求刑無期懲役、判決有期懲役 2023年





 2023年に地裁、高裁、最高裁で求刑無期懲役に対し、有期懲役・無罪の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は、無期懲役判決との差を見るためですが、特に何かを考察しようというわけではありません。あくまで参考です。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。

What's New! 4月27日、福岡高裁は松本淳二被告の懲役30年判決(求刑無期懲役)に対する被告側控訴を棄却した。




【最新判決】

氏 名
松本淳二(61)
逮 捕
 2021年7月4日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、死体遺棄
事件概要
 福岡市西区の無職松本淳二被告は2021年6月20日、2階自室でアニメのDVDを見ているときに、トイレの介助を頼んできた父親(88)に怒りが爆発。居間から持ち出した電気ポットのコードで首を絞めて殺害。目撃していた母親(87)を口封じのために首をコードで絞め、二人を自宅1階にある元酒店の業務用冷蔵庫(高さ約2.3m、幅1.5m、奥行き0.6m)に入れて粘着テープで目張りをして父親の死体を遺棄し、母親を窒息死させた。
 松本被告は大学を勝手に中退したことを厳しく叱責されてから父親に嫌悪感や苦手意識を持ち、以後は父親を避けるように生活。就職するも半年で退職。実家の酒店を手伝ったこともあったが、約35年無職で自宅に引きこもり、好きなアニメや漫画本を楽しむ生活を続けていた。携帯電話は持っておらず、インターネットに触れたこともなかった。母親との関係は良好で、買い物や病院の送り迎えに付き添っていた。生活費は両親の年金や貯金から月に1~3万円を小遣いでもらい、両親の食事の準備や風呂掃除などの家事もそれなりに行っていた。
 2021年初めから父親に認知症の傾向が出始め、さらに4月、母親が腰椎骨折で約2か月入院。父親と二人きりの生活で、父親が何度も同じことを尋ねたり、用事を言いつけられて自分の趣味の時間が邪魔されたことに苛立ちを募らせていた。母親は退院後、車椅子での生活。父親が母親の世話をしていたが、事件約1週間前、父親が自転車で転倒して一時入院するなど足が不自由になり、松本被告が2人の食事の世話などをするようになった。
 犯行当日である20日の午後6時ごろ、自室でアニメのDVDを視聴中、1階寝室にいた父親に呼ばれ、初めてのトイレ介助を行った。午後7時ごろ、再び呼ばれて2回目のトイレ介助、さらに就寝するために布団に入った午後9時過ぎ、3回目のトイレ介助に呼ばれたが、今度は父親を立たせることができなかった。父親がその場で用を足すためのバケツを持ってくるよう頼んだことで、用便後の後始末までさせられることに怒りを爆発させた松本被告は犯行に及んだ。
 犯行後、松本被告は好きなDVDを買うなど今まで通りの生活を続け、母親の通院先や介護センター職員、親戚などに両親の様子を聞かれるたびに嘘をついていたが、これ以上ごまかしきれないと6月23日夕方、自宅から逃亡。自らの自転車に乗って両親の口座から約90万円を引き出すと、駅から山口、秋田、岩手、宮城、神奈川、静岡、京都と逃亡した。
 6月28日午前11時ごろ、親族が福岡県警西署を訪れ、「連絡が取れない」と一家の安否確認を依頼。警察官が調べたところ、29日に冷蔵庫から両親の遺体が発見された。捜査本部は、テープから採取された指紋が松本被告の物だったこと、自転車が無くなっていたことから松本被告の行方を追い、目撃証言と防犯カメラなどで足取りを追ったところ、複数県にまたがりホテルを転々としていたことが判明。7月3日時点で京都市内のホテルに滞在していたことを突き止め、翌4日朝、同市下京区内のホテル駐車場で松本被告の身柄を確保し、容疑を認めたため、死体遺棄容疑で逮捕した。
 7月25日、父親の殺人容疑で再逮捕。8月15日、母親の殺人容疑で再逮捕。
 8月26日、福岡地検は両親の殺人罪と父親の死体遺棄罪で起訴した。母親の死体遺棄容疑については、死亡時期が冷蔵庫に入れる前後ではっきりしなかったため、見送られた。
裁判所
 福岡高裁 市川太志裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年4月27日 懲役30年(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2023年4月13日の控訴審初公判で、弁護側は、被告は心神喪失または耗弱であり、刑事責任能力に疑義があると主張。親を世話していた状況などから量刑は重すぎると訴えた。弁護側は、松本被告の責任能力を調べる精神鑑定を求めたが、検察は「精神疾患があるという形跡は見つからない」と主張し、裁判所は弁護側の請求を棄却して即日結審した。
 判決で市川太志裁判長は「犯行後に発覚を遅らせる行為や逃亡に及んでおり、完全責任能力に合理的な疑いは生じない」と指摘。一方、弁護側が介護殺人の側面もあるなどとして刑の減軽を求めたことについては、「被告人が行っていた家事は、心身ともに疲弊して殺害を決意させるようなものとは評価できない」として、一審判決を支持した。
備 考
 2023年1月6日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役30年判決。



