求刑無期懲役、判決有期懲役以下 2026年


 2026年に地裁、高裁、最高裁で求刑無期懲役に対し、有期懲役・無罪・差戻しの判決(決定)が出た事件のリストです。目的は、無期懲役判決との差を見るためですが、特に何かを考察しようというわけではありません。あくまで参考です。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。

What's New! 7月7日、水戸地裁は赤間恵美被告に殺人1件について無罪としたうえで、一審懲役20年判決(求刑無期懲役)を言い渡した。

What's New! 7月3日、東京地裁は佐々木光被告と平山綾拳被告に一審懲役30年判決(求刑無期懲役)を言い渡した。


【最新判決】

氏名 赤間恵美(40)
逮捕 2021年11月22日
殺害人数 1名
罪状 殺人、窃盗
事件概要 (下記は起訴内容。一審判決では一部無罪となっている)

 施設職員の赤間恵美被告は2020年5月30日午後3時30分ごろ、茨城県古河市の介護老人保健施設で、入所中の男性Sさん(当時84)の腕に繋がれた静脈血管に点滴用チューブから注射筒(シリンジ)で空気を注入し、気体で血管が閉塞する空気塞栓(そくせん)症を発症させ、同5時15分ごろ、搬送された県内の病院で、急性循環不全で死亡させた。(注)この件については一審無罪判決。
 7月6日午前0時半ごろ、同施設に入所中の男性Yさん(当時76)の足の静脈血管に点滴用チューブから注射筒(シリンジ)を使って致死量の空気を注入し、空気塞栓症を発症させ、同1時25分ごろ、搬送先の栃木県内の病院で同症による急性循環気不全で死亡させた。Yさんは事件の7カ月前に入所した。介助が必要な状態だったが、命に関わるような疾患はなかった。
 他に赤間被告は、同市のスーパーで2021年11月21日、牛肉など計5,000円相当の食料品などを万引きした。
 赤間被告は事件の15年ほど前に看護師の資格を取得し、埼玉や栃木県内の病院で看護師として働いていた。赤間被告は2020年4月下旬に看護師として古河市の介護老人保健施設で働き始め、6月中旬から介護職に配置換えとなった。Yさんの容体が急変する直前、赤間被告はベッドの付近にいるのを同僚に目撃され、問い詰められると、その日のうちに自主退職した。施設では看護師が点滴を行うことになっており、本来なら介護職がシリンジを扱うことはないはずであった。
 Yさんが亡くなった連絡を受けた県警は、検視や司法解剖などで不審死と判断して捜査を始めるとともに、他の入所者が死亡した経緯についても捜査。Sさんは当初、病死とされ、遺体は司法解剖されなかったが、Sさんが搬送された病院で撮影されたCT(コンピューター断層撮影)の画像が保存されていた。CTの画像から体内に空気が入った形跡が確認されたという。Sさんの容体の急変を最初に同僚に伝えたのが赤間被告で、その直前に、1人でSさんの部屋に入る姿を別の職員が目撃していることなどから、赤間被告が殺害に関与した疑いがあると判断したという。
 2021年11月21日、赤間被告は万引で現行犯逮捕された。
 12月8日、茨城県警はYさんへの殺人容疑で赤間被告を再逮捕した。12月29日、Sさんへの殺人容疑で再逮捕した。
 鑑定留置の結果、水戸地検は刑事責任を問えると判断し、2022年4月28日、殺人罪で起訴した。
裁判所 水戸地裁 山崎威裁判長
求刑 無期懲役
判決 2026年7月7日 懲役20年
裁判焦点  裁判員裁判。
 2025年12月10日の初公判で、赤間被告は「私は2人を殺害しておりません」と述べ、弁護側も殺人罪について無罪を主張した。窃盗罪については認めた。
 審理はSさんの審理が優先された。
 検察側は冒頭陳述で、生前のSさんに急死するような体調不良はなく、静脈などに外部から体内に空気が計123~182ミリリットル以上注入されて亡くなったとして事件性があったと指摘。事件当時の状況について、コロナ禍で入館制限があったため施設外から第三者が侵入した可能性は低いとしつつ、被告がSさんの居室に2回入る姿が施設職員に目撃されていたとした。赤間被告が周囲に「顔色が白い」と報告した後に職員らが駆け付けると、心肺停止状態だったと説明。ほかに入退室の目撃情報はなく「被告人以外に犯行可能な人物はいない」とした。また、本来所持する必要がない被告のバッグにシリンジ(注射器の筒)が2本入っていたとも指摘。「被告以外に、現実的に犯行可能な人物はいない」と訴えた。当時の被告の心理についても説明。看護師としては約7年のブランクがあったとし、「被告は仕事になじめずストレスがあったと考えられる」などと述べた。またYさんが死亡した当日には同僚が赤間被告の所持品を確認し、赤間被告のトートバッグ内に容量20ミリリットルのシリンジ2本を発見。先端に点滴用チューブに接続した際に生じる痕跡があったといい、「そもそもシリンジを所持している合理的理由が全くない」と述べた。
 弁護側は冒頭陳述で、「高齢者施設で入所者が亡くなった出来事であり、殺人事件ではない」と反論。Sさんには持病があり、事件当時の死因として心不全と診断され司法解剖されなかった点を踏まえ、「心臓の病気をはじめ他の原因で亡くなった可能性がある」と正確な死因特定が困難であると反論。事件性や犯人性についても疑いが残るとして「想像を巡らして殺人事件にすることは許されない」として殺人罪は無罪だと主張した。

 11日の第2回公判で、ともにSさんの応急処置に当たった看護師の女性が証人出廷し、容体の急変を報告しに来た赤間被告について「焦る様子もなく落ち着いていた」と述べた。女性は、赤間被告がSさんの部屋へ点滴の確認に行き、5分後にナースステーションに戻り「顔が青白い」と報告したと説明。慌てた様子はなく、その後、体調不良者の対応に本来必要なバイタルセットも持たず、「血圧計だけを持って部屋に行った」と証言した。女性が赤間被告に応急処置と応援要請を頼むと、「AEDがどこか分からない」「ナースコール押せばいいじゃないですか」と話していたと述べた。
 また施設長の常勤医も出廷し、事件前のSさんの健康状態は「命に別条はなかった」と証言。心臓病で亡くなった可能性を主張する弁護側から入所時の診断書の評価を問われ、「心臓は少し大きめだったが、測り方で前後する」と話し、正常と判断したことを示した。

 2026年2月19日の公判で赤間被告への被告人質問が予定されていたが、赤間被告は弁護人から「被告人質問をどうしますか」と問われると、「全ての質問に対して黙秘権を行使します」と述べた。検察側が予定通り質問することを求めたが認められず、弁護側、検察側のいずれの質問も行われなかった。
 この日検察側は赤間被告の「実習ノートNo.2」を証拠として提示。ノートには手書きで「輸液セットの設置法」の記述があり、「空気が血管に入ると空気塞栓を起こす」と書かれた箇所は、ピンクのマーカーで囲ってあった。
 この日は介護職員への証人尋問が行われ、Sさんの犯行時間帯、介護職員は1階デイサービスのエリアで送迎の声掛けやおやつの食器の片づけをしており、パートだった介護職員は2回の入所者のスペースには入れないように仕切りがあったと証言した。
 この日は赤間被告が事件当時に通っていたメンタルクリニックで医師に話した内容のカルテが読み上げられ、 「(赤間被告から聞いた話として)初めてで、不慣れで、いろいろ注意され話を聞いてもらえない。新しい施設に異動したらと言われた。仕事はまだ2カ月だし、今やめたら社会に復帰できないと、なんとか続けたいと思ってきょう来院した」と語られた。また事件の約20日後に赤間被告を診察した精神科医が出廷し、当時のカルテに基づき、食欲不振や不眠を訴えていた被告は「うつ状態がやや強かった」と説明した。

