氏 名 | 須江拓貴(26)/小松園竜飛(31)/酒井佑太(26) |
逮 捕 | 2019年3月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 |
須江被告:窃盗、住居侵入、窃盗未遂、強盗、建造物侵入、強盗致死 小松園被告:窃盗、住居侵入、強盗、建造物侵入、強盗致死 酒井被告:強盗傷人、窃盗、建造物侵入、強盗致死、詐欺、窃盗 |
事件概要 |
住所不定、無職の須江拓貴被告、酒井佑太被告と川崎市の土木作業員、小松園竜飛被告は共謀して、以下の事件を起こした。
4月25日、須江被告、酒井被告、小松園被告を長野の事件の窃盗と建造物侵入容疑で再逮捕。 5月22日、須江被告、小松園被告、T被告を渋谷区の事件の強盗と住居侵入容疑で再逮捕。 6月26日、須江被告、小松園被告、T被告を埼玉の事件の窃盗と建造物侵入容疑で再逮捕。O被告を同容疑で逮捕。 7月17日、O被告を渋谷区の事件の強盗容疑で再逮捕。 9月12日、須江被告、T被告、O被告を越谷市の事件の窃盗未遂容疑で再逮捕。 10月28日、酒井被告を横浜市の詐欺、窃盗容疑で再逮捕。 2020年7月、酒井被告と他の4人を、大阪の強盗傷害で逮捕(後にさらに1人逮捕)。 |
裁判所 | 東京高裁 伊藤雅人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年1月25日 一審破棄、差し戻し |
裁判焦点 |
検察側と被告側の双方が控訴した。 2022年6月8日の控訴審初公判で検察側は一審判決の破棄を、弁護側は量刑が不当に重いなどと訴えた。 伊藤裁判長は、一審判決は検察側が主張した首の圧迫などによる窒息死ではなく、事件によるストレスで持病の慢性心不全が急激に悪化し死亡したと認定ことについて、「そもそも(慢性心不全と窒息死の)択一なのかと疑問を持っている」と言及。具体的にどんな暴行があれば死に至ったかとの点を明確にするため、解剖医の証人尋問と3被告の被告人質問の実施を職権で決めた。 9月14日の公判で、解剖医の証人尋問と3被告の被告人質問が行われた。 11月18日、弁論が行われた。 判決で伊藤裁判長は、慢性心不全の状態にあったことと、暴行で死亡したことは両立すると指摘。「一審判決は合理的な根拠がないまま、首の圧迫を示唆した解剖医の見解を排斥した」とし、被告らが犯行後に被害女性の脈を測って生死を確かめ、強盗殺人罪の刑期について検索したことも、首を圧迫したとする認定を補強すると述べた。その上で、被害女性に死亡に結びつく持病はなかったとする解剖医の見解を支持し、慢性心不全を死因とした一審判決の事実認定は「不合理」と批判。事実誤認に基づく誤った評価で刑が減軽された一審判決は「破棄を免れない」と結論し、量刑判断は裁判員裁判で判断するのが相当として審理を地裁に差し戻した。 |
備 考 |
T被告は不明。 建造物侵入、窃盗、住居侵入、強盗、窃盗未遂容疑で起訴されたO被告は、2020年2月17日、東京地裁で懲役9年判決(求刑不明)。2020年9月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せずに確定している。 O被告は他の4被告と共謀して2019年2月25日、千葉県山武市の製材工場に金品を奪う目的で侵入。O被告とY被告は、寝泊まりしていた実質的経営者(当時71)の口や鼻を粘着テープで塞ぐなどの暴行を加え、窒息か急性心不全で死亡させた。2020年7月16日に強盗殺人容疑で逮捕され、8月7日に強盗致死他の容疑で起訴された。2022年3月18日、千葉地裁の裁判員裁判でY被告に懲役28年(求刑無期懲役)、O被告に懲役26年(求刑無期懲役)判決。 2021年3月9日、東京地裁の裁判員裁判で須江被告に懲役28年、小松園被告と酒井被告に懲役27年判決(求刑はいずれも無期懲役)。 |