【2023年 これまでの有期懲役、無罪判決】

氏 名
松本淳二(60)
逮 捕
 2021年7月4日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、死体遺棄
事件概要
 福岡市西区の無職松本淳二被告は2021年6月20日、2階自室でアニメのDVDを見ているときに、トイレの介助を頼んできた父親(88)に怒りが爆発。居間から持ち出した電気ポットのコードで首を絞めて殺害。目撃していた母親(87)を口封じのために首をコードで絞め、二人を自宅1階にある元酒店の業務用冷蔵庫(高さ約2.3m、幅1.5m、奥行き0.6m)に入れて粘着テープで目張りをして父親の死体を遺棄し、母親を窒息死させた。
 松本被告は大学を勝手に中退したことを厳しく叱責されてから父親に嫌悪感や苦手意識を持ち、以後は父親を避けるように生活。就職するも半年で退職。実家の酒店を手伝ったこともあったが、約35年無職で自宅に引きこもり、好きなアニメや漫画本を楽しむ生活を続けていた。携帯電話は持っておらず、インターネットに触れたこともなかった。母親との関係は良好で、買い物や病院の送り迎えに付き添っていた。生活費は両親の年金や貯金から月に1~3万円を小遣いでもらい、両親の食事の準備や風呂掃除などの家事もそれなりに行っていた。
 2021年初めから父親に認知症の傾向が出始め、さらに4月、母親が腰椎骨折で約2か月入院。父親と二人きりの生活で、父親が何度も同じことを尋ねたり、用事を言いつけられて自分の趣味の時間が邪魔されたことに苛立ちを募らせていた。母親は退院後、車椅子での生活。父親が母親の世話をしていたが、事件約1週間前、父親が自転車で転倒して一時入院するなど足が不自由になり、松本被告が2人の食事の世話などをするようになった。
 犯行当日である20日の午後6時ごろ、自室でアニメのDVDを視聴中、1階寝室にいた父親に呼ばれ、初めてのトイレ介助を行った。午後7時ごろ、再び呼ばれて2回目のトイレ介助、さらに就寝するために布団に入った午後9時過ぎ、3回目のトイレ介助に呼ばれたが、今度は父親を立たせることができなかった。父親がその場で用を足すためのバケツを持ってくるよう頼んだことで、用便後の後始末までさせられることに怒りを爆発させた松本被告は犯行に及んだ。
 犯行後、松本被告は好きなDVDを買うなど今まで通りの生活を続け、母親の通院先や介護センター職員、親戚などに両親の様子を聞かれるたびに嘘をついていたが、これ以上ごまかしきれないと6月23日夕方、自宅から逃亡。自らの自転車に乗って両親の口座から約90万円を引き出すと、駅から山口、秋田、岩手、宮城、神奈川、静岡、京都と逃亡した。
 6月28日午前11時ごろ、親族が福岡県警西署を訪れ、「連絡が取れない」と一家の安否確認を依頼。警察官が調べたところ、29日に冷蔵庫から両親の遺体が発見された。捜査本部は、テープから採取された指紋が松本被告の物だったこと、自転車が無くなっていたことから松本被告の行方を追い、目撃証言と防犯カメラなどで足取りを追ったところ、複数県にまたがりホテルを転々としていたことが判明。7月3日時点で京都市内のホテルに滞在していたことを突き止め、翌4日朝、同市下京区内のホテル駐車場で松本被告の身柄を確保し、容疑を認めたため、死体遺棄容疑で逮捕した。
 7月25日、父親の殺人容疑で再逮捕。8月15日、母親の殺人容疑で再逮捕。
 8月26日、福岡地検は両親の殺人罪と父親の死体遺棄罪で起訴した。母親の死体遺棄容疑については、死亡時期が冷蔵庫に入れる前後ではっきりしなかったため、見送られた。
裁判所
 福岡地裁 鈴嶋晋一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月6日 懲役30年
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2022年12月15日の初公判で松本淳二被告は、「間違いありません」と起訴事実を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、松本被告が大学中退後に定職に就かず、30年以上にわたって引きこもり状態だったと説明。事件当日、父親からトイレの介助を繰り返し求められ、部屋でアニメなどを見る時間を邪魔されたことに怒りを募らせ、犯行に及んだと主張した。また「母親にいたっては口封じで殺害し、介護疲れと呼べるものではなく、犯行動機は身勝手で同情すべき点はない」と指摘した。弁護側は「被告人は孤独を選ぶ人格障害があり、被告人の行動と障害には関連性がある」「事件の背景や遺族心情を考慮して量刑を判断してほしい」と主張した。