 24日の第27回公判で、Sさんの事件に対する論告と弁論が行われた。
 検察側は、特殊な手口であり、器具の扱いに慣れた看護師の犯行の可能性が高いと主張。Sさんの容体が急変する直前に赤間被告がSさんの部屋に2回入ったという目撃証言から、当時、被告以外にSさんの部屋に入った人がいない点や、事件後に被告がロッカー内にシリンジを所持し、その理由についてうそをついた点などを挙げ「どれか一つの事実が決定打ではなく、総合的に検討して判断するべきだ」と訴えた。死因に関しては、専門医の証言などを踏まえ、外部から多量の空気を静脈内に注入できるのは「腕の点滴用チューブを介したルートしか考えられない」と指摘。直近の健康診断で正常だったSさんに、急死するような体の不調はなく「空気塞栓以外の原因で死亡した現実的可能性は認められない」とした。
 弁護側は、司法解剖が行われておらず「死因は何ら証明されていない」と反論。Sさんには半身まひなどがあり、血栓が肺動脈に詰まる「肺塞栓」などで病死した可能性があるとした。部屋に入る被告を見たという職員の目撃証言については、供述に変遷があり「信用できない」と主張した。そして「検察官の立証は破綻している」「犯人が赤間被告だと証明されていない」などと無罪を主張した。
 意見陳述で赤間被告は「空気を注入していませんし殺害していません」と述べ、改めて否認した。

 3月12日の公判からYさんの事件に関する審理が始まった。
 検察側は冒頭陳述で、事件前のYさんの体調について「特段の異常がなかった」としたうえで、Yさんの容体が急変する直前、「赤間被告がYさんのそばで注射器のシリンジを動かす様子を介護士が目撃している」と指摘した。また、事件後に介護施設の仮眠室や赤間被告のロッカーにあった荷物からシリンジが見つかり、このうち、仮眠室で見つかったシリンジからYさんに処置されていた点滴の輸液の成分や赤間被告のDNA型が検出されたと主張した。
 弁護側は「Yさんには持病があった」としたうえで、「高齢者施設で高齢の入所者が亡くなったという出来事。赤間さんによる殺人事件ではない」と反論。また、赤間被告がYさんのそばでシリンジを動かしたとする証言については「被告はYさんが車椅子からベッドに移ったときの位置や体勢が気になって部屋に戻り、シリンジに触れたが、それは点滴の異常に気づいたからだ」と主張した。

 4月23日付で水戸地裁は、赤間被告のSさんに関する殺人罪での勾留を、裁判官が特権で取り消した。Yさんに関する殺人罪に関する勾留は続くため、赤間被告の身体の拘束は続く。
 5月の公判で、検察側の量刑に関する情状証人として出廷予定だったSさんの遺族について、地裁が証人としての採用を取り消した。検察側は「すべての情状に基づいて求刑したい」として遺族の証言の必要性を主張したが、退けられた。

 5月13日の公判で、現在の県警捜査1課長が出廷。逮捕前の赤間被告の自宅周辺での行動を警察官が観察し、記録した「観察日誌」という書類について弁護側は、2021年7月以降の日誌で被告について「デブ、ブタ」という表現があると指摘した。課長は当初の捜査に関わった一方、書類が作られた時点では別部署に異動していて、この書類に関わっていないとしたうえで、記載について「申し訳ない」と述べて謝罪した。
 県警刑事総務課の竹内孝伸総括理事官は裁判後の取材に対し、「配慮や品位に欠ける表現で適切でないと認識している。今後、指導を徹底していく」と述べた。

 5月18日の公判で、Yさんに関する赤間被告への被告人質問が予定されていたが、弁護側が黙秘権を行使し、弁護側と検察側双方が質問を行わなかった。
 証拠採用の合議で、被告の生理用品に付着していたDNA型の鑑定結果を採用した。弁護側は採用決定に異議を申し立て、「無令状の秘匿撮影を行い、違法捜査の末に取得したごみの証拠能力は認められない」と主張したが、裁判長が異議を棄却。2人目の被害男性についての証拠調べを終えた。

 21日の公判で、Yさんの事件に対する論告と弁論が行われた。
 検察側は論告で、「多数の間接事実を総合的に評価すれば、検察が主張する事実が存在したといえる」と主張。Yさんの容体が急変する直前、被告がベッド脇で注射筒を動かしているのを施設職員が目撃し、施設内で見つかった注射筒には被告のDNA型と整合するものが付着していたと指摘した。死因についても、司法解剖の所見や心不全の可能性を否定する専門家の証言から「空気を注入された以外の原因で死亡した現実的可能性はない」と強調。動機に関しては「被告が語らない以上は不明」としつつ、職場への反感から犯行に及んだとの見方を示した。
 弁護側は弁論で、司法解剖の結果、Yさんの体内に残っていた空気量は致死量の約10分の1で、空気注入で死亡したとは認められないと指摘。職員が見たのは被告がシリンジを動かしていただけで「シリンジをチューブに接続していたものではない」と主張した。また弁護側は、県警が裁判所から令状を取らずに被告の自宅周辺にカメラを設置し、1年4カ月間撮影したことは「権利侵害で違法捜査だ」と指摘。検察側は「撮影目的は正当」などと主張し違法性を否定した。
 最終意見陳述で赤間被告は、「私は空気を注入していませんし、殺害していません」と無罪を主張した。

 6月8日の公判で、量刑に関する審理が始まった。
 Yさんの妻が検察側証人として出廷。赤間被告に対し、「あんたも同じことをされたらどうなんだろう」と指摘。「主人は帰ってこない。やった本人にそれ以上の刑罰を与えてほしい」と極刑を求めた。
 窃盗罪の審理も行われ、検察側は、常習的な犯行だったと主張し、弁護側は「被告は発達障害で知能面に問題がある」と説明した。

 6月18日の論告求刑公判で検察側は論告で、赤間被告が点滴用チューブに接続した場合に生じる痕跡と同じ跡がある注射器2本を持っていたことや、犯行時間帯に看護師の赤間被告だけが死亡した男性の部屋に出入りしていたことなどから、赤間被告以外に犯人はいないと主張。被害者とされる2人の男性を殺害した具体的な動機は見当たらず「点滴から空気を注入できる状態で狙いやすかった以外の事情を想定しがたい」と述べた。その上で、家庭の事情でブランクのある看護師として働かざるを得ず、職場の不満を精神科医に吐露しており、「ストレスから八つ当たりのように殺害したのは余りに理不尽」と非難した。要介護高齢者を狙い、用意したシリンジ(注射筒)で隙を見て多量の空気を注入した点から計画性は十分に認められ、「殺害に向けた強固な意思は明らか。弱者に対するあわれみのかけらもない犯行」と強調。亡くなる兆候などが一切なかった2人について「味わった苦痛や恐怖、無念は察するに余りある」と被害結果は重大とした。被害者が2人または1人だった殺人事件の量刑傾向と今回の事件を比べ 「毒物等を用いていないため自然死と判断される可能性が非常に高い、完全犯罪を狙った大胆かつ狡猾(こうかつ)な犯行。理不尽で、ある意味で無差別的といえる殺人」「有期懲役を選択することはあり得ず、無期懲役以上が相当」と主張。被害者2人の殺人事件でも死刑の事例はあったが例外的であり、「この点は慎重な判断が必要」として無期懲役を求めた。
 同日の最終弁論で弁護側は、最初に死亡したSさんが司法解剖されていない点を指摘。さらに、「正確な死因の判断は困難」「心臓の病気が原因で死亡した可能性がある」という医師の証言をもとに、「証拠が乏しいのに想像を巡らせて殺人事件にすることは許されない。全く立証されていない動機を、被告人に不利に評価することは許されない」と無罪を主張した。さらに「仮に有罪だとしても、事件の動機や経緯は何も証明されていない」と訴えた。具体的な量刑に触れず「刑の重さを考える上で重要な事件の動機や計画性が全く証明されていない」と繰り返し、「不確かなことで人を重く処罰してはいけない」と訴えた。被告は境界知能や発達障害の傾向があるとし、「殺人2件の量刑に何らかの影響を与えるか考えなければならない」と投げかけ、「一日でも早く家族の元に戻れるような判決を求める」と締めくくった。
 最終意見陳述で赤間被告は、「万引きについては本当に申し訳なく思っております」と謝罪。しかし殺人の罪については触れず、「クレプトマニア(窃盗症)を治して病院で更生してから社会に帰りたいと思っています」と述べた。

