外出を控えてください』など具体的な措置を示すよう努める」ことを盛り込んだ。また「高齢世帯にも確実に情報が届くよう、メール以外の情報発信を活用する必要がある」とし、地元密着型のローカルテレビなどとの連携▽自治会、町内会などのネットワークの活用▽防災無線の積極的な活用――を進めるとした。他に、外国語に通じた警察官の育成や、民間の嘱託通訳人の拡充を図るとした。県警が直轄警察犬を保有しておらず、署から逃走したナカダ容疑者の捜索のために民間の嘱託警察犬を手配した際、約3時間がかかったことを踏まえ、直轄警察犬の導入や犬舎の整備を急ぐとした。
 埼玉県警の報告書公表にあわせ、警察庁は29日、連続発生の恐れのある凶悪事件が起きた場合の対応強化を求める通達を全国の警察本部に出した。発生直後に事件の性質がはっきりしない場合でも、連続して被害が出る可能性を前提に初動捜査を行うとともに、住民に情報を提供することを求めている。
 2015年12月、市と警察署と自治会連合会の三者によって結ばれた不審者・犯罪情報提供をめぐる協定「熊谷モデル」が締結された。生命身体への危険などを基準に情報を3段階に分類し、防災無線、市のメール、自治会連絡網を積極的に利用する。また、三者の連絡窓口を一本化し、防災無線の依頼手順などを明記。情報交換を年1回以上行う三者間協議会を設置する-などが内容。熊谷市を皮切りに、2016年6月までに県内全39警察署と全63市町村で協定が締結された。

 2018年3月9日、さいたま地裁(佐々木直人裁判長)の裁判員裁判で求刑通り死刑判決。被告側は上告した。検察側は上告せず。2020年9月9日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
オーイシ・ケティ・ユリ(35)
逮 捕
 2017年4月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、詐欺、死体遺棄、旅券法違反、有印私文書偽造・同行使
事件概要
 東京に住む日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告は2014年3月22日午前、大阪市西成区に住む小中学校時代の同級生だった准看護師の女性(当時34)宅で、女性の胸や腹をナイフで何度も刺し、出血性ショックで殺害。現金6,000円やクレジットカード2枚を奪った。オーイシ被告は24日、女性の遺体が入った箱を宅配便で東京の自分が住むマンションに搬送した。マンションの契約期限が切れる4月下旬、便利屋サービスに依頼して八王子市のトランクルームに運び、女性のカードで使用料を支払った。他にも出国前の日用品などの購入を含め、計約12万円を不正使用した。オーイシ被告は奪った健康保険証を利用し、女性になりすましてカード6枚を新たに作成。盗んだカード2枚も含めて利用し、総額は100万円を超えて使用したとされる。
 オーイシ被告は幼いころ、家族とともにブラジルから移住。准看護士の女性の実家と家が近かった。高校生の時に家族でブラジルに帰国し、再び大阪に戻った後は、アルバイトなどをしていた。しかし、2011年ごろ、両親に「友達のところに行く」と出て行った後、連絡は途絶えたままだった。
 オーイシ被告は2011年頃から東京で同居する中国人女性の留学生がいた。留学生は上海の企業に就職が内定し、3月中旬に帰国が決まっていた。オーイシ被告はブラジル国籍で、数年前から在留資格を更新しておらず、不法滞在の状態だった。住居の賃貸契約や就職も難しく、留学生の女性と一緒に中国へ行きたくても、正規の手続きでは不可能だった。
 オーイシ被告は1月頭、フェイスブックで准看護師の女性に「友達申請」を行い、2月1日に大阪市内の居酒屋で再会していた。
 オーイシ被告は3月下旬、大阪市内のパスポートセンターで女性名での申請を行い、4月上旬に受け取りに来た。パスポートの取得歴がある人は、外務省のデータベースに顔写真などの情報とともに登録される。戸籍謄本を提出しても、顔が違えば発給は受けられないが、女性はパスポートを取得したことがなかった。
 オーイシ被告は4月まで女性のアドレスからメールを送り、生きているように誤魔化した。オーイシ被告は5月3日、中国へ向かった。
 女性の母親は、5月4日に大阪府警に相談した。府警の調査で女性名義のパスポートで羽田空港から上海へ出国した記録があった。女性のクレジットカードを発行する会社への照会で、渡航後に上海で買い物をしていたこともわかった。しかし羽田空港での防犯カメラを確認したところ、別人の女2人が出国する様子が映っていた。5月21日、大阪府警は八王子市のトランクルームで女性の遺体を発見した。送付状の依頼主欄にはオーイシ被告の携帯電話番号が記載されており、遺体の梱包物からオーイシ被告の指紋も検出された。
 オーイシ被告は5月27日、元留学生の付き添いで上海の日本総領事館に出頭し、中国の公安当局に不法入国の疑いで身柄を引き渡された。中国の公安当局に不法入国の疑いでオーイシ被告を拘束。大阪府警は死体遺棄と旅券法違反、詐欺などの容疑で逮捕状を取った。日中間には犯罪人引き渡し条約がなく、大阪府警は外交ルートを通じて身柄の引き渡しを要求した。
 2016年5月20日、中国の最高人民法院(最高裁)はオーイシ被告の日本への引き渡しを認めた。中国政府も6月に決定を認めたが、日本での取り調べは詐欺罪に限る条件付きだった。中国は自国の刑法で規定がある罪名でしか、引き渡し後の取り調べは認めなかった。中国には死体遺棄罪がないためで、事実上、殺人事件としての捜査が日本で許されない状況だった。大阪府警は6月、新たに強盗殺人容疑で逮捕状を取って交渉を継続。オーイシ被告は自分の旅券を持っておらず、引き渡し時に中国から出国できないという問題も浮上したため、日本側は夏、オーイシ被告の国籍があるブラジルに旅券発行を申請した。ブラジルは12月、オーイシ被告の旅券を発行した。中国は2017年1月16日、強盗殺人容疑での訴追を認めた。
 2017年1月25日、中国政府は上海空港でオーイシ被告の身柄を大阪府警に引き渡した。府警は航空機内で詐欺などの容疑で逮捕した。逮捕容疑は2014年4月29日、東京都内のペットホテルで女性名義のクレジットカードを使い、犬2匹の宿泊代約37,000円を支払ったとしている。3月3日、強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 大阪高裁 三浦透裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年12月12日 無期懲役(被告側控訴棄却)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 2019年10月2日の控訴審初公判で、弁護側は、「犯行当時、解離性同一性障害の影響で心神耗弱状態だった」と改めて主張し、オーイシ被告に再度、精神鑑定を実施するよう求めた。検察側は控訴棄却を求めた。この日はオーイシ被告への被告人質問も予定されていたが、弁護側が「被告の心身の状況が安定せず、打ち合わせが出来ていない」として実施されなかった。
 29日の第2回公判では被告人質問があり、被告は「(質問の意味が)わからない」などと繰り返し、現在の年齢を問われると「7歳」と答えた。被告が心神耗弱状態だったと主張する弁護側は精神鑑定を求めていたが、三浦透裁判長はやむを得ない事由がないとして却下した。
 三浦裁判長は、不法滞在状態だった同被告が他人名義のパスポートを取得するため女性を殺害し、源泉徴収票などを奪ったと指摘。「解離性同一性障害があったが、善悪を判断した上で行動したことは明らかだ」と述べ、完全責任能力を認めた。オーイシ被告は判決の途中で立ち上がり、「なんの判決やねん」などと発言し、一時騒然とした。
備 考
 外務省によると、中国からの身柄引き渡しは1999年に横浜市で起きた強盗事件以来2例目。