 19日の論告で検察側は、30年以上無職で引きこもりがちな生活をし、アニメのDVDや漫画を楽しむ時間を大切にしていた松本被告が、父親にトイレの介助のため何度も呼ばれ、激高したと主張。介助を頼まれたのは事件当日が初めてだったとして「精神的に疲弊しきった『介護疲れ』の事案とは全く異なる」と指摘した。様子を目撃した母親も口封じで首を絞め、2人を廃業していた自宅の酒屋にあった業務用冷蔵庫に運び入れ、ドアを閉めて隙間なく粘着テープを貼り付けるなど「遺体を物のように扱うなど、親への畏敬の念を欠いた悪質な犯行だ」と強調。また、事件後も、母親の通院先に転院したとウソを言い、父親の口座から現金を引き出して全国を転々とするなど「自己保身や責任逃れしか考えていなかった」と指弾した。そして「極めて身勝手な考えから凄惨かつ冷酷な犯行に及んでおり悪質だ」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、松本被告に孤独を好み、自分のペースを乱されることを過度に嫌うような障害があると、面会した精神科医が分析した点も考慮すべきだと反論。当時50代だった被告の面倒を80代の親が見る「8050問題」が事件の背景にあるとして「家族が何かしら対応をしていれば、問題は起こらなかったかもしれない」と訴えた。そして絞殺という手段が、過去に無期懲役の判決が出ている殺人事件と比べて残虐性が低いとし、松本被告が公判で起訴内容を認めて素直に供述していることなどを挙げ、懲役23年程度の有期刑が相当だと主張した。
 最終意見陳述で裁判長から発言を求められた松本被告は、「ありません」と話した。
 判決で鈴嶋晋一裁判長は、苦手意識があった父親に認知症の症状が現れ不満を募らせていた中、トイレの介助を頼まれたことで、これからも後始末をさせられ、自室で過ごす時間が削られると考えて殺害を決意したと指摘。「趣味に費やす時間が削られることにいら立ったとする動機に酌量の余地はなく、理不尽と言うほかない」と述べた。また、「高齢の両親に対しためらうことなく力いっぱい首を絞め続けていて、強固な殺意に基づく冷酷な犯行態様で相当悪質」、「精神鑑定した医師はパーソナリティー障害や自閉症の可能性を指摘したが、本件犯行とは直接関係せず、刑事責任を左右するものではない」と量刑の理由を説明した。一方で「父親との確執は被告のみに責任があるとはいいがたく、同種事件に比べて悪質性が際立っているとはいえず、無期懲役刑が相当とまではいえない。前科前歴がないことなどを考慮しても、有期懲役の上限となる刑はやむを得ない」などとして、松本被告に有期刑の上限である懲役30年の判決を言い渡した。
 最後に、鈴嶋裁判長は「相当長く服役することになるが、考える時間はいっぱいある。お父さんお母さんがどういう思いで育ててきたのか、暮らしてきたのか、嫌なことから目を背けず逃げ回るばかりではなく考えてほしい」と説諭した。
備 考
 被告側は控訴した。2023年4月27日、福岡高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
須江拓貴(26)/小松園竜飛(31)/酒井佑太(26)
逮 捕
 2019年3月13日
殺害人数
 1名
罪 状
 須江被告:窃盗、住居侵入、窃盗未遂、強盗、建造物侵入、強盗致死
 小松園被告:窃盗、住居侵入、強盗、建造物侵入、強盗致死
 酒井被告:強盗傷人、窃盗、建造物侵入、強盗致死、詐欺、窃盗
事件概要
 住所不定、無職の須江拓貴被告、酒井佑太被告と川崎市の土木作業員、小松園竜飛被告は共謀して、以下の事件を起こした。
  1. 酒井被告は2018年10月23日、氏名不詳者らが警察官などになりすまして横浜市旭区の50代女性に電話をかけた後、酒井被告が女性宅を訪れ、金融庁職員をかたってキャッシュカードを受け取ったうえ、ATMで計約136万円を引き出した。
  2. 酒井被告は他の5人と共謀し、2018年11月23日未明、大阪市の路上で、男性(当時47)を十手で殴ってけがをさせ、現金約2,000円が入った財布などが入っている手提げかばん(時価合計15万円相当)を奪った。酒井被告は現場で見張りなどをしていた。
  3. 須江、小松園両被告、住所不定無職T被告は共謀し、埼玉県吉川市の無職O被告から情報を受け、2019年1月12日未明、中央区のマンション4Fの不動産会社の事務所にベランダから侵入し、金庫1個(時価3万円相当)を盗んだ。金庫内に現金や貴金属は入っていなかった。
  4. 須江被告、T被告、O被告は1月17日、埼玉県越谷市のコンビニ店のATMで、不正に入手した千葉県内の60歳代女性名義のキャッシュカードを使い、現金20万円を引き出そうとしたが、カードは利用が停止されており、失敗した。女性は1月、市職員を名乗る男らに「古いカードと交換する」などと言われ、カードをだまし取られていた。