 判決で山崎威裁判長は、2件の死亡について、いずれも体外から血管内に空気を注入されて死亡した、として事件性を認めた。
 その上で、被告が犯人かどうかについて検討。Sさんの容体が急変する約10分前に、被告がSさんの居室に出入りしていたとした同僚の証言について、判決は「時間の経過、事情聴取の過程での誘導などにより変容している疑いが強い」と述べ、証言に記憶違いや勘違いが含まれている可能性が否定できないとした。
 さらに、被告以外の職員がSさんの居室に入った可能性も否定できないと指摘。犯人については「入居者棟1階の職員の誰かである可能性が非常に高いというにとどまる」と述べ、「被告が犯人であるとは認定できない」と結論づけ、無罪とした。
 一方で、Yさんの死亡については、「被告がYさんのそばでシリンジを動かしているのを見た」という別の同僚の証言をもとに、「被告が空気を注入した可能性は十分にある」と判断。被告以外の人物が空気を注入できたとは考えられないとして、被告が殺害したと認めた。
 また、窃盗罪についても有罪とした。
 量刑の理由について判決は「相手を選ばない無差別的な面があったと言える」と指摘。「犯行のいきさつや理由は不明な点が多い」とした上で「医学的な知識を悪用し、殺人事件であることが周囲の者に発覚しにくいやり方をした点は悪質」と非難した。
備考  初公判から判決までの期間は210日間で、最高裁によると、2026年6月までに判決が言い渡された裁判員裁判で過去2番目の長さである。公判回数は54回、出廷した証人は132人に上った。

 検察・被告側は控訴した。

氏名 佐々木光(30)/平山綾拳(27)
逮捕 佐々木被告:2024年4月29日/平山被告:2024年4月21日
殺害人数 2名
罪状 殺人、死体遺棄・損壊
事件概要  住所・職業不詳の佐々木光被告と埼玉県越谷市の建設業社員・平山綾拳(りょうけん)被告は、東京都世田谷区の会社役員・関根誠端(せいは)被告、関根被告の内縁の妻である会社役員・宝島真奈美被告、千葉県船橋市に住む不動産会社経営の前田亮被告、韓国籍で神奈川県大和に住む無職・姜光紀(カン・グァンギ)被告、元子役俳優で住所不詳無職・若山耀人(キラト)被告と共謀。2024年4月15日夜から16日未明にかけ、東京都品川区の空き家の車庫で、飲食店経営の男性(当時55)と妻(同56)の首を絞めるなどして殺害。2人の遺体を栃木県那須町の河川敷まで運び、燃やしてそのまま遺棄した。
 中国生まれの経営者夫婦は2006年に日本国籍を取得し、会社を経営して上野で居酒屋など十数店舗経営していた。二人は再婚で、長女である宝島真奈美被告は妻の連れ子だった。真奈美被告はと関根被告は学生時代に交際。一度別れたが、数年前に再び交際を始め、内縁関係となった。関根誠端被告はマネージャーとして夫婦の会社で働くようになり、会社のナンバー3として数店舗の経営を任されていた。しかし2023年7月頃から宝島夫妻は、関根被告が管理していた店舗の売上管理や従業員の給与支払いに介入し始め、関根被告が開店準備に携わった店を別のスタッフに任せようとするといった出来事もあり、対立が深まっていた。
 前田被告は上野駅から歩いて10分ほどのところで不動産会社を経営しており、約10年前から飲食店を経営していた夫婦は、店舗拡大を前田被告に依頼。前田被告は物件探しの世話をしていた。
 関根被告と前田被告は10数年来の友人で、関根被告が以前働いていた上野の飲食店に前田被告が客として通っていたのが交友関係の始まりであった。店舗拡大について関根被告は何の関係もない。
 佐々木光被告は2024年2月に福岡から上京。ガールズバーの客引きをしていたが、知人を介して関根被告と知り合った。そして関根被告と飲み歩くようになった。
 佐々木被告は2024年2月に共通の知人を介し、渋谷のクラブで平山綾拳被告と知り合ったが、苗字すら知らなかった。平山被告と姜光紀被告、若山耀人(キラト)被告は2023年末に共通の知人を介して知り合ったが、苗字も知らない程度の関係であった。
 4月8日、関根被告は上野でキャッチをしていた佐々木被告に、夫婦の遺体処理を報酬500~600万円で持ち掛けた。平山被告は実行犯として元子役俳優の若山耀人(キラト)被告、姜光紀被告をそれぞれ100万円の報酬で手配した。2人は2023年末に関根被告と共通の知人を介して知り合っていた。
 2日後、関根被告は夫婦の殺害についても追加で依頼し、報酬を1,500万円に引き上げた。佐々木被告は平山被告に持ち掛け、平山被告は即答した。姜被告と若山被告も報酬250万円で殺人を了承した。
 関根被告の友人で不動産会社社長である前⽥亮被告は、2024年1月に夫婦から新店舗の賃貸依頼があり、契約金約4,677万円を預かっていた。ところが前田被告はこの金を実際の契約支払いに充てずに放置。4月上旬になり前田被告から物件所有者に対し「経営者の体調不良」として契約延期を申し入れ、契約を白紙にしたが、預かったお金を返金せず所有していた。前田被告はその口座から、計1,800万円を引き下ろし、殺害報酬や準備に当てた。
 4月13日、関根被告から佐々木被告、平山被告への指示で、姜被告と若山被告が上野の路上で夫婦を殺害しようと計画するも、人通りが多くて断念。平山被告は佐々木被告に対し、密室の場所の準備が必要と依頼した。
 4月15日午後7時ごろ、前田被告はレンタカーを借りた。物件の下見と称して夫婦を呼び出し、午後9時半ごろ、上野で待ち合わせた。前田被告はその直前、佐々木被告が普段から使っている睡眠薬入りのアイスコービーを2杯受け取った。夫婦と出会った前田被告はレンタカーに乗せ、アイスコーヒーを2人に手渡した。2人は車内でコーヒーを飲み、そのまま熟睡。前田被告は15日深夜、車を品川区内の空き家のガレージに駐車させるとそのまま立ち去り、関根被告と合流した。佐々木被告はガレージに向かった。
 平山被告は午後10時ごろ、姜被告と若山被告と合流。午後11時半ごろ、二人は平山被告の車で、平山被告は徒歩でガレージに向かった。
 15日午後11時50分から16日午前1時半ごろの間、佐々木被告、平山被告が立会いの下、平山被告が事前に購入した電源コード使い姜被告は二人を絞殺した。佐々木被告と平山被告は、車の出入りに合わせ、ガレージのシャッターを遠隔操作。姜被告と若山被告は、夫婦の遺体を載せた車を運転して、栃木県那須町の山中に向かった。二人は遺体を指定されていた道路そばの河川敷に転がし、平山被告が事前に購入していたガソリン入りの携行缶や、着火剤を使って二人の遺体を燃やした。
 佐々木被告は関根被告と落ち合い、報酬1,500万円を受け取った。佐々木被告は関根被告にガレージの血痕を掃除するよう言われ、報酬とは別に現金100万円も上乗せされた。午前3時半ごろ、佐々木被告は品川区の居酒屋で関根被告と落ち合い、報酬1,400万円を手渡した。二人は洗剤などを購入してガレージに向かい、清掃後に別れた。佐々木被告は16日午後、高圧洗浄機などを購入し、ひとりで再度清掃を実施した。
 16日、埼玉県の平山被告の自宅に来た姜被告に500万円を手渡し、姜被告は若山被告に250万円を手渡した。