 2019年3月14日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2020年9月11日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
小島一朗(23)
逮 捕
 2018年6月9日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、銃刀法違反
事件概要
 愛知県岡崎市出身で住所不定、無職小島一朗被告は2018年6月9日午後9時45分ごろ、新横浜-小田原間を走行中の新幹線「のぞみ」で、隣に座っていた女性(当時27)になた(刃渡り約19.1cm)を振り上げた。女性が脇をすり抜けて逃げ出すと、小島被告は通路を挟んで左隣に座っていた女性(当時26)が逃げ出す際に後ろからなたで切り付けた。26歳の女性に全治1年、27歳の女性に全治17日のけがを負わせた。さらに、2列後ろに座っており、小島被告を制止しようとした兵庫県尼崎市の会社員の男性(当時38)の首をなたで切り付けて殺害した。非常停止ブザーが押され、のぞみは小田原駅に臨時停車。小島被告は駆け付けた神奈川県警小田原署員に現行犯逮捕された。6月29日、女性2人への殺人未遂容疑で再逮捕された。
 小島被告は中学2年ごろから学校を休みがちに。自室にこもり、テレビゲームなどに没頭するとともに些細なことでも激高するようになった。高校入学を機に自立支援施設で暮らし始めた。施設から定時制の高校に通い、複数の資格を取得。職業訓練校を経て、2015年に埼玉県の機械修理会社に就職したが、人間関係のトラブルなどが原因で1年を持たずに退社した。地元の愛知県へ戻り、伯父と祖母宅に身を寄せた。祖母の養子となったが、それ以降、小島被告は自殺をほのめかし、家出を繰り返すように。精神的な不調が原因で入院していた時期もあった。2017年12月、再度「自由になりたい」と言い残して家を飛び出し、自転車で長野県内を転々としながら野宿して過ごしていた。祖母に渡されたキャッシュカードから毎月約10万円を引き出して生活費に充てていた。
 横浜地検小田原支部は7月13日から11月13日まで小島被告を鑑定留置し、猜疑性パーソナリティー障害と診断されたが、刑事責任能力があると判断し、11月19日に起訴した。
裁判所
 横浜地裁小田原支部 佐脇有紀裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2019年12月18日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年11月28日の初公判で、小島一朗被告は「殺すつもりでやりました。間違いありません」と起訴内容を認めた。小島被告は重軽傷を負わせた女性2人に関し、「残念にも殺し損ないました」とし、止めに入った男性について「殺そうとして見事に殺しました」と述べた。
 検察側は冒頭陳述で、被告の生い立ちを説明。両親との仲が良好とは言えず、祖母宅に引き取られた後も家出を繰り返していたとした上で、「一人で生きていくことが難しい。一生刑務所に入るような犯罪をしよう」と考え、無差別殺人を計画したと指摘。被告が事件前にホームセンターでナタを購入していたことなどから、計画的だったとも強調した。2018年3月、心配した祖母が「帰って来てくれないのは、長い夢を見ているのかね。とにかく帰って来なさい」と電話したところ、小島被告は養子縁組を解消されると曲解し、この電話をきっかけに事件を起こそうと決意した、と主張した。そして被告は2017年に2度、精神科病院に入院。発達障害と診断されたが、起訴前の検察側の精神鑑定では他者に対して不信感を募らせる猜疑性パーソナリティー障害の診断にとどまり、検察側は「障害の影響を過大に評価すべきでない」と強調した。弁護側は起訴内容を争わず、事件に至る背景事情を踏まえて量刑を考慮するよう求めた。
 12月3日の第2回公判における被告人質問で、小島被告は長野県内でホームレス生活をしていた2018年3月中旬から犯行の計画を立てたとし、「子どものころから刑務所に入るのが夢だった」と述べ、中学生のころに両親や叔父に対して包丁を向けたり、金づちを投げつけたりしていたと明らかにした。新幹線の車両内を選んだ理由を問われると「パッとひらめいて、それ以外は考えなかった」と主張した。小島被告は事件に至る経緯を問われ、刑務所に入るために事件を起こしたとした上で、死刑を避けることを目的に「殺害するのは2人までにしておこうと決めた」と述べた。新横浜駅を出発した後、事件を起こしたことについては「新横浜と名古屋の走行距離が一番長いので、この間でやろうと考えた」と語った。