  5. 須江被告、小松園被告、T被告は共謀し、東京都渋谷区に住む80代と70代の夫婦の家にO被告が事件2日前に息子を装ってアポ電(アポイントメント電話)をかけた2日後の2月1日午前8時40分ごろ、警察官を装って侵入し、夫婦の両手を結束バンドや粘着テープで縛り、現金約400万円と腕時計や指輪など30点以上(計約123万円相当)を奪った。
  6. 須江被告、酒井被告、小松園被告は共謀し、2月28日未明、長野県佐久市のブランドショップに押し入り、財布など約230万円相当を盗んだ。
  7. 須江被告、酒井被告、小松園被告は共謀し、2019年2月28日午前11時頃、事前にアポ電をかけて確認したのち、江東区のマンション一室に押し入り、住人の女性(当時80)の両手足を縛って口を粘着テープで塞いだ上、首を圧迫するなどして女性を窒息死させた。部屋の棚や財布に現金はあったが、3被告は室内を物色したものの金品は奪えなかった。女性は午後1時55分ごろ、掃除のために訪れた介護の職員に発見された。
 2019年3月13日、警視庁深川署捜査本部は江東区の事件の強盗殺人容疑で3被告を逮捕。東京地検は4月4日、強盗致死と住居侵入容疑で起訴した。3人の殺意を認定できなかったことから、強盗殺人での起訴を見送った。
 4月25日、須江被告、酒井被告、小松園被告を長野の事件の窃盗と建造物侵入容疑で再逮捕。
 5月22日、須江被告、小松園被告、T被告を渋谷区の事件の強盗と住居侵入容疑で再逮捕。
 6月26日、須江被告、小松園被告、T被告を埼玉の事件の窃盗と建造物侵入容疑で再逮捕。O被告を同容疑で逮捕。
 7月17日、O被告を渋谷区の事件の強盗容疑で再逮捕。
 9月12日、須江被告、T被告、O被告を越谷市の事件の窃盗未遂容疑で再逮捕。
 10月28日、酒井被告を横浜市の詐欺、窃盗容疑で再逮捕。
 2020年7月、酒井被告と他の4人を、大阪の強盗傷害で逮捕(後にさらに1人逮捕)。
裁判所
 東京高裁 伊藤雅人裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月25日 一審破棄、差し戻し
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 検察側と被告側の双方が控訴した。
 2022年6月8日の控訴審初公判で検察側は一審判決の破棄を、弁護側は量刑が不当に重いなどと訴えた。
 伊藤裁判長は、一審判決は検察側が主張した首の圧迫などによる窒息死ではなく、事件によるストレスで持病の慢性心不全が急激に悪化し死亡したと認定ことについて、「そもそも(慢性心不全と窒息死の)択一なのかと疑問を持っている」と言及。具体的にどんな暴行があれば死に至ったかとの点を明確にするため、解剖医の証人尋問と3被告の被告人質問の実施を職権で決めた。
 9月14日の公判で、解剖医の証人尋問と3被告の被告人質問が行われた。
 11月18日、弁論が行われた。
 判決で伊藤裁判長は、慢性心不全の状態にあったことと、暴行で死亡したことは両立すると指摘。「一審判決は合理的な根拠がないまま、首の圧迫を示唆した解剖医の見解を排斥した」とし、被告らが犯行後に被害女性の脈を測って生死を確かめ、強盗殺人罪の刑期について検索したことも、首を圧迫したとする認定を補強すると述べた。その上で、被害女性に死亡に結びつく持病はなかったとする解剖医の見解を支持し、慢性心不全を死因とした一審判決の事実認定は「不合理」と批判。事実誤認に基づく誤った評価で刑が減軽された一審判決は「破棄を免れない」と結論し、量刑判断は裁判員裁判で判断するのが相当として審理を地裁に差し戻した。
備 考
 T被告は不明。
 建造物侵入、窃盗、住居侵入、強盗、窃盗未遂容疑で起訴されたO被告は、2020年2月17日、東京地裁で懲役9年判決(求刑不明)。2020年9月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せずに確定している。
 O被告は他の4被告と共謀して2019年2月25日、千葉県山武市の製材工場に金品を奪う目的で侵入。O被告とY被告は、寝泊まりしていた実質的経営者(当時71)の口や鼻を粘着テープで塞ぐなどの暴行を加え、窒息か急性心不全で死亡させた。2020年7月16日に強盗殺人容疑で逮捕され、8月7日に強盗致死他の容疑で起訴された。2022年3月18日、千葉地裁の裁判員裁判でY被告に懲役28年(求刑無期懲役)、O被告に懲役26年(求刑無期懲役)判決。