 16日午前6時50分ごろ、河原で煙が立ち上がっていると地元の森林組合関係者から通報を受けた警察官が、燃えている夫婦の遺体を発見。川からバケツで水を汲んで火を消し止めた後、警察は殺人・死体遺棄事件として捜査を始めた。
 夫婦の遺体が発見されると、関根被告は佐々木被告に対し「実行役を出頭させて指示役の存在を隠すように」と命令。佐々木被告から命令を伝えられた平山被告は、実行役2人に連絡を取り、若山被告の住む千葉県で落ち合う約束をしたが、2人はそのまま逃亡。佐々木被告は平山被告から出頭しろと言われ、自分たちの名前は隠せと話すとともに、スマホを没収した。
 平山被告は17日午前6時半ごろ、品川区の五反田駅前の交番に出頭。栃木県警が任意で事情を聴取し、防犯カメラの映像などから平山被告が関与したと判断し、4月21日、死体損壊容疑で逮捕した。
 佐々木被告は関根被告の指示で、事件後に沖縄に逃亡。捜査本部は27日に佐々木被告の逮捕状を取り、指名手配。佐々木被告は飛行機で故郷の福岡へ移動しようとしたが、28日、那覇空港で身柄を確保。合同捜査本部は29日、死体損壊容疑で沖縄県警豊見城署内にいた佐々木被告を逮捕した。
 捜査本部は27日、実行役2被告を素体損壊容疑で逮捕状を取り、指名手配。30日午後3時半ごろ、神奈川県大和市内のホテルから知人女性らと一緒に出てきた姜被告を捜査員が確保。同日後10時40分ごろ、千葉市の知人宅にいた若山被告を捜査員が確保。5月1日、死体損壊容疑で二人を逮捕した。
 捜査本部は5月6日夜、死体損壊容疑で関根誠端被告を逮捕した。7日、死体損壊容疑で前田亮被告を逮捕した。
 捜査本部は5月11日、殺人容疑で平山被告を再逮捕した。19日、殺人容疑で佐々木被告を再逮捕した。21日、姜被告と若山被告を殺人容疑で再逮捕した。
 東京地検は5月27日、関根被告、前田被告、佐々木被告、平山被告、姜被告、若山被告を死体遺棄・損壊の罪で東京地裁に起訴した。
 捜査本部は6月14日、殺人容疑で関根被告と前田被告を再逮捕した。
 捜査本部は6月27日、殺人容疑で宝島真奈美被告を逮捕した。真奈美被告は夫婦の会社で取締役を務め、事件前の2024年1月に辞任するも、事件後の5月15日に社長に就任して、会社の残務整理を進めていた。7月18日、死体遺棄・損壊容疑で再逮捕。
 東京地検は7月18日、関根被告、真奈美被告、前田被告、佐々木被告、平山被告、姜被告、若山被告を殺人の罪で東京地裁に起訴した。
裁判所 東京地裁 中川正隆裁判長
求刑 無期懲役
判決 2026年7月3日 懲役30年
裁判焦点  裁判員裁判。
 2026年6月22日の初公判で、指示役の佐々木光被告は「間違いありません」と起訴事実を認めた。仲介役の平山綾拳被告は「事件に関わったことは事実です」と述べたものの、「(佐々木被告から)指示されたことによるもので、幇助ではないかと思う」と起訴内容を一部否認。 平山被告の弁護人も「関与は事実だが、幇助で出頭もしている。自首が成立する」と主張した。
 検察側は冒頭陳述で、多数の飲食店を営む宝島夫婦の経営を手伝っていた長女の真奈美被告と関根被告が2023年7月ごろから宝島夫婦と次第に対立するようになり、経営方針の違いなどを巡って不満を募らせ、長年の知人で不動産会社社長・前田亮被告と殺害を計画した、と指摘。その上で、関根被告が佐々木被告に対し実行犯を手配して殺害・死体処分をするよう依頼し、それを受けた佐々木被告が平山被告に殺害計画を伝達。最終的に平山被告が後輩の実行役2人に報酬の支払いを約束した上で、犯行を依頼していたと指摘した。
 佐々木被告と平山被告の弁護人はいずれも、関根被告らの計画を伝言として実行役らに伝えただけで、殺害の実行行為には関与していないと主張。自首もしているなどとして、減刑を求めた。

 23日の公判では、出張直後の平山被告を聴取した刑事2人が出廷。大崎署の刑事は、平山被告が「カン、キラトの2人が偶発的に殺したが他には自分以外に関与した者はいない」と話すものの細部が支離滅裂であったが、任意聴取を拒否することを避けるため、あえて不振店を追求しなかったと証言した。続いて聴取を行った栃木県警捜査一課の刑事は、「平山には不良っぽい印象を抱いたので、自分は『元マル暴』(暴力団担当刑事)でヤクザや不良を相手にしていたと説明すると徐々に心を開いてくれた」とし、仮の話と前置きしながらH君としてほぼ事件の概要を話したと証言した。

 24日の公判で被告人質問が行われ、弁護側から依頼を受けた経緯について尋ねられると、佐々木被告は「知り合いから上野界隈を牛耳る人物だと紹介された。ヤクザとも関係を持っているといわれ、逆らえば上野で仕事ができなくなると思った」と述べた。その上で「関根被告から家族の名前を出され、危害が及ぶと思い断れなかった」と主張した。一方、「報酬として現金100万円を受け取ったのではないか」との検察官の問いには、「殺害場所の清掃などの経費として受け取った。報酬ではない」と説明。「あくまで指示を伝達しただけだ」とも述べ、殺害の実行行為への関与を改めて否定した。

 25日の公判で被告人質問や証人尋問が行われた。
 平山被告は被告人質問で、弁護側から指示を受けた経緯について尋ねられると、知人を介して佐々木被告と知り合い、「ヤクザの関係者だと聞いて、断ったら何をされるか分からなかった」と説明。道具などを準備したことについて「全て佐々木被告からの指示だった。殺害の方法も場所も自らは提案していない」と述べた。
 佐々木被告の姉と兄が証人として出廷。いずれも「(佐々木被告は)自分で誰かに指示できるようなタイプではない。被害者遺族に対して申し訳ない気持ちでいっぱいです」と述べた。

 26日の公判で平山被告の被告人質問と証人尋問が行われた。平山被告は被告人質問で、実行役らに殺害の計画を持ちかけた際の状況について、検察官から「(指示役の)佐々木被告の指示を後押ししたのではないか」と尋ねられると、「ちがいます」と否定。金銭目的で指示に従ったのではないかとの問いには、「報酬が欲しかったわけではない」などと答えた。一方で、弁護側から現在の心境について尋ねられると「先のことを考えずに断れなかった自分の弱さで、多くの方々にご迷惑をおかけしてしまったことを心から深くおわび申し上げます」と涙ながらに謝罪。この日は平山被告の母親も出廷し、「(平山被告は)幼いころから優しくて思いやりのある子だった。事件に関わったことを知り、震えが止まらず、信じられなかった」と述べた。