 4日の第3回公判における被告人質問で小島被告は、また、「3人殺すと死刑になるので、2人までにしようと思った。1人しか殺せなかったら、あと何人かに重傷を負わせれば無期懲役になると思った」と話した。新幹線で通路側の席に座った理由は、窓際の席に座った人の退路を断つとともに、「すぐに次の標的に向かいやすいため」と説明。窓際の席に座るのが、「男だろうと女だろうと、子供だろうと老人だろうと、人間だったら(殺して)やりました」などと発言した。最終便を選んだ理由を「その後の電車に影響が出ないから」と答えた。一方、検察側が「なぜ、刑務所の暮らしが外よりいいと思うのか」と質問すると、「いいところを言うと、いいところが変えられてしまうかもしれない」と、説明を拒んだ。またこの日は、精神鑑定した精神科医はが証言。医師は、小島被告が他者を信じないよう性格が著しく偏った猜疑性パーソナリティー障害と診断。原因として元来の特性や幼少期からの両親との関係を挙げた。一方、事件は刑務所に入るために合理的に考えた手段で、正常な心理状態で起こしたとした。
 5日の第4回公判で、亡くなった男性の母と妻の供述調書が読み上げられた。小島被告への処罰感情について、母親は「犯した罪にふさわしい刑罰を科してほしい」と要望し、妻も「どんな処罰をされても夫は戻ってこない」とするも、「被告が二度と事件を起こさないような判断をしてほしい」と述べた。一方、小島被告は謝罪の気持ちは「一切ない」と述べ、遺族への思いを聞かれても、「私が刑務所に一生入っている方が、優先されるべきと考えた」と言い切った。
 9日、頭などに全治約1年の重傷を負った当時26歳の女性が法廷で意見陳述し、事件後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受けたことを明らかにした。女性は「新幹線には二度と乗れない。亡くなった男性に対する罪悪感と悲しさ、また襲われるのではないかという恐怖感で、心が一度死にました」と、時折、声を震わせながら語った。
 同日の論告で検察側は、小島被告の「一生刑務所に入りたい」という動機に酌量の余地はなく、遺族や被害者に与えた精神的影響は大きいと述べた。「落ち度のない被害者を狙った計画的な無差別殺人で『暴力テロ』というべきものだ」と強調した。さらに小島被告に謝罪や反省の姿勢がみられず、再犯をほのめかす言動もあったとして「再犯は必至と考えられ、死刑の選択も十分ありうる」と厳しく指弾。一方で、生い立ちや家庭環境、事件時に若年であったこと、猜疑性パーソナリティー障害の影響を考慮し「反省の言葉がないのは、一生刑務所に入るというゆがんだ考えのため、あえて振る舞っている面があり、人格障害の影響もあり得る。真に極刑である死刑が認められるとはいえない」と求刑の理由を説明した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「過剰に重い刑を科すべきではない」と主張。他の事件の量刑との公平性に配慮するよう求め、被告が法廷で偽悪的に振る舞っていて、長期の収監で反省も期待できるとした。
 最終意見陳述で小島被告は「有期刑になれば刑期を終えて出所し、必ずまた人を殺す」「無期刑になったら二度と社会に戻ってくることがないよう全力を尽くす」などと一方的な主張を展開。どのような判決でも控訴はせず「死刑になったら潔くあきらめる」とも述べた。
 判決で佐脇裁判長は、無差別殺傷するために走行中の新幹線という逃げ場のない場所を選ぶなど計画的犯行だったと認定。また一生刑務所に入るため無差別殺人を決意したとする動機について、「あまりにも人の命を軽視し、自己中心的で身勝手」と非難。止めに入った男性を少なくとも78回襲っており「強固な殺意に基づく残虐で悪質な犯行だ」と断じた。その上で「反省や謝罪の態度を見せることはないと公言した態度は、事件に向き合っているとは到底言えない」と非難し、死刑か無期懲役の選択が妥当だとした。「猜疑性パーソナリティー障害」との精神鑑定結果についても、大きく考慮すべきでないとする一方、中学卒業後から自立支援施設で生活するなどした不遇な家庭環境や、被告が若年で前科前歴がないことなどを踏まえ、「死刑がやむを得ないとまでは言えない」と述べた。
 証言台で判決を聞いた小島被告は、裁判長から控訴手続きの説明を受けると「控訴はしません。万歳三唱します」と叫び、職員らの制止を振り切って両手を挙げて万歳三唱した。
備 考
 国土交通省は本事件を受けて省令を改正し、在来線や私鉄を含む全ての列車内に梱包されていない刃物類の持ち込みを禁じるなど対策を進めた。JR各社は新幹線車内に盾などの防犯・護身用具や、ガーゼといった応急救護品の配備した。