 2021年3月9日、東京地裁の裁判員裁判で須江被告に懲役28年、小松園被告と酒井被告に懲役27年判決(求刑はいずれも無期懲役)。被告側は上告した。

氏 名
佐藤俊彦(42)
逮 捕
 2019年6月24日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、銃刀法違反
事件概要
 名古屋市北区に住む無職、佐藤俊彦被告は2019年6月24日午後10時半ごろ、近所に住む会社員の男性(当時41)と、愛知県大府市に住む同僚の男性(当時44)と口論になり、同区の路上で二人の胸などをサバイバルナイフ(刃体約18.5cm)で複数回刺すなどして殺害した。そして男性が所持する現金712円のほか、指輪が入った財布(時価計約20,100円相当)を奪った。
 佐藤被告宅と男性が住むマンションは道路を挟んで向かい合わせにあり、男性は数年前から、車にいたずらされるなどの嫌がらせを受け、県警に相談していた。
 愛知県警は同日、佐藤被告を同僚男性への殺人容疑で逮捕。7月15日、近所に住む男性への強盗殺人容疑で再逮捕。
 名古屋地検はおよそ4カ月間の鑑定留置の結果、刑事責任を問えると判断。「強盗目的で殺害したと立証できる証拠が足りなかった」として近所に住む男性への強盗殺人容疑を殺人と窃盗容疑に切り替えた上で、2件の殺人罪で起訴した。窃盗罪については不起訴とした。
裁判所
 名古屋高裁 田邊三保子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月28日 懲役30年(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2023年2月2日の控訴審初公判で、弁護側は「事実誤認があり量刑不当」と述べ、犯行時、精神障害の影響で心神耗弱の状態だったとして減刑を求めた。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で田邊三保子裁判長は「(減軽の対象となるほど)統合失調症の影響は大きいとまでは言い難く、完全責任能力を認めた一審の判決に不合理な点はない」として弁護側の控訴を退けた。
備 考
 2022年10月4日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役30年判決。