 30日の論告で検察側は、「佐々木被告は事件の要。佐々木被告がいなければ本件は起こらなかった。関根被告が怖かったという主張は信用できない。家族に危害が加えられる恐れを挙げているが、家族の安否を確認するなどの連絡もしておらず、報酬を受けた私欲目的の犯行だ」「平山被告は実行部隊のリーダー。実行犯の2人を参加させ、首謀者と実行者をつなぐ役割を果たした。犯行に使われた延長コードや結束バンド、ガソリンなどを用意し、ガレージで見張りをした。現場指揮官であり、指示役のハブとなったことで犯罪成功に大きく貢献した。佐々木被告が怖かったという主張は到底信用できず認められない。自分は直接手を下さず、報酬を受け取り、札束の写真をSNSにあげていた。報酬目当てで主体的かつ積極的、私欲目的の犯行だ」と切って捨て、ともに無期懲役を求刑した。
 最終弁論で佐々木被告の弁護人は事実を認めながらも、「橋渡し役にすぎない」と訴えた。そして「殺害には関与しておらず、実行役とは接点すら持っていない。実行役を動かしたのは平山で、佐々木さんは橋渡し役にすぎません。佐々木さんは関根の意思を下流に伝達する一区間でしかない。動機も存在しない。報酬を目当てにしていた他の共犯と異なり、報酬は一切もらっていない。加担したのは関根からの命令」と減軽を訴えた。
 平山被告の弁護人は「他人の犯罪を手伝ったに過ぎず共同正犯ではなく、ほう助犯にとどまる」と主張。自ら交番に出頭していることから自首が成立し、刑が減軽されるべきだと訴えた。また佐々木被告から受け取った報酬入りのバッグには本来1,400万円が入っているはずが「数えたところ1,320万円だった」とも主張。佐々木被告による抜き取りを匂わせた。

 7月3日の判決で中川裁判長は、平山被告と佐々木被告について「被害者夫妻と関係がなかったのに犯行の実現に向けて必要な役割を主体的に果たしており、責任は同等に重い」と指摘し、「共同正犯が成立する」と認めた。特に平山被告のほう助主張については、「報酬の分配や遺棄場所を決め、最も多い報酬を得た」として退けた。しかし「両被告は事件の発案者でも首謀者でもないうえ、実行犯を脅して犯行を行わせたわけではない。殺害や死体遺棄の行為自体はしていない」とも述べ、「有期刑の上限を科す」とした。
備考  佐々木光被告は控訴した。平山綾拳被告は控訴せず確定。

【2026年 これまでの求刑無期懲役に対する有期懲役、無罪判決】

氏名 須藤早貴(30)
逮捕 2021年4月28日
殺害人数 1名
罪状 殺人、覚せい剤取締法違反(使用)
事件概要  須藤早貴被告は2018年5月24日午後4時50分~午後8時ごろまでの間、和歌山県田辺市の自宅で、夫で資産家の野崎幸助氏(当時77)に致死量の覚せい剤を何らかの方法で口から摂取させ、同日午後8時~10時ごろに急性覚せい剤中毒で死亡させたとされた。
 野崎幸助氏は地元の中学校を卒業後、酒類販売業や不動産業など多くの商売を手がけ、資産は数十億円とも言われている。多くの女性と交際し、交際クラブなどで女性と出会っていることを公言。艶福家としてメディアに取り上げられ、17世紀スペインの伝説上の放蕩児になぞらえて「紀州のドン・ファン」とも呼ばれ、『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』(講談社+α文庫)を出版し、週刊誌やテレビなどにも登場していた。
 野崎氏と須藤被告は2017年12月に知り合い、2018年2月8日に当時21歳の須藤被告と三度目の結婚をした。早貴被告はその後も東京で生活していたが、5月以降は野崎氏宅で生活していた。
 事件当日の午後10時半過ぎ、野崎氏が2階の寝室のソファで動かなくなっていると被告が家政婦に知らせ、119番通報。救急隊員が死亡を確認した。司法解剖を担当した医師らによると、死因は致死量を超える覚せい剤を飲んだことによる急性覚せい剤中毒で、摂取量は少なくとも1.8グラムである。野崎氏が普段から覚せい剤を使用していた形跡が見つかっていないことから、県警は殺人容疑で捜査を始めた。
 2020年2月、早貴被告は旧姓の須藤に戻した。
 和歌山県警は2021年4月28日、殺人と覚せい剤取締法違反の容疑で東京都品川区のマンションに居た須藤被告を逮捕した。5月19日、和歌山地検は同罪で起訴した。
裁判所 大阪高裁 村越一浩裁判長
求刑 無期懲役
判決 2026年3月23日 無罪(検察側控訴棄却)
裁判焦点  2025年12月8日の控訴審初公判で、検察側は、須崎被告が野崎さんと財産目的で結婚したのに離婚の意思を示されていたことなど「犯行動機」があったと述べた。そして「間接証拠を掛け合わせて評価すべきなのに個別的・分断的に評価した。被告が犯行に及んだことは優に認められる」とした。また無罪とした一審判決について、被告が事件前に「覚醒剤 過剰摂取」「遺産相続」などと検索していたことを犯人性の説明として採用しなかった一審判決を「明らかに不合理」と強調。「誤って1.8グラムの覚醒剤を摂取するという極めて不可解な事実関係を認めている。重大な事実誤認に基づき、到底破棄を免れず、適正な判決を求める」と一審判決の破棄を求めた。
 これに対し弁護側は、「自分たちが暮らす社会がこの程度の立証をもって有罪とされるべきではないという一審のメッセージをないがしろにすべきではない」と主張して控訴の棄却を求めた。
 控訴審には被告の出廷義務はないが、須藤被告は出廷した。
 検察側はこの日の裁判で新たに証人尋問を請求したが、裁判所はこれを認めず、即日結審した。
 判決で村越一浩裁判長は、裁判冒頭で「本件控訴を棄却する」と伝えた。
 被告には殺害の動機となり得る事情があり、自分で使うわけでもないのに覚醒剤を入手しようと考えて密売人と接触し、野崎さんが亡くなった当日も野崎さんと二人きりで、普段より多く1階と野崎さんの部屋がある2階を行き来する不審な動きをしていたと指摘。一審と同様に、被告が犯人であることを疑わせる事情があったことまでは認めた。一方で、野崎さんに不信感や違和感を持たれることなく致死量を超える覚醒剤を摂取させるのは容易ではないと指摘。野崎さん自身が覚醒剤を入手したことも考え難いとは言えず、被告が密売人から入手した物が覚醒剤ではなかった疑いがあるとした一審判断が誤りであるとは言えないとした。その上で、被告が明確な殺害計画を立てていたとまでは認定できず、「被告が犯人であることの証明がないとした一審の認定判断は、論理則、経験則に照らして不合理で許容できないものではない」と結論付けた。
備考  須藤早貴被告は札幌市のキャバクラでアルバイトとして働いていた2015年3月~16年1月、別の男性(当時61)から3回、計約2,980万円をだまし取ったとして、2021年5月19日、詐欺罪で逮捕された。2024年9月2日、和歌山地裁(福島恵子裁判長)で懲役3年6月(求刑懲役4年6月)判決。須藤被告の無罪主張を退けたが、事件当時未成年であることが考慮された。控訴せず、確定。判決が出るまでに勾留されていた未決勾留日数が860日あり、その分が差し引かれて控訴審初公判までに既に出所している。

 野崎さんは生前、遺言状を残しており、死後にその存在がわかった。遺言書は《いごん》《個人の全財産を田辺市にキフする》などと赤色サインペンで書かれており、署名と押印、2013年2月8日の日付があった。野崎さんが経営していた会社の元幹部が保管していた。田辺市によると、遺産は預貯金や有価証券などで総額13億円以上ともされた。ほかに評価額未定の土地、建物、絵画などもあるという。
 和歌山家裁田辺支部は2018年9月、この遺言書が形式的な要件を満たしていると判断。2019年10月、田辺市は相続を申し立て、受け入れ準備を進めていた。
 野崎氏には子供がいないため、民法上、遺産は妻である須藤被告が半分を受け取れる。市は遺産額が具体的に確定した後、洲崎被告と分割のための協議をするとしていたが、評価額が確定していない土地や建物があるため、額の確定に時間がかかっていた。
 野崎氏の実兄ら親族4人は2020年4月、手書きの遺言状は無効だと訴え和歌山地裁に提訴。遺言書はコピー用紙1枚に赤ペンで手書きされ、熟慮の末に作成したとはみられないなどと主張。2024年6月21日、和歌山地裁(高橋綾子裁判長)は「有効」とする判決を言い渡した。親族側は控訴した。
 須藤被告も最低限保障された遺留分を請求する権利がある。ただし、殺人罪で有罪の判決が確定すると、欠格事由に該当しその権利を失う。