 控訴せず確定。

氏 名
須川泰伸(41)
逮 捕
 2017年1月27日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、現住建造物等放火
事件概要
 長崎県対馬市の鉄工所経営、須川泰伸(ひろのぶ)被告は、2016年12月6日午前8時半頃から7日午前7時半頃までの間に対馬市内で、市内に住む漁業の男性(当時65)の頭部を金づちのような鈍器で多数回殴って殺害。遺体を男性宅に運び、男性宅で同居する二女で市営診療所職員の女性(当時32)の頭部を金づちのような鈍器で多数回殴って殺害した。そして、男性方にガソリンなどをまいて火を付け、木造2階建て住宅288m2を全焼させた。
 男性は妻と二女との三人暮らし。妻は事件当時、県外の医療機関に入院していた。男性は漁船のエンジンの修理を、須川被告が経営する鉄工所に依頼していた。
 長崎県警は2017年1月27日、現住建造物等放火容疑で須川被告を逮捕。2月17日、男性への殺人容疑で再逮捕、3月10日、二女への殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 戸倉三郎裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2019年12月19日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2018年3月27日、長崎地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。2019年3月13日、福岡高裁で検察・被告側控訴棄却。

 被害者2人の遺族は2020年6月10日、須川受刑者に対し計1,000万円の損害賠償を求め、長崎地裁に提訴した。須川受刑者側は無罪を主張したが、2022年1月25日、長崎地裁(古川大吾裁判長)は計1,000万円の賠償を命じる判決を言い渡した。古川裁判長は「被告(受刑者)が犯人である高度の蓋然性が認められ、犯人は被告である」と認定。受刑者側の主張を退けた。そして「2名の尊い生命が失われ自宅が焼失したという結果の重大性、大切な家族が突如として2名も奪われた遺族の心情」を考慮し、遺族3人には計7,500万円の請求権があると指摘。このうちの一部に当たる遺族の請求額に応じた賠償を命じた。




※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。

※銃刀法
 正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」

※麻薬特例法
 正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」

※入管難民法
 正式名称は「出入国管理及び難民認定法」



【参考資料】
 新聞記事各種



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