氏 名
堀藍(22)
逮 捕
 2020年6月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反、ストーカー規制法違反(ストーカー行為)、建造物侵入
事件概要
 静岡県三島市の大学生、堀藍(あおい)被告は2019年7月、同じ大学の同じ学部に通う同級生の女性を見かけて好意を抱き、10月までに繰り返し女性に無料通話アプリ「LINE」のIDを教えてほしいと迫った。当初は断っていた女性だが、堀被告が何度も要求するため、断り切れずIDを教えた。堀被告はすぐに名前を呼び捨てにして、たびたび食事の誘いを持ちかけた。女性はその都度断っていたが、要求はエスカレートし、プライベートな質問まで行うようになった。さらに堀被告は返信が遅いことに腹を立て、12月、女性が所属する部活動の部室に侵入。携帯番号を把握して無言電話をかけるなどした。2020年1月、女性は警察に、無言電話を相談していたが、証拠がないからと被告の名前は出さなかった。
 堀被告は2020年2月、凶器となる包丁をホームセンターで購入。
 女性は4月、LINEで堀被告に好きじゃないと断るも、堀被告はしつこくLINEを送り続けていた。  堀被告は2020年6月8~10日、LINEなどで11回にわたり、女性に交際や面会を求めるメッセージを送ったほか、拒まれたにもかかわらず6月21~24日にも計18回、メッセージを送った(ストーカー規制法違反の内容)。女性は6月23日、堀被告のLINEをブロックした。
 2019年10月から事件を起こす2020年6月の間に合計789回のやりとりがLINEでなされているが、そのうち被告からのLINE送信は551回に及んだ。
 堀被告はAmazonでサバイバルナイフを購入。さらにはこれまでのLINEで得た断片的な情報から女性のアルバイト先と自宅、そして車を特定した。
 堀被告は6月27日、女性の自宅付近で待ち伏せた。堀被告は午後1時15分頃から25分頃までの間、三島市の自宅から約2.5km離れたコンビニのアルバイトを午後1時頃に終え、帰宅中の女性(当時19)が運転していた母親の車から降りたところを襲い掛かり、自動車内で女性の腹部を包丁(刃渡り約15.5cm)で突き刺した後、助けを求めて逃げる女性を追いかけ、さらに首や背中など複数回突き刺し、失血死させた。堀被告は包丁のほかにも、ナイフ1本を持っていた。
 付近の住民が110番通報。沼津署は現場にいた堀被告を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。
 静岡地検沼津支部は7月9日から11月9日まで鑑定留置。11月17日、殺人と銃刀法違反で起訴した。12月18日、ストーカー規制法違反で堀被告を追起訴した。
裁判所
 東京高裁 安東章裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年3月15日 懲役20年(検察側控訴棄却)
裁判焦点
 2023年2月10日の控訴審初公判で、検察側は控訴趣意書で、ストーカー殺人類型の裁判例を示し、同類型の量刑傾向などを踏まえれば、無期懲役が相当と主張。弁護側は答弁書で「ストーカー殺人に限定したくくりではなく、行為の危険性や結果の重大性などで判断すべき」と一審判決を支持し、控訴棄却を求めた。
 検察側が請求した被害者の父親の証人尋問で父親は、「弁護側が求めた懲役22年よりも低い一審判決は、到底納得できない。裁判員制度の目的である国民感情がこもっていない」と吐露。「反省していないのに、ただ若年というだけで更生の余地があると判断されたことは全く納得できない。19歳の娘は、49ヵ所を刺されて殺害された。被告人にはまだやり直すチャンスがあるのに、娘には、もうない」「娘の無念を晴らすためにも厳罰を望んでいる」と声を震わせながら訴えた。判決後、堀被告から謝罪の手紙が届いたというが「『今後何度も謝罪の手紙を書く』と書いてあったのに、届いたのはその1回だけでした」と明かした。
 弁護側請求の被告人質問で堀被告は弁護人から一審判決の受け止めを問われると、「どのような判決でも受けようと思った。それは今も変わっていない。犯した罪は取り返しがつかない、改めて強く思った。一生償っていきます」と答えた。
 即日結審した。
 判決で安東裁判長は、「検察側が示したものは通り魔や無差別などの事案、前科や別の被害者への併合事件がある事案で、悪質性が異なる」と指摘したうえで、「2人の関係性は希薄だったとする検察官の指摘は正しいが、事件の経緯について一審の評価に誤りはない。ストーカー殺人事件の中でも最も罪が重い部類とは言えず、一審の量刑が軽すぎて不当とまでは言えない」と結論付けた。
備 考
 2021年7月13日、静岡地裁沼津支部の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し一審懲役20年判決。上告せず確定。