 須藤被告は野崎さんの死亡後、経営していた会社の代表取締役を引き継いだ。野崎さんの会社の元監査役は2020年7月、全財産を田辺市に寄付するとした野崎さんの遺言書の存在を知りながら、金融機関に告げずに2018年9月、会社名義の口座から約3,830万円を自身の口座に送金するなどした、また代表取締役の就任時に法的手続きを取らずに代表取締役に就任したと詐欺容疑で告発。和歌山県警は告発を受理した。
 野崎幸助さんが生前に経営していた会社2社について、和歌山地裁は2021年9月21日付で破産手続きを開始した。21年8月に債権者から破産を申し立てられていた。
 和歌山県警は2022年3月4日付で須藤早貴被告、須藤被告と報道対応や遺産相続で契約を結んでいた弁護士3人、経営会社と契約関係にあった公認会計士の計5人について、野崎さんが経営していた会社の資金約5,000万円を共謀して搾取したとして、詐欺容疑で書類送検した。和歌山地検は4月6日付で不起訴処分とした。地検は「事実を認定するに足る十分な証拠が認められなかった」と説明した。

 2024年12月12日、和歌山地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審無罪判決。検察側は上告した。

氏名 山田悠太郎(26)
逮捕 2022年3月9日
殺害人数 1名
罪状 住居侵入、建造物侵入、窃盗、詐欺他
事件概要  2022年3月8日午後7時13分~9時30分、浜松市の無職男性(当時79)方で、同居する孫であり静岡県警の元警察官で無職、山田悠太郎被告が男性、美容師である男性の妻(当時76)、近所に住む会社員の長兄(当時26)をハンマーで多数回殴るなどして殺害した。
 自宅兼美容室になっており、母屋に男性夫婦と40代の息子、別棟に美容師の娘夫婦と孫の山田被告が住んでいた。山田被告は2018年に県警の警察官になったが、虐待によるフラッシュバックの症状が出るようになり、1年後に警察官をやめている。事件当時は殺害された兄と山田被告の双子の兄を含め8人いた。
 同日午後9時35分ごろ、双子の兄が110番通報。警察官が駆けつけたところ、3人が倒れており、いずれも死亡が確認された。静岡県警は9日、祖父に対する殺人容疑で山田被告を逮捕した。
 静岡地検浜松支部は4月28日から鑑定留置を実施。2023年3月3日、殺人罪で起訴した。
裁判所 最高裁第二小法廷 三浦守裁判長
求刑 無期懲役
判決 2026年4月10日 懲役30年(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点  最高裁は「上告趣意は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない」とした。
備考  2025年1月15日、静岡地裁浜松支部の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役30年判決。2025年10月30日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏名 川村葉音(21)
逮捕 2024年10月29日
殺害人数 1名
罪状 強盗致死、詐欺、詐欺未遂、窃盗
事件概要  札幌市白石区のアルバイト従業員・川口侑斗被告(事件当時18)、江別市のアルバイト従業員・少年A被告(事件当時17)は、江別市の大学生・八木原亜麻被告、江別市の大学生・川村葉音(はおと)被告、札幌市の高校生・瀧澤海裕被告(事件当時18)、札幌市白石区のアルバイト従業員・少年B被告(事件当時16)と共謀。八木原被告の交際相手だった千歳市の大学生の男性(当時21)が別れ話を持ち出したのに腹を立て、八木原被告は友人の川村被告に相談。2024年10月25日、男性は八木原被告へ預かっていた荷物を引き渡しに家へ向かったが、男性はそのまま公園に呼び出された。川村被告は友人である川口被告ら4人と合流して2人の元に向かい、江別市の公園で2024年10月25日午後11時20分ごろから2時間以上にわたり、6人がかりで男性を暴行。「全部出せ。全額」などと言いながら男性の頭や腹を足で踏みつけて財布などを奪い、男性からキャッシュカードなどを奪うカードを使いコンビニでたばこ30箱以上と食料品を購入したほか、奪ったキャッシュカードで現金現金12万7,000円をを引き出すとともに、男性に外傷性くも膜下出血、硬膜下出血、腰椎の骨折などの重傷を負わせ、全裸で放置。男性を外傷性ショックで死亡させた。
 被害者と八木原被告、川村被告は釧路市出身。被害者と八木原被告は同じ中学校の合唱部で、被害者が1学年上の先輩であった。八木原被告と川村被告は、中学時代に通っていた塾の同級生だった。二人は江別市の別々の大学に通うも、同じコンビニエンスストアでアルバイトしていた。川村被告と少年A被告は交際中だった。少年A被告の高校の友人が瀧澤被告で、瀧澤被告と川口被告は中学の同級生だった。少年B被告は川口被告の中学の後輩。八木原被告を除く5人は事件の1か月前頃から一緒に遊ぶようになっていた。
 26日午前6時15分ごろ、散歩中の男性が公園の遊歩道で、全裸で倒れている男性を見つけ、通行人を通じて110番通報。同日夕方、八木原被告が「知っている人かもしれない」と江別署に通報した。同署が詳細を聴き取ったところ、事件への関与が疑われたため、27日に傷害容疑で八木原被告を逮捕。容疑を傷害致死に切り替え、28日に送検した。
 川村葉音被告、瀧澤海裕被告、少年A被告は同日、厚別警察署に一緒に出頭。江別署は29日、傷害致死容疑で逮捕した。30日、同容疑で送検。江別警察署に同日、川口侑斗被告と少年B被告を傷害致死容疑で逮捕。
 11月16日、北海道警は八木原被告と川村被告を強盗・詐欺・詐欺未遂・窃盗容疑で再逮捕。19日、瀧澤被告と少年A被告を同容疑で再逮捕。20日、川口被告と少年B被告を同容疑で再逮捕。
 12月6日、札幌地検は八木原被告と川村被告を強盗致死・詐欺・詐欺未遂・窃盗罪で起訴。
 10日、札幌地検は同容疑で瀧澤被告と少年A被告を札幌家裁に送致。12日、川口被告と少年B被告を同容疑で札幌家裁に送致。
 2025年1月6日、札幌家裁は瀧澤被告と少年A被告を検察官送致(逆送)することを決定。7日、川口被告と少年B被告を検察官送致(逆送)することを決定。特に川口被告について主犯格」と認定し、犯行を厳しく非難した。他3人も「結果は取り返しのつかない極めて重大なもの」として刑事処分が相当と結論付けた。
 1月15日、札幌地検は4人を札幌地裁に起訴した。そして川口被告と瀧澤被告を特定少年として実名を公表した。
裁判所 札幌地裁 高杉昌希裁判長
求刑 無期懲役
判決 2026年6月25日 懲役30年
裁判焦点  裁判員裁判。裁判は川村葉音被告と瀧澤海裕被告(事件当時18)、少年B被告(事件当時16)の三人と、川口侑斗被告(事件当時18)と少年A被告(事件当時17)の二人、それと八木原亜麻被告単独に分かれた。
 2026年5月25日の初公判で、川村葉音被告と瀧澤海裕被告、少年B被告は起訴事実を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、交際相手との別れ話を巡り、八木原被告が立腹したことが事件の発端と説明。相談を受けた川村被告やその遊び仲間の計6人で男性を呼び出し、暴行。腎臓の損傷などで全身の約30%の血液を失わせて死亡させたとした。暴行は当初、制裁や謝罪を求める目的だったが、途中から金品を奪うことも加わり、「金品目的が生じてからの暴行は2時間以上と執拗」と指摘した。
 川村被告の弁護人は、川村被告に計画性がなく、また川口被告が突如暴行を始めることを予知することもできなかった事件であると主張。川村被告自身も複数暴行や、焚きつけるような発言をしているが、その場の流れで安易に同調してしまったに過ぎないとした。金銭の強取もそれにより川口被告がその場を収めると思ったまでで、自身の利得は考えていなかったと主張した。
 瀧澤被告の弁護人は、事件のきっかけも、暴行を継続した理由も、川口被告や八木原被告によるものと主張。自らは積極的に暴行には関与せず、動画として残っている「ライダーキック」の掛け声とともに行われた飛び蹴りは、暴力的な場の雰囲気を変えて、暴行を止める意図であったなどと主張した。
 少年B被告の弁護人は、まず事件に関与し重大な結果となった後悔、反省について唯一述べ、行ったことへの相応の責任を考えているとした。その中で、B被告は川口被告に過去に暴力を受けた経験があり抗えない関係性であった点や、被告人らの中で最年少であることを述べた。また被告人の資質、特性に課題がある点や、置かれている環境などを総合考慮してほしいなどとした。
 この日の午後の証拠調べで、6被告が男性に暴行を振るう様子を収めた動画や音声データが証拠採用され、一部が法廷で流された。検察側は被告人らの『LINE』のやりとりを証拠として提出した。
 26日の第2回公判で、川口侑斗被告が検察側の証人として出廷した。しかし、川口被告は「宣誓しません」と宣誓せず、証言することを拒否した。「もう少しで自分の裁判があるので、その時に証言します。ただ、やってしまったことは申し訳ありませんでした」と述べた。
 その後、検察側から川口被告の供述調書が読み上げられた。
 27日の第3回公判で、川村葉音被告への被告人質問があり、川村被告は「何も考えていなかった」「いらついて行動にでてしまいました」「川口被告がキレていて怖く、そこまで暴力がエスカレートするとは思わなかった」などと供述した。また検察側から遺族への謝罪がないことを問われ、「被害者遺族に対して…痛い思いや苦しい思いをさせ大切な1人の命を奪ってしまい本当に申し訳ありませんでした。事件の時は何も考えず人の気持ちを考えず行動してしまいました」などと初めて謝罪した。
 同日、瀧澤被告への被告人質問も行われ、男性へ飛び蹴りした理由について「暴力を振るっていなかったのは自分だけでやらないと悪い雰囲気になると思った」「置いていかれるのが怖かった」、男性に金品を要求した場面については「お金も取るんだと思ったが僕はそのつもりはなかった」などなどと証言した。
 28日の第4回公判で、瀧澤被告の被告人質問が行われた。瀧澤被告が「ライダーキック」と言って暴行を加えたことについて、「(川口被告が)怖い雰囲気で、本気で暴力をふるっていたので、それをなくすためだった」と話した。また、事件の翌日に川口被告に自首することを相談したところ、「うるせえ自分だけ自首しろ」と言われたと説明した。
 同日、男性と面識のなかった少年B被告への被告人質問が行われ、「知らないカップルの喧嘩に興味があったか」問われると、「まったくなかったです」と話した。暴行に加わった経緯については「自分のサンダルに男性の血がついて怒りだけで蹴った」と説明した。
 6月1日の第5回公判で、少年B被告への被告人質問が行われた。少年B被告は暴行などについて、川口被告に恩があり、「裏切りたくないと思ってやりました。逆らえなかった」などと話した。
 同日、男性の遺体を司法解剖した医師への証人尋問が行われた。医師は、男性の死因は外傷性ショックとしたうえで「頭と顔の出血が顕著」「腎臓は一部が裂けるような状態で、腰椎の一部が骨折していた」と話した。そして金品を要求した後の暴行が「死に関わっていると考えられる」と証言した。
 2日の第6回公判における中間論告で、検察側は3人の被告に強盗致死罪が成立すると改めて主張した。弁護側は成立する罪状については争わないとし、あくまで川口被告に同調したもので従属的だったと情状酌量を求めた。
 3日の第7回公判で川村葉音被告の父親が出廷し、「できるだけの賠償行為をしたい」と述べた。また、川村被告が高校時代にいじめにあっていた時のことを弁護人から聞かれ、「殴られたら殴り返せ」と指導したと証言した。また母親も出廷し、「親として見捨てることはできない」と涙ながらに述べた。
 またこの日は裁判所の中間判断が行われ、高杉裁判長は「詳細は終局で話すが、解剖医の証言や被害者の遺体の状況から金品を要求したあとの暴行で死亡したと認定できる」と3人の被告に強盗致死罪が成立するとした。