氏 名 | 松本淳二(60) |
逮 捕 | 2021年7月4日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、死体遺棄 |
事件概要 |
福岡市西区の無職松本淳二被告は2021年6月20日、2階自室でアニメのDVDを見ているときに、トイレの介助を頼んできた父親(88)に怒りが爆発。居間から持ち出した電気ポットのコードで首を絞めて殺害。目撃していた母親(87)を口封じのために首をコードで絞め、二人を自宅1階にある元酒店の業務用冷蔵庫(高さ約2.3m、幅1.5m、奥行き0.6m)に入れて粘着テープで目張りをして父親の死体を遺棄し、母親を窒息死させた。 松本被告は大学を勝手に中退したことを厳しく叱責されてから父親に嫌悪感や苦手意識を持ち、以後は父親を避けるように生活。就職するも半年で退職。実家の酒店を手伝ったこともあったが、約35年無職で自宅に引きこもり、好きなアニメや漫画本を楽しむ生活を続けていた。携帯電話は持っておらず、インターネットに触れたこともなかった。母親との関係は良好で、買い物や病院の送り迎えに付き添っていた。生活費は両親の年金や貯金から月に1~3万円を小遣いでもらい、両親の食事の準備や風呂掃除などの家事もそれなりに行っていた。 2021年初めから父親に認知症の傾向が出始め、さらに4月、母親が腰椎骨折で約2か月入院。父親と二人きりの生活で、父親が何度も同じことを尋ねたり、用事を言いつけられて自分の趣味の時間が邪魔されたことに苛立ちを募らせていた。母親は退院後、車椅子での生活。父親が母親の世話をしていたが、事件約1週間前、父親が自転車で転倒して一時入院するなど足が不自由になり、松本被告が2人の食事の世話などをするようになった。 犯行当日である20日の午後6時ごろ、自室でアニメのDVDを視聴中、1階寝室にいた父親に呼ばれ、初めてのトイレ介助を行った。午後7時ごろ、再び呼ばれて2回目のトイレ介助、さらに就寝するために布団に入った午後9時過ぎ、3回目のトイレ介助に呼ばれたが、今度は父親を立たせることができなかった。父親がその場で用を足すためのバケツを持ってくるよう頼んだことで、用便後の後始末までさせられることに怒りを爆発させた松本被告は犯行に及んだ。 犯行後、松本被告は好きなDVDを買うなど今まで通りの生活を続け、母親の通院先や介護センター職員、親戚などに両親の様子を聞かれるたびに嘘をついていたが、これ以上ごまかしきれないと6月23日夕方、自宅から逃亡。自らの自転車に乗って両親の口座から約90万円を引き出すと、駅から山口、秋田、岩手、宮城、神奈川、静岡、京都と逃亡した。 6月28日午前11時ごろ、親族が福岡県警西署を訪れ、「連絡が取れない」と一家の安否確認を依頼。警察官が調べたところ、29日に冷蔵庫から両親の遺体が発見された。捜査本部は、テープから採取された指紋が松本被告の物だったこと、自転車が無くなっていたことから松本被告の行方を追い、目撃証言と防犯カメラなどで足取りを追ったところ、複数県にまたがりホテルを転々としていたことが判明。7月3日時点で京都市内のホテルに滞在していたことを突き止め、翌4日朝、同市下京区内のホテル駐車場で松本被告の身柄を確保し、容疑を認めたため、死体遺棄容疑で逮捕した。 7月25日、父親の殺人容疑で再逮捕。8月15日、母親の殺人容疑で再逮捕。 8月26日、福岡地検は両親の殺人罪と父親の死体遺棄罪で起訴した。母親の死体遺棄容疑については、死亡時期が冷蔵庫に入れる前後ではっきりしなかったため、見送られた。 |