氏 名
大竹純平(29)/山中暁熙(30)
逮 捕
 2020年7月16日
殺害人数
 1名
罪 状
 山中被告:強盗致死、住居侵入、窃盗 大竹被告:強盗致死、住居侵入
事件概要
 埼玉県吉川市の職業不詳、大竹純平被告と、住所不定無職の山中暁熙(あきひろ)被告は、他男性3被告と共謀。2019年2月25日、千葉県山武市の木材加工会社工場で、会社倉庫内にある実質的経営者の男性(当時71)の居住スペースに金品強奪目的で侵入。男性の手足を縛り、粘着テープで鼻や口をふさぐなどして死亡させた。金品は見つからなかった。
 25日午後10時40分ごろ、男性と連絡が取れないことを不審に思った従業員が工場を訪れ、居住スペースで倒れている男性を発見した。
 2020年7月16日、千葉県警は防犯カメラの映像などから特定し、他事件で起訴されていた大竹被告、山中被告、他3人を強盗殺人と住居侵入の容疑で逮捕した。
 8月7日、千葉地検は大竹被告と山中被告を住居侵入と強盗致死の罪で、他の3被告を住居侵入と窃盗未遂の罪で起訴した。
裁判所
 東京高裁 石井俊和裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年4月13日 山中暁熙被告:懲役28年、大竹純平被告:懲役26年(いずれも検察・被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2023年2月16日の初公判で、検察、弁護側双方に量刑不当を訴えた。また被告のどちらかは、法令適用の誤りと事実誤認を主張した。
備 考
 大竹純平被告は他被告と共謀し、2019年2月1日に東京都渋谷区の高齢夫婦宅で、現金約400万円などを奪ったアポ電(アポイントメント電話)強盗事件他で逮捕、起訴。2020年2月17日、東京地裁で懲役9年判決(求刑不明)。2020年9月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せずに確定している。
 住居侵入と窃盗未遂の罪で起訴されたKK被告は、2018年10月の山口県での詐欺事件、2019年5月の岐阜県での2件の強盗事件、同月の千葉県での強盗致傷事件でも起訴された。2021年10月21日、岐阜地裁(入江恭子裁判長)の裁判員裁判で懲役14年判決(求刑懲役17年)。被告側控訴中。2022年3月14日、名古屋高裁(鹿野伸二裁判長)で判決。
 住居侵入と窃盗未遂の罪で起訴されたNT被告は2022年2月21日、東京地裁(裁判官不明)で懲役4年判決(求刑不明)。被告側控訴するも、2022年5月までに取り下げ、確定。。
 住居侵入と窃盗未遂の罪で起訴されたKR被告は、他の詐欺未遂事件などでも起訴された。2022年3月15日、東京地裁(長池健司裁判官)で懲役1年6月+懲役3年判決(求刑不明)。2022年11月24日、東京高裁(石井俊和裁判長)で被告側控訴棄却。