 ここから3被告の公判は、情状や量刑について分離して審理が進められた。

 6月5日の川村葉音被告への公判で、川村被告への被告人質問が行われた。事件当日の様子について、「主犯格の男が勝手に暴力を始めたので関係ないと思っていた」など述べた。さらに「強盗致死罪は死刑か無期懲役、原則的には2つしかない、あなたはどうなると思っているのか」と問われ、「社会に出られる確率は少ないと思ってます。少ないというかほぼないと思ってます」と答えた。
 同日、殺害された男性の両親の意見書が読み上げられ、「無念を晴らすためにも極刑を望みます」「死刑か無期懲役しかないと思っています」などと述べた。出廷した姉も極刑を訴えた。
 夕方から行われた論告求刑で、検察側は「被害者に極めて強い肉体的、精神的苦痛があった」「自発的に暴行に加わり、金品を要求した」「著しく悪質で重すぎる犯情。情状に酌量すべき事情が見出せず、厳罰が不可欠」と厳しく指摘し、川村被告に無期懲役を求刑した。
 同日行われた最終弁論で弁護側は、川村被告による暴行は比較的少なく従属的な立場であり、積極的な加害目的や利得目的がない、などとして13年の有期懲役が妥当とした。
 最終意見陳述で川村被告は、「本当に事件を起こしてしまい、多くの人に辛い思いや毎日苦しい思いをさせ、本当に申し訳ありませんでした。被害者遺族のみなさまには、大切な家族1人の命を奪ってしまい、本当に申し訳ございませんでした。以上です」と謝罪した。

 6月10日の瀧澤海裕被告への公判で検察は、当時18歳だったが分別のつく年齢であり、酌量の余地はないなどと指摘。弁護側は「両親らが被害弁償への取り組みを行っている」「反省を深めている」などとして情状酌量を求めた。
 午後からの被告人質問で、過去の経験から孤独を避けるため、自分の判断よりも周りに合わせるようになったと話した。当日の犯行についても「被害者より自分を優先してしまった、嫌われたくない、安心したい気持ちを優先した結果だった」などと述べた。
 また瀧澤被告の母も出廷。被害者遺族に謝罪した上で、今後については「一緒に罪を背負い、支えていく」と話した。
 11日の論告で検察側は、瀧澤被告は主導したとは認められず、暴行の程度は他より劣るとした一方、「ライダーキック」と叫びながら跳び蹴りするなどし、共犯者がふざけて激しい暴行を加えることを助長したと指摘。犯行当時18歳であること、酌量減軽があり得ない事案でもないなどとして懲役20年を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は従属的立場で関与は限定的、少年段階で未熟さがある、家族の支援がある、家族が1,000万円の弁償をする意思がある、自首をしたなどとして、懲役15年が相当と訴えた。
 最終意見陳述で瀧澤被告は、「被害者さんはこれからも生きれたはずで、幸せな日々を送れるはずでした。それなのに勝手な行動で命を奪ったこと、申し訳ございませんでした」と頭を下げ、「遺族の方々は、これから楽しいこととかいろんなこととか沢山あったと思います。大学どうなのなど話すことをできなくさせてしまいました。自分の勝手な行動で会うこと、話すことができなくなり、苦しい気持ちを一生させてしまったこと、申し訳ございませんでした」と謝罪した。