裁判所 | 福岡地裁 鈴嶋晋一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年1月6日 懲役30年 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2022年12月15日の初公判で松本淳二被告は、「間違いありません」と起訴事実を認めた。 検察側は冒頭陳述で、松本被告が大学中退後に定職に就かず、30年以上にわたって引きこもり状態だったと説明。事件当日、父親からトイレの介助を繰り返し求められ、部屋でアニメなどを見る時間を邪魔されたことに怒りを募らせ、犯行に及んだと主張した。また「母親にいたっては口封じで殺害し、介護疲れと呼べるものではなく、犯行動機は身勝手で同情すべき点はない」と指摘した。弁護側は「被告人は孤独を選ぶ人格障害があり、被告人の行動と障害には関連性がある」「事件の背景や遺族心情を考慮して量刑を判断してほしい」と主張した。 19日の論告で検察側は、30年以上無職で引きこもりがちな生活をし、アニメのDVDや漫画を楽しむ時間を大切にしていた松本被告が、父親にトイレの介助のため何度も呼ばれ、激高したと主張。介助を頼まれたのは事件当日が初めてだったとして「精神的に疲弊しきった『介護疲れ』の事案とは全く異なる」と指摘した。様子を目撃した母親も口封じで首を絞め、2人を廃業していた自宅の酒屋にあった業務用冷蔵庫に運び入れ、ドアを閉めて隙間なく粘着テープを貼り付けるなど「遺体を物のように扱うなど、親への畏敬の念を欠いた悪質な犯行だ」と強調。また、事件後も、母親の通院先に転院したとウソを言い、父親の口座から現金を引き出して全国を転々とするなど「自己保身や責任逃れしか考えていなかった」と指弾した。そして「極めて身勝手な考えから凄惨かつ冷酷な犯行に及んでおり悪質だ」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、松本被告に孤独を好み、自分のペースを乱されることを過度に嫌うような障害があると、面会した精神科医が分析した点も考慮すべきだと反論。当時50代だった被告の面倒を80代の親が見る「8050問題」が事件の背景にあるとして「家族が何かしら対応をしていれば、問題は起こらなかったかもしれない」と訴えた。そして絞殺という手段が、過去に無期懲役の判決が出ている殺人事件と比べて残虐性が低いとし、松本被告が公判で起訴内容を認めて素直に供述していることなどを挙げ、懲役23年程度の有期刑が相当だと主張した。 最終意見陳述で裁判長から発言を求められた松本被告は、「ありません」と話した。 判決で鈴嶋晋一裁判長は、苦手意識があった父親に認知症の症状が現れ不満を募らせていた中、トイレの介助を頼まれたことで、これからも後始末をさせられ、自室で過ごす時間が削られると考えて殺害を決意したと指摘。「趣味に費やす時間が削られることにいら立ったとする動機に酌量の余地はなく、理不尽と言うほかない」と述べた。また、「高齢の両親に対しためらうことなく力いっぱい首を絞め続けていて、強固な殺意に基づく冷酷な犯行態様で相当悪質」、「精神鑑定した医師はパーソナリティー障害や自閉症の可能性を指摘したが、本件犯行とは直接関係せず、刑事責任を左右するものではない」と量刑の理由を説明した。一方で「父親との確執は被告のみに責任があるとはいいがたく、同種事件に比べて悪質性が際立っているとはいえず、無期懲役刑が相当とまではいえない。前科前歴がないことなどを考慮しても、有期懲役の上限となる刑はやむを得ない」などとして、松本被告に有期刑の上限である懲役30年の判決を言い渡した。 最後に、鈴嶋裁判長は「相当長く服役することになるが、考える時間はいっぱいある。お父さんお母さんがどういう思いで育ててきたのか、暮らしてきたのか、嫌なことから目を背けず逃げ回るばかりではなく考えてほしい」と説諭した。 |
備 考 | 被告側は控訴した。 |