 2022年3月18日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、山中暁熙被告に懲役28年、大竹純平被告に懲役26年判決。

氏 名
大谷竜次(47)
逮 捕
 2018年2月12日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、死体遺棄、窃盗
事件概要
 住所不定、無職の大谷竜次被告は2018年2月7~8日、埼玉県所沢市にある知人女性(当時76)宅で、別居していた女性の次男で幼稚園バス運転手の男性(当時53)の胸や背中などを多数回包丁で刺して殺害した。さらに女性も浴槽に沈め、溺死させた。そして女性宅に住み込みで介護などの身の回りをしていた知人男性SY元被告とともに、男性の遺体を1階浴槽に遺棄した。同日午後1時35分ごろ、女性名義の銀行口座からキャッシュカードを使って573,990円を引き出して盗んだ。
 大谷被告は現場とは別の住宅で、女性の長男と同居していた。SY元被告は次男と中学時代の同級生だった。
 2人の遺体は8日午後、発見された。埼玉県警は12日午後、電車で千葉市内まで逃走していた大谷被告とSY元被告を死体遺棄容疑で逮捕した。3月6日、さいたま地検は2人を処分保留で釈放したが、埼玉県警は銀行口座からお金を引き出した窃盗容疑で2人を再逮捕した。
 2019年4月4日、初公判がさいたま地裁(石川慧子裁判官)でそれぞれ開かれ、2人はそれぞれ起訴内容を否認。2人の弁護側はいずれも、女性の承諾を得て現金を引き出したと主張した。
 16日の大谷被告の第2回公判で、佐久間被告が証人として出廷。女性の介護をするようになった経緯や、事件前日に遺体で見つかった女性の次男とトラブルになっていたことなどを明らかにした。検察側の証人尋問で佐久間被告は、女性の介護を巡って次男ともみ合いになっていたことを説明。その後、女性にカードを渡され、「お金を下ろしていいと言われた」などと証言した。また、翌日外出する際の女性と次男の様子について問われると、「お湯の中に入って死んでいた」と述べたが、2人が死亡した詳しい経緯などについては語らなかった。大谷被告は黙秘する姿勢を示したので、被告人質問は行われなかった。
 17日のSY元被告の第2回公判で、被告人質問などが予定されていたが、弁護側が主張の変更を申し出たため行われなかった。
 5月28日の大谷被告の第3回公判で、検察側は大谷被告に懲役1年6月を求刑して結審した。
 同日のSY元被告の第3回公判で、証拠調べが行われた。証人として出廷した大谷被告は、女性方に出入りしていたことなどは認める一方で、事件前後に関することについては証言を拒否した。その後の被告人質問は、佐久間被告が黙秘する姿勢を示したため行われなかった。
 6月19日、埼玉県警は次男の携帯電話を盗んだ窃盗容疑で2人を再逮捕した。
 7月1日、埼玉県警は次男への殺人容疑で2人を再逮捕した。23日、さいたま地検は次男への殺人と死体遺棄罪で大谷被告を起訴した。SY元被告の殺人容疑は処分保留とし、死体遺棄罪で起訴した。携帯電話を盗んだ窃盗容疑については、2人も不起訴とした。
 11月13日、SY元被告の追起訴審理がさいたま地裁で開かれ、SY元被告は次男の死体遺棄容疑を認めた。
 12月4日、SY元被告の論告求刑公判が開かれ、検察側は窃盗と死体遺棄罪で懲役3年6か月を求刑、弁護側は窃盗罪については無罪を主張し結審した。
 20日、さいたま地裁(石川慧子裁判官)は両方の罪を認定し、懲役2年を言い渡した。控訴せず確定。
 2020年12月3日、埼玉県警は女性への殺人容疑で大谷被告とSY元被告を再逮捕した。24日、さいたま地検は大谷被告を女性への殺人罪で起訴した。SY元被告は処分保留で釈放した。
裁判所
 東京高裁 大善文男裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年4月20日 懲役28年(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 大谷被告は一審同様、無罪を主張した。
備 考
 2022年3月18日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、懲役28年判決。




※最高裁ですと本当は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。


【参考資料】
 新聞記事各種

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