 6月18日の少年B被告への公判で検察は、川口被告による男性への暴行が始まった後も、暴行を止めることなく、「普通に笑いが止まらない」などと被害者を嘲笑し、暴行に同調したと指摘した。また少年本人も、自身のサンダルに血が付いたことに腹を立て、男性の腹部を蹴り、責任が軽微とは言えないと指摘した。そして「結果の重大性から動機に酌量の余地はない」と述べた。
 弁護側は、少年B被告が「周囲に判断をゆだねる傾向がある」と主張。生育環境などから、「格上と判断した人物には反抗することなく従う傾向がある」とした。その上で、置かれた環境を考慮し犯行に及んだ要因を考えるべき、などと主張。「被告人は16歳で人格形成の途中段階であった。感情コントロールの点においてもまだ成長途中である」「(川口被告)との関係性維持のために犯行を助長してしまった」などとして、更生の余地があると主張した。
 6月19日の公判における被告人質問で少年は、検察から川口被告との関係を問われ「助けてくれる人が欲しかったので男と付き合っていた」などと述べ、川口被告に依存しがちだった状況を説明した。弁護士から自分が一番だめだったところはどこだと思うかと聞かれ、少年は「ばれなきゃいいや、少しだったらいいやと思ったこと」と述べた。
 また被害者の姉が出廷し、「法律の許す最大限の刑に処していただきたい」「弟を見殺しにして食べたラーメンは美味しかったですか」などと述べた。
 この日の論告で検察側は「被害者の血液がサンダルについたから腹を立てて腹部を蹴っているが、川口被告に迫られて恩義や裏切らない気持ちから苛烈な暴行で、多量な出血は、理不尽な逆恨みで身勝手な考えである。自己の意思で暴行したと言える。相当に長期間の矯正教育が必要だ」と批難したが、「暴行は他の共犯者より劣る」ことから少年法を踏まえた減軽は「やむを得ない」として懲役10~15年の不定期刑を求刑した。
 この日の最終弁論で弁護側は「事件の重大性、被害者の生命が失われたことは重い。相応の刑事罰は免れない」としたものの、少年には精神的未熟さが見られ、一連の行動は他の被告への従属的なものだったなどとして、更生が期待できることなどから懲役5~10年の不定期刑を求めた。
 最終意見陳述で少年B被告は、「これから自分が裁判中に指摘されてきたことをしっかり考えて、被害者や被害者遺族にしたことを考えていきます。今の自分には謝る……謝罪をしていきたいと思っています。これから具体的にどういう償いをするかはわからないので、考えていきたいと思っています。本当に申し訳ございませんでした」と述べた。
 高杉裁判長は判決で、男性と八木原被告の交際トラブルが事件の契機になったと指摘。「本来は話し合いで解決すべきだったのに、当事者でもない者が乗り込んで暴力に発展しており、その経緯に酌量すべきところは何もない」「生命や尊厳に対する配慮は全くうかがえない。最も悪質な部類に近い事件だ」と非難した。
 川村葉音被告については、暴行や金品を奪う流れをつくり、「犯行をけん引した」と判断。しかし「被害者の死亡への直接的な寄与は限定的である」として、有期刑の上限となる懲役30年を選択した。瀧澤海裕被告は「ライダーキック」と言って飛び蹴りしたなどとし、少年B被告は犯行を助長するような言動を取ったと指摘した。その上で、瀧澤被告と少年B被告は従属的な立場にあったとして、瀧澤被告には求刑通り懲役20年判決、少年B被告には懲役9年以上13年以下の不定期刑(求刑懲役10年以上15年以下の不定期刑)を言い渡した。
 判決言い渡し後、高杉昌希裁判長は被告らに対し、「3名は起立してください。内容は分かりましたね」と語りかけた。3被告が立ち上がった後、高杉裁判長は「どうしてこんなことになってしまって、どうして止められなかったのか。法廷の中でも何度も問いかけられましたね。あなたたちなりに答えようとはしていたけれども、十分なものとは言えませんでした。答えのない質問なのかもしれませんが、ずっとこのことを問い続けてください」と説諭した。
備考  川口侑斗被告と少年A被告の公判は7月13日から。八木原亜麻被告の公判は未定。
 瀧澤海裕被告と少年B被告は控訴せず確定。

 検察・被告側は控訴した。

氏名 佐藤忍(64)
逮捕 2024年1月29日
殺害人数 3名
罪状 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要  弥富市の会社員佐藤忍被告は2024年1月3日午後8時過ぎ、弥富市の木造2階建てアパートの通路に積まれた衣類などに火をつけて建物の一部約100平方メートルを損傷。1階の1室に住むパートの男性(当時68)と同居していた無職女性(当時57)、2階の1室に住む無職男性(当時66)が一酸化炭素中毒で死亡した。屋外に避難した派遣社員の男性(当時47)が煙を吸ってのどにやけどをした軽傷、パートの男性(当時63)は逃げて無事だった。
 佐藤被告と亡くなった3人は、弥富市内の喫茶店の常連であった。無職女性は佐藤被告に借金があった。
 1月29日、県警は佐藤被告を殺人、殺人未遂、現住建造物等放火の容疑で逮捕した。
 鑑定留置の結果、名古屋地検は刑事責任能力があると判断。7月5日、佐藤被告を起訴した。
裁判所 名古屋地裁 大村陽一裁判長
求刑 無期懲役
判決 2026年6月29日 懲役30年
裁判焦点  裁判員裁判。
 2026年6月8日の初公判で、佐藤忍被告は「(間違っているところは)ないです」と起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、被告は住人の女性5万円を貸したが返済されず、相手が「借りていない」などと主張していると聞いていら立ちを募らせ、たばこの不始末に見せかけて同居の男性ともども殺害しようと考えたと主張。事件前日に火のついたたばこで放火を試したが燃えず、当日は紙片に火をつけて置いたとして「一定の計画性があった」と指摘し、事件当時、完全責任能力があったと主張した。
 弁護側は放火した行為などの事実関係は争わないとした上で、「ごみを燃やして仕返ししてやろうと考えただけであり、被告は知的障害のため想像力が乏しく、アパートを燃やす意図も、人を殺す意図もなかった」と無罪を主張。さらに「事件当時、知的障害の影響で自制がきかず、心神耗弱状態にあった」と指摘した。
 17日の論告で検察側は「無関係の住人を含めて3人の生命を奪った結果は重大で、被害者に殺されるような落ち度はなかった」と指摘。金を返してもらえずにいらだちを募らせたという動機も身勝手だと非難した。被告が事件前日、たばこの不始末に見せ掛けて放火する方法を検討していたなどと主張し、「一定の計画性が認められる」と訴えた。死刑求刑も考えられたが、佐藤被告の知的障害が、犯行に一定の影響を及ぼしたことは否定できず、遺族らに慰謝料を払ったことを踏まえ、無期懲役を求刑した。
 18日の最終弁論で弁護側は、被害者の1人に貸した金が返ってこない仕返しでアパート通路のごみを燃やそうと考えたと指摘。被告には中度の知的障害があるとして「建物や人への被害までは想像できず、失火に当たる」と主張した。捜査機関の取り調べや法廷での供述で殺意を認める場面があったことについては「質問に同調しやすい傾向があり、供述は信用できない」と訴えた。
 最終意見陳述で佐藤被告は「自分のやったことを反省します」と述べた。
 判決で大村陽一裁判長は、「金銭トラブルの怒りから、2人が死ぬかもしれないと認識しながら放火した短絡的な犯行」として責任能力を認めた。また「被告は30年以上就労しており、日常的に料理をするなど火の危険性も学習していた」として知的障害の影響は一定程度にとどまると指摘した。そして「3人の命が奪われる結果は重大で、被害者の逃げ道となる玄関先に火を放つなど極めて悪質な犯行」と指摘。そのうえで、被告は中等度の知的障害があり、「強固な殺意があったとは認められず、知的障害が動機形成過程に相当程度、影響を及ぼしたことは否定できない」などとした。
備考  被告側は控訴した。


※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。

【参考資料】新聞記事各種

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